碁石。
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この日もまた熱源が現れることなく観測は終わった。
夜間偵察隊に任務を引き継いだ樺はその足で作戦室に向かう。
樺がたどり着いたときには人は集まりきっておらず、ある者は地図を凝視し、ある者は談笑を行っていた。
樺はそれらに目を向けることなく地図を見る。
白地図とそこに記された記号、その上に散らばる碁石。
指揮官の見る戦場を樺は酷く無機質であると感じた。
それと同時に談笑の声がやけに大きく聞こえる。
樺は外の空気を不意に求め、天幕を出る。
1週間程度でこの空気に馴染んだ感覚が無性にもどかしかった。
予定の時間の少し前に樺は天幕に戻る。
そして少し混み合った天幕の中で残りの時間を過ごした後、低い男の声が響いた。
「これより軍議を行う。」
ざわめきがにわかに消える。
「さて、先日の戦闘の結果、ムノンジョル陣地を奪取することに成功し、更には敵の本陣にも無視できない損害を与えることができた。」
男は一息ついた後こう告げる。
「これは貴官らの励みによるものである。よくやった。」
…樺は耳を疑う。そして思わず言葉が出る
―――のを直前で抑えた。
そんな樺の様子が視界に入ってなかったのだろうか、
男はそのままの調子で言葉を続けた。
「さて、協力者によると今日から4日後に大規模な補給隊が本陣の立て直しの為に派遣される。今回の任務は輸送隊に攻撃を行うことであり、それにより本陣を更に衰弱させることが目的となる。
具体的な説明だが、まず、今回の作戦において、襲撃そのものは水月魔法小隊を中核とし、樺観測小隊を観測、鬼熊大隊を後援の任に付かせる。」
水月、そして鬼熊。樺の短い任務のうちでも何度か話に聞いた人物である。
水月は定点守衛において数倍の戦力差を軽く覆した魔法使いとして
鬼熊は先の陣地攻略戦において最初に敵塹壕に飛び込んだ隊を率い、同時に隊の損耗も負傷者数人だけで済ませた猛将として名を知っていた。
非常に心強い味方であることに違いない。樺も勝利を確信したはずだ。
しかし雷徳遠の存在が樺の確信を揺らがせていた。
「まず、輸送隊は越華街道を通りサウジャナ高地に入ると想定される。そこで輸送隊が越華街道から逸脱する地点に水月小隊を配置を行う。そして、輸送隊の観測を樺小隊に任せ、敵の具体的な座標の割り出しと攻撃の開始の伝達を行う。鬼熊部隊は水月部隊の攻撃の後の制圧と不測の事態への対応を任せる。」
そして男は輸送隊の規模が馬車70台相当の人数であること、越華街道から逸れた小道の沿いの林から攻撃を仕掛けること、樺小隊は少し離れた丘に置かれること、それらを踏まえた攻撃の算段を説明し、その直後にこう言った。
「貴官らの中に疑問点を持つものはいるか。」
それに対して濃い青の髪を持った男が反応する。
「輸送隊の魔法護衛について情報はいかがでございましょうか?」
それに対して先ほどまで説明をしていた男はこう告げる。
「どの魔法を扱えるかは現時点で不明である。」
それに対して青髪の男は「左様でございますか。」と告げるや否や小声で呟き始める。
そしていくつかの質疑応答が行われた後、会議は終わり、樺は部屋を出ようとする。
がそれをとある声が止める。
「お主が樺じゃな?」
樺は声のする方に意識を向ける。
そこには周囲と比べて頭一つ抜けた身長と並外れた体格を持つ男が居た。




