第44話 服を買う
「お願いがあるんだけど」
アニーが中央ギルドを出たところで発した。
「なぁに?」
「どうされましたか?」
「この服じゃあ、とても戦闘は出来ないと思うんだけど・・・」
あぁ、確かに・・・。
というのは、アニーのばぁばからもらった服は、あくまでも家で着るためのロングワンピース。
イリアも同じ服をばぁばからもらい着ているという。ちなみに昨日の服は予期せぬゴブリン戦と大森林を駆け抜けたおかげでボロボロになっているのを見た。
「やっぱりエルフの戦闘衣装がいいんだけど、あれはエルフの国でしか作れないから、国に帰るまでは似たような服で代用したいの」
「それじゃあ、帰る前に服を見に行こうか。イリアもそうしよう」
「えぇ!わたくしもアニーさんと同じような服を所望いたします」
ミニスカート風になるんだけど、いいのかな?
『なんでもできる!すぐできる!ミモザにおまかせあれ!』
アニーがそう書いてある店舗の前で止まった。
「ここならいいかも・・・呼んでる・・・」
普通の人が聞いたら、ちょっとキテる人かと思うが、多分アニーが言ったのは『精霊』のことだろう。入店するアニーの背中を見ながら、イリアにもそう説明。アニーに次いで入店した。
「いらっしゃいませ~」
キーの高い声が響いた。奥から出てきたのはとても小さな女の子。
赤髪のロングヘアで、少しフリルのついたワンピースを着ている。
こんなに小さいのにお店の手伝いをするなんて・・・なんて偉い子なんだ。
「ちょっと服を見させてもらってもいいかな?」
俺は膝を曲げ同じ視線でそう言うと、あからさまに不機嫌な顔をされ、いきなり胸倉を掴まれた。
「おい、テメェ!今あたしのこと子ども扱いしただろォ!」
「ひぃい!」
急に声が低くなった!もしかしてこれが地声!?
「こう見えても25歳、独身なんだよ!」
25歳!?まったく見えない!!でも・・・。
「ど、独身は関係ないんじゃ・・・」
「大ありだ!バカヤロォ!!」
「ひぃいいいい!」
そんな様子を、アニーとイリアは『見て見ぬふり』をした。
どうして!
「年齢の確認もせず子ども扱いするからいけないのだと思います」
「どうしてこう無頓着なのかしら」
はい、俺が悪いんです。スミマセン・・・。
「まぁよぉ、こんな背格好でこんなしゃべり方だから、客がよく逃げるんだよ。だから声を高くしてみたんだ。すると最初は受けがいいんだけどよ、ちょっとの拍子で地が出ちまうんだ。ははっ、客の引きといったら、あっという間だったぜ!」
確かにこんな喋り方だから無理もない。
ちなみに女性陣は鼻歌交じりに服を選んでいて、とても上機嫌だ。
それにしても・・・
置いてある服のかわいいこと・・・。これはお世辞ではない。
ミモザさんが作ったとなれば、元の世界でもやっていけるセンスだ。
「ミモザさん」
「おぅ!」
「服、ほんとかわいいですね」
「・・・」
あれ?黙っちゃった。
もしかして俺、触れてはいけないところに触れて・・・またもや胸倉を!?
「あ、ありがとよ・・・」
顔が真っ赤っ赤!!
「ほんとにかわいいと思います。よく作り込んでありますね」
「だ、だってよぉ・・・」
ミモザさんはモジモジしている。
「かわいいって、最高じゃんか・・・」
愛玩動物を愛でる気持ちが今やっとわかった。
俺は思わず彼女を抱きしめ、頭をナデナデしてあげる。
「うぁ!おい!ちょ・・・・・あぅ・・・」
俺の腕の中で大人しくなるミモザさん。
こういう子が妹とかに欲しく―――――――
「「 ジ ー ン ー イ ー チ ー ロ ー 」」
はっ!!
