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五里霧中の戦場で新人士官の俺だけが視たものは。  作者: linka
静間。

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35/42

対称。

気に入っていただけたならば作品を育てるつもりで評価、コメント、ブックマークの方をしてもらえたら幸いです。

樺は忘れていない。

雷徳遠の言っていた劉という存在。

彼が野々村を殺した直接的な原因であると確信していたのだ。


「ムノンジョル攻略の数日前。あなたはムノンジョルにいましたよね。」


その言葉を脇の通訳が青年に伝える。

翻訳された言葉を劉が聞くやいなや、その言葉に困惑していた。

樺はその反応に不自然さを覚える。

そして通訳を介して返事を返した。


「『居なかった。』そうです。」


樺は当惑するしかなかった。

あの風は劉のものではなかったのか。


「では輸送隊を狙うときにあった風はあなたではなかったのですか。」


そう言った直後に鬼熊が割って説明を入れた。


「いいや、そこは言質取れとる。あそこにいたのはこやつじゃ。」


…樺は口を閉ざして思案に耽る。


野々村を狙った風は目の前の男ではない。

しかし輸送隊襲撃の場にいたのはこの男であると。


…であるならば、あの風は何なのか。


…樺は思いつくと同時に声を出していた。


「あなたと同じ能力を持った…劉という人物を知りませんか。」


通訳の言葉を聞いた劉――いや目の前の青年は口を噤み、樺を一瞬睨み、そして――何かを諦めるかのように息を吐き、語った。


そしてその言葉は通訳を介し、樺の耳に届く。


「居た。私の弟だ。」


「では彼はどこに。」


樺は体を前のめりにして問う。

しかし、その答えは樺が聞く前に通訳を越して放たれていた。


「だが、死んだ。」


目の前の青年に顔を向けると、平常な顔をしていながらもどこか樺を憎んでいるように感じた。


「…いつですか。」


「数日前の作戦の時だ。」


不意に樺は言葉を放ってしまった。


「どうしてなのですか…」


…その言葉を聴いた男は静かに声を漏らした。


「分からない。

…衝撃で気を失って、目を覚まして、聴いた話がこれだ。」


樺は何も言えなかった。


樺は青年の目を見る。

その目は昏く黄色い瞳があった。


少しの沈黙の後、樺は再び疑問を投げかけることにした。


「…輸送隊の襲撃を眺めてましたよね。

あれは何を観ようとしたのですか。」


それを聴いた青年は質問に答えない。

すると後ろの鬼熊が腕を黒にして、


「あんまり乗り気にはならねぇが答えてくれねぇとな…

一応そう命令受けとるし。」


と言い腕を回す。

翻訳を聴いた青年は身震いをして、答えた。


「…風で…あなたを見ました。」


それは樺も分かっている。故に更に質問を重ねる。


「何を見たのですか。」


青年は少し躊躇った後、口を開いた。


「人影と、怪しげな装置を。」


…やはり無線機について勘付かれていたらしい。


「…恐らく、あなたがムノンジョル陣地を襲撃しましたよね。」


「そうです。」


「どうやってあそこまで近づけたのですか。」


「霧で見えにくくしたのです。

後、少人数かつ陣地から死角になるところを通って。」


樺が影を見通せなかったのはそれが原因だったのかと納得した。


それからも尋問は続く。


輸送隊は何処を通っているか。

雷徳遠の次の作戦。

暗号のルール。


…しかし、先程の質問以外にあまり要領を得た回答は得られなかった。

そして尋問を終え、樺が元の天幕に戻ろうとしたとき。

青年は通訳越しに声をかけた。


「一つ、私からいいですか。」


「…質問次第ですが。」


樺は青年を見下ろしたままそう答える。


「私の弟と、何があったのですか。」


樺は言葉に迷い…そして。


「…私の戦友が死ぬ理由になったのです。」


それを聞いた劉は何も答えることはできなかった。


樺もまた、これ以上何も言うことはできない。


そしてこの天幕でのやり取りはこれ以上生まれることはなかった。

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