潜熱。
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陽光が辺りを照らす。
が太陽そのものは見えない。
野営用テントから出た樺は昨日の出来事に現実感のなさを感じていた。
しかし室井や榊原と会い、野戦病院で竹戸と顔を合わせ、欠員の出た部隊で点呼を取る。
そうして現実味を感じだした頃に招集がかかる。
「これより三日後にムノンジョル陣地を攻略する。その準備として各小隊に任務を与える。」
中隊長は淡々と命令を告げた。
「第五小隊。先日の交戦地点周辺の死体を回収せよ。
第一小隊から第三小隊は資材搬入から陣地を構築し、第四小隊はその護衛を行え。」
こうして命令は終わり、解散する。
「危険の少ない任務ですが…」
「気は進まんよな…」
そう室井と榊原が話しているところでいきなり室井が樺の方を向いて質問を投げる。
「そういや小隊長は仏さんとか見たことあるん…」
「まぁ、村の葬式で何度かは見たことがありますね」
「そうなんや…まぁ…覚悟しときや…」
樺は息を吞む。
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準備を終え、第五小隊は出発する。
昨日歩んだ道はやはり相変わらずあまりにも静かであった。
そしてしばらく歩いた後、樺の鼻に強烈な臭いが突き刺さる。
―――これが死臭…
本能的に吐き気がする。
「まぁ…そうやろなぁ…」
室井は同情の眼差しを向ける。
樺は熱に注視する。
人型の塊を捉えた。
それは周囲と同化し輪郭を微かに残すだけであった。
隊はそれに近づく。
…霧から出てきたものに樺は不意に目を逸らす。
一息置いて再び直視する。
そして識別札を確認し、隊員に毛布で包ませて、荷台に載せる。
それだけではあった。
死臭のする遺体であることを除けば。
それからは少し歩くたびに遺体―――とまだ息のある兵が横たわっていた。
その中には敵兵も少なくなかった。
息のある兵士には榊原が魔法で止血を行い、担架に載せる。
そして敵兵の遺体を同じように荷台に載せる。
少なくない敵兵の遺体は昨日の射撃が確かに通ったことを告げていたが樺に喜びの感情は微塵もなかった。
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暫く歩いては遺体を回収するのを繰り返しているうちに樺の心は次第に無心になり鼻も鈍麻していった。
そのことに気が付き嫌気は差したがすることに変わりはなかった。
そうして目標地点の道半ばに差し掛かった頃。
「霧中だった筈だ…何故見えたか疑問を有していたが…成る程…貴様も熱を見ていたか…」
前方から突然声が聞こえる。
が熱は見えない。
青年が不審に思った直後に辺り一帯の霧が晴れる。
そこには朱色の甲冑を着て、小柄な体躯であるにも関わらず圧倒的な気迫を持った将とその付き添いが数人いた。瑞南方軍の将軍、雷徳遠である。
「総員構え!!」
樺は銃を構える。
と同時に異様な熱気が流れ込む。
「止めておけ…余は貴様らを、何時でも焼ける…」
熱が肌を焼く。
樺はゆっくりと銃を降ろす。
それに続くように他の隊員も続々と銃を降ろした。
眼前の敵将を陽炎が包む。
「昨日の戦いは…見させてもらった….」
雷は続ける。
「余と劉がいなければ…壊滅するのは、こちらの小隊であった…」
樺に反応を行うことはできなかった。
「さて…貴様らの様子を、見るに遺体の回収を行なっているようだな…であるのならば、我が同胞を返すとよい…貴様らの、同胞を代わりに返す…」
樺は微かに頷く。
荷台から遺体を降ろさせ彼らに渡し、代わりに仲間の遺体を受け取り荷台に載せる。
その時の記憶は彼の圧と熱によってほとんど覚えてない
覚えているのはその途中で雷に
「ところで…何故東暁語を?」
と尋ね
「父が…かつて駐在使を務めていた…
長代は今でも恋しく思う…」
と遠くを見て雷が答えたこと。
そして最後の遺体を受け取り、その札には野々村の字が書かれていたことだけだった。
瑞軍が立ち去る直前に雷は言う。
「残念だ…貴様らと言葉をあまり交わせぬこと、もう交わせぬことが…」
そう言い残し彼らは霧の中へ消えていく。
熱は捉えられなかった。
一話一語句解説
東暁:ドワーフ圏北東部にある国家。
正式名称は大東暁帝国。首都は巽京。
他にも長代や浪場などな都市がある。
人間の技術体系や軍制を積極的に導入し、ここ五十年で著しく発展した国である。
そして、樺らは東暁の陸軍としてこの戦争に投入されている。




