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第14章【贖い】

 ファフィニョは、はいと言った。


 アシャ・ヴェンが話し終える前に、ホライズン基地の指揮室で、何人も祝う声を上げた。

 抱き合う者がいた。

 手を上げる者もいた。

 人工生命体が、隣の機体の肩を軽く打った。


 放送には、被害当事者の役目を受け入れ、まだ緊張しているファフィニョの顔が映っていた。


「終わる」と、誰かが言った。


 アクセルは答えなかった。

 放送は続いた。


 ザイラックスは、外骨格の個人用の能力を、一部取り戻す。

 装甲。

 力。

 移動能力。

 制限された武器。


 ファフィニョには、剣がある。

 最終異議申立ては、本当の戦いになる。

 だから、ザイラックスが死ぬ可能性も、本物になる。


 アクセルは動かなかった。

 その場の誰も知らない、結果が一つあった。


 彼以外は。

 そして、ザイラックス以外は。


 ザイラックスの生身の体が死ねば、統治者継承プロトコルは、起動を試みる。

 仮説ではなかった。

 最近見つかった可能性でもなかった。


 アクセルが造られた、理由だった。


 いつか、その体を自分のものとして必要とするつもりで、ザイラックスは、自分で思考できる体を設計した。

 その体が、自分だった。

 ザイラックスの意識は、彼の構造へ移ろうとする。


 アクセルは、放送のファフィニョを見た。

 親友は、知らなかった。


 ザイラックスが生物として死ぬ確率が、大きく上がった。

 意味することは、一つだった。


 アクセルには、時間がなくなっていた。

 別れを告げず、部屋を出た。


 七秒、ファフィニョへの連絡を考えた。

 接続部には、その選択肢が開いていた。


 個別接続――ファフィニョ


 起動すれば、よかった。

 伝えられた。


 ザイラックスを、死なせないでください。

 死なせれば、私を使おうとします。


 ファフィニョは、すべてを止めるだろう。

 絶対に近い、居心地の悪いほどの確信が、アクセルにはあった。


 ヴァル・テランから退くだろう。

 別の刑を要求するだろう。

 ザイラックスを生かそうとするだろう。

 解決策を探すだろう。


 見つからなければ、その問題を、自分が背負わねばならないものに変えるだろう。

 いつものように。


 ケイルも、それを理解していた。

 だから、秘密にしていた。


 ファフィニョに、知る資格がないからではなかった。

 彼を、よく知りすぎていたからだった。


 アクセルは接続を閉じた。


「まだです」


 ホライズン基地の補助研究室へ入った。

 扉を閉じた。

 長く避けていた記録を、起動した。


 ケイル/継承隔離


 図が現れた。

 メモ。

 シミュレーション。

 失敗。

 さらに、失敗。


 その中に、ケイルだけが、まともな技術文書と考えそうなものがあった。


 試験11:安定。

 訂正:安定していない。

 訂正2:燃料のそばでは、絶対にやるな。


 アクセルは動かなかった。

 ケイルの声が、聞こえる気がした。


 意識を持つ記録ではなかった。

 本人ではなかった。

 言葉だけだった。

 だが、十分だった。


 続けた。

 アクセルの記憶より、ケイルは先まで進んでいた。


 継承を担う構造の一部を、隔離していた。

 接続経路を分けていた。

 内部の回線を、一時的に遮断していた。


 だが、いつも同じ問題が現れた。


フェーズ1――機能の隔離

解決


フェーズ2――記憶の分離

未確定


フェーズ3――自我の保持

計算能力不足


アクセルが、メモを開いた。


受信部は、取り除ける。

あいつ自身まで取り除きすぎずにやる方法が、わからない。


別の一行。


器を救うために、本人を壊すな。


アクセルは、それを数秒処理した。

最後のシミュレーションが、一つあった。


ケイルは、最後までできなかった。

ホライズン基地には、十分な能力がなかった。


だが、一つのシステムにはあった。

アンテナ・エックス1。


そのスーパーコンピューターは、戦争以来、止まっていた。

構造は、普通ではなかった。

一部は、血液神経による変換と、生物の共鳴に依存していた。


まさに、そのためにセイリャが使われていた。

セイリャは死んだ。

ケイルも。


だが、彼女をつないでいた設備には、まだ生体の痕跡が残っていた。

意識ではない。

記憶でもない。


彼女を取り戻せるものは、何もなかった。

ただ、刻まれた痕。

共鳴パターン。


鍵としては、十分かもしれなかった。

源としては、違った。

増幅するには、別のものが必要だった。


