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【終わりと始まりの創星神話 0巻 第四章4話】

 しかしこれは、戦闘は回避できなさそうだ。

 どうしたものかと考える。少なくとも、僕ではクルスに勝てない。ましてや、側に控える騎士にすら抵抗出来る余地があるかどうかだ。

 だがどうだろうか。クルスはこちらを殺す気でいるようだが、周りの兵士や騎士は多少なりとも狼狽える様子を見せる者も中には居た。

 これは好機だと言わんばかりに僕は声を上げる。

「そこの副長ーークルス・ニンファルテトラは団長のカトリアを貶めようとしている! 彼は今回の魔導帝国に対する責を全てカトリアに押し付けるつもりだ!」

 騎士団の兵士の中に動揺が走る。

 彼らの視線がクルスに集まるが、しかし彼の表情は至って平常なものだった。

「何を言うかと思えば、馬鹿馬鹿しい。私が姉上を裏切る、だと。ーー貴様ら、我ら四法の長を頂くカトリア・ニンファルテトラをこの私が裏切ると本当にそう思うのか?」

 クルスは振り返り、兵士を見渡しながら叫ぶ。

 すると、彼らは頭を振り、そんな筈はないと口を揃えて言うではないか。だが、そんな彼らには、どうしてか怯えが見受けられる。

「『亡霊』の言葉に耳を貸すな。我らが教義は常に在る!」

 そう叫ぶと、クルスは剣を抜き放つ。

 それは特徴的な剣だった。長剣ロングソードよりも剣身の幅が広い、幅広剣ブロードソードという剣だ。

 その剣身は蒼く、薄らと魔力の光を灯している事から、特殊な錬金鋼により製成された魔法剣なのだろう。

「ーー総員、抜剣‼︎ あの『亡霊』と魔導帝国の学生を拘束せよ!」

 兵士や騎士らがクルスの号令に合わせて剣を抜き、こちらへと駆け出す。

 抵抗すれば斬られるかもしれない。それは流石に嫌だ。というか、一太刀でも浴びれば致命的である。

 だが、こうなっては仕方がない。僕はこれまで稼いだ時間を使って作った仕込みを発動させた。

 こっそり腰帯から試験管を抜き取り、その中身を溢すように垂らしていた。

 その色は青と黄、即ち水と地の元素を含んだ【元素魔力エレメント】である。

 石畳を伝わせ、前方へと広げていた元素魔力は石畳と地面に浸透させ、それを触媒に錬成する。

 だが、それだけでは錬金術魔法アルヒミック・マギとは成らない。

 【土竜熊ボーデンベーア】に使ったのはあくまで元素魔力同士の反応作用である。

 だがしかし、これは正真正銘の錬金術魔法である。

 僕は透明だが僅かに光を灯す液体が入った試験管の蓋を取り、その中身を手の平に溢す。

「仕上げは上々。隠し味は液体魔力ってね」

 これは、その名の通り液体化した魔力である。

 昔は錬金術の触媒に使われたり、燃料にも使われたりしたそうだが、昨今では余り使われないらしい。

 それに、液体魔力の精製には非常に手間がかかり、そのせいで費用コストがかなり高くつく。

 勿体無いという気持ちが僕の心を揺るがせるが、命には変えられないのだ。

 そんな雑念を振り払うかのように僕は液体魔力を地面に手の平ごと叩き付ける。

 するとどうだろうか、石畳が見る間にぐずぐずに崩れて液状化し泥の沼と化す。

 こちらへと迫り来る兵士らは足下が突然沈み、太腿の辺りまで沈み込む。

 騎士の二人は装備が重いのか、腰近くまで埋まっていた。

「この隙に逃げるよ……!」

 僕は振り返り、ユウキらに叫ぶ。

 しかし、ユウキとレイスは僕の言葉に頷くが、カイはきょとんと抜けた顔をしていた。

「おん? さっき投降するとか言ってなかったか?」

 カイの言葉に一瞬、意識が停止した。

 ーーが、すぐに理性を取り戻し僕は叫びながら走り出した。

「そんなの嘘に決まってるでしょ⁉︎」

