第43話 イリアのギルド登録 その2
俺達はイリアのギルド登録のため中央ギルドへ向かい、ほどなく到着。
初めてこの扉を開けたのは最近のはずなのに、ずいぶんと久しく感じてしまう。
扉を開けると、以前来たときと同じように冒険者が集っていた。
正面のカウンターには冒険者が受付をしていて、埋まっていた。
登録のときにお世話になったリタさんもいたけど、対応に追われて忙しそうだ。
「受付はリタがいいわ」
アニーが言った。
「アニーもリタさんに?」
「ジンイチローも?奇遇ね。受付するときはリタにしようって決めてるの」
まぁ、俺の場合はリタさんしか知らないからというのもある。
「少し待ちましょう」
アニーはそう言って、ロビーの椅子に腰かけた。俺もイリアも続いて座った。
イリアが落ち着きなくあたりを見回している。
「意外と広いんですね」
そう言いながらイリアが隣に座っていた冒険者の男性達を見ていた。
視線に気がついた冒険者たちは、俺達を見て固まっていた。
いや、俺達ではなく『彼女達』か。
「お姉ちゃん達、ずいぶん別嬪だな」
「依頼者か?」
「にしてはエルフもいるぞ」
「冒険者なら俺達と組もうぜ」
「お構いなく」
イリアはにこりと返した。
冒険者たちは俺を恨めしそうに見ていた。
「リタが空いたわ」
「さ、行こう」
居心地の悪くなった俺はそそくさと席を立つ。
リタさんのもとへ行くと、みるみるうちに喜色となった。
「アニーさん!あ!大賢者さんも!」
リタさんの大声に、ロビーが静まり返った。
俺は口に人差し指を当てて、静かにするようにジェスチャーした。
「いけね」という顔で口に手を当てるリタさん。
「今日はどういった御用で?依頼を受けるんですか?」
「アニー、俺から話してもいい?」
「えぇ、お願いするわ」
「それじゃあ・・・。リタさん、今日はこの彼女のギルド登録をお願いしたいんです」
「そうですか。それではアレもってきますので、お待ち―――――」
奥の部屋に引っ込もうとするリタさんを制した。
「ちょっと待って下さい。少々事情があって、別室でお願いできませんか」
「別室・・・ですか。事情がおありなら仕方ないですが・・・。空いているか確認してきますね」
「お願いします」
静まり返っていたロビーに再び声が戻ってきたが、どう聞いても、皆こちらを見てひそひそと話している。
『大賢者って言ってたぞ』
『王城の噂の奴か」
『隣の女見ろよ、あの野郎あんな美人二人も連れて―――』
俺達三人は、衆目にさらされながら互いに終始何も語らず、リタの戻りを待っていた。
5分ほどしてやっとリタが戻ってきた―――――――と思ったら、後ろに何か付いてきた。
リタさんは申し訳なさそうに肩を落としている。
「すみません・・・。こういうときだけ嗅覚がすごいんです・・・」
「はははははっ!久しぶりだなっ!」
このデカブツはゴルドンさん。中央ギルドのキンニクマスターだ。
「ギルドマスターであることをまさか忘れてはいまい?」
ギランッ!と瞳が光る。
「・・・ギルドマスターの、ゴルドンさん・・・久しぶりです」
「王城での一件、しっかりと報告は聞いているぞ。噂ではなかったのだな」
「色々ありましてね・・・」
「それもこれも、筋肉のおかげだっ!魔法を使わずにして倒すなどランクS級でもあり得んぞ!番付に名前を―――――」
「ちょっと、いまはそんな話をしに来たんじゃないです」
「おお、すまない。いつもの筋肉癖が・・・。空いている部屋の話だな。そちらの・・・ふむ、ふむ・・・」
ゴルドンさんはあごに手を当てて何やら考えているが、小さくうなずくと、リタさんに指示した。
「リタよ。手続きを来賓室で行う。準備出来次第来てくれ。おれが案内する」
「・・・はぁ、はい・・・」
「ジンイチロー殿よ、こんな私でもその方の稀なる状況は察することができる。案内するので付いてきてほしい」
案内されるまま来賓室に通された。
扉を開けて正面に、見覚えのある魔物の剥製のようなものが飾ってあった。
「グランドベア・・・」
「はははっ、これは私がまだ若かりし頃に倒したグランドベアだ。ただしこの大きさでも子どもだけどな。さぁ、かけてくれたまえ」
「はい」
まもなくしてリタさんも来賓室にやってきた。
「お待たせしました。それでは手続きします」
「お願いします」
イリアを挟むように俺とアニーはソファに座り、イリアと対になるようにしてリタさんは座った。
リタさんはローテーブルに水晶魔道具を置いて、書き物の用意をした。
「それでは、こちらの水晶に手をかざしてください」
「わかりました」
イリアは言われる通り、手をかざす。
水晶から光が発せられ、それが収まると、リタさんのところに情報が映し出されている・・・はずだ。
はい。固まりますよね。
「お・・・お・・・王女さムゴゴムムムギブ!!!」
キンニクマスターの手がリタさんの口を塞いだ。
ナイス処置!!
