そうして食われてハッピーエンド
「待てぇい!!」
「痛っ」
ここで甘い展開、とはいかない。そうなる前に言いたいことと問い詰めたいことがある。
最後の足掻きだ。受け止めてほしい。ベッドに降ろされたところでエンジュの頭を殴りつけて雰囲気を全力でぶち壊した。
「……なんですか」
少しだけ不機嫌なエンジュの低い声が聞こえる。舌打ちまで聞こえたがとりあえず無視。
エンジュがエンジュの都合を通すならこっちだってこっちの都合を通したい。
「あのねぇ……」
ノートにまとめて整理していてよかった。おかげで感情のもつれに乱されることなく言いたいことが言える。リストの頭から順番に読み上げるように文句を連ねていく。どうせエン越しに聞いていたのだろうがそれでも言わずにはいられない。
散々言いたいことを言い、どれだけ人を振り回せば気が済むんだこの野郎、と締めた。
「……はい。すみません」
「すみませんで済むなら3課は要らないの。あと8課」
すみませんで済むなら警邏の3課と司法の8課は要らない。大熊杜ではお決まりの常套句を言ったらエンジュは小さく肩を竦めた。
くそ。懲りてない。まったく響いた様子のないエンジュを殴りたくなった。衝動的に手刀を額に下ろして、ごつっと音を立てた。
「痛いんですが」
「守り人なんだから平気でしょ」
そこらの人よりずっと丈夫だろう。それを抜いても男女の差がある。これくらいの殴打、なんともないはず。
トウカがそう理屈をこねると、まぁそうですが、とエンジュもあっさりと肯定した。
「痛くないのに痛いなんて言うの?」
「反射的にと言いますか……」
「そこだけ人間臭くならないで」
100年ほど守り人をやっているから浮き世離れしているという話はどうした。妙なところで人間臭くて思わず噴き出しそうになる。
いけない。まだ問い詰めたいことはあるのに空気を緩めるわけにはいかないと唇を引き結んだ。
「ねぇ、聞いていい?」
5日目の夜、なんだったの。
エンがあんな反応をみせたのだ。絶対に何かあったろう。ほら言え。ことと次第によっては殴るか泣く。
問い詰めるトウカへ、エンジュはやや視線を彷徨わせた。正直に詳細を言えば殴られるか泣かれるので大筋だけ言って済ますべきか考えている顔だ。そんなことで誤魔化したら殴るからねと言えば、彷徨った目が伏せられて嘆息された。
「又木どもの溜まり場に侵入しようとしたところ、入り口付近に爆発物が仕込まれていまして。爆発しました」
「は?」
片脚が飛び失せてそこそこの重傷を負いました、と。まるで歩いていたら転んだかのような調子で言う。
さらりと衝撃の事実を明かしたエンジュはまったく平然としている。よくあることだと言いたげに。
「これが4課の日常ですよ」
「そんな」
「嫌いになりましたか?」
そんな物騒な日常を過ごす男は嫌ですか。この話を聞いて、やはり付き合っていられないと思いましたか。
こんなことは今後、何回もあるだろう。何日もトウカを家に置き去りにするし、心配をかけさせて不安に落とし込むだろう。その間に現場で負傷するし最悪死ぬ。帰ってくるたびに泣かせるだろう。殴られるくらいで済むなら上等だ。
それでも選ぶか。改めて覚悟を問うように視線を向ける。もしここで首を横に振られても逃がす気は一切ないので力ずくで監禁するだけだが。
「……あのねぇ!!」
圧を込めたエンジュの問いに、トウカは真っ直ぐ答えた。頭突きつきで。
「これだけ私を引っ掻き回しておいて、今更でしょ!」
馬鹿野郎。今更そんなことを聞くな。そんな悩みはもう駆け抜けた後だし、何なら葛藤の最中はエンに聞かせた。つまりは知っているはず。どんな葛藤をしてどんな結論を出したか筒抜けのくせに、改めて問うんじゃない。この口から直接聞きたい言葉があるからって。
だから、つまり。
「私はね、エンジュのことが好きなんだから!」
あぁもう。これでいいか。恥ずかしさで真っ赤になりながらそう言う。
好きだ。何が悪い。この心持っていけ。
そう言い放つと、エンジュはふっと相好を崩した。とろりと甘く蕩けるような愛おしさを浮かべ、どろりと溶け落ちるような執着と独占欲を煮え立たせ、それらすべてをないまぜにした熱をもって。
「この心持っていけ、ですか……」
いい啖呵だ、気に入った。それでこそトウカだ。
だが、心だけでは足りない。もちろん体だけでも足りない。
「魂ごと、いただきたいものですね」
まぁ、まずは心と体から。華奢な体を押し倒した。
魂はそのうち。トウカという存在をたっぷり愛玩し尽くした後で。その時に知るだろう。これがただの一目惚れではないことを。
いただきます。




