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【終わりと始まりの創星神話 0巻 第七章6話】

「魔導王。あれは一体『何』なのですか?」

 近くに寄って来たカトリアが問いかける。

 流石のこの状況では争いを続けるつもりはないらしい。

「ふむ、私の生徒でもない君に講義をするつもりはないのだがーー特別である。カトリア嬢、君は魔物がどこから湧いて出てくるか知っているかね?」

「嬢……という歳でもないのですが。まあまあ、いいでしょう。悪い気はしません。しかし、魔物ですか? それとあの異形の者と何か関係が?」

「無論あるとも。あれこそ、我らが人類の行き着く先なのだから」

「は? あの異形がですか? 冗談は止めていただきたいですね」

「では順を追って説明しよう。そもそも魔物の発生条件についてだ。大別して3種ある」

 ヨミは指を一つずつ立てて説明を続ける。

「一つは魔力溜まりと呼ぼれる『地脈』の吹き溜まりから自然発生するものだ」

 地脈とは、大地の奥底に流れる魔力の通り道である。人間で言うところの血管のように、魔力が通う経路がある。

 その通り道は土地が肥沃になり、生命の活性化が促されるなど恩恵もあるのだが、その反面いくつかの問題点もある。

 それが魔物の自然発生と凶暴化だ。

 淀んだ魔力は澱となり悪性となった魔力は結晶化して魔石となる。それらから魔物は地脈に記憶された『型』を元に魔物化するのだ。

「次に、既存生物の魔物化。特異な条件と状況により、生物が魔物化する」

 先天的な魔物化は、元々魔石を体内に有しており、成長するにつれて魔物化する。死亡するまで魔物化しない場合もあるが、その場合、死後『死骸種ウントーテ』になる可能性がある。有名なのは『幽霊トーテンガイスト』や『骸骨人スケレット』だろうか。

 後天的な魔物化とは、外部から魔石を取り入れ魔力炉を汚染された場合である。汚染度合いにもよるが、意識の混濁、凶暴化、魔物と近似の行動を取る、などである。最終的に魔物化した後、その大半は死に至る。

「そして、魔物同士または既存生物との異種交配によって生まれる。魔物と近しい種族であればあるほど、生誕率は高い」

 過去に、亜人種は人類か魔物かどうかの議論があった。

 その結果は、大規模な亜人種狩りである。結局のところ、魔力炉の有無と心臓に核となる『魔石』があるかどうかで人類と魔物を『区別』するようになった。

 そこまでに至るまで、どれほどの亜人が殺されたのだろうか。文献によれば、人類に友好的な亜人種でさえ、全体の3割まで減ったとのことである。

 ーー思考がそれてしまったので意識を戻す。

「これら三つの魔物発生条件を単独で満たす生物ーーそれを『魔王種デーモネン・ラッセ』と私たちは呼んでいる」


「あのような異形が……人類のーーそ、それが何故人類の行く末なのですか……? どこにそのような証拠などーー」

「私だ」 

「……は?」

「私がその『魔王種』の成体ーー『魔神マギウス』である。人という枷から外れ、埒外の存在となった者だ」

「ーーーー」

 絶句するカトリア。

「……つまり貴方は、その身から魔物を生み出すことができると?」

「その考えは些か短慮であるな。私は『魔王種』の成体。個として完結している存在だ。そして、成体に成り損なったものーー魔に連なるモノの王。つまり『魔王デーモネンケーニヒ』である」

「魔神……魔……王……」

 同時に幾つもの情報にカトリアは理解が追いついていない様子である。

「『魔王』はそれ自身が祖となり、子となる魔物を生み出す。そして、甚大な被害を齎すのだ。それこそ、世界を終末に導くようなーー」

 過去にあった『魔王』はそれこそ人類の進退を賭けるほどのものだった。一歩間違えば、絶滅の憂き身に逢うほどのである。

 

