第37話 王城会議と・・・
所変わって、ここはフィロデニア王城大会議室・・・。
長いテーブルの中央にアルマン王が座り、大臣や文官たちがその隣々、向かいに大勢並んでいた。
定例会議ではあるが、今回の議題は頭を悩ませるものばかりで、予定の時間を大幅に超過していた。先ほど、ようやく王都の警備と常駐兵士の拡充について話し合いを終えたばかりだ。
『続いて当城の修復における今後の見通しについてであります。内部局長より報告願います』
内部局長が立ち上がった。
「内部局長のガイナン・フェローであります。わたくしからは、先議題でも取り上げました魔物襲撃による当城の修復について、進捗と見通しを報告いたします」
ガイナンは手元にある城の見取り図を手に取った。
「内部の破損につきましては、王家通用廊下の一部が欠損、その通用口が全て欠損となっております。この欠損につきましてはおよそ1か月後にはすべて修復が可能となります。ですが、問題は当城の外壁部の欠損であります。すでに事件当日に崩落した部分の瓦礫撤去を完了させていますが、修復については全く目途が立っていません」
会議場がざわつく。
誰かが発言した。
「それじゃあ、吹きさらしになったままで王に住まえというのか」
「欠損した部分が、実は大問題なのです。この城を支える大石の一つが破壊されてしまいました。もちろん、この大石がなくとも城は健在なのですが、大石とそのほかの石を繋ぐ「つなぎ」が、過去にエルフの国と交流のあった時代のものであるため、どのような技法で繋がれていたのか、現在調査中です。調査が終了するまでは、石を積み上げておくことしかできません」
会場がどよめく。ガイナンが何か喋っているが全く聞こえないため、内務大臣のナキ・パナトスが声を上げた。
「諸君!静粛に!」
どよめきが収まり、会場に静けさが戻った。
「内部局長、続けたまえ」
アルマン王が促した。
「はっ!ですので、この調査が終了し、その工法が判明次第、着手いたします」
アルマン王が質問する。
「して、その調査終了の目途は?」
「・・・長くて1か月といったところでしょうか」
「だが、できるともできんとも言えん、というわけだな」
「はい・・・わたくしからはそれ以上のことは今のところ・・・申し訳ございません」
「いや、いいのだ。そなたのせいではない。魔物が破壊したのだからな。それと、内部局長から外壁のことで『技術的な調査』が必要と報告があったが、以降の議題のことで『技術的な調査』が必要な案件はあるか?」
すると手を挙げた者がいた。先議題でも報告をしていた王都警備局長のノルン・スコッティーヤードだ。
「僭越ながら報告いたします。後の議題で報告の予定でしたが、事件の元になった魔法陣を形成していたと思われる魔道具を回収しています。こちらについても調査中でありまして・・・」
アルマン王はノルンを見やって質問した。
「どれくらい調査が進んだのだ?」
「はっ、それが、内部構造は極めて単純であるにもかかわらず、その内部にあったと思われる『石』が一体何であるのかさっぱり見当もつきませんので・・・」
「わからない、というのだな」
「申し訳ございません」
「いや、よいのだ」
そう言うと、王が立ち上がった。
「私からの提案なのだが、皆の者、よいか?」
会議場の全員がうなずく。
「マーリン様との定時連絡の期日が迫っているのは、皆忘れていまいか?」
おおおお、と皆一様に隣同士でうなずき合っている。
「年に数回しかないマーリン様との定時連絡に際して、この事件と技術的な部分において、解決策をいただこうと私は考えていたのだ」
会場内に拍手が沸き起こる。
「ただ単に、会議の時間を短くしたいから提案したのではないぞ」
ハハハハ!と大きく笑いが起きた。
「では決まりだな。マーリン様への定時連絡内容を・・・ガイナン!そなたが局を越えて取りまとめろ。取りまとめたものは私のところに直々にもってこい。定時連絡を行うのは私自身だからな」
