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【終わりと始まりの創星神話 0巻 第六章5話】

「全く、人の話を聞く間もないのであるな。だが仕方もあるまい、カトリアの相手は私が受け持とう」

「あ、ちょっーー」

 ユウキが制止しようとするも束の間、ヨミは自身の身体を浮かせて飛び出す。

 自身の周りに【黒霧の夢】を纏わせ、互いに肉薄すると激突した。

 カトリアはその五指をまるで顎のように開き、ヨミに掴み掛かる。だが、その途中ヨミに触れる間際にその手は止まる。

「まるで溶けた鉛に手を突っ込んでいるようですね……!」

 停滞する指先は、辛うじてヨミには届かない。

 しかし、魔法を主戦闘にしているであろうヨミが接近戦を試みるのは何か策があるのだろうか。

「ほう、私の【黒霧の夢】に真っ向から掴み取ろうとして出る感想がそれかね。どうやら、稀有な経験があるようであるな」

「おやおや、魔導王ともあろう方が、物の例えと言うものをご存知ないのですか? ーー因みにですが、溶けた鉛程度でしたら、私には大したことが無いということですよ……!」

 カトリアの指が強引に【黒霧の夢】を引き剥がす。

 その僅かに生まれた隙間に手刀を突き刺した。

 ヨミの背中ーー羽織る外套を突き破り、カトリアの手が生える。

「ーー先生ッ⁉︎」

 レイスが慌てて叫ぶ。

 しかし、カトリアの手には血が付いていなかった。

 どうやら、辛うじてカトリアの手刀を逸らして回避したらしい。

「恐るべき膂力であるな。だが、単純な力だけでは私はーー」

 ヨミが言い終える前に、カトリアはすぐさま手刀を抜いてヨミの腕を掴むと、そのまま一本背負を決めた。

 凡そ人が地面に打ち付けられた音ではない衝撃音がなり地面を揺らす。地面が大きく陥没し、網目状にひび割れた。

 そして、腕を掴んだままのカトリアはヨミを引き釣り出すと、そのまま何度も地面へと叩き付ける。

 そして、こちらへと放り投げると、全身の服をズタボロにしたヨミが僕の足元まで砂埃を上げながら滑ってきた。

「ーーは?」

 思わず僕は声が漏れた。

 いや、弱過ぎるのだけれど?

 いやいや、仮にも『魔導王』なんて言われる伝説上の人だよ?

 それが、まるで赤子の手を捻るようにこんな一瞬でボコボコに打ち負かされるなんてないと思ってもみなかった。

 しかし、何故かカトリアは渋面である。見れば、黒霧が彼女の両手に纏わりついており、装着している手袋を蝕んでいる。すぐさま脱ぎ捨てて放り捨てると、ボロボロと崩れ去った。もう後少しでも遅ければ彼女の手指が同じ末路を辿っただろう。

