【終わりと始まりの創星神話 0巻 第六章6話】
「つ……強い……!」
少しずつだが、確実に数を減らしていく騎士たち。
三人のその余りもの強さに素直に感嘆の声が漏れ出た。
だがそれにしても、おかしいと僕は思う。
彼らの強さは神器を発現したからなのは間違いない。
しかしそれでも、彼らの強さは異常過ぎるように見えた。
神器とは、己が魂の写し身。そして、魂とは自らの魔力の結晶である。脳内に広がる星の如き精神の内海を通じて、魔力を生成する魔力炉から溢れる魔力を顕現させ、自在に操るのが現代の神器だ。
それによって、神器は大規模な魔法や継続する戦闘から発せられる魔力を無駄に消費せず、そしてそれらを制御するための制御装置のようなものだ。
その形は不定で個々人による。しかし総じて神器の発現は、あくまで術者の全能力の解放である。それによって中には身体能力の向上という恩恵もあるだろう。
だがしかし、あれ程だろうか?
彼らの戦いを、その様子を呆気になって眺めていた僕は、隣に立つヨミの声で意識を現実に戻した。
「彼らの神器が珍しいかね?」
「あ……ああ。うん、そうだね。ーー彼らの神器は戦闘に特化させていて無駄がないというか……いや、初めから神器に指向性を持たせている……?」
ユウキやカイ、レイスは学生だ。そして、まだ年若い。クルスやカトリアのように、騎士職として長い年月を戦闘に身を置いてきた人とは異なるはずである。
そもそも、あの若さで神器を発現出来る事自体がその才能の豊かさを証明しているのだが、稀であって存在しないわけでもない。
しかし、幾ら才覚に優れていたとしても、何十人ともいる重装備の騎士を相手にああも優勢にはなれない。
「ほう、良い着眼点だ。ーー特別授業だ。想像している通り、彼らの神器は普通の神器とは根本から異なる」
「それはーーユウキが持つ武器、魔導器と何か関係している?」
「然り。やはり君は魔法に対して深い造詣があるのだな」
「……まあ、それほどでも……」
「何をそう謙遜するのかは分からないが、話を戻すとしよう。あれなるは魔導帝国の技術の粋ーー『模造神器』である」
「模造……神器……⁉︎」
「うむ。厳密にはその試作品である。まだ到底神器のような神秘を得てはいないがーーその代わりに、あのように物質という器【魔導器】に神器の核と成す魂の写身を降臨ろしている」
「ということは、レイスやカイの武器も魔導器だったのか……」
形や質量に囚われず、神器という『魔法』を『武器』として用いることのできる技術。
そうすることによって、神器の能力を一方向に収束しているのか。
「神器の発現とはそれだけで魔法の極致である。誰でも真似できる代物ではないが、魔導器を依代とすることでその過程を簡略化しているのだ。それを応用した結果、より魔力の効率化に成功したのである」
神器はその本質が魔法故に維持するだけで魔力を消費し続ける。並の術者であれば、数分と持続しないだろう。
「神器も太古の魔法。その神秘は美しいとさえ私も思うのだがーー少々古めかし過ぎてな」
それはまるで、言い訳染みた言い方だった。
だけど、人類の叡智を古いの一言でその在り方さえ変えてしまうのは、この人が魔導王たる所以なのだろうか。
人によっては神器を神聖視している場合もある。魔法を超えた超常の力というのは、それだけで神格化されることさえあるのだ。
「ーーようやく追い付きましたよ、魔導王」
聞き覚えのある声に振り向く。
そこには、カトリアとその背後にクルスが居た。
……これは不味い状況になった。
想定していたとは言え、考える限り最悪の状況である。
瞬時に状況を察知した二人は既に臨戦体勢である。
ユウキら三人は騎士の数を減らしているものの未だ戦闘中であり、ヨミは結界を破壊するための魔法を構築中である。
「……ヨミ、聞きたいんだけど、後どれくらいで魔法は完成しそうかな……? 出来ればなんだけど、早くして欲しいかも」
「うむ、その懸念は尤もである。ーー六分と四十二秒だ」
見れば、ヨミの周りには奇怪な紋様とも法陣とも分からない魔法の構築が成されていた。
触れれば崩れてしまいそうな、繊細かつ緻密に組まれた魔法の構成術式は、それだけで芸術品の如きである。
確かにこれは、少しでも他の魔法で干渉してしまえば破綻してしまいそうである。
「ーー頼まれてはくれないかね?」
「最悪だよ……ホント……」
その言葉の意味を僕は瞬時に理解した。
いや、分からないわけがない状況である。
ユウキら三人はどう考えても助けに入れない状況で、ヨミは動けない。
ならば、この場においてカトリアとクルスを止めれるのは僕らだけである。
しかし、相手は救世教団が誇る四法睡蓮正騎士団の長とその次席である。
クルスの神器、その能力は自在に操る四振りの剣と治癒魔法。
そして、カトリアの神器は魔法陣のようだが、見た限り魔法防盾としても使えるようだ。それにレイスの足を砕いた握力ーー指先が触れただけで僕なんか容易に潰されてしまうだろう。
果たしてそんな二人を相手に勝てるだろうかーーなんて、そんな大それたことは考えに無い。
これは、どうにかしてヨミの魔法を完成させるまでの時間稼ぎだ。
「金貨一枚の対価がこんなにも大きいとはね……」
それに、彼女らの目的は僕の捕縛だ。
少なくとも、殺される心配は無いと思いたい。
そんなあまりのも矮小な希望的観測を思いながら、避けられない絶望的な戦いに臨まなければならなくなってしまった。




