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五里霧中の戦場で新人士官の俺だけが視たものは。  作者: linka
静間。

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33/34

一幕。

「まぁしばらくゆっくりしてくだせぇ。」


竹戸と三嶋が去った天幕で樺は天井をぼんやりと見ていた。

普段であれば観測の任務を行っていた筈である。


…それが原因か、寝台の上は妙に居心地が悪かった。


「失礼しますよ。」


疲弊しきった男――榊原の声が聞こえた。


「…ひとまず、無事でよかったです。」


榊原の顔には隈が出来ていた。

その様子に樺は不甲斐なさを覚える。


「…申し訳なかった。」


その声に榊原は乾いた笑いを漏らして、


「そりゃ大変ですからね。

私が普段やらない仕事ですし、それに加えて分隊長としての仕事もありますから。

できれば早く復帰してくださいよ。

本来はあなたの仕事ですし。」


と言った。


樺はそれに何も返さなかった。

…天幕には外からの雑音以外は残らない。


「…そろそろ時間です。

余裕があればまた見舞いに行きますので。」


沈黙から15分程度経った後、榊原はそう言って去っていった。


…手持無沙汰になった樺は仮眠を試みる。

その背中をやけに優しく包む寝台が却って樺には馴染まない。


そして夢と現を繰り返して時間感覚が消える頃。


「どうじゃ、腕の様子は。」


豪放な声が樺の意識を現に戻す。


「腕は…刺激を加えたら痛くなりますね。」


樺は声の主―鬼熊―に目をやった。


「まぁ普段が痛まないのなら問題ないぞ。」


そう軽い調子で言った後、続けて問いかけた。


「寝台の様子はどうなんじゃ?」


「なんというか…落ち着かないですね。」


樺の言葉を聞いて鬼熊は軽く笑った。


「まぁそうじゃろうな。似たような言葉は幾度と聞いたわい。


…にしても驚いたじゃろ。腕が炭みたいになっておるんじゃし。」


「えぇ。…見た目の割に、中身は生きているみたいですから。」


「じゃろ。普段はやらんのじゃが玄団長からの指示があったもんでのう。負傷者全員にやってたらキリがねぇし。」


そう言って鬼熊は手のひらを炭にしては戻してを繰り返した。

その様子を見た樺は怪訝そうに鬼熊に尋ねた。


「因みにそれは…」


それを聞いて鬼熊は手の変化を止めて手の方を見た。


「あぁこれか、ワシの体に限るが炭にしたのを元に戻せるんじゃよ。

他の奴の肌はちょっと訳が違うから難しいがの。」


「成る程…」


樺もまた、生返事をしつつ鬼熊の手を見た。


そして炭化について色々と樺が質問を投げかけ、鬼熊が簡潔に返すやり取りを始める。

そこに、


「おぉ、鬼熊も来ていたのか。」


甲高い女性―天津―の声が聞こえてきたのだった。


「天津か、陣地の修復やら隊の人員補充やらで愚痴を言ってたはずじゃが…ここで油売ってていいんか?」


「だからこそ、時には休息くらいさせて欲しいものだよ。

それに…樺には世話になったからな。」


「おぉ、そうか。

もうちょい話を楽しむつもりでおったが…

そろそろ検査だけして立ち去るとするかの。

若ぇのの邪魔をするのも野暮なもんじゃし。」


そう言って鬼熊は脇に寄って樺の腕を診始めた。

そんな鬼熊を見て天津が


「余計なお世話だ。」


と言うのに樺は苦笑する。

そして天津の方を向いて


「天津さんもありがとうございます。

…危うく死ぬところでした。」


と樺が言ったのに対して、天津は少し照れくさそうに、


「どういたしまして。

…だが、私としては当然のことをしたまでだよ。」


と返した。


「…寧ろ、こちらが感謝すべきだろう。

指揮の大部分を君に任せてしまったのだ。」


「それこそ『当然のことをしたまで』です。」


樺の言葉に少し瞳孔を広げた天津は、しばらく言葉に詰まった後、


「ならばお互い様…か。」


と言った。


「…玄団長直属の人は中々に凄い能力をもっているんですね」


「…自画自賛か?」


天津が怪訝な顔で樺をみつめる。


「いや、そのつもりはなかったのですけどね。

鬼熊さんは制圧から炭化による自己硬化、治癒もできますし、水月さんは電気による集団の無力化ができますし、天津さんは天津さんも数日掛けてやるような土木作業を僅か10分でやりましたし。」


「まぁ…そうだな。(イカれ天才軍師)が見定めた人員だ。弱いはずがない。

勿論…貴官もだがな。この霧の中でも情報獲得できるのは並大抵の能力ではないぞ。」


樺は暫く戸惑った後、頷くことを選んだ。


そうやって暫くやり取りをした後、天津は去っていき、その頃になると鬼熊もまた居なかったのであった。


…樺は瞳を閉じる。

寝台の柔らかさは少しだけ、身に馴染む気がした。

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