【終わりと始まりの創星神話 1巻 第二章4話】
緩慢な動作で歩み寄る【土人像】を前に僕は身を構えた。
「いいさ、相手してやる」
……でもどうやって?
手元に武器らしい武器はない。
しかし、非武装という事はないだろう。
でなければ、実戦形式の実験などしない筈である。
一番、疑わしいのは両腕の手甲である。
何せ、その名称が 【可変式多機能手】である。
多機能ということは、何かしらの能力が複数備わっている可能性が高い。
可変式というのはーー意味が分からない。
え、変形するの? この手甲が?
左手に至っては手甲というより長手袋ーー布地の感触から非金属である。あえて特徴を挙げるとしたら、金糸のような刺繍と装飾があるぐらいだ。
どうしたものか考えている間にも、【土人像】は近寄りつつある。
いっその事、装甲のある右手で殴り付けてみようか?
そう思い至り、時計回りに【土人像】を迂回すると、左側にいた一体に接近して殴り付ける。
鈍い音と、反動の衝撃が手から腕へと伝わってきた。
軽く殴り付けたぐらいだからそこまでではないが、それなりに痛かった。
対して土人像はというと、どう見ても無傷であった。
僅かに拳の形をした凹みがあるが、それぐらいである。
つまり、この右手の手甲そのものには、物理的な攻撃手段としての能力はないわけだ。
予想はしていたが肩透かしを喰らった気分である。
魔導帝国の叡智だとか言われていたのだから、もっとこう何かあるのかと思ったのだ。
そこで僕は気付く。
よく見れば、手甲の手のひらを見ると、共通貨幣コプファぐらいの円形の窪みがある事に気が付いた。
何だこれ? と考えていると、【ワルプルギス】に警告が表示される。
何事かと身を竦めると、先ほど殴り付けた土人像が腕を振り上げていた。
これは、回避が間に合わないと判断した。
「あ、やばーー」
いくら鈍重とはいえ、図体が大きい。横薙ぎに振るわれる腕を前に、僕は咄嗟に腕を交差させて、少しでも身を守ろうと防御する。
土人像の腕が触れる。その瞬間、左手から昏い波動が迸り、瞬く間にそれは【魔法防盾】となる。
それは、魔力のよって形作られた盾である。
【土人像】の腕を弾き飛ばし、僕の身は守られた。
すると、【ワルプルギス】には左手の名前の下に幾つかの項目が一覧となって現れており【魔法防盾】が淡く光っていた。
恐らくこの光っているのが今発動した【魔法防盾】で、その一覧の中にあるのがこの左手ーー【VMH:MN-02】の能力なのか。
ーー成程、最初から【ワルプルギス】で確認すれば良かったのか。
そう考えると、この【ワルプルギス】は僕が思っているよりも多機能である。
魔導兵装の管理と制御。状態の確認。視界保護と支援。加えて思念による念話。
ーーまだまだ他にも機能がありそうだ。
確かめたい気持ちはあるが、先ずは武装の確認だ。
【VMH:MN-02】が発動した【魔法防盾】の他には、上から【六甲】【黒波】【冥い吐息】ーーの合わせて四つである。
僕は試しに、思念で一番攻撃魔法っぽい【黒波】を選んだ。
すると、左手に黒い靄のようなものが発生する。
徐々に掌に集まってくるそれを、試しに【土人像】に向けると、黒色の波動が放たれる。
ーーさながら【魔導王】の使う【黒霧の夢】のようだ。
あの万能とも言える魔法を再現したものなら、さぞ効果があるのだろうと期待する。しかし、黒色の波動は【土人像】の歩みを押し留めるだけだった。
ただでさえ遅い動きは、最早止まっているんじゃないかと思うほどで、だが少しずつだが押されているように見える。
魔法としての強度が全く足りていない。
魔力の量か質か。いや、両方だろうな。
流石に伝説と謳われた現人神。魔導王の魔法を再現するには至らないか。
ならば次だ。
次はこの【冥い吐息】を選択する。
すると、【ワルプルギス】に警告文が現れた。
そこには、『【冥い吐息】は対象に【防御低下】を与える【弱下魔法】であり、非生命体には有効ではありません。』ーーと表示された。
何だと。それじゃあまるで意味がないじゃないか。
最後に残されたのは【六甲】だが、明らかに防御系の魔法だろう。
だからこそ使わなかったのだが、試しに使ってみると、目の前に六角形の【魔法防盾】が現れた。
大きさは大体20Zm程だろうか。
『小丸盾』ぐらいの大きさのそれは、目の前でふわふわと浮遊する。
試しに動かそうとすると、僕の視線に合わせて左右に動く。更に試して僕の周りを周回するように思念を込めると、その通りに動いた。
……成程。
思うにコレは、ヨミの魔法【黒霧の夢】を分解してそれぞれの役割を割り当てたものだろう。
だが、余りにも弱い。魔法の出力もそうだが、あの万能にも見える魔法と比べてしまうと、どうしても天と地ほどの差があると思う。
しかし、単体として見れば悪くはない。
【土人像】の攻撃を難なく弾く【魔法防盾】。
動作を阻害する【黒波】。
自由意思で動かせる盾【六甲】。
【冥い吐息】は牽制にも支援にも使えるだろう。
だが、余りにも防御面に特化している。ここまで徹底していると、察するにそういう設計思想なのだろう。
ーーならば、反対のこの右手【VMH:MN-02】はどうなのだろう。
【ワルプルギス】で確認すると、武装欄には一つだけあった。
【断罪】ーーと。
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