崩れた真実
「ここから出るなよ!まだ、この中に犯人がいるはずだ!」
澪さんは普段見せないような、鋭い目つきで店にいる全員を見渡す。
「おいおい…ちょっと待ってくれ!確かに、俺の店でこの事件は起きたが異能ってどう言うことだ?」
厨房から、身だしなみを整えた店長らしき人物が出てきた。
その男は、携帯電話を取り出しどこかへ連絡を飛ばそうとする。
「おい、君どこへ連絡するつもりだい?」
「どこって、警察に決まってるだろ?人が殺されかけたんだぞ!あんたら医者が来てくれて助かったが一般市民として通報はさせてもらう!」
「別にそれを止めるつもりはないさ…」
彼は連絡を飛ばし電話を終える。
「あと、20分後に来るそうだ」
「それはよかった、こういう異常時には警察が一番だ」
澪さんはさっきのやる気が嘘だったかのように、いつも通りの雰囲気に戻り食べかけのハンバーガーが散らかった席に座る。
全く、この人は…
「澪さん!僕を信じてくれたんじゃ?」
「ああ、信じてるさ…だからこれからだ…なあ、君?厨房に隠れてる奴何者だい?」
澪さんがそう聞くと、男の視線は人形のように動かなくなった。
ただ、男は手を震えながら動かしていた。
「別に、そこで倒れてるやつと一緒に来店した客だよ…気持ち悪くなったから厨房に避難させてあげたんだ」
「そうか、じゃあ話を聞きにいってもいいな?」
「ちょっと待て!警察が来るまで大人しくしてろ!誰も動かなければここの平穏は保たれるんだ!」
「異能の危険さはここの誰よりも知っているつもりだ。だから、信じろ…いいな?」
男は、項垂れてただ力なく座っているだけになった。
僕は、彼の横を通り過ぎ厨房へ向かう。
「サリバンさん!……澪さんを信じて!」
横たわる少女を少年と一緒に見守りながら、春香さんは真剣な眼差しでそう僕に訴えかけた。
その言葉に頷き、澪さんと共に厨房に入った。
中は、やはり綺麗で台所のまな板にはスライスされたトマトやピクルス、チーズなどが置かれていた。
「ここのハンバーガーは、素材にこだわってて値は張るが当然うまいんだよな…特に鉄分の多いチーズを使用することで……」
「澪さん脱線してますよ…話を聞きに来たんでしょ?」
「脱線なんてしてないさ」
彼女は、厨房の隅に座っていた少女に目を向けた。
「ちょっといいか?」
「……何?お姉さん」
「君の友達が助かったっていう報告をしに来たんだ」
澪さんは、座り込んでいる彼女と目線を合わせる。
「そう…助かったんだ。急に倒れて…血が出て怖くてここに…」
彼女はため息を一つして、項垂れてしまった。
「……」
澪さんは座り込んだまま彼女をずっと見ている。
「なに?」
「ちょっと澪さん、彼女は友人を刺されてるんですよ。このくらいにしておきましょうよ」
「ああ、そうだな…」
そうゆうと、澪さんは立ち上がり厨房から出ようとする。
しかし、出口の前でその足を止めた。
「ああ、それと最後に一つ…その横にある奴はなんだい?」
「え?……はぁ!」
「まさか!」
座り込んだ少女の横にあったものは、ナイフだった。
それも2本の。
「どうして!凶器がここに!?」
「澪さん?これってさっきからここにあったものなんですか?」
「いいや、さっき私が適当に生成したやつだよ。私の異能でね…ただの冗談のつもりだったんだけど、見つかったようだね犯人が!どうして、これが凶器だと思ったのかな?お嬢さん」
少女はみるみると顔色を変えていく。
怒っているような、絶望しているような表情だった。
「急に血が飛び出してきたのなら、ナイフとかの刺し傷だと思うじゃない。それに、銃声とかもしなかったし」
「確かに凶器は刃物だろうな。」
