銀行強盗解決そして?
### 銀行強盗と、乙女の秘密
その日、ライアン警部は頭を抱えていた。
「……最悪だ」
銀行強盗。
それだけなら、警察の仕事としては珍しくない。
問題は、その銀行を占拠している連中だった。
機械化兵。
しかも、複数。
銀行内部には多数の人質が取り残されている。
建物は古いが頑丈だった。
出入口は正面と裏口の二か所だけ。
窓も少なく、壁は厚い。
正面から突入すれば、機械化兵との銃撃戦になる。
裏口から入ろうにも、同じことだ。
ならば壁を破壊するという手もある。
だが、それには相当量の爆薬が必要になる。
銀行そのものを吹き飛ばしかねない。
人質がいる以上、そんな手段は使えない。
ライアンはしばらく銀行を見つめていた。
そして。
ふと、ある少女の顔を思い出した。
銀色の長い髪。
赤い瞳。
十年前から、まるで時間が止まったように変わらない姿。
「……あいつか」
ライアンは通信機を取った。
「よろず屋に連絡を取れ」
部下が一瞬、目を丸くする。
「……ステラですか?」
「ああ」
ライアンはため息をついた。
「こういう時のための、あいつだ」
◇
「ライアン警部、久しぶり!」
現場にやって来たステラは、いつも通りだった。
銀色の髪を揺らしながら、楽しそうに笑っている。
「……久しぶりだな」
「依頼?」
「そうだ」
「お金は?」
「まず話を聞け」
「お金は?」
「……」
ライアンは頭を押さえた。
「銀行強盗だ。機械化兵が複数。人質多数。正面も裏口も塞がれている」
「ふむふむ」
「壁を爆破するわけにもいかない。突入すれば人質が巻き込まれる可能性が高い」
「中の人数は?」
「確認できているだけで、機械化兵が六人。人質が三十七人」
「武装は?」
「重火器あり。詳細は不明」
ステラは銀行を見た。
赤い瞳が、建物の外壁を一度だけなぞる。
「じゃあ、S級四つ」
「二つだ」
「四つ」
「二つ」
「三つ半」
「刻むな!」
「じゃあ三つ」
「二つだ」
「……」
ステラは少し考えた。
「二つに三十パーセント」
「……」
ライアンは腕を組んだ。
「それでいい」
ステラの顔がぱっと明るくなった。
「交渉成立♪」
「お前な……」
ライアンは深々とため息をついた。
「頼むぞ」
「任せて」
ステラは笑った。
そして――
「じゃあ、行ってくるね」
◇
ステラは銀行から少し離れた、人目のない建物の陰へ移動した。
そこで、身につけていた装備をすべて外した。
衣服も。
持ち物も。
何も残さない。
理由は単純だった。
今回の相手は機械化兵。
視覚だけではない。
熱。
反射。
電磁波。
微細な振動。
重量変化。
あらゆるセンサーが使われる可能性がある。
ならば――
センサーに拾われる「何か」を、最初から持たなければいい。
前回の大型無人兵器との戦闘では、ステラは隠密モードを使わなかった、見せるため!高周波ソード一本だけにして戦った。
その時はそれで良かった、私が持てば市販の高周波ソードがどの様に化けるか教えたかかった。。
今回は、教える必要は無い。
完全なステルス。
完全な無装備。
ステラは脱いだものを人目につかない場所へ隠した。
「さて」
赤い瞳が細くなる。
「行こうかな♪」
次の瞬間。
そこに、ステラの姿はなかった。
◇
銀行内部。
裏口を見張ってた機械化兵は、何も感じなかった、扉は敢えて開けていた、その方が自身のセンサーがしっかり使えるから。
その横をステラが堂々と通っても何も感じ無かった、むしろステラが通りやすくする為に横にズレたほどだった。
本人はその事を疑問に感じ無かった。
「警察はまだ動かないのか?」
「外にいるのは確認できてる」
「人質を――」
その会話の途中だった。
機械化兵の一人が、ふと振り返る。
何かを感じた。
だが。
そこには何もない。
「……?」
ほんの一瞬。
その背後に、ステラがいた。
完全な死角。
音もない。
熱源もない。
装備もない。
電子的な痕跡もない。
そして――
機械化兵が振り返るより早く。
ステラの手が、その身体を打った。
鈍い音。
機械化兵が崩れ落ちる。
「なっ――」
別の一人が銃を向ける。
しかし遅い。
一歩。
また一歩。
ステラは銀行内を歩いていく。
機械化兵が次々と倒れていく。
銃を構える暇もない。
通信する暇もない。
警報を鳴らす暇もない。
わずかな時間。
銀行内にいた機械化兵は、全員が床に転がっていた。
生きている。
だが、動けない。
人質たちは何が起きたのか理解できず、ただ呆然としている。
ステラは周囲を見回した。
「よし」
そして。
何事もなかったように正面入口へ向かった。
◇
銀行の扉が開く。
外にいた警官たちが、一斉に身構えた。
