あと三日
エリックとの関係がなくなるまで、あと三日。
絶対にそんなことさせない。そのためにマルセルと同盟を組んだ。
作戦はすごく単純。まず、ふたりに噂のことを直接聞かない。これで、泳がせるとかなんとか。
次に、エリックにはユリアのことを、ユリアにはエリックのことを、私がふたりにさり気なく聞いてみる。噂とは関係ないですよ〜という雰囲気を出しながら聞くのが重要らしい。その間、マルセルは噂の出処を調べてくれるらしい。
そして、大事なのはこまめな連絡。放課後に集まって、作戦会議をすることになった。
よし、頑張るぞ!
☆
ユリアにエリックのことを聞くなんてことはお茶の子さいさいで。ずばり、ご飯を食べるときに聞いてしまえばいい。朝食のために向かった広い食堂で、目立つ金髪を探す。
「ユリア。お、おはよ」
「おはよう、クラリス。寝不足?」
「えっ!? そ、そんなことないよ〜」
「クマできてるよ。あとで隠してあげる」
昨夜は寝付きが悪かった。だって、ふたりのこと気になって考えてたんだもん。いけない、もう動揺してる。
落ち着くために、なんともない動きを装いながらパンを一口。噛んで、飲み込んで、深呼吸。いざ、質問。
「ゆ、ユリアって、エリックのことどう思ってるの」
「急に何よ。クラリス、変なもの食べた?」
「なっ、な、何も!? で、どう思ってるの」
「ダメな同級生」
どういうこと? ダメって好きな人を表す言葉じゃない。
というか、ユリアってエリックのことそういう風に思ってたんだ。エリックのどこがダメなの? あ、格好良すぎるところ? わかるよ、私もエリックなかなか直視できないもん。
「他にも言おうか? バカでアホであんぽんたんで」
「いっ、いい。もう十分! ありがとうユリア」
慌ててユリアの言葉を遮る。完全にマイナス方向の言葉だった。どう考えても好きな人に思うことじゃない。良かった。ユリアはエリックのこと好きじゃない。ふたりは恋人じゃないってことだ、多分。
にやけていたら、優雅に食事を終えた金髪美女はにこやかな笑みを浮かべた。
「そろそろ食べないと授業遅れるよ、クラリス」
「うん」
「ほら、サラダもね」
「うん……」
いつものようにサラダを残そうとしていたら、毎度のように食べさせられた。朝からピーマンはさすがにキツい……。
☆
今日のお昼休み、当然のようにユリアは空き教室にいた。
ユリアはエリックのことを悪く言っていたし、エリックとユリアがお昼を一緒にしてなかった。これだけで舞い上がってしまう私はだいぶ性格が悪い。
最低なるんるん気分で午後の授業のために教室に戻ると、あんまり話したことないクラスメイトに話しかけられた。不在中に私に来客があったらしい。名前は、エリック。
エリックがわざわざ来てくれたということは、それなりに重大な話ということ。私とエリックの間にある重大な話は、婚約破棄の話しかない。
婚約破棄の話に何か進展があったのかな。両親に破棄報告の手紙が届いたとかかな。だって、もうあと三日しかないもん。エリックの両親側が今から相談し合ったりして、もうじき本家に連絡が行くはず。
学園の荷物検査は時間かかるから、あと一日はあると思ったのに。想定より想定よりちょっと早い。エリックが候爵家だから早く通されたのかもしれない。
まぁそんなの、今はどうでもいい。気にするだけ、落ち込んじゃうから。
放課後になって、昨日同盟を結んだ約束の地、図書館の奥に向かう。マルセルとの報告会である。開口一番、触角をぴょこぴょこさせながら、マルセルがニッと笑った。
「昼休みにうちの教室にエリック来たんだってな。クラスの女の子が騒いでた」
「らしいね。珍しい」
私が軽く受け流すと、赤茶髪のつんつんボーイはきょとんとした顔になった。
「ファンなのに、あんま興味ねーの?」
