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【終わりと始まりの創星神話 1巻 第三章1話】

 本日三度目となる瞬間移動での転送を終えると、そこは広めの部屋だった。

 しかし、空間そのものは広いのだが、やけに物が多い。

 雑多に本が積まれ、紙片やら何やらが散らかりに散らかっている。

 机らしき物があるのだが、埋もれるほどの物が積み重なっているため、かろうじて机の足が見える程度である。


 そして、その部屋の中央。

 最早、『山』となっている中心には、椅子に腰掛けた男の姿があった。


 背を向けているので顔までは窺い知れない。

 一心不乱に鍵盤らしきものを叩き、魔晶らしき物に映る先ほどでの僕の映像と夥しいまでの数字と文字の羅列を確認している。


 そこに居る人物が誰なのか。凡その見当はついている。


「汚い……これ、どうにかならないの?」


 足の踏み場もないとは正にこの事だ。

 積み上げられた山を崩さないように、僕はその人物へと近寄る。


「んんん、定期的に片付けてはいるのですぞ? しかし、少し時間が経つとこのような有様になっているのですな」


 彼は叩く鍵盤の手を止めると、椅子を回転させてこちらを向く。


 ーージルド・アズリエルだ。

 年頃は3、40代ぐらいだろうか。

 ボサボサの銀髪が目元まで伸びており、大きな丸眼鏡を上から覆っている。

 その奥、群青の瞳が興味深そうにこちらを覗いていた。


「直接会うのは初めてとなりますな。ようこそ、魔導帝国の神秘が生まれいずる所へ!」


 喝采するかのように諸手を広げる。

 しかし、このようなゴミ溜めのような場所で歓迎されても嬉しくない。


「あ、ああそう……ありがとう?」

「んん、反応がイマイチですな。一応この場所は限られた者しか入れない、帝国で最も機密の研究所なのですぞ?」

「そんな重要そうな場所をこんなに散らかさないで欲しいかな……」

 何枚か紙を踏みつけてしまったが、後で怒られたりしないよね……?

 いや、大事な書類ならもっと適切に保管して欲しいと思う。


「まあいいや。そんな事よりもーー『ソレ』は、何?」


 明らかに目の前に映る異質なものに、僕は思わず聞いてしまった。


 『ソレ』とは、ジルドの膝上に座る、子供のーー『人形』だ。

 髪色や瞳の色はジルドと酷似しているが、異質なのはその肌だろう。

 明らかに人工物のそれは陶芸品のようで青白い。


「ーー失礼ですね。私が【妖精フェーンゼーリエ】についてお父様に助言しなければ、今頃貴方は地面に咲く真っ赤な花でしたよ」

 突然、目の前の『人形』から少女の声がした。


「え、今ーー喋った……?」

 ジルドが抱える『人形』は、無機質な顔をこちらへ向ける。

 明らかに作り物のその顔からは何ら表情は伺えず、作り物故か口元も微動だにしていない。


 しかし、声だけははっきりと聞こえた。


「人形がお話をするのがそんなに不思議でしょうか。ーーこれだから田舎育ちの輩は嫌いなのです」


 田舎育ちは否定しないが、いくら何でも酷い物言いだ。

 そしてどうやら先程の【妖精フェーンゼーリエ】について、ジルドが説明するのを忘れていたのを教えたのは彼女らしい。


「あ、ああ……さっきはありがとう?」

「それでいいのです。さあ、私たちは忙しいのでさっさと貴方はその魔導兵装を脱いで帰りなさい」

 全く取り付く島もない物言いに、唖然としてジルドを見ると、彼は肩を竦めるだけだった。


「分かったよ。ーーでも、これどうやって脱げばいいのか分からないんだけど……」


 装着する時はそんなに難しくなかった。

 しかし、今は魔導兵装が体格に合うように収縮しているため、脱ぐことが容易でない。

 だから、いきなり脱げと言われても困るのだ。


「はあ、仕方ありませんね。ーーカレハ、彼を手伝ってあげてください」

 人形の少女は誰かを呼ぶ。

 しかし、その呼びかけに反応はなく、静まり返る空気に気まずくなる。

 すると、人形の少女はジルドの膝から飛び降りると書類の山へと突撃して行き、腕を突っ込むとそこから一人の少女を引き釣り出した。

「カレハ、いつまで寝ているのですか」

 人形の少女に首根を掴まれた少女はそれでもまだ目覚めていない様子で、あれは寝ているというよりも気を失っているのではないのだろうか。


 すると、人形の少女は再度書類の山に手を突っ込むと、そこから更に車椅子を引っ張り上げる。

 そして、その車椅子に少女を座らせると、両頬をペチペチと叩き始める。


「ぶっ⁉︎ あっ、あっあっ痛ッ⁉︎ 痛い痛い! ラピスさん! お、起きました、起きましたからやめてぇ!」

 強制的に起こされたカレハと呼ばれた少女は、頬を摩りながら涙目となる。

 学生服の上から白衣を着る彼女は、その白衣の胸衣嚢から眼鏡を取り出して着けると、呆然としていた僕と目が合う。

 数度瞬きをすると、彼女は車椅子を手漕ぎで走らせてジルドに詰め寄る。


「博士ぇ! 【多目的遂行複合魔導兵装マギ・エアヴァイターバヴァッフェ】の実験をするなら起こしてって言ったじゃないですかぁー!」


「んんー小生は起こしましたよ。だから、小生は徹夜するなら三徹までと申し上げたのですぞ」


「ぐぬぬぅ、記録撮ってますよね?」

「勿論ですとも。後で『記録魔晶ログクォーツ』を渡しますので、そちらで確認してくだされ」

「はぁーい。ーーそれで、こちらの方が試験人君?」

「あーうん、どうもゼロ・アーベントです」

「ふぅん、せんせーが連れてきた肝いりって聞いてたけど……」

 頭から爪先まで見られている。

 不安半分、期待半分といった様子だ。


「まあいいや。私はカレハ・クロムウェル。よろしくお願いしますね、ゼロ先輩」


「せ、先輩⁉︎」

「そうですよ? 私は中等部三年生。ゼロ先輩の制服は高等部のものでしたので」

 白衣でよく見えなかったが、確かにカレハの制服はクロネと同じ中等部の女子制服だった。


「貴方たち、自己紹介が済んだのならさっさと行きなさい。ーーあと、カレハは戻ってきたら自分の机周りは片付けておくこと」


「えぇーっ⁉︎ そんなぁー!」

 それは言われても当然なのでは?

 それぐらい汚いのだから。


「もう、ゼロ先輩のせいですよ……!」

「ここまで全く身に覚えがない責任転嫁は初めてだね……」

 するとカレハは反転して扉へと向かう。

 振り返ると手招きされる。ついて来いという事だろう。


「んんん、またお呼びする事もありますのでよろしくお願いしますぞ」

「……今日みたいな騙し討ちじゃなかったらね」

 ジルドの返事はなかった。

 言いたいことは言ったと言わんばかりに膝の上にラピスと呼ばれた人形の少女が乗ると、背を向けて作業を始める。

 嘆息が自然と漏れる。

 これ以上話をしても仕方がないので、カレハの後を追うことにした。

ここまでお読みしていただきありがとうございます。

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