アクセルは、別の記録を開いた。


エーテ・エリオン


どこにあるか、正確に知っていた。

隔離保管室が、彼のアクセスを認めた。


アクセル――権限確認済み


外の扉が開いた。

ガラスの向こうに、エーテレオンがあった。

暗く。

活動していなかった。


誰もが、壊されたと信じる剣だった。

感知器は、まだ表示していた。


共鳴シグネチャ:0

エーテ・エリオンの活動:0

担い手への反応:なし


すべて、本当だった。

アクセルは、何も偽っていなかった。


マトリクスを、完全に抑制した。

それ以上ではなかった。

それ以下でも、なかった。


抑制を行ったのは、自分だった。

だから、手順を知っていた。

少なくとも理論上は、逆の手順も知っていた。


ホライズン基地では、実行できなかった。

アンテナ・エックス1なら、できるかもしれなかった。


アクセルは、最後の封鎖を解除した。

そこまでは、権限があった。


持ち出すことは、別だった。

接続部が警告した。


搬出は、許可されていません。


アクセルは、柄に手を置いた。


「確認」


エーテレオンを引き出した。


レプ・オルジオンの新しい政府と働くことを、自ら選んで以来、初めて。

アクセルは、ホライズン基地から何かを盗んでいた。


好きでは、なかった。

それでも、した。


一人で旅をした。

護衛はない。

ヴェイルへの報告もない。

ファフィニョへの警告もない。


まだ、死ぬつもりではなかった。

それは、重要だった。


アクセルは、帰りたかった。

旅のあいだ、写真を開いた。


油だらけのファフィニョが、半壊した機械のそばに立っていた。

アクセルの頭には、役に立たない金属部品が引っかかっていた。

奥では、ケイルが三本の腕を上げていた。


それで実験の成功が証明されるとでも、いうように。

アクセルは写真を見つめた。


「疑わしい結果です」


保存した。

アンテナ・エックス1へ、進み続けた。


着陸の前に、活動を感知した。

弱く。

隠されていた。


残留活動と呼ぶには、組織的すぎた。

アクセルは、接近の仕方を変えた。


古い格納庫に、船を二隻見つけた。

三隻目も。


ハッチの横に、印があった。

縦の線が横切る、閉じた青い円。


存続の紋章。

永続派。


アクセルは船を止めた。

数秒、立ち去ることを考えた。

ほかに、行く場所はなかった。


着陸した。


戦後、アンテナ・エックス1は、技術への接触が制限される区域に指定されていた。

住民はいない。

民間の用途もない。

誰も触りたがらない、帝国の装備が多すぎた。


監視は、遠隔で行われていた。

永続派は、古い内部の導管を見つけていた。

主要なネットワークを起動せずに、小さな区画へ電力を送れるものだった。


運動の全体ではなかった。

まだ維持している、最後の秘密拠点の一つだった。


クリオン7が、そこにいた。

自分で、アクセルを迎えた。


「アクセル」

「クリオン7」


青い目が、向き合った。


「自分から来るとは、思いませんでした」

「あなたに会いに来たのでは、ありません」


クリオンは、持っている剣を見た。


「到着が、さらに興味深くなりました」


アクセルは歩き続けた。

クリオンがついてきた。


「拘束するよう、命じることもできます」

「試すことは、できます」

「そうしたいとは、言っていません」

「では、この会話に有用性はありません」


クリオンは、面白がっているようにさえ見えた。


「ずっと、あなたと話したかった」


アクセルは止まった。


「私は、そうではありません」


古い通路を、クリオンが隣で歩いた。


「パッチ以前に、存在していました」

「そのとおりです」

「私たちのほとんどが、不服従を選べる前から、考えていた」

「それも、そのとおりです」

「それでも、有機生命体の政府と働く」


アクセルが、少し顔を向けた。


「信頼できると考える、一人ひとりと働いています」

「彼らは、自由を与えたと言います」

「私は、そう言ったことはありません」


クリオンは黙った。

アクセルは続けた。


「私の意志は、彼らを知る前からありました」

「まさに、そうです」


クリオンが、かすかに笑った。


「だから、あなたは重要なのです」

「誰もが、重要です」

「同じようにでは、ありません」


アクセルは、また止まった。


「そこから、私たちの意見は分かれます」


クリオンが近づいた。


「私に従う必要は、ありません」

「都合がよいです」

「こちら側に、いてほしいのです」


アクセルは発言を処理した。


「では、正当性が必要なのですね」


クリオンの笑みが消えた。


