【終わりと始まりの創星神話 0巻 第五章1話】
泥の沼を挟んで僕らとクルスは相対する。
距離は互いに空いているが、先程のような斬撃を飛ばされたら厄介だ。
「先手を撃つわよ」
そう言って動いたのはユウキだ。
彼女は腿に手を伸ばすと、そこからあるものを取り出す。金属質のそれは【銃】と呼ばれるものだ。その表面には魔力紋が光を放っており、ただの武器ではないというのが見て取れる。
彼女は引き金を躊躇いなく引くと、銃口からは魔力光を放ちながら魔力の弾丸ーー【魔力弾】を射出する。
「ーー何ッ⁉︎」
クルスは一瞬、驚きを露わにするが、すぐさま幅広剣を薙ぐように振ると、高速で飛ぶ魔力弾を斬り裂く。
「あら、拳銃を見るのは初めてかしら?」
次々に放たれる魔力弾を斬り裂いて防ぐクルスは防戦一方に見えたか、しかし幅広剣を返す動きで、また先程と同じように斬撃を飛ばす。
魔力弾と魔力の斬撃が交錯し、クルスは流れるような動きで迫り来る魔力弾を袈裟斬りにする。
しかし、ユウキは魔力の斬撃を避けようともしない。
このままでは直撃する。
そう思った瞬間にレイスが魔力の斬撃とユウキの間に滑り込むように割り込み、拳を下から振り上げた。
「奮ッ!」
硝子の砕けたような音が鳴り響く。
レイスの拳が魔力の斬撃を殴り砕き、魔力の残滓が魔力光を散らつかせながら消滅していく。
「嘘でしょ……⁉︎ 何て無茶な……」
鎧を着込んだ兵士を両断するほどの威力を持つ魔力刃を拳一つで砕いたのも驚愕だが、それに飛び込むレイスの胆力にも驚愕した。
そして、よく見ればレイスの手に装着された蒼色の手甲もユウキの持つ拳銃と同じく魔力紋を浮かび上がらせており、淡い魔力光を放っている。
「……子供だと侮っていたが、存外やるようだな」
クルスは斬撃を防がれても余裕の表情だ。だがすぐに怪訝そうに眉を顰める。
それは、レイスの背に隠れていたユウキが、その手に持つ拳銃ーーその銃口に集まる魔力の輝きを見たからだ。
魔力が収束していくのを感じる。その輝きが高まっていくと魔力の光線が放たれた。一際激しい重低音を放つそれは、まるで大砲のようだった。
砲撃のような魔力弾が高速でクルスに迫る。これはいくら何でも斬り裂くのは不可能だろう。
そう考えた僕はクルスがどのように動くのか観察すると、彼は幅広剣をその刀身の平を盾のように構えるとその前方に四角形の方陣が展開される。
それは、魔力の障壁ーー【魔法防盾】を形成する。
ユウキの砲撃とクルスの魔法防壁が衝突し火花のように魔力を散らしていく。
通常、魔法と魔法が競り合えば、魔法の質と魔力の量で勝敗が決まる。ユウキの放つ砲撃がクルスの魔法防壁を超えていれば穿ち貫くはずだ。
ーーだが、先に消滅したのは、ユウキの砲撃だった。
クルスの魔法防壁も無傷ではなかったが、その一部を欠けさせひび割れていたが、クルス自身は無傷である。
「この程度か。そのような魔法では、一生かかっても私に届く事はないぞ」
余裕そうな態度はクルスの実力の裏打ちである。
あれほどの砲撃を防ぐ魔法防壁を張っても、彼には傷一つなくその額には汗すらかいていない。
「あら、今のは魔法じゃないわよ」
対してユウキも余裕の態度だった。大量の魔力を消費して砲撃を放ったはずだろうに彼女も平静そうである。
「何だと……?」
「【魔導】って言うのよ。知らなかったかしら?」
聞き慣れない単語を口にするユウキは、銃の弾倉を取り出すと、それと全く同じ物を腰嚢から取り出して差し込むように装着する。
「戯言を。ならばこれでも食うが良い……‼︎」
ユウキの態度と言葉に怒りを露わにするクルスは、幅広剣を横一閃に振るう。そして、瞬時に縦に一線。重なる斬撃は十字状となり、こちらへと迫り来る。
「ーーレイ、任せるわ」
ユウキはそう言うと、レイスが庇うように前に立ちはだかる。
「はあ……承知した」
溜息を吐くと、レイスは両手の拳を打ち合わせる。
迫り来る十字の斬撃は目前で、しかし彼は拳を合わせたまま動こうともしない。
そして、斬撃がレイスに直撃する瞬間、彼の身体から魔力が迸る。
「【不動・金剛闘気】‼︎」
【金剛闘気】とは、魔力を【闘気】と呼ばれる身体能力を向上させる力に変換する魔法である。
闘気とは自身の肉体を強化し、一時的な魔法に対する耐性を得る事ができる。それは、極めて原始的な魔法で、【身体強化】の基となった魔法だ。
その特徴としては、迸る魔力が肉体を通して体外に放出されそれ自体が魔法を防ぐ魔力障壁となる。
そして、金剛闘気によって迸る魔力が、クルスの放つ十字の斬撃を防ぎ弾き返した。それは、最早魔力の刃から形を大きく崩壊させ、魔力の圧となって家屋に当たりその衝撃で爆散する。
瓦礫が舞い散り、粉塵を撒き散らした。それは周囲の視界を悪くさせて、見通しが悪くなる。
不明瞭な視界の中、その先で粉塵が揺らいだ。そこには、泥の沼を突っ切って来るクルスの姿があった。
しかし、その足取りは軽快で、停滞することなくこちらへと迫り来る。




