【終わりと始まりの創星神話 1巻 第二章1話】
暗転した視界が開けると、そこは見知らぬ場所だった。
寧ろ知っている場所の方が今は少ないのだが、それでもここは少なくとも僕の知らない場所である。
「それにしても暗いなあ……」
照明の灯りはなく、真っ暗な場所である。
室内であろうことは察せれるが、こんな所にわざわざ転移させた理由が分からない。
「ーーあーあーテステス。んん、聞こえますかな?」
男の声が聞こえた。声の方向は分かるが、肉声ではない。どこからか、【魔導器】で遠隔から声を届けているらしい。
「ここは何処なのかな? それと、何で僕を攫ったか教えてもらってもいいかな?」
「んっんー想像以上に冷静で何よりですな。ーーここは、『国立魔導技術研究所』。人呼んで『M.A.G.I.』ですぞ」
ですぞと言われてもなあ……。
まるでピンと来ていない僕は、謎の声は話を続ける。
「そして、小生はM.A.G.I.技術開発室長ジルド・アズリエルですぞ。どうぞお見知りおきを、ゼロ・アーベント君」
僕の名前を知っているということは、間違えて拐われたわけではないようだ。
それにしても、謎の声ことジルド・アズリエルという名前には聞き覚えがある。
それは確か、義父ーーギルバート・テオフラスの元同僚で、現在の身元引受人だ。
訳あって、【骸骨人】となってしまっている我が義父上はその特性上、普段生活を隠して過ごさねばならないため、何処かの施設に引き取られていった。
「僕のことを知っているみたいだから自己紹介は置いといて、義父さんは元気そうですか?」
「んん、ギルですか? 彼なら元気ですよー。先日、最新式の錬金釜を進呈したところ使い方が分からないと癇癪を起こしておりました故」
果たしてそれは元気だと言えるのだろうか……?
まあ、金槌を振り上げて怒っていた姿を思い出して、相変わらずの様子で何よりだ。
「ーーんんん? 何々、そんな事はどうでも良いから早く本題に、ですと? んん、それもその通りですな!」
ジルドはどうやら誰かと会話しているようだ。
その先にいる人の声は遠くて性別すら分からないが、ジルドを急かしているようである。
「それでは、ゼロ君。君には早速だが小生の実験に協力するのですぞ!」
「……お断りすることは?」
「強制参加なのであーる!」
「い、一応僕授業を抜け出して来ちゃってるんだけど……?」
「んんん! ちゃあんと校長陛下の許可は取ってあるのですぞ」
校長陛下ーーね。
つまり、校長陛下とは、魔導学院校長こと魔導帝国の帝王。【魔導王オルクスヴェーク・ビブリオライヒ・アルプトラウム】の事である。
先月、僕は彼に保護されてこの国にやってきた。半ば事後承諾というか、殆ど強制的というか……。
何にせよ、僕は彼のお陰でこの国に来ることが出来た。
「はあ……分かったよ。それで、僕は何をすれば良いのかな?」
「んん、物分かりが良いですな。ーーそれでは、こちらをご覧あれ!」
突然、照明が点く。突然明るくなったせいで目が眩み、反射的に腕で瞼を押さえる。
徐々に視界が戻ってくると、そこには2M程の『鎧』があった。
「何だ……これは……?」
照明に照らされるそれを観察すると、最初は鎧に見えたが、よく見れば違った。
それは、鎧のように見えて各部位がバラバラになった一式の防具だった。
「んんー! どうですかな? これこそ、我が帝国が誇る叡智の結晶。【多目的遂行複合魔導兵装】ーーその先行試作型の姿を特とご照覧あれ!」
先ず、目に入るのはその両腕に当たる色違いの手甲だろう。
右は白、左は黒である。そして、その見た目も大きく異なった。
右腕の手甲は白銀の金属質な見た目をしており、その爪先は鋭く尖っていた。
対して左腕は、漆黒の色合いをしていた。そして、手甲というよりかは肘下まである長手袋に見える。質感も金属ではなく、布地のようだ。
そして、独特な形状をした兜は、硝子のような半透明の目庇が備わっており、どちらかと言うと兜とより大きな眼鏡のように見える。
また、足甲ーーと言うよりこれは長靴に見える。しかし、踵にはよく分からない装置のようなものが取り付けられている。
最後に胸当てと腰当てだ。一見、普通の革鎧のように見えるが、異形さを際立たせているのは心臓辺りにある円形の装置だろう。そこから管のようなものが各部位に伸びており、その中心には鼓動のように魔力光を淡く明滅させている。
「これが……魔導、兵装?」
【魔導兵装】とは、武装型の【魔導器】のことだ。ユウキの持つ【器銃】などが分かりやすい例だろう。
「その通りですぞ。これなるは、次世代魔導兵装開発計画ーーその先駆けとなる魔導兵装ですぞ」
「なる……ほど……?」
正直、話の半分以上が理解できない。
そのーーよく分からない計画に僕がどう関係しているのだろうか?