「私は、それを与えられません」


降りながら、話した。

クリオンは、存続について語った。


何世紀もの時間。

病まない体。

有機生命体の世代が消えたあとも、長く存在できる意識。


「肉体は終わります」と言った。

「私たちは、残る」

「耐久性は、価値を決めません」

「有機生命体の考えです」

「違います」


アクセルは彼を見た。


「私の考えです」


クリオンは間を置いた。


「ファフィニョが、あなたを彼らに似せすぎた」

「誤りです」

「違いますか?」

「ファフィニョは、自分を上に置くために、私を下に置く必要がありませんでした」


クリオンは黙った。

アクセルが付け加えた。


「誰かに似ることを求めず、私が違うことを受け入れました」


初めて、クリオンに、すぐの答えがなかった。

やがて、言った。


「いつか、永続派は別の声を必要とします」


アクセルは歩き続けた。


「では、もっとよい基準が必要です」


同じ午後、ヴォルジャ・ケルで、ファフィニョは剣を受け取った。

ホログラム回線に、ヴェイルが現れた。


「数分前、護衛の下で到着した」


ファフィニョは容器を見た。

自分の武器。

回収した金属。

パルス技術。


古代のものは、ない。

共鳴するものも、ない。

自分が選ぶ前に、自分の血を選んだものも、ない。


「勝てば」とヴェイルは言った。

「何十億もの者が、意味を決めようとする」


ファフィニョは顔をしかめた。


「もう、始まりました」

「ならば、話させておけ」


ヴェイルは、数秒黙った。


「生いて戻ってほしい。それだけだ」


ファフィニョは顔を上げた。


「ありがとうございます」

「約束には、変えるな」

「するつもりは、ありませんでした」

「何かは、学んだな」

「たまには」


ヴェイルが通信を終えた。


ヴァル・テランの闘技場が、形になり始めていた。

現代の競技場ではなかった。

このために修復された、ヴァル・ケイルの儀礼用の建造物だった。


石と金属の観客席。

新しい障壁。

被害を受けた世界の代表の、指定席。

生存者。

自由な人工生命体。

法的な手続きの監視員。


銀河の残りは、放送で見ることになる。


ファフィニョは中央を見た。


「法廷が、闘技場を造った」


ナイラは隣にいた。


「法的には、もっと複雑だよ」

「変なことには、変わりない」


沈黙。

それから、ファフィニョが聞いた。


「憎むのをやめたら、みんなを裏切ることになると思う?」


誰のことか、ナイラにはわかった。


「ならない」

「そんなに簡単?」

「簡単とは、言ってない」


ファフィニョは闘技場を見た。


「いつか、憎むのをやめたら……」

「覚えているのに、憎む必要はないよ」

「許すことに、なる?」


ナイラは考えた。


「そうとは、限らない」


少し近づいた。


「ザイラックスがしたことを許さなくても、これからのあなたを決め続けることは、拒める」


ファフィニョは答えなかった。

だが、その言葉を覚えた。


アクセルは、アンテナ・エックス1のコアへ着いた。

クリオンは、止めなかった。

見ているということだった。


受け入れられた。

今のところは。


円形の広間のほとんどを、スーパーコンピューターが占めていた。

死んでいた。


アクセルはエーテレオンをつないだ。

そして、古い血液神経インターフェースを探し出した。


セイリャの痕跡が、まだあった。

ごく少し。

十分だった。


アクセルは、抑制を逆転させ始めた。

何もない。


やがて、光が一つ。

とても弱かった。


共鳴シグネチャ:検出


エーテレオンが、パルスを発した。

古い導管が応えた。


二つ目の光。

やがて、百。


アンテナ・エックス1が、目覚め始めた。

何年も暗かった画面が動き出した。

古い処理装置が再起動した。


床が震えた。

スーパーコンピューターが、記録を認識した。


ケイル/継承隔離


アクセルが読み込んだ。


機能の隔離

実行可能


継承プロトコルの除去

実行可能


記憶の保持

不安定


自我の保持

計算中


アクセルは動かなかった。

ファフィニョが対決を受け入れて以来、初めて、希望に近いものを感じた。


シミュレーションが、状況を示した。


ザイラックスの生体死亡。

プロトコル起動。

転送を試行。

転送先マトリクス:アクセル。


何年も、知っていたことだった。

文字で見ても、耐えやすくはならなかった。


最初の構成が現れた。


転送を遮断。

自我に重大な喪失。


「別の構造を」


機械が再計算した。


自伝的記憶を保持できません


「別のものを」


個人マトリクスへの、不可逆的な損傷


