【終わりと始まりの創星神話 1巻 第二章3話】
このまま飛行すれば壁に激突する。
墜落の次は激突か。しかし、今度は僕の不注意である。
いや、事前にこの場所について説明がないのもどうなのか。
ーーと、現実逃避しつつこの状況を打開しなければならない。
考える。どうすればいいのだろうか。
先ず思いついたのが旋回である。迂回することで激突を回避するのだ。
いや、間に合わない。避けるには速度が乗ってしまっている。
同じ理由で上昇して回避も難しそうだ。ならばいっそ、逆に下降すればーーいや、その速度のあまり地面に墜落しそうだ。
ーーならば、どうすればこの危機的状況を打開できる……?
そこで、まだ使用していない兵装があることを思い付く。
【妖精の靴】
脚部の兵装。【妖精】という名前と、【妖精の翼】と【妖精の尾】の特性からして、これも恐らく類似した性能を持っているはずだ。
躊躇わずに僕は【妖精の靴】を起動する。
僕の予想が正しければ、翼は推進器。尾は姿勢制御。
ならば、【妖精の靴】は?
恐らくだが、この【妖精の靴】とは加速器だろう。
空中へ浮遊するためには初めに地上から飛び立つ必要があり、ある程度の推力が求められる。
ならば、その逆は? 着陸の際に毎回墜落の危機を回避しながら着地しなければならないのか?
そんなわけないだろう。着地の保護を行い、速度を落とす機構があるに違いない。
その予想は概ね当たっていた。
起動した靴は、確かに足裏から押し出すような感覚を僕に与えた。
すぐに僕は身体を『逆くの字』のようにして、【妖精の靴】の出力を最大にする。
急激に減速し、同時に僕の身体には制動の負荷がかかる。
内臓が押し潰されそうになりながら、迫り来る壁を地面と見立てて再浮上した。
「な、なんとかなった……!」
僕は低出力で翼を展開し、ゆっくりと本当の地面への着地する。
そして、心に誓った。
この魔導兵装を使って調子に乗るのは止めよう、と。
「いやはや肝を冷やしましたぞ。んんん、しかしお見事でしたな。我が国の航空魔導師も顔負けの立体飛行でしたぞ」
諸悪の根源が何か言っている。
しかし、僕が冷ややかな半目をしていても、向こうに伝わっているか定かではない。
深々と溜息を吐いて、肩を落とす。
正直言って帰りたい。今の数分の出来事でどっと疲れた気がする。
「こんな危険な実験なら、付き合いきれないんだけど」
「んん、手厳しいですな。しかし、何事も習うより慣れろですぞ。ーーまあ、【妖精】の習得過程は逆順でしたがな」
本来ならば、初めに【妖精の靴】を用いて地上からの飛翔訓練。
次に【妖精の尾】を用いた空中での姿勢制御。
慣れてきたら【妖精の翼】で飛行するという流れらしい。
それならば、確かに今回のこれは全くの逆だ。
「んん、しかしですな。今、ゼロ君が身に付けているソレは本当に特別な代物なのですぞ? 何百何千人という試験人を押し除けてゼロ君を採用したのですぞ。んん、小生とて推薦していた生徒もいたのだからーーこれぐらいの荒業には目を瞑っていただけないとですなあ」
ーーつまり、一部私怨が混ざっていると?
そう言いたいのか、この人は。
だが、確かに飛行には成功したし、感覚も掴めている。
もう一度飛べと言われたらすぐにでも出来るだろう。
一度あれほどの恐怖を味わえば、再起不能になってもおかしくないが、次からは気を付ければいいだけの話だ。
それに、何も悪いことばかりではない。
どうやら僕の今の立場は、大勢の努力や多数の推薦された人の立場に割り込んでいる。
だから、ジルドはこうも言いたいのだ。
「これから出てくる不平不満は実力で黙らせろーーって? 前途多難だなあ、全く……」
「んんん、その通りですな! 察しの良い生徒は小生好印象ですぞ!」
と言うことは、この人にも認められないといけないのか。
今一つ掴めないんだよなあ……。なんと言うか、揶揄われているような感じだ。
「はあ……分かったよ。ーーそれで、これで終わりじゃないんでしょ?」
「んんん、そうですな。本来であれば、先に武装の解説をーーですが、これも実戦的に行きますぞ」
その瞬間、目の前に三体の【人像】が現れた。
それは、地属性の魔法により造り出された、生命を模造した人形ーー【土人像】である。
簡単な命令でしか動けず、その動きも緩慢かつ愚鈍。耐久性も素材に依存している。
しかし、魔力と素材となる土塊があればいくらでも再生出来る。簡易さと生産性に富んだ魔法だ。
顔面に空いた虚ろな穴が僕を『視た』気がした。
非生命体だからそんな筈はないというのに、三体の【土人像】はゆっくりとこちらへと歩み寄ってくる。