「それとな、カトリア嬢。君にーーいや、君たちにも関わりのある話なのだぞ」

「は、い? 私たちにも関係していると? 一体何の話でしょうか?」

「『救世主セヴィア』である。彼もまた、『魔王』に成りかけていた。それ故に滅ぼされた」

「……俄には信じ難いです、が……彼がどのような最期を迎えたのか。一部の者にしか伝えられておりませんが、成程ですね。全てを信じたわけではありませんが、納得はしましたよ」


「それは何よりである。ーーそれで、講義はここまでである。それを踏まえた上でカトリア嬢よ。君はどうするのかね?」


「愚問ですね。まさか私どもがあなた方に協力するとでも? ーーと言いたいところですが、私の魔力は残り少なく、残った戦力もあの異形によって今もなお数を減らしております。どうせ散るのであれば、まだ生き残れる可能性に賭けましょう」

「素直に共同すると言えないのかね?」

「ご冗談を。あの異形の次は貴方ですよ、魔導王」


「やれやれ……」

 体内で練り上げていた魔力を放出する。

 これまで講義をしていた間も、ただ話していただけではない。

 この身に蓄積された魔法の極地。その全てを解放する。


「ーー第一神器権限【魔導書庫(グリモワール・ビブリオ)】」

 ヨミの背に魔法陣が現れる。

 光背の如く現れたそれは、複雑な幾何学模様を描く。その中央は異次元の空間と繋がっており、その先に見えるのは巨大な書庫であった。

 幾千幾万の書架には、膨大な魔導書が保管されている。

 それらが、書庫の中を一斉に飛び出していった。

 一見、無軌道にも見えるそれらは、一人でに開かれると数多の魔法陣を生み出していた。

 それら全てが、ヨミという器に蓄積された魔法である。それと同時に、魔法を構築する時間を省略するための儀式神殿でもある。


「見るが良い。これが、魔導王の力である」

 その瞬間、極光が視界を覆い尽くした。

 巨大な光の柱が、黒貌の獣を押し潰す。

 あれは物質化した魔力そのものである。極限まで圧縮された魔力は質量を持つのだ。

 人はそれを『魔導砲』という。ユウキが放ったそれとは次元の異なる、真なる魔法だ。

 魔導砲は地面ごと大地を穿ち、大きく底を開ける。それだけに止まらず、幾条もの魔導砲を放った。

 誰が見ても過剰と言えるそれらは、落石のような音を立てながら、極光の柱を作り出しては崩れていく。

 

 誰もが固唾を飲み見守る中、動く影があった。

 それは、物質化した魔導砲を割砕きながら伸びる幾本もの触手である。


 その中央には、黒い蕾のような形をしたものがあった。

 その姿をボロボロにしながらも、中から無傷の黒貌の獣が現れる。

 絶え間なく、浴びせられる魔導砲を前に黒貌の獣が動き出した。

 触手を盾のようにして魔導砲を受けて消滅しながらも、ヨミに向かって一直線に迫り来る。

「化け物め……!」

 騎士団員を触手で弾き飛ばし、両手に神器を持つクルスの左腕をその神器ごと食い千切り吹き飛ばして疾走する。

 ヨミを守ろうとするユウキを蹴り飛ばし、鞭のようにしならせた触手でカイとレイスを地面に叩き付ける。

 魔法陣である神器を盾のようにして構え、吶喊するカトリアを割れた無貌の口が大きく裂け、上半身が大きく膨らむと息吹ブレスを吐いた。

 それは、ヨミが放つ魔導砲と同じく、物質化した砲撃はカトリアの神器を割砕き、その全身を灼く。

 

「む、よもやこれほどまでとは……!」 

 そうして、ヨミの眼前まで迫り来る。

 【黒霧の夢ネーベルトラウム螺旋槍シュピラーレランツェ】で迎撃するも、僅かに身を捩り直撃を躱した。その体の半身を抉り穿ちはしたものの歩む足を止めず、遂に黒貌の獣はその手を手刀のようにしてヨミの身体を貫いた。

