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【終わりと始まりの創星神話 1巻 第二章2話】

 強烈な浮遊感が身体を包む。

 今度はどこに転送されるのやら、と。

 この時僕は、完全に油断していたのだ。


「うん? ーーう、うわあああああッッッ⁉︎」


 瞬間移動の際ににかかる独特の浮遊感が終わらなかったのだ。

 それは、僕の体が空中に投げ出されており落下していたのだ。

 自由落下に任せて落ち続ける僕は、空中で前後不覚に陥る。


「さてゼロ君。これからは実地試験ですぞ」

 だ、騙された……!

 いや、危険は無いと勝手に僕が思い込んでいたのが良くなかったのだ……!

「人殺しぃぃぃぃぃ……!!」

「んん、人聞きが悪いですぞ。ーーんんん? 何々、まだ【妖精フェーンゼーリエ】の使い方を教えてないですと? ……そう言えばそうでしたな! 小生、うっかり!」

「うっかりで死ぬなんてごめんだッ……!」

「やれやれ、大袈裟ですな。んん、ゼロ君。【ワルプルギス】から【妖精の翼フェーンフリューゲル】を使用するのですぞ」

 【妖精の翼フェーンフリューゲル】……!? 

 そういえば、先ほど【ワルプルギス】で兵装を確認していた際にそのようなものがあった。

 僕の思念を汲み取っているのか、天と地が目まぐるしく回転する中、【ワルプルギス】に【妖精の翼フェーンフリューゲル】が表示される。

 僕は迷わず思念を込めて【妖精の翼】を起動する。

 その瞬間、胸の魔力生成炉が輝いた。

 魔力の供給が始まり、背中から半透明の光翼が発生する。

 

「おっーーおおおおおっ!?」

 魔力によって形作られたその翼は、落下する僕の体に浮力を与える。

 徐々に落下する速度を緩めると、僕は空中で留まることができた。

 地面まであと100Mメターないぐらいだろうか。あと、数秒でも遅れていれば衝突は免れなかった。


「んんん、無事発動できたようですな」

「ですなーーじゃないよ!」

「んん、これは失敬でしたな。ーーそれでは、気を取り直して次の試験ですぞ。そのまま飛行してみてくだされ」

「ぐぬぬ……勝手なことばかり言って……!」

 しかし、飛行ーーか。

 つまり、この【妖精の翼フェーンフリューゲル】で空を進むことができるのか。

 それは、物を空中に浮かべる浮遊魔法や飛翔魔法を用いずに空を飛べるということである。

 どれも高度な魔法だ。扱いに難しく、制御を失えば落下して怪我だけでは済まない場合が多い。

 だが、魔導帝国の技術ではそれらの問題を簡単にしてしまった。空を征く巨大な戦艦。個人を輸送する空飛ぶ騎乗箒。それらの技術がこの【妖精の翼】にも継承されているのだろう。


 それでも不安であることには変わりない。何せ、自ら空を飛ぶことなんてないのだから。

 命綱もなしに、断崖を飛び越えてみろと言われてもすぐには出来ないのだ。


 だが、不安のあまり行動に移さねば話は進まない。僕は逸る動悸の止まらないまま、思念を込める。

 しかし、飛ぶという想像が思いつかない僕はどうなるのかと考えると、魔力を受けた【妖精の翼フェーンフリューゲル】が淡く光る。


 背中を押されるような感覚に、僕はゆっくりと空中を進み出した。


「おお、進んでる……! 飛んでる!」

 歩くよりも遅い速度で、僕の体は前に進み出した。

 しかし、推力を背中から受けているからか、姿勢が安定しない。

 それならばと、姿勢を前に倒してみる。

 だが、その瞬間空中で前転してしまった。墜落の恐怖に心臓が鼓動を跳ね上げる。


「んんん、飛行の制御に難航しているようですな。それでは、【妖精の尾フェーンシュヴァンツ】を起動するのですぞ」

 言われた通り、【ワルプルギス】に思念を込めると【妖精の尾フェーンシュヴァンツ】が表示される。

 すると、腰回りに半透明の輪っかが生まれる。

 これが【尾】だって? という疑問が浮かんだが、その効果は確かにあり、姿勢の制御が楽になった。

 推進してみると、背中を押されるような感覚も軽減されたように感じる。


 ーーこれなら、もう少し速く飛んでみるか。


 その思念が【ワルプルギス】伝わったのか、僕の意思に応えるようにぐんと身体が押し出され、空中を勢いよく飛翔する。


 【妖精の尾フェーンシュヴァンツ】のおかげか、姿勢の制御は楽になったが、これでは身体への負担が大きい。

 いっその事と思い、前傾姿勢ではなく、空中で腹這いのような姿勢を取ってみる。

 すると、今まで全身に受けていた負担が大分軽減された。

 進行方向を確認しなければならないので、顔だけは前を向いていなければならなく、風圧を真正面から受けなければならないが、それ以外は概ね問題なく飛翔することが出来るようになった。


「んんんッ! 素晴らしいですぞ! よくそこまで初見で応用をみせるとは……!」

 褒めていただけるのは素直に嬉しい。

 それも、これだけ爽快に空を駆けることが出来てしまうと、否が応でも高揚してしまうのだ。

 それならば、どれだけの速度が出せるのか気になるのも自然だった。

 思念を乗せると、それに【妖精の翼フェーンフリューゲル】は応えてくれる。

 急激に加速すると、視界の端に速度計らしきものがあり、そこには『89gm/h』と表示されている。

 

 どれくらいの速度なのか、僕には分からないが100の大台に乗せてやろうじゃないか

 

 ーーそれが、過ちであると気付かずに。


「んん!? いけませんぞ、ゼロ君のいるそこは『地下実験場』。その空には限りがありますぞ!」

「ーーは?」

 初めは言っている意味が分からなかった。

 言葉としては理解できても、僕の状況に対して脳が理解するまでに時間がかかってしまった。

 

 地下ーー実験場。ということはつまり、ここは地下空間に作られた室内で、空に見えるのは天井で、遥か遠くに見える地平線は壁である。

 

 すると、【ワルプルギス】に警告が現れた。更に視力を矯正して地平線を拡大して見せた。よく見れば確かにそこには幻影魔法か何かで投影された空だった。

 今の飛行速度では数秒後に壁に激突してしまう。

ここまでお読みしていただきありがとうございます。

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