変わった日常
これは、サリバンが人間になってから3年が経った頃の物語。
「……神?そんなものいるに決まってる…神が僕をこうしたんだから」
僕はいつもの部屋で目覚めた。
澪さんの実家、佐倉さんの家だ。
僕が昔見失ってしまった魂、佐倉さんを導けなかったことを思うと今も心が痛んでしまう。
そんな生き地獄の中、僕はただ自分のやるべきことを探している。
この世の仲間と一緒に。
「あそこさ〜すごいミステリアスで高身長の店員さんがいるんだよ〜」
「そうなの?でも、路地裏って怖くない?」
「相変わらず警戒心高いな〜でも行ってみたくない?しかもあそこに白衣のカッコ可愛い人もよく来るんだって!行ってみたくない?コンちゃん!」
「え?急に僕?……絶対白衣で僕連想したでしょ」
僕たち三人は、文芸部で知り合ってよくみんなで帰っている。
よく騒ぐショートカットのマホは、いろんなところを散策するのが好きで、自分が見つけた場所をみんなによく紹介するのだ。
今日は部活の日ではなかったが、みんなで昼食を取ろうと誘われたのでなんとなくついてきた。
「だって、コンちゃんが書く小説とか漫画って大体白衣キャラ出てくるじゃん」
「確かに白衣の人好みではあるけど……」
「それはいいから、早くどこ行くか決めない?お腹空いたんだけど」
丸メガネをかけたおさげのノノは腹をお腹を抑えて前屈みになりながらそう抗議する。
「じゃあ、あそこはまた今度ね〜いつものところ行こ」
僕は、みんなについていく。
このくらいしか出来ない。
弱い人間。
「どうしたのコンちゃん大丈夫?どこか悪い?」
「あっちょっと電話!」
もちろん電話など来ていない、だけどなぜか嘘をついてしまった。
しばらく、路地裏で呼吸と思考を落ち着かせる。
そして、彼女たちに連絡を送った。
急用ができたからまた今度みんなとご飯食べる…と。
そうメールを送って僕は路地にあるカフェに足を踏み入れた。
今日も、1日が過ぎていく。
時計はまた一刻と時を刻んでいる。
そうしていると、ドアに備え付けられているベルが鳴った。
今日は、澪さんが来る日ではないはずだが…
僕がドアに目を向けるとそこにいたのは、なんだか疲労感を纏った高校生が立っていた。
「いらっしゃい」
僕は、席から立ってカウンターに入る。
「失礼します」
少年は、席につきカウンター奥にあるコーヒーボトルを凝視している。
「何かあったのかい?」
「え?」
少年は、いきなり話しかけられびっくりしたような顔つきでこちらに向き直る。
その顔は、怯えているようで自分に自信のないような弱気な性格なのが見て取れた。
「ほら、この店路地裏にあるだろ?だから何か深い理由がないと来ないんだ」
「……理由…」
少年は、手を口に当てて深く考える。
「まあ、理由なんて後から付け加えればいいのさ。はいこれ」
僕は、少年の前にコーヒーカップを置いて伸びをする。
「え?まだ何も…」
「コーヒーボトルを見ていたろ?この豆は大切な人が好きなやつなんだ、なんだか縁を感じてね。今日は僕の奢りだよ」
少年はまだ動揺しているが、コーヒーを口にするとみるみる雰囲気を落ち着かせていった。
その雰囲気はさっきまでの彼とは思えないほど落ち着いていて、どこか悲しくも感じられた。
「僕は見ての通り高校生です。最近はこの生活にも慣れてきて、大分充実できた高校生活を送ってると思います…ですけど、なんだか疲れてきちゃって…自分にも自信がなくなって、仲間ともうまく行ってるのかわからなくなって…ここに来たのも心が安心できる場所を求めたからだと思います」
なるほど、人間とはそういうものなのか。
周りとの関係性を慮り、調和を図ろうとする。