おどろおどろしい空気を感じた俺は、おそるおそる振り返る。
黒いオーラが体中から溢れている二人が、俺を睨みつけている!
「あ、いや、これは・・・」
おどろおどろしい黒いモヤがぁ!
・・・
・・
・
「まったく、目を離した隙にこれなんだから」
「ジンイチロー、女性にいきなり抱きつくなど、節操なしにもほどがありますわ」
「イリアの言うとおりだわ。本当にもう・・・どうして私には自分から抱きついてこないのに(ぶつぶつ)」
「ジンイチローはつるぺたがいいのですか?(ぶつぶつ)。この胸なら大丈夫と思っていたのに(ぶつぶつ)」
「今、何かつるぺたって聞こえた気がしたぞォ?」
「いえ、そのようなことは一言も申し上げておりません(キリッ)」
「そうね、一言も口にしていないわ(キラーン!)」
「そう、ならいいんだけどよ・・・」
そんなやり取りのあと、さらに睨まれた俺・・・。
そういえば二人とも服を持っているけど・・・。
「もう決まったの?」
「えぇ、みんなすごくかわいいから迷っちゃった」
「わたくし、全部いただきたいくらいでした」
「そ、そうか!本当か!?」
「みんなかわいかったわ」
「フリルが付いたものなんて、毎日でも飽きませんわ」
「えへへ、そうか・・・」
モジモジしながら、ミモザさんは嬉しそうだ。
「それでよぉ、どれにするんだ?」
アニーとイリアが見合った。
「実はね、イリアと私、同じ服欲しいのよね」
「へぇ~・・・」
思わず感嘆の声をあげた。一緒の服を選ぶなんて、何かあったのかな。
「腰よりも少し上で留めるようになっているスカートと、上は白いブラウスね。このブラウス、少しだけフリルが付いててかわいいの」
スカートはいわゆるハイウェストなタイプで、サロペットが付いている。多少の動きでもズレなさそう。ブラウスはボタンのラインを軸に小さなフリルがついている。
「あんたもセンスあるな!このブラウスはあたしの渾身の作なんだ!気に入ってくれて嬉しいぜ!」
「アニーさんのスカートの色は臙脂色、わたくしは藍色ですわ」
「あんたたちにピッタリな色だな。スカートの裾丈もすぐに変えられるぜ」
「そうね・・・前の服はこれぐらいだから・・・」
アニーは思い出しながら太ももに手を当てている。
「このくらいね。イリアも同じでいいわね」
「え、えぇ!もちろんです」
イリア、本当にいいのか?結構短いと思うけど・・・。
「まいど!それと、初めてのご来店だから、同じものをもう一着ずつと、スカートの裾丈が長いのもサービスでつけてやるよ!」
「よろしいのですか?」
「おぅ!そのかわりまた来てくれよな!」
「「 やった !! 」」
大サービスを受けて二人はホクホク顔。ミモザさんの仕上げを待っている間、二人は次に買う服選びに余念がない。それにまだ買うのか、片手には二人とも下着をもっている。ジロジロ見てはいけないと思い、視線を逸らす・・・。
ちなみに、俺もシャツを2着購入。ピッタリなサイズがあったから即決した。さらに、ミモザさんが奥に引っ込む前に、彼女に支払いについてヒソヒソと相談しておいた。
「おまたせ!できたぜ!」
「素敵!」
「アニーさん、もうわたくし待てませんわ」
「そう言うだろうと思ったぜ。試着室あるから着替えてきな!」
ルンルンの二人は試着室へ直行。
着替え終わって出てきたとき、思わず拍手をしてしまった。
二人のルックスの良さが際立ち、腰のくびれと大きな胸の張りも主張されている。さらにブラウスのフリルがかわいさをさりげなく演出している。
街を歩けばきっと誰しもが振り返るに違いない。
「すごい!二人とも、とってもかわいいよ」
「「 ・・・ 」」
「じゃあ、また来てくれよな!」
「え?あの、お会計は?」
「まさかタダじゃありませんよね?」
