第34話 ナターシャ魔法店のち、ばぁばの家の訪問者
ばぁばがアニーに耳打ちしていたのは、ばぁばがお使いに戻ってきたからのこと。
妙に上機嫌になっていて、どうしたのか尋ねても教えてくれなかった。
一晩開けての朝食後、昨日の精霊魔法特訓の一件もあり、魔法の特訓でもしてみようかと思い立った。とはいっても回復魔法以外はまだ使えないので、以前ばぁばに尋ねた方法を試してみることにした。
そう、魔法陣を使った発動だ。
「ねぇ、ばぁば」
「なんだい」
作業場で片付けをしているところを呼び止めた。
「魔法陣を使った魔法の特訓をしてみたいんだけど、魔法陣を取り扱っているお店は実際にあるの?」
「あぁ、この前のことだね」
ばぁばは作業台のイスに腰掛けた。
「王都にはいくつか、冒険者向けに出店しているお店があるよ」
うん、やっぱりあったか。以前ばぁばに話した時に特に何も言われなかったから、あるとは思っていた。
「今日行ってみて、いくつか購入して試してみようと思うんだ」
「あぁ、やってみな。回復魔法以外にも感覚を掴んでおくといい」
「どこにお店があるかわかる?」
「そうだねぇ・・・」
ばぁばは目を閉じて少し考えて、裏紙にもならない小さな紙片に何やら書き込んだ。
「この店を訪ねるといい」
「・・・『ナターシャ魔法店』」
「このナターシャは研究屋でもあってね、基本的な魔法から技巧的な魔法まで取り揃えているんだ。だが気難しいところもあって、買い手を選ぶせいなのか全然儲かっておらん。しかし、個々人の魔法の特徴にあわせたり使い方にあわせて魔法陣を設定してくれるから、初めて魔法を使う人間にとっては扱いやすいだろう。」
ニーズにあわせてカスタマイズしてくれるのか。オーダーメイドはどちらの世界でも変わりないようだ。
ちなみに、魔法店の場所も地図で示してくれた。
「ジンイチロー、あそこよ」
「うん、そうだね」
ということで、なぜかアニーも同行することになってしまった。
一人でのんびり行こうと思っていたのだけど・・・。
「・・・」
「ん?ジンイチロー、どうしたの?」
「・・・ううん、なんでもない」
最近アニーは俺と一緒にいる時間が長いように思うなぁ・・・。
なんか俺のわがままに付き合わせているようで、申し訳ない・・・。冒険者業もあるだろうに、半人前な俺と一緒にいて大丈夫だろうか・・・。
「こんにちはー・・・」
入り口のドアを開けると、乾いたベルの音が響いて入店を知らせてくれた。
わぁ、店の中が魔法陣だらけ・・・。カウンターだけでなく、壁とか棚とか、ところによっては床にまで・・・。天井からも魔法陣がぶら下がっている。看板が出ていなかったとしても、ここは魔法店だとすぐにわかる。
「いらっしゃーい」
白髪というよりも銀髪だろうか、手入れを怠らなければきっと艶やかに映えるだろうその髪をボッサボサにしたまま、ゆらりとお店の奥から現れた。埃のたくさんついた黒のローブを纏っていて、身長は低めで細身のようだ。
「もしかして、あなたがナターシャさんですか」
「えぇ、そうだけど。うちの店に何か用?」
お客に対して何か用?と聞く始末・・・。
「お店に入るときって、用があるから入るんですよね」
「用がなくたって冷やかしで入ることもあるでしょ。あとは偵察とかね」
ナターシャさんは攻撃的な目で俺を睨む。
「俺は買い物したくて来ました。基本的な魔法の魔法陣がほしいんです」
「ふん・・・」
仕方ない。早速伝家の宝刀を抜こうじゃないか。
「ミルキーばぁばの家で居候させてもらっているジンイチローと言います。ばぁばのおすすめのお店ということでこちらに来たんです」
「ミルキー様の!?それに居候!?」
「私も居候させてもらっているわ」
ずいっ、と前に出るアニー。
「うわ、何、その服の強調ぶり・・・あれ?エルフ?」
俺達を交互に、怪訝そうに見るナターシャさんであった。
「ということでナターシャさん、売ってくれないのであれば余所のお店に伺おうかと思っ―――」
「がっ!ちょっ、ちょ!」
ガタガタガターーーン!!と大きな音を立て、カウンターから前のめりになって転がり落ちてきた。
頭から落ちてきて、足だけがカウンターに引っかかっている。
黒のローブがはだけて白いパンツが丸見えになった・・・。
アニーが素早く反応!
