第9章【統治者ザイラックス】
ヴォルジャ・ケルは、統治者なしで暮らすことを覚えた。
忘れることを覚えた、という意味ではなかった。
上空から見ると、首都はまだ、互いを憎む二つの時代が造った街に見えた。
ヴァル・ケイルの古い建築は、低く、角ばっていた。
何世代も耐えた、灰色の石と暗い金属。
そのあいだに、帝国ネットワークの支配下で建てられた黒い塔が立っていた。
高すぎて、真っすぐすぎて、誇りすぎていた。
印を失った塔もあった。
記号を取り除いた痕が、はっきり残る塔もあった。
ザイラックスの宮殿は、捕らえられて以来、閉じられたままだった。
どうするかは、まだ誰も決めていなかった。
博物館。
記録庫。
取り壊し。
待てる議論もあった。
裁判は、待てなかった。
ほぼ二年、ザイラックスは、生まれた惑星で拘束され続けていた。
形成、ほぼ二年、何十もの世界が、一つの問いで言い争っていた。
答えようとするまでは、ばかげて聞こえる問いだった。
誰に、彼を裁く権利があるのか。
ファフィルは、裁判権を主張できた。
レプ・オルジオンも。
ヴェイラク・タルも。
エリンドラ・ヴェイも。
ほかにも、多くの世界が。
世界ごとに裁判を開けば、ザイラックスは、すでに尋常でない生涯の残りを、法廷から法廷へ移されながら過ごすことになり得た。
一つの惑星が事件を独占すれば、ほかの世界は、判決を認めないかもしれなかった。
だから、長くかかった。
裁くべきかを、決めるためではなかった。
正義を、また別の恣意的な権力に変えずに、どう裁くかを決めるためだった。
やがて、ヴォルジャ・ケル司法協定が生まれた。
被害を受けた世界は、一つの法廷へ、事件の記録を提出した。
権限の一部を委ねた。
判決を認めると合意した。
そして何より、ほかのどんなことよりも議論を呼んだ、一つの規則を受け入れた。
ザイラックスを有罪にできるのは、行為が起きた当時、すでに効力を持つ法律に照らして、犯罪だった行為についてだけだった。
被告に嫌悪を感じるからという理由だけで、新しい規則を作ることはできなかった。
苛立たしかった。
遅かった。
居心地が悪かった。
だからこそ、しなければならなかった。
法廷の主審理室は、かつてヴァル・ケイルの古い司法制度のものだった。
帝国の宮殿の、壮大な見せつけるような造りはなかった。
大きいが、質素だった。
高い位置の三つの席が、審理室を見渡していた。
中央に、アシャ・ヴェンが座った。
右に、ケレド4。
左に、メアロン・サール。
法廷の発足時、アシャは、同じ言葉を繰り返していた。
「訴因の重大さは、それを立証する義務を軽くしません」
人気のある言葉ではなかった。
だからこそ、何度も繰り返された。
ケレド4も、批判を受けていた。
人工生命体が、ネットワークの創造主を裁く。
ある者には、正義だった。
別の者には、利害の衝突だった。
ケレドは、一度だけ答えた。
「人工生命体を代表しているのではありません。この法廷を、代表しています」
そのあとは、その件について答えなかった。
メアロン・サールは、さらに話さなかった。
多くの時間を、古い記録、忘れられた法律、何世代も誰も参照しなかった先例に囲まれて過ごした。
アシャが法廷を率い、ケレドが手続きの論理を守るなら、帝国以前に書かれた言葉が、本当は何を意味したのか覚えているのが、メアロンだった。
向かい合うのは、二つの側だった。
一方に。
弁護側。
もう一方に。
カール・ヴェイル。
被害世界訴追局。
セリン・カオル・ヴェルは、銀河で最も憎まれる存在を告発するために、何年も待っていた人物には見えなかった。
だからこそ、危険だった。
声を上げなかった。
卓を打たなかった。
カメラが近づくたびに、歴史的な正義について語りもしなかった。
読んだ。
除いた。
また、読んだ。
「この訴因は、入れない」と言った。
イリラ・シェイ・ヴェンが、記録から顔を上げた。
「生存者三人の証言が、あります」
「起きたことの、証明になる」
「それでは、足りませんか?」
「足りない」
イリラは顎を引き締めた。
セリンが、一行を指した。
「集落が破壊されたことは、わかっている。その作戦とザイラックスを結ぶ、十分なつながりは、まだない」
「ネットワークでした」
「被告席に座るのは、ネットワークではない」
イリラは黙った。
セリンは記録を閉じた。
「裏づけられないものを出せば、レクスが、公の場で崩す」
「では、つながりを見つけます」
「そのとおりだ」
イリラは、また記録を取った。