「はははっ!言っただろう。稀なる状況を察したと。リタよ、今回ばかりは静かにしておれ」
あ、口だけじゃなくて鼻も塞いでいますけど・・・
キンニクマスター!!今すぐ手を離して!!白目剥いてる!!
「お、すまん」
「オエ・・・ハァ、ハァ・・・」
「申し訳ございません。驚かせてしまいましたね」
「!!」
リタさんは飛び上がるように立つと、席から外れた絨毯の上で平伏した。
「王女様とは知らず、大変なご無礼を!!」
「そのようなことなさらずとも結構です。お顔を上げてください」
「で、でも・・・」
「フハハハハ!王女様が言うのだからよいではないか!」
あんたは堂々としすぎだけどな・・・。
「わかりました・・・」
少し肩をちぢめて、リタさんは元の場所に座った。
「それでは続けます。え~、名前が『イリア・ダグノー』・・・様、年齢が『19歳』、職業は『フィロデニア王国第三王女』と・・・と、待って下さい。マスター、これ、帳簿上にこのまま書くとまずいんじゃ・・・」
「あ・・・」
キンニクマスターは固まった。
「何か問題でも?」
俺の問いに、マスターが目を閉じながら応えた。
「問題・・・ということでもないのだが・・・。氏名等の帳簿はすべて王国の警備局にも渡るのでな。またギルドは独立した機関ではあるが国から補助金ももらっているという特殊性があり、その特殊性ゆえ担当局がある。独自性は保ちつつも国の機関の一部としての機能もあわせもつという複雑な仕組みなのだ。それゆえに、担当局にも登録帳簿を提出することになっているのだが、国の担当局が詳しくそれをみたら・・・」
「確かに、なぜイリアの名前があるのか、ということになる」
「細かい表に書かれる名前だし、全てに目を通すわけではないから、心配ないといえばそれまでなのだが・・・。王女様はいかがするか?」
マスターの問いかけに、イリアは即答した。
「構いません。そのまま登録なさってください」
「よいので?やんごとなき事情がおありのようだが・・・」
「登録を希望するのはあくまでもわたくしの意思。あなた方ギルドは個人としてのわたくしの希望通り、ギルド登録をしたにすぎません。仮に表沙汰になり問題が起きても、責任の一切は全てわたくしにあります」
「うむ。わかった。リタ、登録を続けろ。帳簿にも実名で記載しろ」
「はぁ・・・いいのですか、王女様」
リタは心配そうにイリアに尋ねた。イリアはにこりと笑った。
「えぇ。よろしくお願いします」
リタさんが帳簿に転記しているなか、ゴルドンさんが立ち上がり何やらいそいそと来賓室と隣の部屋を行ったり来たり。戻ってきたと思ったら、大きめのトレーを持ってきた。
「お茶です」
でかい体に似合わず、所作が丁寧だ!
「ありがとうございます」
お茶の給仕を終えて座ると、ゴルドンさんは話しかけてきた。
「ジンイチロー殿、今回ギルド登録をするということは、何か依頼を受けるということか?」
「おっしゃる通りです。できれば・・・討伐系の依頼があればいいのですが」
「うむ。実はな、最近討伐系依頼が殺到していて困っていたところだったのだ」
「殺到?」
「そうだ。最近何者かが大森林で大量のグランドベアやフォレストホーンラビットなどなど、強力な魔物を狩ったようでな。天敵のいなくなったエリアにいるその他の魔物が活発化して、さらには大森林を出て活動するものが多くなったのだ。その最たるものが、ゴブリンとオークだ」
昨日のゴブリン達はその余波で動いた魔物たちではなさそうだが、活動が活発化するということは・・・。
「つまり、周辺の村や市、その他の地域に・・・」
「そうだ。外に『自由に』出られるようになったから、餌や人間も『自由に』取り放題になった。人間にとってはいい迷惑だ。穀倉地帯はもちろん他村への被害も尋常ではない。一番大きい被害が出そうなのは、駐在所のない・・・確か『マグナ村』だったか」
リタの転記が終わったようで、後片付けをし始めた。
「リタよ。討伐系の依頼票をもってきてくれないか」
「はい。わかりました。ランクは?」
「・・・とりあえず、関係なしに持ってこい」
「わかりました」
しばらくして、リタさんはかなりの枚数の紙を持ってきた。
「マスター、討伐系はこんな感じです」
「うむ。・・・増えたな」
「村や集落が特に・・・。かなり魔物が拡散しているようです」
「駐在所の兵士だけでは対抗できなくなったから、ギルドに・・・というわけか」
「ここ数日で急に、ですね」
「やはり、王城に多数あらわれたグランドベアどもは、大森林の―――」