む。興味はあるよ。あるけど、きっと私にとって不幸なお話内容だっただろうから、興味を持つだけ無駄なのだ。
「わ、私のことはいいの!」
「おお?」
ほっぺたを叩いて気合を入れ直す。いきなりの私の行動に、マルセルが驚いた表情を見せた。
もう、これは報告会なんでしょ? エリックの話は関係ないない。代わりに、朝入手したすごく良い知らせを教えてあげよう。ふふんと笑ってマルセルを見ると、怪訝な顔をされた。
「マルセルが喜ぶこと、言っていい?」
「なんだよ」
「ユリア、エリックのことダメな同級生だと思ってるんだって」
「……つまり?」
「好きじゃないっぽい!」
「マジか!」
マルセルの口が緩みだす。ふたりでにやにや。
「じゃあ、恋人ってことは無いってことか。はー、良かった。クラリス、マジありがとう」
「良い情報だったでしょ。どういたしまして!」
それで、それで? 私はすごく良い情報を手に入れたけど、マルセルは? ワクワクしながらマルセルのほうを見たら、マルセルは困った表情になった。
「俺のほうは微妙なんだけど」
「何がわかったの?」
「噂の原因、最近ふたりがよく一緒にいるかららしい」
「……それだけ?」
「今んとこは。こんな曖昧なとこから、あんな噂広まるかよとは思うけど」
「一緒にいるだけなら、エリックの女友だちとも、そういう噂が流れてるはずだもんね」
ふたりきりでいるからという理由なら、私とマルセルだって今ふたりきりで話している。そんなことで恋仲認定されたら、この学園中が恋人ばかりになってしまう。
「噂の本当の根本は別にあるのかな」
「ありそー。なんか、ふたりで話してるのを見かけたって聞いたの、中庭以外でもあってさ」
あ。なんとなくわかった。
「それ、街のほう? お酒が出てくるお店がたくさんある方面の」
「街っちゃ街だけど、飲み屋街のほうでも見かけたのか?」
「え、そうじゃないの?」
「俺は普通に街でデートしてるって聞いたぜ。アクセサリー店とか雑貨屋で」
「でっ、デート!?」
思わず大きな声が出てしまった。慌てて自分の口を手で塞ぐ。マルセルが小さく笑いながら、しーっとジェスチャー。そうだ、ここは図書館なんだった。静かにしないと。
「まぁ、驚くよな。それ聞いて俺もビビったもん。でも、あのふたりは恋人じゃないんだよな?」
「ユリアがそう言ってたよ」
「そうだよな」
マルセルと顔を見合わせて、首を傾げる。となると、ふたりは恋人でもないけど、学内外問わず一緒にいて、しかもあのお洒落商店街でデートしてた、と。
ダメだ、意味がわからない。デートって、普通は好きな人以外としないはず。そういうものだと聞いている。
「マルセル、私全然わかんないよ……」
「俺も。今日のところはここまでにするか。俺、次までに飲み屋街のほう調べとくわ」
「私も明日はエリックに聞いてみる」
今日の報告会はお開きだ。埃っぽい空間で伸びをすると、赤茶髪つんつんボーイの触角がぴんとなった。
「明日? クラリス、明日と明後日は休みだぞ」
「えっ」
手で日にちを数える。本当だ。明日と明後日は授業無い。でも、明々後日を待っていたら、婚約破棄を阻止する時間が足りない!
婚約破棄が阻止できなければ、キスできなければ、今頑張って調べている意味もない。困る、困る! なんとかして、このエリックユリア恋仲噂事件を早く解決しないと!
「ま、まま、マルセル!」
「慌ててどうした」
「えっと、そうだ! エリックとユリアは街でデートしてるんでしょ? 私たちも、明日街に潜入してみない?」
「その言い方はなんなんだよ」
あそこは危ない街だから潜入で合っている。何をこんなことで呆れているんだ、マルセルは。当然のことだろうに。
「とっ、とにかく、明日、どう?」
「いいぜ、乗った。あ、でも、変な格好してきたら一緒にいてやんねーからな」
ひどいなぁ? マルセルこそ、変な服で来ないでよね!