「ふむ……やはり、試してみたが難しいのであるな……」

 むくりと何事も無かったかのようにヨミは立ち上がる。

 服の裾に付いた埃を払い、平然とした様子だった。

 身体強化による物理的な耐性を上げていたのだろうか。それにしても、あれだけボコボコにされて無傷とは。

「おいおい、先生さあ、接近戦は全然なんだからよ、あんま無理して前出んなよな」

 カイが呆れて溜息を吐く。

 そして、ずいとヨミを押し退けて前に出た。

「一応、俺らの護衛対象なんですから大人しくしていて下さい」

 続いてレイスが前に出る。

「先生の強みは、後ろからばんばん魔法を撃つことなんだからね」

 そして、ユウキがヨミを庇うように前に立つ。

 三人から思い思いに言われたヨミは、少しだけ落ち込んだような様子だった。

「む……だがしかし、私は生徒を守らねばならぬのだがな……」

 それで、ユウキの制止も聞かないで吶喊をしたわけか。結果的に無傷ではあるのだが、ああもあっさりやられては是非もない。

「でもよーあの糸目のちゃんねーが一番ヤベーぜ。俺たちがガチっても勝てんな」

「背後にはクルスも控えているのよね。まだ、動きは見せてないけどーーあの神器、多分だけど飛んでくるわよね?」

「神器の系統から見て自律するだろうな。遠当ての斬撃も脅威だぞ」

 レイスが言い終えると、クルスは自身の周りに滞空していた【聖浄四剣】の切先を一斉にこちらへと向ける。

 そして、手をこちらへと向けると、【聖浄四剣】が矢の如く放たれた。空を切る音と共に、その切先が一番前にいたカイに襲いかかる。

「散開ッ!」

 ユウキの怒号と共に、三人は同時に飛び退く。

「うげっ⁉︎ やっぱり付いて来るのかよ……!」

 逃げたカイの後ろから迫る【聖浄四剣】を直槍で弾く。だが、続け様に追う残りが同時にカイへと迫った。

 その内の二振りをレイスが拳と蹴りで打ち払い、残った一振りをユウキが魔力弾で迎撃する。

 ほぼ同時に四連撃を凌いだ三人だったが、弾かれて空を舞った【聖浄四剣】は空中で姿勢を正すと、すぐさまその切先を向け放たれる。

 左右から同時に薙ぎ払い、避けた先に突き込み、そして剣身から魔力を迸らせ、魔力で形成された刃を飛ばす。

「ちっ、キリがないわね……!」

 辛うじて凌ぎ切っているが、完全に防戦一方だった。

 だが、そこへヨミが【黒霧の夢ネーベルトラウム螺旋槍シュピラーレランツェ】を撃ち込む。

 一瞬にして打ち払われる【聖浄四剣】。そして、それは同時にクルスを狙う。

「させませんよ……!」

 だが、その間にカトリアが割って入る。

 彼女は素手で【黒霧の夢・螺旋槍】を両手で掴み取ると、捻り取るように引き千切る。

 そして、カトリアが駆け出して突っ込んで来た。

 その標的はユウキで、一気に肉薄すると掴み掛かろうとする。

 即座に反応したユウキは魔導器銃をカトリアに向けて魔力弾を撃つ。しかし、ヨミの【黒霧の夢・螺旋槍】すら歯牙にもかけないカトリアである。彼女は魔力弾が当たる直前で魔力弾を掴み握り潰す。

 これは、ユウキの魔力弾が決して弱いわけではない。

 例えば、僕に同じ魔力弾を撃たれたら、多分一発で死ぬと思う。それに、高速で連射する魔力弾は僅かな間に何十発も撃ち続けているというのに、避ける動作を取ることもなく、直進しながら防ぎ切れる力量の高さだから成せるのだろう。