そして、扉から出てきた姿を見て――
その場の空気が止まった。
先頭にいたライアンも、思わず言葉を失う。
ステラだった。
いつもの銀色の髪。
いつもの赤い瞳。
いつもの、何も気にしていない顔。
ただし。
いつもと違うのは――
「…………」
ライアンが黙り込む。
後ろにいた警官たちも、全員沈黙した。
ステラは何も気にしていない。
そのまま歩いてくる。
人質の一人。
小さな子供が、ステラを見上げた。
「おねえちゃん」
「ん?」
「なんで裸なの?」
その瞬間。
周囲の大人たちが、一斉に目を逸らした。
見てはいけない。
そういう空気が、ものすごい勢いで広がった。
だが、ステラは首を傾げただけだった。
「乙女の秘密さ」
ふふん、と笑う。
ライアンは頭を抱えた。
「……ステラ」
「なに?」
「これを着ろ」
ライアンは自分のコートを脱いで、ステラに掛けた。
「もう少し恥じらいを持て」
「?」
ステラは本気で意味が分からないらしい。
「下等生物に対して恥じらいも何もないよ」
笑顔だった。
「…………」
ライアンは数秒、黙った。
「……解決した」
それだけ言った。
◇
ステラは銀行から離れると、先ほど衣服を隠した場所へ戻った。
服を着る。
装備を戻す。
そして何事もなかったように店へ帰った。
その夜。
「姉さん」
「ん?」
「人質を助けたのはいい」
「うん」
「犯人を全員生かして捕まえたのもいい」
「うんうん」
「銀行を無傷に近い状態で解決したのもいい」
「ふふん♪」
「でもなんで裸なの!?」
「ステルスだから」
「なんで堂々としてるの!?」
「必要ないから」
「羞恥心どこか忘れたの!?」
「どこだろう?」
「なら一緒に探しに行ってあげる!」
「……?」
ステラは本気で分かっていない顔をした。
そしてジーミーは泣きながら説教を続けた。
「姉さんはもう少し自分を――」
「うん」
「人間社会では――」
「うん」
「普通は――」
「うん」
「だから――」
「うんうん」
結局。
ジーミーが力尽きて眠ったのは、朝だった。
ステラは眠ってしまったジーミーを見下ろし、小さく笑った。
「……真面目だなぁ」
◇
翌朝。
町のニュースには、大きくこう出ていた。
> **『銀行人質事件を解決したよろず屋ステラ』**
警察発表では、機械化兵六名を無傷ではないものの全員生存状態で確保。
三十七名の人質も全員無事。
建物への被害も最小限。
まさに見事な事件解決だった。
――ただし。
ニュース映像に映し出されたステラの姿を見た瞬間。
町中の人間が、一斉に沈黙した。
銀行から。
何も気にせず。
堂々と。
歩いて出てくる。
あの銀髪の少女。
それを見た町の人々は、ある意味で納得した。
「……まあ、ヨロちゃんだし」
「うん」
「……ヨロちゃんだな」
十年間。
姿も変わらない。
年齢も変わらない。
何をしても妙に納得されてしまう。
この町では、それがステラだった。
◇
だが。
軍では違った。
軍の記録に残されているステラの姿は――
三十年以上前から、変わっていない。
同じ銀色の髪。
同じ赤い瞳。
同じ顔。
同じ身体。
同じ少女の姿。
機械化兵ではない。
少なくとも、確認されている機械化兵の技術では、ここまで自然な人体を再現できない。
機械化された部位には、どうしても違和感が残る。
皮膚の質感。
関節の動き。
熱の伝わり方。
微細な筋肉の動き。
呼吸。
視線。
表情。
人間を模倣することはできる。
だが。
ステラは「人間を模倣している」ようには見えない。
完全に自然な人体。
それが、三十年以上変わらない。
だから軍では、ステラを知れば知るほど恐ろしくなっていった。
最初は、
「異常な身体能力を持つ少女の姿をした何か?」
だった。
次に、
「正体不明の機械化生命体」
になった。
だが。
調べれば調べるほど。
そのどちらも、正しくない。
機械化兵なら説明できる部分がある。
しかし、機械化兵では説明できない部分が増えていく。
人間として見るなら説明できる部分がある。
しかし、人間でも機械でも説明できない部分が増えていく。
そして何より。
ステラ自身が、それをまったく気にしていない。
彼女にとっては。
自分の姿が十年変わらないことも。
三十年以上、軍の記録に同じ姿が残っていることも。
人間には理解できない能力を持っていることも。
すべて。
どうでもいいことだった。
「ロボット、作りたいなぁ♪」
今日もステラは、そんなことを考えながら町を歩いている。
人間の姿をした何か。
少女の姿をした何か。
軍がそう認識していることすら知らず――
あるいは。
全部知った上で。
彼女は今日も、楽しそうに笑っていた。