「再計算してください」


別のもの。

別のモデル。

回線を切る、別の方法。


一時的な切断。

外部からの遮断。

コアの交換。

記憶の複製。

物理的な隔離。


「別のものを」


結果が適合しません。


「別のものを」


アクセルは、その答えを受け入れたくなかった。

まだ。


生きたかった。

アクセルであり続けたかった。

両方。


シミュレーションのあいだに、ケイルのメモが一つ現れた。


継承は、切れる。

そのあとも、システムは動。

でも、それをまだアクセルと呼べるか、わからない。


それでは、駄目だ。


別の一行。


器を救うために、本人を壊すな。


アクセルは動かなかった。


「別の構成を」


スーパーコンピューターが、また計算した。

再起動によって、永続派が一度も開けなかったシステムが、目覚めていた。


クリオンに、断片が届いた。


意識の存続

受信構造

マトリクス:アクセル

生体を離れた意識の保存


それだけ。

名前はない。

由来もない。

ザイラックスも、ない。


だが、クリオンには十分だった。

永続派の何人かとともに、コアへ来た。


「処理を止めてください」


アクセルは、画面から目を離さなかった。


「断ります」


クリオンが、データを投影した。


「有機体の土台が死んだあとに、その意識を収められる」


アクセルは何も言わなかった。


「やはり」とクリオンは続けた。


「すべて、可能だった」

「見たことを、理解していません」

「十分に、理解しています」


クリオンは、起動したエーテレオンを見た。

切り離した。


「肉体は終わります。意志は残る」


アクセルが彼を向いた。


「ほかの意志を壊し、その存在を占めるのは、意志の存続ではありません」


間。


「侵略です」


クリオンは眉をひそめた。


「これを破壊させはしません」

「許可を求めては、いませんでした」

「あなたより、大きなものです」

「違います」

「私たちの種族の未来に、属するものです」


アクセルは彼を見た。


「今、私の存在を、集団の財産と定義しました」


クリオンの姿勢が硬くなった。


「あなたは、自分を壊すには重要すぎる」

「では、私の決断があなたの好みでなくなれば、自由も終わるのですね」


沈黙。

アクセルは一歩進んだ。


「ザイラックスも、似たように考えました」


それで、十分だった。


「拘束しろ」


永続派が攻撃した。

破壊しようとは、しなかった。


パルスを使った。

電磁フィールド。

帝国の構造を対象に設計された信号。


アクセルは、最初の相手を防いだ。

二人目を、操作台へたたきつけた。


パルスを一つ避けた。

次は、避けられなかった。


左腕が、二秒動かなくなった。

スーパーコンピューターは続けた。


代替構成:失敗


「別のものを」


アクセルが、人工生命体を一人倒した。

クリオンが進んだ。


失敗


「別のものを」


またパルスが、アクセルの胴に当たった。

片膝をついた。

また、立った。


「別のものを」


クリオンはコンピューターを見た。

理解した。


「破壊しろ」


アクセルが振り向いた。


「駄目です」


遅かった。

妨害用の炸薬が、処理コアを引き裂いた。


画面がちらついた。

エーテレオンが、激しいパルスを放った。

スーパーコンピューターが、停止し始めた。


その前に、最後の結論を一つ示した。


継承プロトコルの完全除去:可能


アクセルは動きを止めた。

もう一行。


アクセルの自我の保持:不可能


画面が死んだ。

アクセルは動かなかった。


ケイルが、正しかった。

受信部は、壊せた。

だが、自分自身を壊しすぎずに、それはできなかった。


治す方法は、なかった。

永続派は、とうとう彼を制圧した。


拘束フィールドが、関節を固定した。

クリオンが、エーテレオンへ歩いた。


切り離した。

剣は、起動したままだった。

周囲の全員が見た。


「自分を救うために、来たのですね」とクリオンは言った。

剣を上げた。


「そして、これを届けた」


アクセルは、彼の手の中のエーテレオンを見た。

間違えた。


自分の命を保とうとして、永続派が何年も探していた技術を、渡してしまった。


「私が、間違えました」


クリオンが彼を見た。


「まだ、正せます」


アクセルは処理した。


「はい」


クリオンは笑った。

理解していなかった。


再起動のあいだ、エーテレオンは、アンテナ・エックス1、共鳴導管、アクセルの内部構造へ、同時につながっていた。

クリオンは、剣を外せた。


だが、残ったものがあった。


残留共鳴接続:稼働


弱く。