「もうもらったからいいんだぜ」
二人は俺を見やった。
俺は軽くうなずいた。
「二人へのプレゼントだよ」
「「 ・・・ 」」
アニーとイリアは見合ってうなずき合った。
「落として上げるなんて、高等技術ね」
「突然のプレゼントに弱いなんて、どこで覚えたのでしょう」
さっきのことは、このプレゼントでチャラにしてほしいです・・・。
アニーがミモザさんに「実は」と質問した。
「この服で、もしかしたら戦闘をするかもしれなくてね」
「ほぉおお!この服で戦うなんて、滅茶苦茶かっこいいじゃんかよ!」
瞳を輝かせ、感心顔のミモザさん。
「でもなるべく汚したりしたくないし、それに色々な状態異常を防ぐ魔法をこの服に付与できないかと思っているの」
すると、ミモザさんは胸をドンッと叩いた。
「まかせろよ。たまにそんなふうに言うやつがいるからよ。その手のスゲェ奴を紹介してやるよ。一緒に行ってやるから、ちょっと外で待ってろよ」
「ありがとう」
外に出てミモザさんを待っていると、『臨時閉店』と書かれたパネルを扉に立てかけ、鍵を閉めた。
「よし、案内してやる。付いてきな」
「ここだぜ。ここの魔法士はピカイチだから、なんでもイケるぜ」
『ナターシャ魔法店』―――――。
俺とアニーは見合って、やや苦笑いしながらミモザさんの入店に続いた。
「よう!ナターシャ!元気か!」
「相変わらずうるさいわね・・・」
ナターシャさんは肩肘ついて本を読んでいた。
「いいじゃんか!客人を連れてきたんだからよ!」
「私はね、私の魔法をしっかり理解してくれる人に買ってほしいの。そう簡単にホイホイ連れてこないでよ」
「そんなんじゃ商売あがったりだろ。ほらよ、客人さん。この魔法店の店主、ナターシャだ」
「申し訳ないですが、私の魔法を理解してくれる――――」
ナターシャさんが、俺達を見て固まった。
ガターン!と腰掛けていたイスを倒しながら立ち上がり、ワナワナ震えていた。
「ミ、ミルキー様の!ちょ、ちょっとお待ち―――うわぁあああ!」
・・・この前と同じ格好でカウンター越しに落ちるナターシャさん。
もちろん、パンツは丸見えだ。
「醜態を晒してしまい、申し訳ございません」
「いえいえ、大丈夫です。それよりも今日お伺いしたのは他でもない、服に魔法を付与してもらいたくて・・・」
「魔法を?」
「えぇ。ナターシャさんほどの魔法士ならこれくらいたやすいかと」
「ふふん!確かに、私にかかればお安い御用です」
鼻息を鳴らして自信ありげに笑みをたたえるナターシャさん。
「付与する効果は・・・アニーから伝えたほうがいいかな」
「そうね」
アニーは付与する効果について、あくまでも出来る範囲でいいとしてナターシャさんに伝えた。
アニー曰く、そもそもアニーの持っていた服はエルフの国で特別に作られたものらしく、人間の付与する魔法がどれだけ同じような効果を発揮するかわからない、という。
「えーっと、繰り返しますと、物理・魔法防御、状態異常耐性、浄化効果ですね」
「そうね。出来るかしら」
「うーん・・・ぶつぶつ・・・」
ナターシャさんは独り言をつぶやきながら集中しはじめた。
「はい!組み立ては問題ないでしょう。ただし注意点があります。服にそれらの魔法陣を入れ込みますが、これはあくまでも『着ている時』にしか適用されません。魔法陣は着ている本人の魔力に反応するようになります。本人から離れた段階で効果が消えると思ってください」
「わかったわ」
「それと、魔力がなくなれば効果はなくなります。これも承知してください」
少し時間を食ったけど、購入した服全てに付与してもらった。ひとまずは安心だ。
「はははっ!さすがナターシャじゃないか!言っただろう!ナターシャはフィロデニアの大魔法士だ!」