ローブの裾を持ち上げ、見えないようにしてくれた。そしてなぜか俺を睨んだ。
パンツは見せないようにしてくれているけど、天地逆転なこの状態を助けようとしないあたり、思うところでもあるのだろうか・・・。
それにしても、今どきこんなマンガみたいな落ち方する人いますか?
「そ、粗茶でございま~す」
「ど、どうも・・・」
「ありがとう、いただくわ」
先ほどの態度から一変し、急によそよそしくなったナターシャさん、。
今のところ、俺の見立てでは『ミルキーばぁば』の名はどんな魔法にも勝る決定打になっている、と思っている。ばぁばの偉業に甘えていると言われればぐぅの音もでないけど・・・。
「ジ、ジンイチローさんはどのような魔法をお探しで・・・」
「さきほど言った通り、基本的な魔法の魔法陣をいくつかと、それについていくつか聞きたいことがありまして」
「わかりました。いくつか見繕ってきますのでお待ちください」
しばらくして魔法陣の描かれた紙を何枚かもってきてくれた。
「説明はどうされますか」
「ぜひお願いします」
「お持ちした魔法は、『炎弾』『風刃』『豪水』『土塁』の4つです。それぞれが四大魔法といわれるものの初心者用の魔法であり、魔法の使えない多くの冒険者が購入するものとなります。どういう効果があるとかどんな魔法かについてですが・・・」
俺は手を前に出して制した。
「その4つ、購入します。ですから、そのあたりは発動させた時の楽しみにとっておきます」
「そうですか・・・」
名前を聞けばなんとなく効果が想像できるので、説明を省いたと言った方が正しい。
さて、気になる点について質問をぶつけてみた。
「この魔法陣の紙を使って発動したい時は、魔力を通すんですよね、というか、それだけで発動すると思っていればいいんですよね」
「はい。発動したい相手にこの魔法陣が描かれている方を見せ魔力を魔法陣に通す。これだけです」
確かに簡単だ。イメージも詠唱もいらない。魔法が使えない人にとっては便利な道具だ。
問題なのは、この魔法陣が紙で出来ている点か。
例えば『炎弾』であれば、発動した時に一緒に燃やしてしまうのではないか、という懸念もある。その点についてきいてみた。
ナターシャさんは得意気に鼻息を鳴らした。
「その点についてはご心配なく!ナターシャはしっかり考えています。ナターシャの魔法陣は、そこから距離を置いて具現化するように設定してあります!」
「なるほど、つまり具現化した魔法の影響が及ばないようにということであれば、例えば・・・『炎弾』ですか。具現化した途端に紙が燃えるということはない、ということですね」
「そのとおりです」
ならば一回使ってお終いということはない・・・ということは・・・。
「ならば、魔法陣の複数回利用も可能というわけですか」
「使える回数は段階的に設定して売っています。1回で使い切るもの、5回使えるもの、濡れたり破れたりしない限り半永久的に使えるもの、というように分けています」
「それに応じて料金も・・・」
「えぇ、変えています」
それともう一つ気になったのは、使用する魔力量と威力だ。初心者用ということもあるからそれほどの威力があるとは思えないけれど、使用するそれらの量は決められた定量分なのか、使用者の裁量になるのか。そして威力がどれくらいのものになるのか、それは聞いておこう。
「初心者用ですので、威力は抑えてあります。『炎弾』であれば・・・そうですね・・・。拳大の大きさのもので、魔力を少量使う程度の威力になりますね。もちろん魔力量は個人差があるので、打ち過ぎても大丈夫な人もいれば数発撃っておしまいの方もいます。ですので、目安を測るためにも消費する魔力量は一定に設定しています。ちなみに他の魔法店では威力に特化したものを売っているので、消費する魔法量なんか考えていません。それだと魔力をすぐに使い切ることも多くなってしまいます。やはり、あくまでもその人の使用目的や頻度、練度を考慮して細かく設定しないと、いざという時の戦いには魔力切れを起こしてしまいます」
ばぁばがこの店を勧めた理由がよくわかった。
初心者は初心者なりに一から始められる安心パックを選んでおこう。威力とかアレンジは使えるようになったら自分なりに試し、出来なさそうであれば威力の高い魔法の魔法陣を再び来店して相談購入すればいいのだ。