「はっ!」
ガイナンは立ち上がり、頭を下げた。
王は返事を聞いて座った。
『では・・・議題の『当城の修復と今後の見通し』について及び後議題の『魔法陣を呼び起こした魔道具について』については、王へ取りまとめを報告するということで終了します。続いて、事件主犯格の男について、再び王都警備局長より報告願います』
ノルンは立ち上がった。
「はっ!それではこのノルンから報告いたします。先の事件においては、王城直上の魔法陣消滅に尽力いただいたのが、大魔法士ミルキー様であることはここにいる皆様すでにご承知のことと存じます」
皆が首肯した。
「このミルキー様の奮闘により一人の男を捕縛し、現在王城地下の牢獄に監禁しています。なお、王城の牢獄に監禁した理由は、王都内の犯罪者用牢獄を使用すると、外部からの襲撃について若干の懸念があったためです。それは先の議題でもお話しいたしました警備上の懸念でもあります。事件が事件だけに、この者の監禁は厳重な王城の牢獄が適していると考え、実施いたしました」
ナキ内務大臣が口を開いた。
「何か口を割ったか」
「いえ。こちらの尋問には黙秘を貫いています」
うーん、と唸る声があちこちから響く。
「この灰色ローブの男は主犯格でありますが、状況的に複数人いたと思われます。ミルキー様からは特に報告はございませんでしたが、魔道具設置場所で戦闘を実施されているという目撃情報からも、複数人の関わりがあるとみて間違いありません。それに・・・」
ノルンはさらに手元に重なっている紙を何枚かたくし上げた。ペラペラと捲る。
「えー・・・、それと、事件の数日前から、王都内を何名かの灰色ローブを纏った男達が歩いているのが目撃されており、計画的な犯行であったと思われます」
アルマン王が腕を組みながら口を開いた。
「おそらくはもうすでに王都を脱しているだろう。しかし、引き続き警戒は必要だな」
王の言葉にノルンは首肯した。
「はい。すでに城門常駐兵や王都内兵士達には、灰色ローブを纏った男がいた場合は速やかに捕縛するよう伝えてあります」
「それと、王都周辺の街や村にも同様の警備体制を敷かねばなるまい」
「はい!本会議終了と同時に、各街、各村へ情報を伝えていきたいと思います」
「うむ、それでいい」
「はっ!私からは以上です」
『続いて、第一王女プラム様と婿様であられるケヴィン・スナイダー様の王都帰還について、外交部局長より報告をお願いします』
外交部局長のコナー・リヒデルが立ち上がる。
「外交部局長です。現在のプラム様の現況と王都帰還についてご報告いたします。現在プラム様はスナイダー伯爵領内のコロウヌス市において休養中であります。お二人とも体調には全く問題なくお過ごしであられますが、王都で起きた事件については早馬の知らせですでにご存じです」
アルマン王が怪訝そうに話しかけた。
「すぐに知らせなくともよかったのではないか。プラムは心配性だからな」
コナーはうなずいた。
「えぇ。確かに王のおっしゃる通りです。ですが、心配性であられるため、むしろ確実な情報を送った方が、プラム様を安心させるものと思い、勝手ながら実施いたしました。早馬の帰還で預かったプラム様のご伝言によりますと、滞在予定を大幅に縮小し、来月に王都へ帰還するとのことです。
ここでも、う~ん、と唸る声が響く。
「早いな・・・」
アルマン王が呟いた。
「王もイリア様もご無事だとお伝えしたのですが・・・」
「仕方あるまい、あの性格であるからな。ケヴィンも戻ってくるのか」
「いえ、ケヴィン様は予定通りコロウヌス市にしばらく滞在するとのことです」
「そうか」
「王都帰還の際は、警備局長とも兵士の配置等について話し合いを逐一行う予定です」
「よろしく頼む」
「はっ!私からは以上です」
『それでは、続いて・・・イリア王女の容態についてですが・・・』