 走り出した僕に続いて彼らは後を追うように駆け出す。


 だが、その瞬間に背後からぞわりとした気配を感じた。先程からひしひしと感じていた殺気がぶわりと圧力となり、それは魔力ーー魔法となって迫り来る。

 それに先んじて察していたカイは走る足に勢い良く制動をかけ、僕の頭を掴んで屈み込ませる。

 思わず尻餅をつきかけたがその直後、僕の頭上を何かが通り過ぎる。それは、魔力を刃に変えた巨大な斬撃であった。

 それは周囲の家屋を巻き込んで倒壊させる。幸いにも僕らは巻き込まれなかったが、幸いの中にも不幸が起こり、退路が塞がれてしまった。

「おいおい、もしかしてだけど、ぜっちーって戦闘は素人かい?」

「あ、ああ……まあね。それと、助かったよ。ありがとう」

 何だその呼び方はと思うが、助けられたのは事実なのでお礼は言う。

 見れば、ユウキとレイスは回避していたようだ。


 だが、地面に滴る血を見て僕は焦る。まさか、クロネに当たってないかと見るが、相変わらずクロネはこんな時でもスヤスヤと寝息を立てていた。

ならば誰がと思ったが、それカイの腕から滴り落ちていた。僕を助けていたので回避が間に合わなかったのだろう。

「へっ、これぐらい気擦り傷だから気にすんな」

 すぐさまユウキが近寄り、手を当てる。

 淡い光がその手から放たれ、傷口を癒す。

「傷口を塞いだだけの応急処置だから無茶は出来ないわよ」

「すまねえー。一つ貸しだな」

「なら、早く返しなさい。……次が来るわよ」

 僕は立ち上がり振り返る。

 そして、目の前に広がる光景に驚愕した。

 ーーそこには、斬撃に巻き込まれた兵士の上半身が無かった。臓物を溢れさせ、崩れ落ちた体は泥に沈み込ませ、絶命していた。

 上等な鎧を着ていた騎士ですら、その体を両断されていた。

 つまりそれは、先程の斬撃は泥の沼の奥ーークルスが放ったものである。

 その光景を目撃したユウキは歯を剥いて叫ぶ。

「貴方……! 自分の仲間ごと斬ったの⁉︎」

「だからどうしたと言うのだ」

 味方を斬り捨てたというのに、クルスは平然としていた。いや、初めからクルスは口封じの為、そのつもりだったのだろう。

 僕の抹殺がクルスの目的なら、僕を捕縛しようとしているカトリアの意志に反してしまう。

 どうやら死んでしまった兵士の彼らは、クルスよりカトリアに対しての忠誠が高いように思えた。もし、僕を殺してしまったら、彼らはきっとクルスを怪しむだろう。

「雑な証拠隠滅だね。まあ、僕としては自分から敵を減らしてくれて助かるけどさ」

「ふん。このような児戯に遅れを取るようでは、どちらにせよこの先でも生きてはいけないだろう。ならば、苦しませず引導を渡しておいた方が慈悲だろうさ」

「はっ、自分で殺しておいて良く言うぜ」

「……貴様らはあの女の本当の怖さを知らないからそのような事が言えるのだ……」

「何だと?」

「貴様らに分かるか? ーーはっ、分からないであろうな! あの女の本性を! その惨虐さを! 生きたまま擦り潰され肉塊にされていった者たちの断末魔を‼︎ 貴様らは聞いた事がないのだろう⁉︎」

「……何を急に熱くなっているのよ。それが、貴方の所業を赦すとでも思ってるの?」

「は、ははは、赦す……だと? ーー小娘が、貴様がこの私を赦すだとほざくか」

 ユウキの言葉にクルスは自嘲とも憐れみとも取れぬように笑う。

 何が彼をそうさせるのか、僕にはまるで理解できない。

「おいおい、あいつどうしちまった? 気でも触れちまったか?」

「さてな。しかし、仲間を手にかけ、罪悪を感じぬとは義に反する行いだ」

 レイスは拳を握り構えた。カイとユウキも臨戦体勢に入っている。どうやらここで戦うしかないようだ。

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