数メートル先では、ラエル8が、帝国の指揮構造の図を分析していた。
何百もの線が、ノード、指揮官、手順、自動化された中枢をつないでいた。
イリラはホログラムを見た。
「どれぐらいが、自分で動いていたの?」
ラエル8は、顔を上げずに答えた。
「非常に多くです」
セリンが彼を見た。
「不利になるか?」
「場合によります」
ラエルが、ノードを一つ拡大した。
「自動であることは、責任がないことを意味しません」
セリンはうなずいた。
「誰が標的を選んだか、調べてくれ」
ラエル8が、別の記録群を開いた。
ザイラックスが法廷へ入る前から、戦いは始まっていた。
レクス9も、同じ記録を知っていた。
探しているのは、まったく違うものだった。
どこで罪を証明しているかではない。
どこで、決めつけすぎているか。
目の前では、ヴェラ6、アーク11、ヴァール9が働いていた。
レクスは、書類の三つの文を指した。
ザイラックスが命じた。
ザイラックスが許した。
ネットワークが実行した。
「同じ意味ではありません」と言った。
ヴェラ6が答えた。
「訴追側は、結びつけようとします」
「ならば、結びつけなければなりません」
チームの資金源は、その存在とほとんど同じほど、怒りを呼んだ。
費用を払うのは、永続派だった。
クリオン7は、どの言葉が放送に流れるかを正確に知る者の、計算された厳かさで発表していた。
『被告を憎んだときに弁護を受ける権利が消えるなら、それは最初から、権利ではありませんでした』
法廷は、資金を受け入れた。
だが、直接ではなかった。
すべてが、司法登録局を通った。
永続派は、支払うことができた。
命令は、できなかった。
証人を選べなかった。
内密な会話を聞けなかった。
方針を決められなかった。
それで独立を本当に保証できるのかと、記者がレクスに聞いた。
答えは、短かった。
「永続派は、費用を払います。この弁護を、動かしてはいません」
そのまま、歩き続けた。
審理の前夜、レクスに新しい記録が届いた。
クリオンからではなかった。
法廷からでもなかった。
回収した帝国の記録からでもなかった。
被告本人からだった。
レクスは、最初の書類を開いた。
次の書類も。
そして、動きを止めた。
医療記録。
何十年分も。
全身の変性。
心血管機能の不全。
進行する運動機能の喪失。
実験的な治療。
補助システム。
重い衰弱の時期。
レクスは、警備された部屋の向こう側を見た。
ザイラックスがいた。
いつものように、巨大な黒い外骨格に包まれていた。
「あなたは、有機生命体なのですね」とレクスは言った。
装甲の中から、声がした。
「そうだ」
レクスは、また書類を見た。
「誰も、知らない」
「ごく少数は、知っている」
「訴追側も、知らない」
「まだな」
レクスは記録を閉じた。
「これは、無罪を証明しません」
「そうだとは言っていない」
「一部の行為について、責任の帰属が変わります」
間。
「それは、確かに変わります」
ザイラックスが答えた。
「やっと、わかったな」
レクスは彼を見た。
「カール・ヴェイルには、さらに立証することがあると、わかりました」
感謝はなかった。
レクスも、期待していなかった。
最初の審理は、銀河全体へは放送されなかった。
ヴォルジャ・ケル、手続きに参加する世界、被害者の代表、認定された報道機関だけが、見られた。
それでも、何百万もの者が見ていた。
護衛の下で、ザイラックスが入った。
黒い外骨格は、まだ巨大だった。
攻撃システムは、取り外されるか、封じられていた。
外部通信は遮断されていた。
推進機能は止められていた。
だが、見た目では、どれも関係なかった。
まだ、あの存在だった。
記録の中の怪物。
世界が陥落する通信に、現れた姿。
統治者。
傍聴席の何人かが立った。
一つの声が、聞き取れない何かを叫んだ。
別の有機生命体が、泣き始めた。
アシャ・ヴェンは待った。
「静粛に」
広間が落ち着くまでに、数秒かかった。
セリン・カオル・ヴェルが立った。
個々の犯罪を、すべて読み上げはしなかった。
事件を整理した。
主権を持つ世界の征服。
強制移送。
奴隷化。
実験。
誘拐。
政府の、組織的な破壊。
大量殺戮。
帝国軍と、その指揮構造に対する責任。
分類に縮めても、十分に長い一覧だった。
ホライズン・ホームで、ナレクは腕を組み、ホログラムを見ていた。
放送の隅に、一行が現れた。
全147件中、訴因18
「あと、どれぐらいだ?」と聞いた。
ファフィニョは、ナイラの隣に立っていた。
「わからない」
数字が変わった。
