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忠義

武士の忠義


主君のためならば

命さえ忠義の名の下に散らす。


それが武士の美学。



太平(パクス)徳川(トクガワーナ)の世の

昼行燈(ひるあんどん)のような老中達でさえ

忠義が心の奥にある。



先代将軍家宣が死の床にある時

老中達や近習達は泣いていたが

「泣くな馬鹿者、人はいつか死ぬのだから」

と、家宣に諭され

更に、泣きに泣いたという。


大老井伊のじいが風邪で早退した日

家継は、井伊じいがいないのに気づき

心配して自分の食事を

じいの家に届けさせた。


幼い将軍の家臣思いの行動に

その場に居た者達は感涙したという。


とぼけた筆頭老中(ひっとうろうじゅう)土屋相模守(つちやさがみのかみ)

そんな家継にしょっちゅう涙ぐむ有様。


この将軍父子は

徳で家臣を泣かせる。


日頃、小競り合いをしていても

代々将軍家に仕えた遺伝子には

忠義が刻み込まれている。


月光院と江島達の

将軍と幕府を軽んじる振舞いは

老中達の忠義に火をつけたのである。


老中達は一致団結。

敵を前に

法螺貝の音が脳内に鳴り響く。



そして

年の瀬迫り夜も更けた相模守の屋敷に

老中達がこっそりと集まり

家康以来の幕府の間者(スパイ)後藤縫殿助(ごとうぬいのすけ)

相模守の持ち込んだ資料を回覧していた。


老中達の口々から

批難の言葉が(ほとばし)る。


「これは酷い」


「御法度の芝居見物に役者買い

 それに、

 幕府御用を狙う商人達からの接待と

 役人への口利き。

 江島と奥医師の交竹院が窓口とな。

 留守居役とも懇意らしいですぞ。

 幕府内に食い込んでおる。

 噂になっている七つ口の遅刻など

 霞みまするな」


「うむ、収賄とは開いた口が塞がらぬ」


「浅草の薪炭屋(しんたんや)栂屋善六(つがやぜんろく)

 江島殿と生島新五郎を

 取り持ったとありまする。

 浅草とは、これ如何に」


「月光院様は浅草の寺の娘でありましたな」


「ほほう」


「栂屋は材木も商い

 小普請方とも懇意とある。

 更に大奥にも薪炭を納め

 大儲けしたいのであろう。

 大奥女中による

 幕府御用の斡旋は、固く禁じられておる。

 先代将軍の文昭院様が

 改めてお触れを出してから

 まだ一年余り。

 月光院様や江島殿は

 法を守る気など更々ないようですな」


「見返りの黄金で

 大奥だけでなく幕府をも牛耳るつもりか…

 捨てては置けぬ」


「年が明けて

 綱吉公と家宣公の寺の代参を同日にして

 芝居見物の予定じゃ。

 網を張ってみますかな?」


「代参を同日にでござるか?

 公方様は必ず決まった日に

 参拝されておる。

 けしからん。

 これは、大網を広げなければなりませぬ」


「では、白石殿の計画通りに

 それぞれの配下の者を

 各所に配置いたそう」



着々と計画が進んでいく様子を

相模守は茶を啜り

饅頭を食べながら

飄々と見守る。


その部屋の襖の向こうでは

暗がりに越前が息を潜めて

老中達の密談を聞いていた。


相模守が越前を呼んだのであるが

老中達の忖度無い意見を知りたいと

襖の陰に隠れた。


勿論

透明な先代将軍家宣も天井に浮かび

その様子を(つぶさ)に見ていたのだった。

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