「でも、澪さん…本当の凶器はどこへ消えたんですか?」
そう聞くと彼女は探偵のように少女に近づく。
「犯人は異能力者だ、そして異能を解除すれば物体生成系の能力なら元の姿に戻る。つまり、こいつは異能による完全犯罪を起こそうとしたんだな…どうだい?」
少女は、俯いたままになってしまった。
「……バレたなら、ここであなたも消してあげるよ!」
「!?」
澪さんの後方から近ずいた影、それは冷たく…
「う……」
冷たく…確かに刺さった。
「勝った!確実に心臓を貫いた!」
うずくまったまま、動かなくなった澪さんを横切り僕ににじり寄ってくる。
「あんたは使えないでしょ?この力!」
「確かに使えないよ…君覚悟あるかい?」
にじりよる彼女を睨み、圧をかける…そうすると彼女の速度が少し落ちた。
春香さんは、澪さんを信じろと言った。
「覚悟はいらない!その前にあんたが死んでるから!」
彼女は、自身の血をこちらに飛ばしてくる。
その血は異能により、細かい刃物になりこちらに向かってきた。
「……これは賭けさ、僕が賭けた…信じて良かったよ」
鋭い痛みが、胴体の各所に走る。
だけど、僕は賭けに勝った。
「サリバン…無理すんなよ、人間って不便なものだろ?」
「え……?なんで生きてるの!?確かに心臓を!」
僕が十分囮になったのだ、もう十分だろう…
地面に座り込み、僕は澪さんを信じきった。
「手品の仕掛けは、最後まで明かさないものだよ。お嬢さん」
「じゃあ今度は串刺しにしてやるよ!!」
彼女は、僕にやったように血液を澪さんにばら撒いたのだろう。
しかし…その手は効かない。
「これで終わりだ!!!今度こそ勝った!」
……澪さんが負けるはずが無い。
そして、その答えはあまりにも早く出てきた。
「チェックメイト、相手が悪かったと思いな」
勝利を確信し、僕は少女を見る。
少女の周りには大量のメスが浮いていた。
「なんで?この血は私の能力で……」
「相手が悪かったと言ってるだろ?私は君より異能が強いんだ…最後に自己紹介しておこうか、私は天川澪、刃物を操る天才軍医さ!」
「なんですって!!!???」
…………
少女は、倒れてしまった。
「脅したら結構簡単に気絶してくれたな」
「澪さんを信じて良かった……」
「ああ、それより春香呼んでくるな」
澪さんは、厨房から出て春香さんを呼ぼうとする。
「澪さん別にいいですよ、僕は死なないので」
「確かに、そうだったな」
僕は元死神、そして契約違反を犯し生を与えられた。
僕の罰は生きること、決して死ぬことなどできないのだ。
「そういえば、どうやって生きたんですか?どうみても心臓貫いてましたけど」
「私が刺される直前、背中に刺さった状態のナイフを生成したんだ。あとは、飛んできたナイフを私の能力で操り白衣の中に隠せば仮死状態の出来上がりってわけ」
彼女の異能は鉄分や刃物を操る能力、今回の少女の異能と噛み合いすぎたのだ。
「さて、こいつの異能を封印するか」
澪さんは一冊の文庫本を取り出し、白紙のページを開く。
そして、彼女の血をその紙に乗せた。
そうすると、絵と共に説明文が現れた。
「封印完了、これでこいつの異能は無くなった」
「その本、便利ですね」
「ああ、これで異能の封印と改心が同時に行えるからな」
刑事介入したとしても、異能犯罪は大抵裁かれることはない。
だからこそ、僕たちがこうして封印しなくてはいけないのだ。
「よいしょっと、さてこの少女を運びましょうか」
「そうだな、あいつらに合わせてやらないと」
……………
「本当にノノがやったんですか?」
「ああそうだ、このお嬢さんは私たちを殺そうとした…このマホさんと同じようにね」
少年は、気を失っているノノという少女をじっと見つめながら拳を握りしめている。