全147件中、19
ファフィニョはため息をついた。
「たくさん」
ヴァエラは何も言わなかった。
ザイラックスを見続けていた。
ファフィニョは、新しい剣のそばに片手を置いていた。
ナイラが、下を見た。
「ここからは、使わないよ」
ファフィニョは、自分の手を見た。
離した。
「癖」
アウリオンテの別の場所では、有機生命体と人工生命体が、公共の投影のまわりに集まっていた。
ホライズン基地では、レイズが休憩中に審理を見ていた。
評議会では、ヴェイルとセイルが、黙って見ていた。
戦争の終わり以来、初めて、ザイラックスが再び皆の前に立った。
ただし今は、軍隊がなかった。
冒頭の読み上げが終わるまで、アシャ・ヴェンは待った。
「ヴォルジャ・ケルのザイラックス」
外骨格が、少し頭を傾けた。
「この法廷が受理した訴因について、どのように答えますか?」
レクスは座ったままだった。
口を開かなかった。
ザイラックスも、彼を見なかった。
装甲の中から、声がした。
「すべての訴因について、無罪だ」
沈黙。
あまりにも完全で、一秒、誰も意味を理解していないようだった。
そして、広間が爆発した。
「うそつき!」
「お前の命令で、家族が死んだ!」
何人も立ち上がった。
警備員が、中央へ通じる道をふさいだ。
イリラは動かず、ザイラックスを見つめていた。
セリンは、違った。
書き留めた。
アシャが卓を打った。
「静粛に!」
一度目では、静まらなかった。
二度目でも。
ザイラックスは、付け加えなかった。
「一部の訴因について、無罪だ」とは、言わなかった。
告発の一部だけを、争ったのでもなかった。
すべてだった。
「無罪?」とファフィニョが言った。
ナレクは画面を見た。
「そんなこと、言っていいのか?」
「何を言うかは、自由だよ」
「それで、終わりか?」
ファフィニョは首を振った。
「今度は、誰かに信じてもらわないといけない」
ヴァエラは、ザイラックスから目を離さなかった。
「あれだけのことを、したのに……」
ナイラは、落ち着いて話した。
「言ったからって、本当にはならないよ」
ホライズン基地で、レイズが通信を切った。
画面が暗くなった。
五秒。
また、つけた。
その発言は、審理全体を見られない世界にも届いた。
すべての訴因について、無罪。
繰り返された。
翻訳された。
見出しになった。
被害者の団体が、手続きへの参加を求めた。
政府が、透明性を要求した。
報道機関が、公開の放送を求めた。
レクスが、公開範囲を広げる正式な申請を出した。
カール・ヴェイルは、反対しなかった。
セリンが、一つ条件をつけた。
「証人を、見世物にはしない」
法廷は、休廷を宣言した。
数時間、戦後で最も待ち望まれた裁判が、画面から消えた。
アシャが戻ったとき、さらに何百万もの者が待っていた。
「この手続きの公開審理は、銀河のホログラム回線を通して、再放送できます」
広間が反応した。
「法廷は、身元を保護し、審理の一部を非公開とし、慎重に扱う映像を制限し、安全確保のために技術的な放送遅延を設ける権限を、保持します」
ホライズン・ホームで、ナレクは眉をひそめた。
「じゃあ、完全な生中継じゃない」
ファフィニョが言った。
「二年待ったんだし、数分で大きく変わるとは思わないよ」
アシャが締めくくった。
「銀河は、この法廷を見ることができます。支配することは、できません」
審理が再開した。
今度は、全員が見ていた。
レクスが立った。
「弁護側は、被告の病歴を証拠として採用するよう、求めます」
セリンは、すぐ反応した。
「現在の状態は、問われている行為の当時の状態を、証明しません」
「そのとおりです」
レクスが記録を開いた。
「だから、記録は何十年にもわたります」
ファフィニョは眉をひそめた。
「何をしようとしてるんだ?」
ナイラも, 確信はないようだった。
法廷で、レクスが続けた。
「訴追側は、時期も場所も異なり、自律の度合いも異なるシステムが実行した作戦を、被告に帰属させています」
セリンが言った。
「弁護側は、ネットワークの部隊が、被告の権限の下で動いていたことを否定するのですか?」
「権限と、直接の関与を区別するつもりです」
ファフィニョはナイラを見た。
「ザイラックスが全部の惑星にいなかったから、彼のせいじゃないって言ってる」
「そういうわけじゃない」
「その言葉のあとに続くことは、いつも好きになれない」
ナイラはホログラムを指した。
「レクスは、ザイラックスが何を命じたのか、ほかの者が直接の命令なしに何をしたのか、証明させたいんだ」
