対称。
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樺は忘れていない。
雷徳遠の言っていた劉という存在。
彼が野々村を殺した直接的な原因であると確信していたのだ。
「ムノンジョル攻略の数日前。あなたはムノンジョルにいましたよね。」
その言葉を脇の通訳が青年に伝える。
翻訳された言葉を劉が聞くやいなや、その言葉に困惑していた。
樺はその反応に不自然さを覚える。
そして通訳を介して返事を返した。
「『居なかった。』そうです。」
樺は当惑するしかなかった。
あの風は劉のものではなかったのか。
「では輸送隊を狙うときにあった風はあなたではなかったのですか。」
そう言った直後に鬼熊が割って説明を入れた。
「いいや、そこは言質取れとる。あそこにいたのはこやつじゃ。」
…樺は口を閉ざして思案に耽る。
野々村を狙った風は目の前の男ではない。
しかし輸送隊襲撃の場にいたのはこの男であると。
…であるならば、あの風は何なのか。
…樺は思いつくと同時に声を出していた。
「あなたと同じ能力を持った…劉という人物を知りませんか。」
通訳の言葉を聞いた劉――いや目の前の青年は口を噤み、樺を一瞬睨み、そして――何かを諦めるかのように息を吐き、語った。
そしてその言葉は通訳を介し、樺の耳に届く。
「居た。私の弟だ。」
「では彼はどこに。」
樺は体を前のめりにして問う。
しかし、その答えは樺が聞く前に通訳を越して放たれていた。
「だが、死んだ。」
目の前の青年に顔を向けると、平常な顔をしていながらもどこか樺を憎んでいるように感じた。
「…いつですか。」
「数日前の作戦の時だ。」
不意に樺は言葉を放ってしまった。
「どうしてなのですか…」
…その言葉を聴いた男は静かに声を漏らした。
「分からない。
…衝撃で気を失って、目を覚まして、聴いた話がこれだ。」
樺は何も言えなかった。
樺は青年の目を見る。
その目は昏く黄色い瞳があった。
少しの沈黙の後、樺は再び疑問を投げかけることにした。
「…輸送隊の襲撃を眺めてましたよね。
あれは何を観ようとしたのですか。」
それを聴いた青年は質問に答えない。
すると後ろの鬼熊が腕を黒にして、
「あんまり乗り気にはならねぇが答えてくれねぇとな…
一応そう命令受けとるし。」
と言い腕を回す。
翻訳を聴いた青年は身震いをして、答えた。
「…風で…あなたを見ました。」
それは樺も分かっている。故に更に質問を重ねる。
「何を見たのですか。」
青年は少し躊躇った後、口を開いた。
「人影と、怪しげな装置を。」
…やはり無線機について勘付かれていたらしい。
「…恐らく、あなたがムノンジョル陣地を襲撃しましたよね。」
「そうです。」
「どうやってあそこまで近づけたのですか。」
「霧で見えにくくしたのです。
後、少人数かつ陣地から死角になるところを通って。」
樺が影を見通せなかったのはそれが原因だったのかと納得した。
それからも尋問は続く。
輸送隊は何処を通っているか。
雷徳遠の次の作戦。
暗号のルール。
…しかし、先程の質問以外にあまり要領を得た回答は得られなかった。
そして尋問を終え、樺が元の天幕に戻ろうとしたとき。
青年は通訳越しに声をかけた。
「一つ、私からいいですか。」
「…質問次第ですが。」
樺は青年を見下ろしたままそう答える。
「私の弟と、何があったのですか。」
樺は言葉に迷い…そして。
「…私の戦友が死ぬ理由になったのです。」
それを聞いた劉は何も答えることはできなかった。
樺もまた、これ以上何も言うことはできない。
そしてこの天幕でのやり取りはこれ以上生まれることはなかった。




