縁郷。
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その日の夕方、樺は昼間の三嶋と同じように榊原と向き合っていた。
「…三嶋さんから話は聞いています。
まずは身の上話から話せばいいですよね。」
「はい、よろしくお願いします。」
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榊原は男爵の家で生まれた。しかし、大きな家ではないこともあり、あまり裕福ではなく、一方で出費は貴族ということもありかさみ続け、いわゆる貧困貴族として生活していたのだった。
ゆえに高校を卒業した後、経済的事情から巽京の百貨店に勤めることになり、そして去年の晩夏に招集を受けて南部戦線へと出兵することになったのだ。
やがてその年の秋頃に室井と関わりを持つようになり、現在に至るという。
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「…といった具合です。」
「…そうなのですね。
室井さんと仲が良いと思っていましたがそこまで長いとは。」
「秋からなので…戦場ということを踏まえれば。」
「生きていて…良かったですね。」
「ええ…本当に。」
榊原の顔は絶望こそ見せないものの、穏やかではなかった。
…そして重苦しい沈黙がこの場を支配する。
それを取り払う為に樺はもう一つの疑問について尋ねた。
「…百貨店は貴族の方とか、お金持ちの方とかが通っているイメージがあるのですが…」
榊原の兵士になる以前の経歴は中々に興味深かった。
士官学校時代に貴族と関わりはあったが、一方で百貨店は樺にとっては縁もゆかりも無い場所だったのだ。
それと同時に彼のやけに上品な振る舞いにも合点がいく。
樺にとっては百貨店は、ひたすらに上品で高級な店舗が多く入った場所という印象しかないのだ。
樺の言葉に榊原は戸惑いながらも、返事を返す。
「…そんなことはないですね。そういったお客もよく見かけましたがそうでない客も少なからずいますよ。」
樺は唖然とする。
都会の人はみんな高級品を買うのに困らないというのか。
地元と大違いであるし、巽京にいた時期も街並みにいた人々にそんな雰囲気は無かったので尚更困惑するしかなかった。
「…都会の人はみんな隠したがりの金持ち…ってことですか…?」
「…隊長、何を言っているのですか。
―――もしかして百貨店というものを知らないのですかね。」
樺は少し頷く。
「百貨店は高級品以外にも日用的なものも売っていますし、飲食店があったりしますし、親子向けのイベントもありますので割と色んな方が来ます。」
「そうだったのですね…」
樺は知らない巽京の一面に一種の衝撃と、気恥ずかしさを覚えた。
「ところで…私からも質問をしていいでしょうか。」
樺は「いいですよ。」と頷いて質問を待つ。
「隊長の出身は何処なのでしょうか。」
「柳嶺です。…大体遠城の近くにありますね。」
樺は自信なく言葉を補う。
が予想に反して、
「あぁ、瑞に近いその地域ですか。旧北朝文化と豪雪のイメージがありますね。」
樺は内心で喜ぶ。というのも、遠城は雪はあまり降らないが柳嶺はかなり雪が降るのだ。
「…知っていたのですね。」
「えぇ、先祖がその地域の出身でしたので。尤も、南北朝融合で巽京に移りましたが。」
樺は親近感を覚えずには居られなかった。
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…こうして辺りが暗くなるまで会話は続いた。
そして次の日も樺は他の兵士と話を続けた。
…やがて、話した兵士の数が30人に差し掛かるころ。
樺に次の任務が渡されたのであった。
………
補足:旧北朝文化
150年前まで続いた南北朝時代に成立した文化。
東暁南部の雰囲気はありつつも、瑞などの文化を受けて成立した独自の文化である。
メタ的に言うならば韓国文化に少し日本の文化が混じった文化とイメージすれば大きくは外れないと思われる。