「何をしてるか、知ってたら?」
「それも、証明しないといけない」
法廷で、セリンが答えた。
「すべての武器を、本人が手にしていたと証明する必要はありません」
レクスは彼を見た。
「何を命じ、何を知り、何を止められて、何を許すと選んだのか。私たちは、それを証明する必要があります」
背後で、ラエル8が立ち、記録を確かめていた。
初めて、ファフィニョはわかった。
破壊された世界の映像を見せるだけでは、済まないのだ。
何が起きたかは、誰もが知っていた。
法廷は、一つひとつのことに、誰が責任を負うのか証明する必要があった。
レクスが、最初の医療書類を提出した。
公開記録に、言葉が現れ始めた。
変性。
生体機能の不全。
呼吸補助。
心血管機能の悪化。
機械への依存。
広間のざわめきが変わった。
レクスは裁判官たちを見た。
「弁護側は、被告の生物としての状態を、視覚的な証拠として採用するよう求めます」
セリンが立った。
「何のために?」
「訴追側は、この審理を通じ、帝国のすべてのシステムの背後に、常に働く意志があると述べてしてきました。弁護側は、その構造の中に、常に一人の特定の個人がいたことを示します」
アシャはザイラックスを見た。
「同意しますか?」
中から、声が答えた。
「同意する」
最初の音は、小さかった。
内部の留め具。
もう一つ。
胴の黒い板が、数センチ開いた。
誰も話さなかった。
隙間が広がった。
最初に見えたのは、コアではなかった。
別の機械でもなかった。
管だった。
透明な管。
小さなポンプ。
医療用のケーブル。
呼吸に近いリズムで、上下する機構。
板が、さらに離れた。
皮膚が現れた。
ホライズン・ホームでは、誰も何も言わなかった。
外骨格の前面が、開き終わった。
銀河が、ザイラックスを見た。
本物を。
小さかった。
いちばん不気味なのは、そこだったかもしれない。
あの巨大な装甲、戸口を埋めるほどの輪郭。
その中にいたのは、時にむしばまれた生物だった。
腕は細かった。
細すぎた。
脚は、体重を支えられそうになかった。
関節のまわりで、皮膚がくぼんでいた。
呼吸装置の補助なしでは、胸はほとんど上がらなかった。
体へ、直接感知器がつけられていた。
管が、乾いた、病んだ皮膚のひだへ消えていた。
生身だけでは保てなくなった機能を、機械のポンプが維持していた。
首は、頭を支えるには弱すぎるようだった。
年老いた、有機生命体の異星人だった。
恐ろしいほどに、年老いていた。
ただ、死が近づいている者には見えなかった。
何十年も、死を遅らせてきた者に見えた。
突然、外骨格は、ただの装甲には見えなくなった。
自力では生きられない体のまわりに、造られた機械だった。
彼を無理に存続させるための、巨大な構造だった。
広間は、完全に静まった。
被害者たちさえ、もう叫んでいなかった。
ナイラが、先に話した。
「有機生命体んだ」
ナレクが、ヴァエラへ近づいた。
ファフィニョは答えなかった。
怪物の中の体を、見つめていた。
ヴァエラが聞いた。
「何か、変わるの?」
「変わらない」
ファフィニョの答えは、すぐだった。
それから、少し間を置いた。
「でも、説明がつくことが多すぎる」
ナイラが彼を見た。
「一部はね」
「何?」
「説明がつくのは、一部」
ファフィニョは、またザイラックスを見た。
ナイラが正しかった。
死ぬのが怖いだけでは、ネットワークを築くには足りない。
だが、恐れがどこから来たか、その一部はわかった。
ヴァール9が、最初の医療記録を提示した。
何十年もの衰弱。
補助なしには、ほとんど動けなかった時期。
実験的な処置。
進行する機能不全。
レクスが話した。
「そうした時期に、作戦が自動的に続いていたのであれば、訴追側は、どのように被告個人に帰属させられるのか、示さなければなりません」
セリンが立った。
「命じた者が、毎秒監督していなくても、機械は命令を実行できます」
「そのとおりです」
「ならば、実行の自律性は、判断の独立性を証明しません」
ラエル8が、図を起動した。
「実行が自律的でも、標的の選定まで自律的だとは限りません」
レクスは投影を見た。
「では、誰が各標的を選んだのか、証明してください」
セリンは、その目を見た。
「証明します」
叫び声はなかった。
必要なかった。
本当の戦いが、今、始まった。
審理が終わる前に、銀河が反応した。
ザイラックスは有機生命体だった
外骨格が、統治者の生命を維持
末期の病にある被告に、刑を科せるのか?