 手刀が腹部を貫き、臓腑を触手が侵す。

 蠢く感触に生理的嫌悪感が湧いた。

「私を侵食するつもり、か。ーーだが、この距離ならば逃さんぞ」

 宵闇の魔眼が輝く。

「第二神器開眼【夢幻(オーレス イシュト)(ヌーア)(アルプトラウム)】」

 両眼から発せられる光は、うつつ夢幻ゆめまぼろしの境を曖昧とさせ周囲の空間を歪めた。

 それは、泡のような球体に黒貌の獣を閉じ込めると、がくりと力を失って項垂れる。

 

「……さて、ゼロよ。そして、その主人たるクロネよ。このまま目覚めなければーー」

 ーー封印か。それとも抹消か。

 第二神器まで使わされたのは実に数十年ぶりである。

 魔導砲でさえ決定打にならない相手である。このまま暴走を続けるのであればーー第三を発現せざるを得ないか。

 

 すると、僅かだが黒貌の獣が身動みじろぐ。警戒を密にして、いつでも神器の発現を出来る姿勢を取る。

 予備動作なく起き上がる黒貌の獣は、無貌の口を大きく裂けるまで開けた。 

「第三神器降臨『黄泉オルクスヴェークーー」

 第三の神器を発現する瞬間。

 黒貌の獣は大きく口を開け、そこからクロネを吐き出した。

 すると、ボロボロと黒貌の獣は体毛が抜け落ちるように崩れだす。

 その中からは、気を失った様子のゼロが現れた。

「……どうやら終わったようであるな」

 その瞬間、周囲一帯が日が陰ったかのように暗くなる。

 上空を見上げれば、そこには巨大なふねがあった。

 それは、魔導帝国の技術の粋を結集して作り上げた飛空挺ーー【魔導艇マギアルフト・シュラハトシッフ】その旗艦【ガーガントゥーア】である。

 いくつもの随伴艦を伴って現れたそれは、後部艦底の搭乗口から何十人もの兵士が降下する。

 全身を重厚な鎧ーー【魔導器マギアマシーネン】を軍事転用した【魔導兵装マギ・ヴァッフェ】に身を包んだ彼らは、ヨミ直轄帝国近衛兵カイザーリヒ・リッターである。

 その内の一人、上級指揮官が着地すると急いだ様子で駆け寄る。

「陛下! ご無事でしょうか!?」

「うむ。この通り余は大事無い」

 だが、上級指揮官の目線が腹部に向いていくことに気付く。

 そこはつい先ほど黒貌の獣に手刀によって貫かれた跡が残っていた。

 すぐさま外套を合わせて隠す。

 すると、上級指揮官はガタガタと身体を震わせて、両手を頬ーー兜があるので兜を覆って叫び出す。

「陛下ぁ! 陛下の御身に何かあると私が責任を取らなきゃいけないのですよ!?」

「ふむ。君はーー何も見なかった。ーー良いな?」

「ううぅ……後で見つかって怒られても私は知りませんからね……?」

 さめざめと泣き言を漏らす上級指揮官は肩を落とす。しかし、すぐに切り替えたのか、周囲の状況を確認し続々と降下する他の兵士に指示を飛ばす。

 気を失って倒れているユウキらを医療班が回収し、治療用の輸送容器を持ってくる。棺のようなそれに彼らを収容すると薬液が内部に満たされていった。

 そして、生き残った四法睡蓮正騎士団はというと、全員が戦意を失った様子で大人しく拘束されていった。

「ーーさて、これから慌ただしくなるな」

 この一件に関して、魔導帝国は聖宗救国に責を問わねばなるまい。場合によっては制裁を。そして、戦争になるかもしれない。

 高まり続けていた緊張の糸は、今日この日に切られてしまったのだから。


 そして、ゼロとクロネ。この二人もだろう。

 眠り続ける二人の顔は穏やかなものだ。

 彼らの運命は今や私の手の内となった。生かすも殺すも、私の意志一つで決まる。

 

 ーーだが、それでも願わずにはいられない。

 彼が、彼女がーー世界に絶望を覚えず、希望に満ちた生を歩んで欲しいと。

 

 だからーー

 

「今だけは、どうか安らかな夢を見るが良い」

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