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【終わりと始まりの創星神話 0巻 第三章5話】

「随分と乱暴な事をする。ーーここが、何処で誰の領地であるか理解しているのか?」

 オルクスヴェークは粉塵の向こうに見える人影に問いかける。

 クロネに降ろして貰った僕も、その先を睨み付けるように見ると、粉塵が晴れた晴れた先に一人の女性が立っていた。

 見た目は妙齢の女性である。しかし、その圧倒的な気配に僕は固唾を飲んだ。そして、袖を通さずに羽折る外套には見覚えがあった。

「ーーこれはこれは、お初に御目に掛かりますオルクスヴェーク・ビブリオライヒ・アルプトラウム陛下。私、四法睡蓮正騎士団の団長を勤めますカトリア・ニンファルテトラと申します。先ずは手荒くなってしまいましたご挨拶に謝罪を申し上げます」

 カトリアと名乗る彼女は、側頭部には編み込んだ人房の髪を垂らして一礼する。

 顔を上げると、糸目がちの目をこちらへと向けてニヤリと笑った。

「ほう、貴様の名には私にも覚えがあるぞ。ーー確か他にも呼び名があったな。救世教団に異端者とされた者を狩る審問官を率いる『処刑隊』の長であったか?」

「陛下に私の名を覚えて頂いているとは光栄で御座います。しかしながら、それは不名誉な名で御座いますれば、我らは四法を至上としその職務を果たしているまでで御座います」

「ふむ、この場には貴様らが追うような異端者は居ないように思うのだがーーカトリアと言ったな、貴様の目的はこの私か?」

「いえいえ、陛下がこの場に座すのは偶然に御座います。私どもの目的はーーその奥に御座います『亡霊』で御座います」

 カトリアは伏したような目で僕を見ながら指を差した。

「へ? ーーぼ、僕⁉︎」

 釣られて僕も自分自身を指差す。しかし、聖宗救国ーーましてや、かの悪名名高い騎士団に追われる理由などない。

 ましてやカトリアの言う『亡霊』とは? 全く身に覚えのない名称に頭が混乱する。

「そうですよ。貴方は、かの忌まわしき『バルバロッサの悲劇』においてその渦中に居たとされる『バルバロッサの亡霊』。ーー私どもは、そう呼んでおります」

「ふむ、そうなのであるか?」

「え、全く身に覚えがないんだけど……」

「私どもの調べでは、数年前には我が国に居たとか。また、何度か【魂石】の採掘場にてその姿を見かけたと聞いておりますが?」

「あー……確かに魂石は義父さんに頼まれて嫌々採りに行ったなあ……。で、でも確かに僕は前はバルバロッサに住んでいたけど、大体あの町が滅んだ原因はあんた達、救世教会の仕業でしょ?」

 あまり良い思い出がなかったからか、記憶の片隅に追いやられていた過去に住んでいた町のことを今更言われてもである。

 確か町長だか町の重鎮らが重税に次ぐ重税に怒って決起しようとしていたところ、ガサ入れが入ったとかそんな話しだったと思う。

「ふむふむ、バルバロッサで起きた凄惨な出来事が何故我らの手によるものだと知っているのでしょうか?」

「えーーそれは、何か救世教会の騎士の人がそう言ってたし……」

「かの町で起きた事件当時、駐在していた従騎士は全滅。町の住人は全員救世教会の手の者によって処刑されております。つまり、あの町での悲劇を知る物は本来いない筈なのですよ」

「えっ……⁉︎ そうな……の?」

「ええ、厳しく情報統制を掛けた上で、秘密裏に行われていましたので。ですから、本当なら知る由がないのですよ。ーー実の所、私も真実を知らないのです。何故なら、私があの町に赴いた際には既に町の住人は全て生き絶え、それを行ったとされる騎士団員とその団長も死亡しておりましたので」

 あの町で起きた出来事の一部始終を知る身として、どうやら僕の預かり知らぬ所で重要人物扱いされていたらしい。

「そっか……特に思い入れもなかったけど、あそこは悪くない町だったよ……」

「……どうやら、私が思い描いていた『亡霊』像とは随分と違うようですね。ーーどうですか? あの町で起きた出来事を告発するのであれば、危害を加えるような真似はしませんがーー如何でしょう?」

