握意。
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やがて辺りは黄昏に染められ、陣地の喧騒も収まりつつあった。しかし何かを運ぶ往来は黒に沈んだ後も途絶えず続いていた。
樺は夜半ばにして目が覚める。
テントの外に出てぼんやりと座り、兵士らを熱で補いつつ眺める。
しばらくしてどうも微弱な明滅が気になる。
それに気を向けるがどうも内容の判別は量も相まってままならない。
しかしいろんな場所で絶え間なく電信のやり取りをしているらしいことはわかる。
次第にその場所が近くや攻撃拠点付近、果てはサウジャナ高地やシル・ドニアのような広い範囲で、されど偏りをもって存在することに気が付く。
……………………
巽京で学生をしていた頃に樺はよく露台で電波を拾っていた。
駅、新聞社、電信中継所、消防署、大学...
交わされるやり取りの中身こそ知り得なかったがそこから放たれる電波に人々の営みがあるようで樺は気に入っていた。
……………………
―――今、ここにあるのはそんな穏やかなものではない。
されど人の営みである事自体は否めなかった。
であるのならば電波の集中は軍の意思がある筈である。
―――なら司令部の意思を、或いは雷徳遠の意思を視ることができるのではないか。
そう仮説を立てた樺はすぐさま電信の出処に集中する。
「―――見つけた。」
明らかに不自然なところから電波が出ている。
それも一度ではない。明らかにそこに何かがある。
確かめなければならない―――樺は指揮所に走る。
地図を広げ、その上を指でなぞる。
...やはりおかしい。この場所は林の中だ。
「樺小隊長、うるさいぞ。」
偶然居合わせた第四小隊長ー高橋ーが本を片手に文句を言う。
「何があったんだ。」
高橋の問いに樺は地図の一点を指さしつつ答える
「不自然な電波を見つけたので確認しに...ここです。」
「電波探知とか中々に変な魔法だな。で、そこか。俺の記憶違いじゃなけりゃそこには陣地も補給路も何もないぞ。」
高橋は少し考えて一つの可能性を提示する。
「...もしかして、敵か?判別はできないのか?」
「...出来ないです」
「...あぁ、もう、小説もいいところだったのに面倒事を持ち込みやがって。偵察に行くほかないじゃねえか。」
高橋は本を机に置き、樺を連れ中隊長の元に向かう。
「こんな夜中にどうした。」
中隊長は自分の天幕に来た二人に眉をひそめて言う。
「樺が陣地北部の林に不自然な信号を見つけたらしく、確証はありませんが偵察に行くべきだと判断しその報告に来ました。」
高橋は先ほどの気怠げな雰囲気から一転して真面目に答える。
「...そこには何もないはずだが。」
中隊長の困惑した反応に対し樺は答える。
「しかし、何もないはずの場所で通信があったのです。しかも偶然というには多すぎます。」
しばらく沈黙が続いた。
そして中隊長が口を開く。
「...分かった。高橋、樺を同伴させて斥候を出せ。」
高橋と樺は外に出る。
「これで『何もありませんでした』なら覚悟しとけよ。」
高橋の圧に対して樺はきっぱりと答える。
「それだけはないです。」
一話一語句解説
精霊化:物体(生物、無生物問わず)が自己維持に魔法回路を用いる状態になること。
逆にそうでない存在は精霊化したとは判断されない。
非動物の場合は精霊、
動物の場合は魔獣、
人間の場合は魔人、魔女と呼ばれる。
尚、榊原が七話で述べていた魔獣、魔人はこれらのことである。




