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終わらないまま、終わった話  作者: 高杉零
伝わらないまま、膨らむ不安
10/28

懸念

「いらっしゃいませー」

「あ、待ち合わせです! えーと……あ、いました」

「はい、どうぞー」


 2週間後。やり直しになったカンファレンスが再度開催された日。

 どうしても抜けられなかった仕事を早々に片付け、その後を早退にして区役所近くのカフェに駆け付けた。


 昼時の時間も終わっていたが、店内はとても盛況だった。


 辺りを見回し、ようやく目的の姿を確認して歩みを進める。


「ごめん、遅れちゃって」

「おかえり、克己くん」

「パパさん、お疲れさまです」


 席には美里と河西さんが座っていた。


 机に並ぶグラスを見ると、半分くらいがなくなっている。まぁまぁな時間を待たせてしまったようだ。


 急いで自分の飲み物を頼み、再び席に戻る。


「それで――どうでしたか?」


 軽く喉を潤すと、単刀直入に聞いた。


 朝からずっとこの事ばかりを考えていて、仕事に身が入らなかった。納品だけで終わって本当に良かったと思う。


 俯いている美里を一瞥して、河西さんが口を開く。


「正直に言うなら……前回に比べると少しは進みましたが、建設的だったかと言われればいいえと答えざるを得ません」

「あぁ……」


 やっぱり、か。


 前回の話を聞いた時に感じた事が事実だとしたら、そうなるんじゃないかと思っていた。


「何でしょうね……私も過去感じた事がないくらい、話がリセットされてしまうんです」

「今回もですか?」

「はい」


 河西さんによると、今回の参加メンバーは区役所側の1人が変わった以外は同じだったという。

 にも関わらず、前回河西さんからして貰った医療的ケアの必要性について、まるで前回途中で終わってしまったかのような態度で改めて説明を求められたらしい。


「……河西さんが『またですか?』って言っても、『はいお願いします』でしたね」

「でしたね。良かったです、前回使った資料持ってきてて。要らないかとも思ったんですけど」


 区役所側は一応前回配られた資料は持ってきていたようだった。


 それがあるのに、話は最初に戻っていたらしい。


 河西さんは、『前回もお伝えしましたが』と露骨に前置きしてもう一度説明したのだそうだ。


「克己くんが言ってた情報が共有されてないってやつなんだけど……記録が残ってないっていうより、積み重なってないっていう気がした」


 なるほど、それは言い得て妙だ。


 積み重なっていない。前に感じた違和感にしっくりくる。


 記録はあるのかもしれない。少なくとも前回配られた資料を持ってきた以上、あるものはある。


 けれど、それは統合されて整理されたものではない、という事か。


 記録を積み重ねて管理する場所がないのか?


 ……いや、違うな。


 積み重ねる場所がない――というより、積み重ねる仕組みがないのかもしれない。


「一応……如月町保育園についての話は少しだけ進んだ……のかな。進んだって言えるか分からないけど」


 美里が付け加える。


 距離と、看護師の経験に対する不安。

 第二希望として含めはしたものの、その懸念がどうしても払拭できない。


 そしてその懸念は、ひすとりあ保育園から看護師派遣を受けて下行ひかる保育園に通うという形だと、どちらも解決するのだ。


 これは、美里が1人で申請に訪れた際にケースワーカーにのみ伝わっている情報だった。

 もちろん美里が伝えていないとは今も思っていないが、河西さんという証人がいる前でこれだけは伝えて欲しいと言っておいた。


 これで、少なくとも情報を伝えられていない可能性は潰せた。


「パパさんが言われてたもしもの状態になってしまいましたね……すみません」

「河西さんのせいじゃありません」


 そう。河西さんのせいじゃない。美里のせいでもない。


 俺のせい、という可能性もある。

 前回も今回も、結局俺は参加できなかったから。


 ただ、今日の様子を聞く限りでは、俺が参加しても大して変わらなかったかもしれないと思った。


 限られたカンファレンスの時間内でできる事は、ごくごく限られるから。


 だから、早い段階から相談もしてたんだけどな、とは思うけれど。


「河西さん、例の件は伝えて貰えましたか?」

「あ、はい。伝えました。ご主人がカンファレンスに参加したいと言われてる事ですよね」

「はい」

「あちらも今回は想定外過ぎたようで、調整してみて連絡するとの事でした」


 仕事とは言え2回も機会を逃した。行けなかったのは俺の都合だ。それは区役所の方にも申し訳ないと思う。


 だが、保育園が決定するまでには2ヶ月ある。


 今度こそは、必ず行く。仕事を体調不良で休んででも、必ず。


 そう、決めていた。


 まだ取り返せる可能性がある。そう思いたかった。


 だが――


 ――その機会は、訪れる事はなかった。

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