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12/22

打ち合わせ

御歳暮の挨拶も終わった年の瀬。


月光院の部屋は

忘年会で盛り上がっていた。


料理やお酒が振る舞われ

楽しそうな女中達の声が響く。


月光院は

賑やかな女中達を集めているから

誰ともなく三味線や鼓などを奏で

釣られて数人が立ち上がり踊り始めた。


その様子を

尼姿の月光院は目を細めて眺める。


「月光院様

 今宵は楽しゅうございますわね」


隣に侍る御年寄の江島が

月光院の盃にお酒を注ぎながら

晴れやかに語りかけた。


「ええ、みなが楽しそうにしているのは

 いいものね」


月光院が

上機嫌で盃に口を付ける。


「江島様、そういえば

 山村座で新しい芝居が始まるそうですよ」


同じく御年寄の宮地が

弾んだ声をかけると

芝居好きの江島が即座に反応した。


「観たいわ」


「わたくしも」


「あら、気が合うわね」


江島と宮地の

悪戯な目が微笑み合う。


「綱吉公と家宣公の月命日は

 四日間しか離れていませんから

 間の十二日に一緒に

 代参してはどうでしょうか」


江島が提案して

月光院がそれならばと許可を出す。


「偶には良いじゃないの。

 わたくしから表に伝えよう」


「宜しいのでしょうか?

 嬉しゅうございまする」


部屋の女中達は

みんなで芝居見物ができると

喜びに湧き上がった。


何を着て行こうとか

贔屓の役者は誰かなど

夜が更けるのも忘れて浮かれた。



それから数日後

江島の長局に

奥医師で旧知の間柄の

奥山交竹院(おくやまきょうちくいん)が定期検診に訪れて

江島の脈を診ていた。


「ふむ、お変わりありませんな」


江島は袂を直しながら

交竹院に慣れた様子で頼み事をする。


「有難うございまする。

 そうそう、

 年が明けてからだけど

 綱吉公と家宣公の代参を同日にして

 わたくしと宮地殿達と一緒に

 山村座に行きたいの。

 いつものように手配を頼むわね。

 月光院様から御諒承も得ているわ」


交竹院は

口元をにやりとさせた。


「月光院様はお優しゅうあられますな。

 早速手配させましょう。

 薪炭屋の栂屋善六が

 江島様と御懇意を願っておりまする。

 この者に任せては如何でしょうか」


思わぬ提案に

江島の顔に喜びが浮かんだ。


 人脈がまたひとつ増えるわ

 もっと力を付けて

 月光院様のお役に立たなければ


「そうして貰えると助かる。

 兄上達にも宜しゅうに。

 清助とかいう縫殿助の手代に

 料理を手配させて。

 気の利く料理を用意してくれるのよ」


「心得ましてございまする。

 では、呉服商の縫殿助と

 弟の喜内にも申し付けましょう」

  

江島と交竹院は水戸藩繋がりだった。


江島の母が再嫁した旗本白井家は

水戸藩家老の親戚で

奥山家も水戸家臣の家柄。


その水戸の縁で

江島の兄と

交竹院の弟の喜内は親友で

今では江島の取り巻きになり

代参の息抜きなどに顔を出す。


江島と取り巻きは

水戸派閥と言ったところ。


「みな楽しみにしているから

 宜しゅうに」


江島は(にこ)やかに

交竹院に念を押した。



透明な家宣は

天井に浮かびながら

一部始終を見とどけ

その目には憎悪と軽蔑を湛えながら

江島の部屋を離れ

熙子の御殿に帰っていった。



(かぐわ)しい香が仄かに漂う部屋で

筆まめな熙子は

父の太閤に手紙を書いていた。


熙子の優雅な姿に

家宣の表情は一転して柔らかになり

熙子を後ろからそっと抱きしめる。


熙子は蒔絵の文机に

ゆっくりと筆を置くと

家宣の胸に体を預けた。


(お帰りなさいませ)


(うむ。

 そなたの部屋は…いや、

 そなたの傍はなんと落ち着くのだろう)


家宣は熙子を愛おしみ

切り下げの髪を撫でる。


(まぁ、どうなさいましたの?)


(江島の局を見てきたのだが

 交竹院に芝居見物をねだっておった)


(芝居見物を奥医師にでございますか?)


(交竹院が伝手を求める商人と

 江島らを結びつけて

 収賄をとりもっておる。

 世が禁じたというのに)


(あら、それは困りましたわね)


浮世離れしている天上人の熙子の声は

何処か他人事だった。

既に、月光院達に愛想を尽かしている。


(そなたは芝居見物など興味はないからな)


家宣は腕の中の

浮世離れした熙子の様子に

苦笑いを隠さない。


(文昭院様と御一緒に見る空やお花の方が

 わたくしは好きですもの)


家宣は思わずふっと笑い

熙子を抱きしめる。


(では、庭に出よう。

 山茶花や椿が見頃ゆえ。

 池の鯉や雲も愛でるとしよう)


(はい、文昭院様)


熙子の顔が輝く。


家宣は

熙子の白く美しい手を取り

立ち上がると

御簾をくぐり簀子縁(すのこえん)を渡り(きざはし)を降り

家宣が熙子のために造らせた

大御台所御殿の壮麗な庭の散策を

二人で楽しむのだった。

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