別の放送が答えた。
病は、犯罪を消さない
解放された世界の一つで、声がした。
「死にかけている。処刑して、何になる?」
別の世界では。
「私の子孫も、死んだ」
分析をする者が聞いた。
「そんな状態の有機生命体が、どうやってネットワークほどの構造を支配できた?」
生存者が答えた。
「死ぬことの意味を理解していたなら、私たちに何をしているのか、正確に知っていたはずだ」
同じ映像。
四つの異なる解釈。
わずか数時間後、クリオン7が報道機関の前に現れた。
『何十年も、私たちは不死に見える機械の意志を恐れるようにされてきました。今日、銀河は、その背後にいたのが、自分の死を恐れる有機生命体だったと知りました』
その言葉は、すぐに広がった。
出ていくレクスを、記者が見つけた。
「それは、弁護側の立場 resignation でもありますか?」
「いいえ」
「永続派が、あなたのチームに資金を出しています」
「被告の弁護を受ける権利に、資金を出しています。私の結論を、買うのではありません」
法廷の別の出口で、セリン・カオル・ヴェルは、違う質問を受けた。
「ザイラックスの病状は、事件を変えますか?」
セリンは足を止めた。
「私たちは、病を訴追しているのではありません」
カメラを向いた。
「決断を、訴追しています」
審理が終わると、ザイラックスは機構を再び起動した。
板が閉じ始めた。
最初に、脚が消えた。
それから、腕。
管。
胸。
顔。
最後の黒い板が、はまった。
突然、年老いた有機生命体は、法廷の目から消えた。
巨人が戻った。
統治者ザイラックス。
だが、もう同じようには、誰も見られなかった。
その夜、二つのチームが、同じ事実から作業した。
レクスはヴェラ6と、古い命令を検討した。
ヴァール9は、医療記録を整理した。
別の部屋で、セリンが同じ記録を開いた。
イリラは、証人の一覧を用意した。
ラエル8が、壁いっぱいにネットワークの指揮系統を投影した。
戦争は、二年前に終わった。
戦いは、終わっていなかった。
場所を、変えただけだった。
ホライズン・ホームで、放送がようやく終わった。
ナイラは、まだ暗い画面を見るファフィニョを見つけた。
「何を考えてるの?」
ファフィニョは、少し間を置いた。
「中を知らなかったときのほうが、大きく見えた」
「今は?」
小さな体を思い出した。
管。
機械。
そして、その中から聞こえた声を思い出した。
すべての訴因について、無罪。
ファフィニョは、何も映らない画面を見た。
「今のほうが、怖い」
第9章をお読みいただき、ありがとうございました。
ついに宿敵ザイラックスの裁判が始まり、その無罪主張、そして何より彼が「巨大な機械に依存して生命を維持している、老いた有機生命体」であったという衝撃の事実が明かされる重要なエピソードです。無敵に見えた怪物の内側にある弱さと、死への恐怖から生まれた歪んだシステム。ファフィニョが感じた「今のほうが怖い」という言葉に、この裁判の複雑さを込めました。
もし今回の法廷劇や、物語の新たな展開に引き込まれましたら、ぜひ「ブックマーク追加」や、下部にある評価(星)での応援をよろしくお願いいたします!皆様の反応がこれからの執筆の何よりの支えになります。
次回、証言台に立つ者たちの葛藤を描く第10章でお会いしましょう。