「んんん、得心を得ていないご様子ですな? ですが、詳しい話は後にして欲しいのですぞ」
「随分と急かすね。ーーそれで、僕は何をすればいいのさ」
「んんーではでは、ゼロ君。そこの魔導兵装の前に立ってくだされ」
言われた通りに僕は魔導兵装の前に立つ。
すると、胸当ての装置が魔力光の明滅を強める。
まるでそれは、僕を迎え入れるかのようだった。
「さあ、ゼロ君。その魔導兵装を装着するのですぞ」
言われるがままに、僕は目の前にある魔導兵装を装着する。
両手両足にそして胸当てを着ていくが、初めてのことなので手間取りながらとなってしまう。
「うーん、これを一人で装着するって結構大変なんだけど……!」
文句を言うも、返事は返ってこない。
試行錯誤しながら数分かけて全身に装着すると、最後に硝子のような見た目をした目庇の付いた兜を被る。
すると、魔晶が放つ魔力光のような灯りが、眼前に大量の古式共通語の文字列と様々な図形が現れる。
「これはーーこの魔導兵装を表示しているのか」
最初、図形に見えたのは魔導兵装の状態を象徴して表していた。
魔力残量ーー武装の状態。今は待機状態にあるが、どうやって使うのだろうか?
「んっんー装着しましたな? 今、ゼロ君が着けている兜ーー【ワルプルギス】について先に説明をしますぞ」
脳内に直接【心念術】で声が届く。
ジルド曰く、この兜ーー【ワルプルギス】は、視界を補助し全身の魔導兵装を操作するためのものらしい。念話による送受信も可能としており、このジルドの説明も【ワルプルギス】を介して伝えられている。
僕の視線に合わせて照準のようなものが追従する。僕の思念にも反応するようで、視界の端にある魔導兵装の状態に意識を集中させると詳細が現れた。
そこには、各武装名が表示されている。
両腕の魔導兵装は、それぞれ古式共通語で【VMH:MN-01】と【VMH:MN-02】。
【可変式多機能手】と言うらしい。
注視することでより詳細な武装が表示されていくが、後で確認するとしよう。
そして、両足の長靴だが、こちらはどうやら背中と腰が連動しており、上から背部【妖精の翼】、腰部【妖精の尾】、脚部【妖精の靴】と言うらしい。
最後に、この胸で明滅する装置だが、これが一番驚いた。
これは、人体に備わる魔力を生成する器官。魔力炉を魔導器によって再現した装置だ。
小型故にその魔力生成量は多くないが、それでも自らの魔力を持たない僕にとってはこれは第二の心臓に等しい。
「どうですかな? んん、さぞ驚かれたでしょう?」
驚いたなんてものじゃない。
これは、正に僕の為にあるようなものじゃないか。
「んんん、それでは早速試運転と行きますぞー!」
僕が感動に打ちひしがれていると、周囲が魔力光によって明るくなる。
これはーーまた、か。
瞬間移動の気配を感じると、僕の視界はまた真っ暗となる。
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