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【終わりと始まりの創星神話 0巻 第七章5話】

「終末のーー獣……」

 呟きは空に消えて、静寂だけがその場に残る。

 誰も彼もが息を潜め、そこに顕現あらわれ存在モノから目を離せずにいた。

 そこに居るのは、人型ではあるが耳目は見当たらず、全身を真黒な体毛に覆われた人とも獣ともつかない。

 それと、明らかにその異形さを際立たせているのは、その背から生える大小様々な触手である。だが、軟体生物の持つそれと異なるのが獣のような体毛に覆われているように見える事だ。


 その異形がゆらりと、地面に降り立つ。

 つるりと体毛の生えるした黒貌からはなんら感情は読み取れない。

 しかし、その黒貌がばくりと別れると、雄叫びを上げた。

 周囲を震動させるほどのそれは、それだけで心の弱いものを恐怖で膝をつかせる。

 一部の騎士団の者たちが口から泡を吹いて失神し、倒れる始末だ。


 その瞬間、背から生える触手が一斉に伸び、倒れ伏した騎士団員を貫く。

 断末魔を上げる彼らは苦悶と呻き声を上げながら引き寄せられると、その身体が急速に崩壊していった。

 衣服と鎧だけが音を立てて落ちていくと、カトリアが叫び声を上げる。


「何をしているのです! 総員迎撃体制!」

 カトリアの激に我に帰る騎士団員は剣と盾を構えて密集隊形を取る。

 すると、触手は一斉に暴れ回り近くにいるものから手当たり次第に襲いかかる。

「3人とも、私の背後に。側を離れないようにするのだぞ」

 迫り来る触手を前に迎撃しようとすると、魔力弾が触手を穿つ。

「お前たち……!」

 しかし、ユウキら3人はヨミの前に立ち、それぞれの神器を構える。

「へっ、先生がやられちまったらどうするってんだ」

 カイの神器が触手を焼き払う。それでも大量に押し寄せる触手をユウキが撃ち払い、撃ち漏らしをレイスが拳蹴で対処する。

「そうよ。私たちが相手している間に先生は魔法で何とかして……!」

「……よかろう。ただし、無茶をするんじゃないぞ」

「無茶で何とかなる相手だったらいいんだが」

 それは、レイスの言う通りだった。

 暴れ回る触手は縦横無尽に襲いかかり、手当たり次第に迫り来る。

 また、その再生能力も脅威だった。切り裂いた先から体毛のような細かな触手が新たに生え寄り集まって再生する。

 次に、その触手に貫かれると、有機的なものは取り込まれ吸収されてしまうことだ。

「うわあああっ!? た、助けてくれ……グボっ……」

 足を触手に掴まれて引き摺り回された騎士の一人に、他の触手が殺到して全身を貫かれ絶命する。

 そして、その騎士も全身を身体を崩壊させていったが、その前に全身を黒い血管のようなものを浮かび上がらせていた。

 恐らく、体内に細かな触手が入り込み、全身を余りなく取り込まれた結果、身体が崩れ去ったように見えるのだろう。

「ぐっろッ……! なんかあったよな、あんな感じで魔物の魚が川に落ちた肉に群がる奴……」

鋸歯脂鮭ラックスピラーニャであるな。産卵時期になると海から川へ遡上しに来るのだが、例年注意喚起を行なっているにも関わらず捕獲に行く生徒が絶えんのだ……」

 産卵時期は特に外敵に対して気性が荒くなり、近寄る生物全てに群れで襲いかかる。それは同種にも向けられることもあり、共食いも珍しくはない。

 そうして選りすぐられた鋸歯脂鮭は脂が乗っており、その身は実に美味である。

 だからこそ、捕獲しにいく者も絶えないのだが。

「先生、皮を炙ったの好きよね。葡萄酒だけ飲んでる姿はいかにもーって感じなのに、お酒の肴がおじさん臭いっていうか」

「あー分かるわー。寮で飯食ってる時も飯っていうか、雑貨屋で売ってる缶詰のおつまみセットみたいな」

「やたらと詳しいな。ーーまさか、お前ら俺に黙って飲酒してないだろうな!?」

 戦闘中にギャイギャイ騒ぎ始める3人を他所に、ヨミは思案する。

 突如現れたあの『黒貌の獣』の正体は恐らくゼロだろう。いや、ゼロとーークロネだ。

 何故あのような姿に変貌したのか、察するあまりだが、凡その見当はついている。


 ーーあれは、神器だ。


 公には知られていない、神器の次の段階。

 魂の具象化。精神体である魔力を形ある物質に昇華する。神成る器が受肉した形態である。

 それは、生きた現象ーー魔法と同意義である。


 だが、幸いなことにあれはまだ『幼体』だ。神器に受肉したばかりで、餌となる魔力を求めて、周囲の魔力あるものを侵食しているだけに過ぎない。

 しかし、あのまま『食事』を続けていれば、いずれーー『成体』となり新たな『魔王種』の誕生である。

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