思案。
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部隊は陣地に戻り、遺体を最終死亡確認の為に軍医に引き渡す。
やはり誤認はなかったらしい。
続いて遺品を軍用と私物に分割する。
樺は薄暗いテントに入った後、野々村の遺品に手を付けた。
そこには家族らしき人と写る野々村がいる。
樺は写真を見つめる。気が付けば写真の端が濡れていた。
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遺品整理を終え、テントから出たとき榊原が部下と話をしていた。
「雷徳遠という男。話には聞いていましたが魔獣や魔人ならともかく人でありながらあのような力を持つとは。内心では未だに動揺していますよ。」
「全く、理不尽な世界だぜ旦那...」
―――雷徳遠、一人で天候を操り、人を焼く程の熱を難なく出す男。
彼のような人間が実在することを樺もまた信じきれずにいた。
どう彼を崩すか。
正面突破は不可能である。
奇襲や潜伏も熱で読める。
半年前からこの状況は続いている。
兵站を絶つ案も当然出ていたはずだ。
樺は頭を抱え歩く。
そしてぬかるみに足を突っ込んだ。
不意に昨日の泥に塗れた野々村が脳裏によぎる。
あの瞬間の彼の熱は見えづらかった。
「...泥。」
樺は小さく呟く。それとなく可能性を掴んだものの光明はまだ見えない。
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靴に付いた泥を払うために近くの丘に登る。
登った経路を振り返ると人の往来があった。
地面に腰を降ろし、軍靴の泥を除きながらそれをぼんやりと見る。
霧の天幕の下のヂオラマで、ある兵は弾薬を運び、またある兵は資材を運んでいた。
...あの将軍の視点を真似しているような気分になる。
―――丘の一番高いところに立つ。
陣地は一望できない。
雷徳遠もまた全てを見通すことは出来ぬのではないか、そう樺は足にまだ泥を付けたまま思う。
そこに
「なんでそんなとこ居るん...」
室井はこちらを見上げ言う。
「竹戸が起きたから来てやり...
後、足に泥付いてんで...」
青年は慌てて泥を落とし丘を降りる。
「後、何してたん...?」
「少し...考え事を...」
「そーなん...まぁ詳しくは聞かんけど」
そして樺は室井に連れられて野戦病院にたどり着く。
入り口に入ってすぐに竹戸が体を起こしている様子が見える。
「竹戸...隊長を呼んだで...」
それに反応して竹戸は答える。
「おぉ...隊長、昨日は申し訳ねぇ。」
「いえ、あなたが謝ることではありません。
それよりも傷の方はどうですか?」
バツの悪そうな顔で竹戸は答える。
「右膝をやっちまったもんでな...ちょっと前線は無理そうですぜ...」
樺は負い目を覚える。
「まぁでも第4小隊長の推薦で荷物割り振りとか非常時の止血とか任せてもらえることになったんで陣地ではまた顔を合わせると思いますぜ。
それよりも前衛隊は誰が隊長をやる話になってるかが気になっててよ」
樺は首を横に振る。
「いえ、こちらも何も言われてませんね」
「そうかい、まぁ直に中隊長から指示が来るでしょうよ」
そうして取り留めのない会話をしたあと、樺は外に出る。
相変わらず電信線や木材、弾薬が兵士とともに行き交う。
攻略戦の準備は確かに進んでいる。
樺もまたこれ以上何も失わないよう向き合い続ける。
一話一語句解説
瑞:ドワーフ圏中央部にある巨大帝国。
雷徳遠が所属する国である。
南方の諸ドワーフ国は元々瑞と朝貢関係にあったが人間国や東暁の影響で関係が崩れつつある。