「コン…ちゃん?」
「!マホ!良かった…気がついたんだね!」
少年は、マホさんに近ずきそっと目線を合わせる。
この少年、コンってあだ名なのか。
「もう大丈夫、このお姉さんが治してくれたから」
「しばらく安静にしていれば、もう10分後には歩けるようになりますよ」
春香さんは落ち着いた口調でマホさんを宥める。
マホさんはゆっくりと深呼吸をしながら、ありがとうと感謝を述べた。
「感動の再会してるとこ悪いが、ノノが目覚めたぞ」
「!!……マホ、ゆっくりしてて僕が行ってくるから」
コンは、ゆっくりとノノに近づいていく。
「先生、もうノノは危なくないんですよね?」
「ああ、念の為見ておくが心配はない」
コンがノノの前に立つと、ほぼ同時に2人とも泣き出した。
「……ノノなぜこんなことを?」
「………」
「言いたくなるまで……待ってやる……」
しばらくの沈黙のうち、コンは少し冷静になったのか涙をとめた。
「コンちゃんが……欲しかった……でも、マホが邪魔だったの…2人ともずっと…仲が良くて…本当に、羨ましかった……」
「……なんで、言ってくれなかったんだよ…そんなこと、だから最近態度が冷たく感じたのか」
コンたちはしばらく見つめ合う。
その視線には、怒りは感じなかった。
なぜだろう?友人を最も大切にするはずのこの少年の友人が死にかけたのだ。
なぜ怒りがないのだ?
「先生この後ノノはどうなるんですか」
その上彼は、その後のことを心配している。
これが人間なのか?これが仲間なのか?
「こいつの犯罪は、ほぼお咎めなしだろう。傷も希愛が治しちまったからな」
「ちょっと待て!こいつは俺を脅迫して厨房に篭ったんだぞ!」
「それは知らないね、それに君は私に気分が悪くなったから避難させたと言ってたじゃないか」
店長が声を突然荒げたが、澪さんはそっけない態度であしらった。
その時ちょうど警察が店にやってきた。
……………
僕たちはしばらく警察に拘束され、話を聞かれ続けたが当然こういうのは慣れているためボロを出すはずもなく、解放され僕の店で酒を飲んでいた。
店長だけは最後まで騒いでいたそうだが証拠が何もないためそのまま、戯言として処理されたようだ。
「…気になるんですけど、どうして彼は友人を殺されかけたのに怒らなかったんでしょう?」
「人間っていうのは不完全なものなんだ。異常が起こると正しい判断ができなくなる。つまりは矛盾さ」
澪さんは眠ってしまった春香さんの頭を撫でながらフランス産のウィスキーを煽る。
矛盾か…確かに、彼は大切な仲間2人が同時に問題を発生させたのだ。
1人は加害者、1人は被害者として。
混乱するのは無理もないのかもしれない。
「彼らはどうなるんでしょうね?」
「コンってやつは自信がある目をしていた。あいつなら2人の支えになれるさ…きっとな」
……………
後日談
また時が流れる。永遠にこの部屋で…
その静寂と虚無をかき消した、音がする。
「失礼します」
「失礼します……」
「どうも…」
そこには、コンさん、ノノさん、マホさんの三人が立っていた。
「いらっしゃいませ…という義理でもないね」
「この前はありがとうございました」
三人とも、ほぼ同時に礼をする。
なぜだろう、もうことは終わったあとなのに遡って礼をする必要なんてないのに。
「いいんだよ、僕がやりたくてやったことだから。それよりほら座って…何がいい?」
「……この前くれたもので」
「私はプリンで」
マホさんは甘いものが好きなのだろう、メニューを見て速攻で注文をした。
「ケーキありますか?一つでいいです。2人で食べますから」
僕は注文を聞くと、ケーキを少し大きめに切り始めた。




