紫芯。
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兵士との会話を始めて20人目に差し掛かった頃。
鬼熊による定期的な検診にて、普段通りに鬼熊は樺の黒い皮膚を軽く叩き、
「痛むか?」
と尋ねた。
「いえ。」
樺は首を横に振る。
「それなら皮膚の中の様子もまぁ動いても問題ないじゃろな。そろそろ普段の天幕に戻る感じで報告しとくぞ。」
鬼熊はそう呟いた。
「ところで、最近変なことをしとるらしいの。」
「1対1で兵士と話してる件ですか?」
樺の問に対して鬼熊は頷く。
「別にいいんじゃが、彼らが死んだときの辛さは覚悟した上じゃよな。」
「ええ。勿論です。」
樺の紫の瞳に堅さはなかったが、逸れることもなかった。
その瞳を見た鬼熊は無言で頷いた後、天幕を去っていったのだった。
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そして4日後の昼。
兵士との会話の最中に伝令が入ってきた。
「樺隊長。本日19時より、次の作戦の会議があります。」
樺は僅かに身構える。
「えぇ、そうですか。報告ありがとうございます。」
次の作戦。手を焼き、療養を経た上での作戦。
樺の額から一つ冷たい汗が流れたのであった。
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19時。樺は作戦会議の席に座っていた。
「…まずは現状について振り返るか。」
玄はそう呟いて地図に目を向ける。
その目は普段と違い、声も天幕内に低く響いている。
「諸君らの働きもあってムノンジョル陣地を防衛した。
その後、東部方面は完全に包囲体制が完成し、西部方面も北側を押さえれば包囲が完了する。
さて、これからについてだが。
…敵軍を完全に包囲はしない。」
天幕にどよめきがにわかに起こる。
「まぁ、気持ちは分かるが待て。これから理由を話す。
端的に言えば不要な犠牲を防ぐ為、敢えて雷徳遠を逃がし、瑞へと追い払い、講和を待つのだ。」
どよめきは止まらない。そして樺も困惑せざるを得なかった。
確かに、ここは瑞との国境に程近い。
しかし、それはあくまで地図の話である。
…50km。
これがここから瑞までのおおよその距離であった。
雷徳遠を逃がすといってもその道中で再び陣地を構築するだろう。
玄以外は、雷徳遠が瑞まで下がるわけがないとわかっていた。
玄はその様子を見ても特に顔色を変えることなく話を続ける。
「さて、まだ止まないか。まぁいい。続ける。
具体的には西部方面から本隊を動かし、越華街道へと通る通路の側面まで進軍する。
そして、陽動隊による敵本陣への攻撃を行い、それにより樺が雷徳遠の撤退を観測した後、本隊による追撃を行う。追撃は瑞国境まで行う。
尚、休息や陣地の再構築を行うようであれば攻撃を行い、敵軍の足取りを国境まで止めさせないことが必須となる。作戦概要については以上だが、何か質問はあるか。」
その声に呼応して、男が手を挙げる。
「しかし…雷徳遠が反攻を仕掛けた場合はどうするのでしょうか。」
「鬼熊や天津、水月が反攻に対して対抗できる。心配しなくてよい。
他にはないか。」
次に女が手を挙げた。
「雷徳遠が包囲を無理やり突破した場合はどうするのでしょうか。」
「突破されたときは本隊に附属させる樺が通信途絶により突破地点を即座に把握できる。
また、陽動隊に鬼熊を配置する都合上、突破を行おうとすれば敵は挟撃を受けることになり、それは奴も避けたい筈である。
同時に陣地の再構築を考える上で、越華街道から離れた場所は補給が劣悪であることも考えると他の方向からの突破は考えにくいであろう。」
そして、樺が手を挙げる。
「補給についてはどうするのでしょうか。」
「補給については越華街道を使う。しかしながら追撃時は止まることができない為、補給は最低限であり、負傷兵も追撃道中に設置する簡易的な医療所にて診ることになる。
以上で質問は良いか。」
沈黙が答えを返す。
「ならば作戦はこれで実行することにする。
実施日についてはシル・ドニアの医療兵を前線に招集する都合上、3日後の夕方となる。
以上、総員解散。」
天幕の兵は暫く立ち尽くしていたが、次第に外へと出ていく。
疎らとなった天幕の中、玄は樺に近づき、告げる。
「…今回はお前に作戦の成否が、つまり戦争の終結が掛かってるんだ。上手くやってくれよ。」
ただ、それだけを残して、玄も天幕から消えていった。