ここで俺はアニーに切り出した。
「アニー、持ってきてもらった依頼の中で、『目的』が達成できそうな依頼はある?」
「リタ、その依頼票貸してくれない?」
「はいどうぞ」
「ありがとう」
アニーは黙ったまま、何枚かの依頼票に目を通した。
「う~ん・・・実力的には、このゴブリン討伐かしら・・・。他は規模が大きすぎて、大勢の人出が欲しいところね」
アニーから依頼票を受け取る。
「『マグナ村』の依頼・・・か。『ゴブリン数体』の討伐とある」
「村長さんはなんとかしてほしい、と切に願っています。来てくれたパーティーには出来る限りのもてなしをしてくださるとのことですが、冒険者達からは疎まれています」
「・・・なぜ?」
「報酬が少ないことと、大森林に接した村だからです」
あぁ~、なるほど。大森林に接していれば、他の魔物も来る可能性があるからな。
ハイリスク・ロウリターンというやつですか。
「ただしアニーさん、この依頼に書かれている『数体のゴブリン』というのは、おそらく違うと思います」
「え?」
「この村が襲われた状況や話を聞く限り、ゴブリンはおそらく数十体いて、かつ、ゴブリンキング、ゴブリンメイジもいる、油断ならない規模だと思います。それでも受けますか?」
「・・・」
アニーが両腕を交差させて考えるしぐさをしているけど、妙に落ち着きがないように見える・・・。
俺はリタさんに質問した。
「ゴブリンキングもゴブリンメイジもいるというけど、どうして話だけでわかるのですか?」
「それは簡単です。村長他村人の目撃談があり、『大きいのがいた』とか『炎の雨あられ』といっていたからです。『大きい』は大抵キング系です。炎については・・・松明の火を持っていれば戦闘の最初から明るく照らされるはずですが、炎が突然出たような言い回しで説明を受けました。つまり、ゴブリンの中に魔法が使えるものがいる可能性が高いということになります。もちろん、これらは不確定な情報です」
「もうひとつ・・・。そんなにたくさんいるのに、どうして『数体』しか村に来ないんですか」
「それは・・・なんとも・・・」
「それについては、私の見解を伝えよう」
ゴルドンさんが俺を見た。
「あくまでも俺の主観だが、ゴブリンたちは『余裕のある偵察』を繰り返しているのではないか、と思う」
「余裕のある、偵察ですか」
「うむ。村にいる人間がどれほど牙をむき、どれくらいの規模で立ち向かうのか、食糧はあるのか、女はいるのか、など、日に日に細かく設定して偵察をしているのではないか?」
いわゆる、威力偵察というやつか・・・。
「確かに考えられますね・・・」
アニーを見ると、難しい顔をしたままうつむいている。
ぐるぐると考えが回って決断ができなくなっているかもしれない。
無理もない。あんなことがあったから―――――
「この依頼、受けさせて頂きます」
その声に、アニーもはっとして顔を上げた。
イリアが、姿勢を正したままきっぱりと言った。
「王女様、いいのですか」
「えぇ。構いません」
おれも一応聞いてみた。
「この前のゴブリン戦よりも難儀だよ。それでもいいの?」
「わたくしもよくよく考えての決断です。それに、いざとなればわたくしが犠牲になります。全ては―――」
「駄目よ!!犠牲になるなんて!!」
アニーが鬼気迫る形相でイリアに迫った。
「絶対に、そんなことさせないんだから!」
イリアはきょとんとしていたが、フッと微笑んだ。
「それでは、皆さんでしっかりお互いを守りながら戦えばよいのです。それにミルキー様も話したではありませんか。『見て見ぬふり』をするな、と。マグナ村は大森林に接しているとはいえ、その森の恩恵も受けながら生活しているのどかな村だったと記憶しています。潰れそうになっても必死に守りたいものを守る・・・わたくしは、その気概があれば力を合わせて戦えると思います。村人とともにあれば、わたくしたちの戦力だけではない戦い方も出来るのではありませんか?」
「ふむ、確かに王女様の言うとおりでもある。この討伐依頼の推奨ランクは『B』だが、グランドベアを何体も葬ったジンイチロー殿なら、すでに推奨ランクを超えている」
「アニー、俺はイリアにのるよ」
「・・・うん、今回は、イリアに励まされた感じね」
「大丈夫です、アニーさん。いざとなれば、わたくしが守って差し上げます」
「ふふふっ、本当かしら」
「よし、じゃあ、この依頼を受けようか」
「「 えぇ! 」」
出立は明日の昼前に行くことに決めた。
いつもお読みいただきありがとうございます。