会場がざわつく。「何かあったのか」とあちこちで聞こえてきた。
「あぁ。これについては私から話そう」
アルマン王が居直った。皆一斉に沈黙した。
「現在、イリアは心身ともに衰弱しており、居室にて療養中だ。先の事件において命は助かったものの、魔物に襲われた衝撃が今も心に深い傷を負っている。夢に見るほどにもなり、毎日うなされるようになった。それに諸君も噂やら何かで存じていることだろう、モサロとの婚約と自身の魔法について条件を出して臨んだわけだが、一向に魔法が使えないということもあり、だいぶ心が弱っている。よって皆に承知してもらいたい。しばらくイリアは公務を控え、かつ療養させてほしい。イリアに任せていた仕事は私が引き受ける故、各担当部局長並びに大臣は承知してもらいたい。よいな?」
全員がうなずき、「はっ!」と声をそろえた。
『続いて、大賢者ジンイチロー様の定住とその促進に係る・・・』
アルマン王はまだまだ続く話し合いの議題の多さに、眠気さえ覚え始めたのだった・・・。
一方その頃、フィロデニア王都の、とある通りの隅っこ。
ばぁばがわざわざここに足を運んだのは他でもない、弔いのためだ。
ここは先だってばぁばが最後に死闘を繰り広げた場所だ。
あの男は、この場所がばぁばにとって大切な場所であることは知らなかった。ばぁばにとってかけがえのない場所に禍々しい魔道具を設置し、あろうことか忌避結界まで施され、ばぁばの心は怒りで燃えていた。
戦いも終わり、体調も復活したところで、彼女はあらためてここを訪ねたのだ。
弔いといっても、この場所に墓があるわけではない。
石碑のような、長く細い岩が置かれ、『ロード・ハンスと共に』と記されているだけである。
ばぁばは、そっと、花束を置いた。
石碑の下で、ばぁばはしゃがんで俯く。
少しだけ、昔のことを思い出した。
冒険者として名を馳せていたときのこと―――
手を取り合い、巨躯と立ち向かったあの日のこと―――
互いに認め合い、そして、誓い合ったこと―――
すべてが、ついこの間起きたことのように感じてしまう。
「わたしも、ずいぶん年をとったもんだね・・・」
大魔法士としてどんなに崇められようとも、彼女の心を掬えるものはいなかった。
大切にしていたものがいなくなる・・・。何をしても彼女の心を満たすものはなかった。
「ほんと、あの頃が懐かしい・・・」
だが、彼女の心は変わった。
ある日突然目の前に現れた若い大賢者、ジンイチロー。彼が彼女の目の前に現れたことで、終わりを迎えようかと覚悟を決めつつあった彼女に、生きる喜びを与えてくれた。彼がいるだけで、周囲が幸せになる温かさがあった。
「あんたと同じさ、ロード」
だから、彼の周りには自然と人が集まる。
そして、自然と応援したくなる。
それが、自分の最後の役目だと確信した。
「わたしももう老いぼれだ。いつか近いうちに、あんたのところへ行くかもしれん」
だがもう少し待ってほしい。彼らにはまだ導きが必要だ―――
自分に言い聞かせるように石碑に誓い、立ち上がる。
「ミルキー様?」
その声に振り返ると、空いた籠をもった若い娘が立っていた。
「シアかい」
「やっぱり!どうしたんですか、こんなところで」
「いや、ね。ちょっと昔のことを思い出していたのさ」
「ここ・・・父のおじさまの・・・」
「あぁ、ロード・ハンスの記念碑さ」
シアは、ロードの名を口にするばぁばの瞳に、若い光が灯っているのを感じた。
クスっと笑うと、ばぁばの隣に寄った。
「ミルキー様も、そういう時があったんですね」
「これこれ、年寄りをからかうもんじゃない」
いつになく照れるばぁばに、シアは微笑んだ。
シアに映るばぁばは、想い人に身をこがす、淡く光るも熱い心をもつ少女の姿に見えた気がした―――――
8/14 全ての話において、 魔方陣→魔法陣 へ修正しました。気付かずすみません。