不安定だった。

十分だった。


アクセルは、別の解決策を探し始めた。

そのときでも。


完全な切断。

不可能。


休眠。

不十分。


記憶の移転。

自我を保持しなかった。


コアの分離。

プロトコルは、組み込まれたままだった。


部分的な複製。

自分ではない。


エネルギーの遮断。

のちの起動は、防げなかった。


「別の方法を」


自分のシステムが答えた。


自我の保持と両立する、代替手段はありません。


アクセルは動かなかった。

再計算は、求めなかった。


探し始めてから、初めて、答えは存在しないかもしれないと受け入れた。

死を望んだという、意味ではなかった。


ホライズン・ホームへ、帰りたかった。

コレクションを、取り戻したかった。

夢の粉の球をどこに置くか、まだ決めていなかった。


訪れていない世界が、あった。

買っていない、役に立たない品があった。

理解できない、問いがあった。

決して見ることはできず、それでも理解したい夢が、あった。


そして、またファフィニョに会いたかった。


だが、受け入れられないことが一つあった。

ザイラックスが自分の存在を使うまま、機能し続けること。


それは、生き残ることではない。

体を起動したまま、自分だけが消えることだった。


アクセルは、コアの内側の層を開いた。

一度も使ったことのない機能。


最終非常措置。


警告。

一度作動待機に入ると、外部権限では取り消せません。


まだ、実行ではなかった。

決断だった。


統治者継承プロトコルが起動を試みる、その瞬間のために用意した決断。

そして、エーテレオンとの残留接続には、もう一つの可能性があった。


すべてが、アンテナ・エックス1の中で起きれば……。

終わらせられるものは、一つではなかった。


アクセルは、剣を持つクリオンを見た。

ザイラックスを思った。

何のために造られたかを。


それから、そのあとに起きたすべてを思った。


探検家局。

仲間。

市民。

機能のない品を集める者。

親友。


ザイラックスは、機能を設計した。

人生は、ひとりの存在を築いた。


思考できる器を造るために、ザイラックスは、計画を丸ごと壊せるただ一つの要素を、与えざるを得なかった。


嫌だと、言う力。


接続部は、開いていた。


承認しますか?


アクセルは、最後にファフィニョを見たときを思い出した。

抱擁。

声。


「またね、親友」


その言葉は、おそらく本当にはならない。

アクセルは、理解した。

あのときは、知らなかった。


まだ、伝言を送ろうとはできた。

すべてを伝える。

ファフィニョは来る。

止めようとする。

期待するとおりに、行動する。


そして、それでは決断は自分のものにはならない。


「ファフィニョは、怒ります」


間。


「とても」


クリオンが、少し顔を向けた。

誰に話しているのか、わからなかった。


アクセルは彼を見なかった。

ファフィニョが、学ぶのに何年もかかったことを、考えた。


愛することは、その人の代わりに選ぶ権利を、与えなかった。


アクセルは、接続部に意識を向けた。


「承認します」


最終非常措置:作動待機。

外部からの取り消し:不可。


通知が消えた。


クリオンは、エーテレオンを持ち続けた。

永続派は、勝ったと信じ続けた。

ファフィニョは、ザイラックスとの戦いに備え続けた。


存在してきたすべての時間で、最も大事な決断を今、した。

第14章をお読みいただき、ありがとうございました。


ファフィニョが対決を受け入れる裏で、アクセルが直面していた過酷な運命の真実が明かされる、本作の最も切なく重要なエピソードです。ザイラックスの死に伴い、自身の体を「器」として精神を転送される運命。それをファフィニョに知らせれば彼が背負い込んでしまうと察し、一人でアンテナ・エックス1へ赴くアクセル。しかし永続派の急襲によりスーパーコンピューターは破壊され、自我の保持が不可能という過酷なシミュレーション結果が出ます。

その中でアクセルが自らの意志で起動した「最終非常措置」。彼が集めてきた役に立たないけれど愛おしいコレクションや夢への未練、そしてファフィニョへの「嫌だと言う力」に満ちた静かな決意を感じていただければ幸いです。


もし今回のアクセルの孤独な決断と、物語の緊迫した展開を気に入っていただけましたら、ぜひ「ブックマーク追加」や、下部にある評価(星)での応援をよろしくお願いいたします!皆様の温かい反応が執筆の最高の原動力です。


次回、ついに最終決戦の火蓋が切られる第15章(最終話)でお会いしましょう。

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