沈潜。
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「まぁお疲れさんだわ…エンゼルヘエロウ、要る?」
室井は樺に煙草を一本差し出す。
「いえ、結構です。苦手ですので。」
樺は昔、煙草の煙で咽た記憶を思い出す。
「あそうなん…割と吸いやすいんやけどなぁ。」
室井はそう言いながら差し出した煙草に火を付け口に咥える。
「隊長さん初めまして、三嶋です。
計画通りに行ったみたいですね。よかったです。」
樺は声のする方向に顔を向ける。
どうやら周辺の警備から三嶋と榊原が戻ってきたらしい。
「しかし伏兵がどれだけ戻ってくるか…それが気掛かりですよね?」
榊原は敵陣の方角を見る。
「…えぇ、そうですね。」
樺は合わせるかのように敵陣に目を向けた。
しばらくして人も集まってきたので、第五小隊を集め点呼を取る。
―――全員無事だ。
樺は一先ず安堵した。
本部にその旨を伝え、樺は小隊を解散させた。
樺も天幕へ向かい、睡眠を取った。
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辺りが光を取り戻すころ、樺が天幕を出ると、そこには昨日の伝令が居た。
「樺小隊長。」
伝令は続ける。
「司令部から召集の指示を受けています。」
樺は僅かな沈黙の後、答える。
「…分かりました。すぐに向かいます。」
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樺は司令部のある天幕に入る。
そこでは状況整理の為か人でごった返していた。
…二度目だがやはりこの圧には慣れない。
樺がそう思う瞬間に声が掛かる。
「先の戦闘に於いて、貴官の観測結果は有益なものであった。」
「…ありがとうございます。」
樺はそう答える他なかった。
旅団長は続ける。
「…そしてそれに伴い貴官には二つ伝達事項がある。
一つ、只今より樺小隊はこの旅団直属の情報収集部隊として編入する。」
樺の肩に重荷が載る。
「そしてもう一つ。」
樺は息を飲む。
「知っているやもしれんが今後ムノンジョル陣地は瑞軍の兵站を途絶えさせる上で必須ともいうべき拠点になる。
そこで貴官には日が沈むまでの間、陣地に向かってくる物体を観測してもらいたい。」
「…了解しました。」
熱源を見て調べるのだろうが、少し前の遭遇では雷徳遠の熱は見えなかった。
樺は返事を返すも腑に落ちない点であった。
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樺が陣地にたどり着いて先ほどの懸念は消し飛んだ。
成る程、どうやらソナーの如く装置が電波を放ち、反射してきたそれを俺が受け取るらしい。
…樺は電波で暴かれた風景を眺める。
そこはガランとしていて何かが起こる気配も感じられない。
…樺は思案に耽る時間を手に入れた。
いや、手に入れてしまったという方が近いだろうか。
彼の頭に雷徳遠の気迫が、戦争の風景が、生き死にすら分からぬ兵士たちが、そして野々村の姿がよぎる。
一度にあまりのことを視た為だろうか。
彼の頬からは何も落ちることはなかった。
ただ、心だけが痛むばかりであった。




