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【終わりと始まりの創星神話 0巻 第六章3話】

「ほう、これは素晴らしい結界であるな」

 瞬間移動による転移が始まりかけたが、その魔法をヨミは解除する。

 ーーいや、これは自ら解除したのではない。町を覆う結界によって転移が阻害されたのだ。

「お褒め頂き光栄です。しかし、申し訳ないのですが、貴方がたをこの町に閉じ込めさせていただきました」

 にやりと笑うカトリアは、先程の意趣返しと言わんばかりである。

 暗転しかけた視界は既に晴れており、足下の魔法陣が虚しく魔力光を明滅させていた。

「ふむ。やはり、あの程度の束縛では足止めにもならなかったか」

 そう言えば、ヨミはカトリアと二人で戦闘していたはずだった。

 こちらへ救援に来たのだから、てっきりカトリアとは決着を付けたのかと思ったが、彼女を置いてこちらへと来たらしい。

「ええ、ええ、そうですとも。しかし、戦いの最中突然居なくなるとは思いもよりませんでしたよ」

 笑みを浮かべるカトリアは、その手をクルスの肩に乗せる。

 ビクリと、体を強張らせるクルスの額からは、脂汗が滲み出ていた。緊張の余りに足を震わせ、歯をガチガチと打ち鳴らしている。

 それもそのはず。クルスはーー彼はカトリアを裏切り、僕の抹殺をしようとしていた。

 彼は目的を達成した後にその責任の全てをカトリアに押し付けて、この町から離脱しようとしていたに違いない。

 しかし、ヨミがこの場に現れたこともそうだが、それを追ってカトリアが乱入し、あまつさえ結界まで張られてこの町からの離脱も難しくなってしまったのだろう。

 獅子身中の虫の末路とは、詰まるところ粛清である。自身のその結末を察してか、クルスは身動き一つ取れないでいた。

「あーー姉上……!」

 絞り出すようにクルスは喉の奥から震えた声を出す。

 しかし、対照的にカトリアの表情は穏やかなものだ。

「おやおや、今は任務中ですよクルス副長。ーーしかし、『亡霊』の足止めご苦労でした。それでは、引き続き任務の全うをしますよ」

 カトリアの言葉に、クルスは驚愕に表情を変えた。

 しかしそれは、僕もである。

 『処刑隊』と呼ばれている人らの長なのだ。てっきり、僕はこの場でクルスを粛清ないし何かしらの制裁をするものだと思ったからだ。

 姉弟だからなのか、しかしクルスの心中は穏やかではないに違いない。

「そいつは僕を殺そうとして、この町での虐殺を起こした罪を貴女に被せようとしていたんだよ?」

 彼らの行いは明らかに侵略行為だ。

 最悪、国家間の戦争に発展しかねないだろう。魔導帝国と聖宗救国。二国とも大国ではあるが、その差は歴然だ。繁栄を極める魔導帝国と、先程ヨミが言っていたように斜陽を迎える聖宗救国では国力に途方もない開きがある。

 例え戦争にまで発展しなくとも、親交を結んでいない国同士。他国の住人を突然蹂躙しその命を奪った行為を咎められれば、その責は重く極形など免れようもない。

 だがしかし、カトリアは極めて穏やかに僕の言葉を受け流していた。

「おやおや、私が『亡霊』の言葉に耳を貸すとでもお思いですか?」

 まあ、カトリアからすれば僕は推定敵性人物である。

 彼女にとっての重要な証言を持っていると言われていても、ここまで非協力的なのだから僕の言葉に信用がないのは間違いない。

「ーーですが、それにはある答えを一つお出ししましょう。私は、クルスの行いを最初から知っていました」

 その言葉に驚いたのは僕やヨミだけではない。

 当事者であるクルスもだ。

「おやおや、気付いていなかったのですか、クルス副長。貴方を大主教の下に送り出すのを許可したのは、誰だと思っているのですか?」

「で、では団長はーー姉上は最初から私を……?」

 怯えるクルスは、振り返りながらカトリアを見る。

 彼女は尚も笑みを浮かべながら、その思惑を語る。

「貴方は私とは違い、昔から大主教からも気に入られていましたからね。あの老人の下に送れば取り込もうとするのは明白でしたから。ーーですが、それも今日この日まで。これで、材料は全て揃いましたから」

 そして彼女は滔々と語る。

「救世教会ーーいやいや、聖宗救国そのものに対する粛清。その為には、聖王家や教団の腐敗を告発する証人が必要でしたから。ついでに、『魔導王』の首級を挙げれば、私の発言権は盤石のものとなるでしょう」

 仮にも一国の主をついで扱いとは。これにはヨミも困ったような表情をしていた。

 そして、ユウキら三人は明らかに不機嫌そうな表情を浮かべていた。

「ところで、なんだけどさ。僕がそのーー『亡霊』だっけ? そんな風に呼ばれる理由について、全然身に覚えがないんだけど?」

 僕が追われる原因。

 確かに僕は過去にバルバロッサで暮らしていた。

 簡素な食堂で身を粉にして下働きをして日銭を稼ぎ、薄給に嘆きながらクロネの食費にその殆どを費やして更に涙を飲んで清貧に暮らしていた筈である。これといって、何か犯罪を犯した覚えはーーまあ、多分ない。

「おやおや、惚けているだけかと思っていましたが、本当にご存知ないのですか?」

「うん、全く」

「ふむふむ……それは、全くもって由々しき事態ですね……。これでは、我らが救世教会の矜持が揺らぐのも当然というものですね」

 何やら考える素振りを見せるカトリアに、僕は話が噛み合わないのは正にこの事であると叫びたい気持ちをぐっと堪える。

 僕らが狙われる原因を、その答えを明確に答えないのは何か理由でもあるとでも言うのか。

 苛立つ気持ちをぶつけるように僕は叫んだ。

「巫山戯るのも大概にして欲しいね……! そんな訳も分からない理由で命を狙われる僕らの身にもなって欲しいよ!」

 少しだけ驚いたような表情を、薄目を開けてカトリアはこちらに向けた。

「ふむ、彼の言う通りであるな。それとも、明示出来ぬ理由でもあるのかね?」

「これはこれは、魔導王陛下にまで言われては、私にも非があったことは認めましょう。ーーではでは、そちらにいらっしゃる『バルバロッサの亡霊』にかけられた嫌疑を開示しましょう」

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