「先ずは一人貰います……!」

 開いた五指が、遂にユウキに迫る。

「させるものか!」

 間に割り込んだレイスが足でカトリアの手を蹴り上げる。

 いや、蹴り上げられたように見えてその直前で手首を捻り、レイスの足を掴み上げていた。

 ぐしゃり、と。肉と骨が潰れ砕かれた音が響いた。

「ぐううッ! ーーうううッオオオオオオオォッ‼︎」

 しかし、レイスは掴まれた足を軸に自身の身体を回して回し蹴りをカトリアに叩き込む。

 腕を盾にしてレイスの蹴りを防がれたが、掴まれていた足は解放された。

 蹴りの反動で跳び退がり、地面を擦過させながら受け身を取る。

 だが、足の負傷からかすぐには立ち上がれないでいた。

 当然、それを見逃すカトリアではない。

「おやおや、中々やりますね」

 五指を広げ、レイスへ追い打ちをかけるカトリアだが、不意にその足を止めた。

「レイス、そのまま伏せ給え」

 立ち上がろうとしていたレイスは、慌てて仰向けになって身を低くする。その直上を、魔力の光線が駆け抜ける。

 先程のユウキが放った砲撃級の魔力弾がカトリアに放たれる。彼女は手の平を差し向けると、魔力弾と衝突した。

 素手にも関わらず魔力弾を防ぎ切ると、彼女はにやりと笑う。

「この程度ですか?」

「ーー無論、一撃だけではないのである」

 即座に魔力弾が放たれた。

 同じように防ぐカトリアだが、間髪入れずに魔力弾が放たれる。

 無詠唱無動作で、何の手作や魔法陣を用いず放たれるそれは、一見ただ魔力の塊をぶつけているようにも見える。

 だが、それ故なのか魔法を発動する為の初速が早い。

 回避すら追いつかないカトリアは、今度は防戦一方になった。

「ほら、レイス今のうちよ」

 倒れ伏していたレイスをユウキとカイが近寄り肩を貸して立ち上がらせる。

 そのままヨミの方に近寄ると、ヨミはレイスの足元に魔法陣を展開させた。

 すると、明らかに酷い骨折をしており、肉ごと潰されていたレイスの足が見る間に修復されていく。

 どうやらあの魔法陣は、骨折すら治せる【治癒魔法】の効果があるようだ。

「完全に治したはずであるが、余り無茶をするでないぞ」

「はい、先生……すみません……」

 完治したレイスは立ち上がり、目を伏せる。

「反省しているのであればそれで良い」

 話しながらも魔力弾を撃ち続けるヨミに疲労の色は見えない。

 治癒魔法はそれだけで大量の魔力を消費するはず。そして、ヨミはずっと魔法を使い続けているのに、消耗している様子はない。この人の魔力は無尽蔵なのかと思ってしまう。

 だが、戦況は一度仕切り直され、硬直していた。

 カトリアはヨミが抑え、繰り返し放たれるクルスの神器をユウキらが迎撃する。

 カトリアとクルスも今のところ疲弊している様子はないが、決定打に欠ける状況で消耗戦を続けていてもジリ貧なのはこちらだろう。

「同じ手ばかりで少々飽きてきましたね。ではでは、私から手を加えるとしましょうかーー【聖方四陣】」

 カトリアの周りを囲うように、正方形の魔法神が現れる。

 それは、魔法防盾の効果を持つようで、ヨミの魔力弾を弾き防ぐ。

「ほう、結界を構成する神器を防盾にしたのであるな。成程、四角よつかどの魔法陣は堅牢である特性を生かしていると見える」

 感心している場合なのかと思うが、ヨミは魔力弾を撃つのを止めない。しかし、カトリアの神器はそれらを全て弾き、ゆっくりと歩み始める。

「この程度の魔力弾では効果が無いのであるな。ーーならば、これでどうかね?」

 ヨミは足元に新たな魔法陣を展開する。

 見たこともない奇形なそれは、魔力光を放ちながら輝いた。

 すると、背後の瓦礫の山が持ち上がる。

 元々は家屋だったそれらが自重を無視してゆっくりと浮遊し始めると、それらを一斉にカトリアとクルスに射出した。

 大量の瓦礫が雨霰の如く降り注ぐ。

 その質量と数に、カトリアは一時的に足を止め、クルスは神器を引き戻して迫り来る瓦礫を切り払う。

「よし、退路は確保した。一度離脱して距離を稼ぎ、この結界を破る手筈を整えるのである」

 僕らの退路を塞いでいた瓦礫は綺麗に取り払われた。

 代わりと言わんばかりに、新たな瓦礫の山が正面に作られた。

 生き埋め状態となったカトリアはーーあの神器の防盾性能だ。恐らく死んではいないだろう。


 誰がとも言わずに僕らは反転して走り出す。僕の前をレイスとカイが、僕の隣には空中から身を浮かして滑空するヨミ。殿には魔導器銃を構えながらユウキが追走する。

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