ミモザさんの言葉に、ナターシャさんは素早く反応した。
「違います!大魔法士と呼ばれていいのはミルキー様だけです!よいですか、皆様方。今の話はくれぐれもミルキー様にはお伝えせぬよう、固くお守りください!」
「は、はぁ・・・」
ばぁばはそんなこと気にする人じゃないと思うけどな。むしろ笑い飛ばして「がんばりな」と流しちゃうと思うけど。
あ、そうだ。せっかく来たんだから、魔法陣のことも伝えておこう。
「ナターシャさん、この前は売っていただいてありがとうございます。おかげで助かりました」
「そ、そう言っていただけると、魔法店冥利に尽きます」
すると、イリアがナターシャに話しかけた。
「ナターシャさん、わたくし、ずっと魔法が使えずに困っておりました。ですが、あなたの魔法陣を使ったら難なく発動できました。本当に嬉しかったです」
「いやいや、ははは・・・」
「少しずつですが、魔法陣なしでも徐々に発動できるようになってまいりました。自分に自信が持てるように―――」
すると、ナターシャさんの顔が少しだけ懸念の色を見せた。
「あの・・・」
「はい?」
「失礼なことをお聞きしますが、魔法の練習はおいくつから?」
「確か10歳になる前からでした」
「一番いいときから・・・なのに・・・私の魔法陣・・・徐々に・・・」
ナターシャさんは腕組みをして、また一人の世界に入り込んでしまった。
しかし、先ほどとは違い、難しい顔を崩さない。
「つかぬ事をお聞きしますが、魔法の練習の時に、何かを装着されていましたか」
「何か・・・ですか」
「えぇ、何でも」
「何か・・・あ、そういえば」
何か思い出したのか、イリアは手を叩いた。
「魔法の練習を始めたときからつけている『お守り』があります。魔法がよく使えるように、とお父様がお付きの魔法士からいただいたと」
ナターシャさんは、顔を曇らせた。
「それだ・・・」
「え?」
「あなたのその『お守り』とかいうものは、きっと魔法の循環と発動を抑える『魔道具』である可能性が高いと思います。魔法を発動させたいのであれば、その魔道具は絶対につけてはいけません」
イリアの顔が青ざめた。
信じていた人からのプレゼントが、まさか自分を苦しめるものだったとしたら、これほどショックなものはない。
「すみません、いきなり変なこと言って。多分ですが、お父上は魔道具であることを知らされないまま、「魔法士」から貰い受けたと思われます。お父上を責めないでください」
「えぇ・・・えぇ、わかります」
「ナターシャさん、それじゃあ、だれがそんなことを?」
ナターシャさんは首を横に振った。
「さすがにわかりません。ですが、何か意図があっての所業だと思います。ちなみに、その魔道具をつけていた部分は主にどこですか」
イリアは右手を差し出した。
「右手の、人差し指です。その『お守り』は指輪なのです」
「ちょっと失礼・・・」
ナターシャさんは、イリアの指を観察した。
「ふ~む・・・思った通り、模様がある。大分消えてはいますが・・・。魔力を循環してもらっていいですか」
イリアは瞼を閉じた。ナターシャさんは指を観察している。
「ふむ、ふむ。なるほど。わかりました。もう結構です」
イリアは瞳を開けた。
「多分、あと2、3日程度・・・早ければ明日にでも、魔法は発動しますよ」
ナターシャさんの言葉に、イリアは目いっぱいに涙を溜めた。
「いいですか、その指輪はぜったいにしてはいけません。またしてしまったら、外しても一週間は発動ができないと思ってください」
「ありがとう・・・ありがとうございます・・・」
イリアはナターシャさんの手を握り締め、ポロポロと零した。
「うううぅぅ!よかったなぁ、客人さんよぉ・・・」
なぜか、ミモザさんまで感極まって泣いていた・・・。




