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第12話(最終話):そして、新たな巡回(パトロール)へ

静まり返った郊外の墓地。秋晴れの澄んだ空の下、桐生家の墓標の前にカレンは一人で立っていた。

冷たい風が彼女の黒髪を揺らす。事件はまだ完全に決着したわけではないが、彼女の手には、決死の作戦でキルコードを流し込んだ端末がしっかりと握られていた。


「お父さん……まだ終わってないわ。でも、あの子の暴走は、私が止めたから」


墓石に向かって静かに手を合わせるカレンの背後に、足音が近づいてきた。振り返ると、コートの襟を立てた署長が、同じように花束を携えて立っていた。


「署長……」


署長は何も言わずにカレンの隣へ並び、桐生家の墓標に向かって静かに頭を下げた。一通りの弔いを終えると、彼は懐から取り出した書類を一枚、カレンに差し出した。


「本部の技官たちによる解析の結果だ。あのファントムの躯体……博士が遺した超未来型自律ロボットの修復が決定した。……だが、暴走の危険性や再び外部からハッキングされるリスクを考慮し、今後は厳重なセキュリティ管理のもと、警察署内の整備・作業用として厳重に管理・運用されることになった」


カレンは差し出された書類を見つめ、複雑な表情を浮かべた。


* * *


警察署の地下ドック。

そこでは、かつて凶悪なアックスを振っていたファントムの腕部が取り外され、見慣れた標準型の作業用マニピュレーターへと換装されていた。電源が投入されると、凶悪な敵意を示すプログラムはキルコードによって完全に初期化され、博士が設計した本来の高度な自律思考と安定稼働システムが静かに起動した。カチリ、と静かに光学センサーが青く輝き、真っ直ぐに前を見据える。


(父が遺した最高傑作の技術だけど……思えばこいつは、両親を殺し、学友たちを殺したロボットだ……)


中身の暴走がリセットされたと頭では理解していても、一度向けられた殺意と血塗られた記憶が消えるわけではない。作業の様子を見つめるカレンの胸中は、割り切れない苦い感情で渦巻いていた。

ファントムを裏で操り、自分たちの人生を狂わせた組織はいったい何だったのか。それは両親と学友を奪った憎むべき真犯人でもある。だが、機体を徹底的に解析しても、初期化されたメモリの奥底から組織の手がかりを掴むことはできなかった。


* * *


時を同じくして、海原を越えた遠く離れた海外――。

高層ビルの最上階に位置する社長室では、重厚なデスクに向かう男が、冷徹な報告を受けていた。


「日本国内の旧研究所に潜伏させていた試作機は警察に制圧されました。……ですが、現地に潜入していた日本支社の工作員が、戦闘中の現場周辺からファントムの最新の駆動・戦闘データを極秘裏に回収することに成功したとの連絡が入っております」

「……そうか」


窓の外の夜景を見下ろしながら、社長と呼ばれる男は満足げに目を細めた。

「よくやった。貸倉庫の襲撃時にアタッシュケースごと回収した『桐生博士の研究データ』本流に加え、今回の実戦データまで手に入れば十分だ。ネットワークを介さず現場から直接回収させたのは正解だったな」


男は冷徹な笑みを浮かべ、グラスを傾けた。

「計画を次の段階へ移行する。日本支社の開発部門へ伝えろ。回収したすべてのデータをもとに、本格的な新型機体の設計フェーズに入るとな」


ファントムという名の尖兵がもたらし、組織の手に落ちた膨大な研究成果。それは、終わらない悪夢の拡大を予感させるに十分なものだった。


* * *


一方、国内の『アーク・システムズ』の地下工房では、天童湊が静かに作業用タブレットを置き、完成した機体を見上げていた。


「……クラウドのバックアップから全回路の整合性を復元し、大破したプロセッサを再構築するのは骨の折れる作業だったがね。……まあ、我が社の技術をもってすれば当然の結果だが」


天童は静かに息をつき、腕を組んだ。


「機体のベースフレーム、および神経接続の同期は完全だ。……あとは、復元したパーソナリティデータが元の記憶とどこまで正常にリンクするかだが……」


* * *


数日後。

カレンは警察学校へと続く通学路、かつてユウキと並んで歩き、そしてユウキが自分と子供をかばってファントムの強烈な一撃に倒れた現場の舗道を歩いていた。


足元に一輪の花束をそっと手向け、カレンはその日の悲劇を脳裏に思い返す。

(あのとき、ユウキは私をかばって……)


その瞬間、記憶の断片が激しく明滅し、別の光景がフラッシュバックした。

数日前の旧研究所の庭。ボロボロになりながらも、正面から突撃し、自分の盾となって致命傷を受けたシオンの姿。


「……まさか、ね」


シオンの残骸に見出したユウキの面影――そんなはずはないと頭を振って否定し、カレンは前を向いてその場を立ち去った。


* * *


後日、警察本部。

呼び出されて署長室の扉を開けたカレンの目に飛び込んできたのは、見慣れた、しかしどこか新しい輝きを放つ真新しいロボットの姿だった。


「入れ、カレン。……紹介しよう。こちらが、新たに配属された君のバディの『シオン』だ」

「……シオン? シオンは、あのとき大破したのでは……?」


驚愕に目を見開くカレンの背後から、天童湊が静かに歩み出た。

「予備サーバーに保管されていたバックアップログと、管内のクラウド同期プロトコルを応用させてもらった。ゼロからの再構築とはいえ、元の設計者である私にとっては大した手間ではないさ。……見ての通り、最新のパーツと装甲で完璧にリファインした、君の新しい相棒だ」


カレンは言葉を失い、目の前の機体を見上げた。

しかし、次の瞬間にはいつものキリッとした険しい表情に戻り、フッと小さく息を吐いた。


「……行くわよ、鉄屑。管内のパトロールよ。さっさとついてきなさい」


吐き捨てるようにそう言い放つと、カレンは署長室のドアを乱暴に開け、廊下へと歩き出した。


その背中を見つめながら、背後に立つシオン(ユウキ)の内部システムでは、感情ロジックが爆発しそうなほどの歓喜の数値を叩き出していた。

(また、君の隣を歩ける……っ!)


あふれ出るうれしい気持ちを必死にシステム奥底へ押し殺し、シオンはカレンの後に続いて足を踏み出した。


Target : KAREN KIRYU / Hostility : 80%

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