「君ほど人のことを考えている人間はいないよ」
「え?」
「だって君は、きっと仲間のことを考え過ぎて疲れてしまっているんだろう?それはとても素晴らしいことだ。僕は敬意を表したい。それに、答えのないものを追いかけようとする精神にもね」
僕が少年を励ましていると、彼のスマホから着信音が鳴り響いた。
「どうぞ」
彼は一礼をして電話に出る。
「どうしたの?ノノ?……え!?マホが!?わかった!」
どうやら、緊急事態のようだ。
仕方ない。
「君…バイク出すよ!乗りな!」
「え?はい!」
僕は店の鍵を閉め、店前に置いているバイクのエンジンをかけた。
死神じゃなくなって、移動手段がなくなった僕に澪さんが買ってくれた、側車付きのトライアンフというバイクらしい。
まさか、こんなところで側車が役に立つとは思ってもいなかった。
僕は、少年にヘルメットを渡し僕自身もつけた。
「場所は!?」
「基地横にあるハンバーガーショップです!」
よりによってもあそこか…
「つかまりな!」
「はい!」
力強いバイクの振動をもろに受けながら僕たちは路地裏から飛び出した。
「一体何があったんだい!?」
「僕の仲間が何かに腹を刺されたそうです!」
なるほど…必ず助けられる方法を取るか。
僕は、信号待ちの間際にスマホを取り出し電話をかける。
「もしもし?澪さん?春香さんを連れてシャルルーズ・ルセットに来てくれ」
…………
「で、サリバン…私たちは救急車でも一般外科医でもないんだぞ?」
「いいじゃないですか、どうせ暇なんだし」
「澪さん、それより彼女の怪我は?」
澪さんは僕を人間にした張本人だ。
176cmほどの人間の女性にしては高身長であり、基地で軍医をやっている元教員、華奢な姿に斜めに切りそろえた長めのボブヘア。
育ちはいいはずなのだが、気が強く性格上、不機嫌に見られやすい。
「希愛が治してくれたから後は意識が戻るまで安静にしておく必要があるだけだ」
彼女は地面に横たわる少女の様子を見ながらそう言う。
「あの……」
「ん?どうしたんだい?」
澪さんは僕が連れてきた少年に話しかけられると、さっきの不機嫌そうな顔から別人のような笑顔を浮かべて目線を合わせた。
「マホは何故こうなったんですか?」
「治した張本人の方が説明できるだろ…希愛!」
「はいは〜い!」
いつも通り春香さんは元気に返事をしながら澪さんのもとへ向かっていく。
彼女は春香希愛、澪さんの後輩で元気がいい。
澪さんが認めてそばにおいているのだからそうとう腕がいいのだ。
「いいですか?彼女には、刃物で刺されたような刺し傷が腹部に2本ありました。結構傷は深かったですけど、どうやら内臓を避けたようです。ここはカトラリーがないのでそれでやられたということはなさそうですね…何で刺されたんだろう?」
春香さんは傷口近くにあったチーズをナプキンで拭き取りながら淡々と説明する。
「だそうだ…あとは警察に任せるとしよう。これは軍医の仕事でも元死神の仕事でもない」
澪さんはそう言い、店から出ようとする。
しかし、なぜかそれを僕はいつの間にか止めていた。
「なんだよ?」
「…澪さんなんだか匂わないかい」
「何だよ、ハンバーガーか?こんな状況で食う気はしないな」
全く見当違いはどちらの方なのだろうか。
今はそんなこと考えてる場合じゃないな。
「澪さん元死神の勘が言っている…これは、異能力者の仕業さ」
「……サリバン…そういうことなら、私たちの仕事だな!」
澪さんは僕の言葉を疑うこともせず、身を翻し店全体を見回した。
「今からここは!異能殺人未遂現場となった!みんなここから一歩も出るな!専門家である私が処理する!」