それでは・・・気にせず練習に使える、半永久的版魔法陣をいただこうかな。
「ナターシャさん、それではさっきの4つの魔法の魔法陣に半永久的に使えるよう設定したものを・・・3つずつください」
「ありがとうございます。ちなみに・・・他にも滅茶苦茶すごい大スケールな魔法なんかも売っているんですが!よければそちらもあわせていかがですか!」
再び鼻息を鳴らして迫るナターシャさん。
さっきまでの『威力に特化したものはダメ』と言っていたアレはなんだったのか・・・。
「う~ん・・・生憎まだその『段階』ではないので、またの機会にしますね」
「そうですか・・・」
肩をすくめて残念がるナターシャさんだったが、すぐに持ち直した。
「それではお持ちしますね」
「ありがとうございます」
4つの魔法を3枚ずつ購入し、金貨9枚と銀貨6枚を支払った。
初めてのお買いもの・・・になるんだよな。
初心者用として12枚買ってこれだけの金額になるのだから、高威力だったりオリジナルなものだったりすればもっと高額になるのだろう。
機会があればまた話を聞きたいものだ。
「ナターシャさん、色々ありがとうございます」
「こちらこそ。ミルキー様にもよろしくお伝えください」
「えぇ。私も機会があればまた来ますね」
「お待ちしています」
店を出たあと早速王都の外に出ようと思っていたけれど、青龍刀を忘れていたことに今更気が付いてしまった。もしものことがあってはいけないので、一旦ばぁばの家に戻ることにした。
小道まであと少しというところで、見覚えのある紋章付き馬車が横を通り過ぎて行った。
こんなところに国賓級の誰かがやってきたのだろうか?
「ただいま~。ばぁば、一旦戻ってきたよ」
「ジンイチローかい。ちょっとこっちへ来てくれないかい」
ばぁばが俺を呼ぶので居間へ行ってみた。
居間には、ここにいてはいけないはずの人間が立っていた。
「ジンイチロー、お久しぶり」
「・・・イリア」
だが、この違和感はなんだろう。お城で会った時と雰囲気が違うような・・・。
そうか!服だ!
着ている服が王城にいたときとまったく違うからだ。王城では艶やかなドレスだったのに、今ここでは街中の女性が着る服と変わりないものを着ている。雰囲気が変わって見えたのはそのせいか。
「なんというか、普通の服ですね」
褒め言葉ではないはずの俺の言葉に、なぜか大層喜ぶイリア。
「ふふふ、おわかりですか?」
ばぁばがお茶を用意してくれた。
「ひとまずジンイチローもおあがり。アニーはどうした?」
「・・・外で待たせているんだ」
「ちょうどいいから呼んできなさい」
「うん・・・」
俺は外に行ってアニーを呼んだ。俺の様子がおかしいことにすぐ気が付いたアニー。
「どうしたの?」
「あ~、いや~・・・」
「・・・」
居間に入ったアニーは固まっていた。
「お久しぶりですね、アニーさん」
「・・・あなた、どうしてここに・・・」
「アニーもかけなさい。説明はイリア王女からしてもらおうじゃないか」
俺とアニーが隣同士に座り、イリアとばぁばが隣同士に座る。
しばらくは4人で無言のティータイムとなった。
口火を切ったのはばぁばだった。
「わたしもびっくりしたのさ。玄関で呼ぶので誰かと思ったら、王女だったんだ」
「突然お邪魔して申し訳ございません。ですが、ミルキー様からのお手紙がなければ、わたくし、ここに来ることなど想像もできませんでした」
「手紙?」
俺がばぁばを見て言うと、ばぁばは何度かうなずいて応えた。
「ジンイチローが王城へ行く際に、メルウェルに頼んだんだよ。王女に渡してほしいとね」
「えぇ、確かにお受けしました」
すると、イリアは居直って俺を見据えた。
「ジンイチロー、ミルキー様からは許可をいただきました」
「許可?」
イリアは一呼吸置き、口を開いた。
「わたくし、今日からここでジンイチローと共に魔法の修行をさせていただきます」
「「 えええええええええ!!! 」」
アニーと俺の声で、外の鳥がたくさん飛び去って行った・・・。
投稿が昨日はできませんでした。寝オチというやつです。
ちょっと休憩と思ったら朝になっていた・・・こんな経験ありますよね?
明日も投稿できるよう頑張ります。