 しかし、救世教団も一枚岩ではないらしい。

 その理由は定かではないが、カトリアは僕を利用して内部告発がしたいようだ。

 だがそれは危ない橋である。みすみすそんな虐殺を行うような国に行くようなことはないだろう。

「それはーー僕はあんた達の国に連れて行かれるって事かな?」

「ええ、その通りです。貴方の身は私が御守りすると約束しましょう」

 極めて柔かな笑顔でカトリアは僕に手を差し伸べる。

「……悪いけど、信用出来ないね。ましてや、何度も殺されかけた国になんて、二度と行こうとは思わないよ」

「そうですか……残念です。ーーでは、実力行使で貴方を連れて行くとしましょう」

 カトリアは差し伸べた手を一度握り、両手を広げて宣戦布告する。

 交渉に応じなかったとは言え、先程は危害を加えないと言ったそばから、その変わり身の速さには僕も絶句する。

「待ち給えよ、カトリア。彼の身柄はこちらで預かる事になっているのだ」

 遮るようにオルクスヴェークは手を横に広げた。僕を庇うつもりなのかは知らないが、ちょっと待って欲しい。そんな事、いつの間に決まったのかな?

「ほうほう、そうなのですか? しかし、困りましたね。この任務は私も逆らえぬ御方からの勅命で御座いますので」

「ーーふむ、成程な……。しかし、ここで争えば場合によっては貴国と全面衝突。つまり戦争に成りかねないのだが、それはカトリアの本望ではないのだろう?」

「ええ、陛下の仰る通りで御座います。私どもの国の総力を挙げても、貴国には遠く及ばないでしょう」

「それと、な。カトリアよ、其方にはある情報を伝えよう」

「おやおや、どのような情報で御座いましょう?」

「カトリア、貴様は聖宗救国ーーいや、救世教団に売られたのだよ」

「…………」

 カトリアは無言だが、しかし目を見開いてオルクスヴェークを睨み付ける。

「身に覚えがあるようだな。私の元に貴国の密偵が伝えてきたのだ。聖宗救国の重大な機密を知ったとされる者が魔導帝国に逃げ込み、異端審問官を追わせたーーと」

「それはそれは。しかし、それを聞いて普通陛下が直接お出でになりますか?」

「無論、罠だとも思ったのだがな。ーーだがこれで、貴国の企みも透けて見えたのである。バルバロッサの出来事を知る人物の抹消か確保し、騒動に発展した際、首謀者である貴様の首を差し出して事態を治める腹なのだろう」

「そうです……か。私も敵は多いと思っておりましたがーーしかし、その企みもここで陛下と亡霊を連れて帰参すれば済む話ですね。ついでに内部粛清も捗るものですよ」

「それで本当に良いのか、カトリアよ。貴様の行動一つで貴国の民を犠牲に晒すのだぞ?」

「生憎ですが、私の信ずるのは『救世主』が定めし『四法』で御座います。つまりは、救世において人は全て平等であり、救済には罪の裁定と断罪が必要なのですよ。そこには、悉く無辜の民など存在しません」

 カトリアが名乗った『四法睡蓮正騎士団』とは、騎士団の名に『四法』と名がつく通り、何よりも重んじているのは法律だ。

 『四法』とはつまり『司法』の事である。

 しかし、その基準は極めて独善的でーー身勝手なものだ。ましてや、『救世教団』とは関係ない人間にもその理念を押し付けるのである。

「ふむ、随分と押し付けがましい『夢想』であると、理解はしているのかね?」

「ええ、道程みちのりは遠くとも、いずれ叶えるべき『理想』だと考えておりますよ」

 カトリアは視線をこちらへと向けると寒気が背中を伝った。その瞬間、彼女は地面を割る勢いで駆け出す。

 狙うは一直線にーー僕に向かって。

 しかし、その間にオルクスヴェークは割って入る。彼は全身から黒い魔力を放つと、それは霧状となってカトリアの行手を阻んだ。

 まるで、泥の中に沈んだように、カトリアの動きが鈍くなっていく。

「そう急くなと、私は言いたいのだがね。交渉の予知はまだあると思うのだがーーどうかね?」

「ーー笑止。問答こそ不要ですよ、魔導王」

 互いに二人に武器と呼べる得物はなく、無手である。

 しかし、カトリアは素手を振り回すと、オルクスヴェークが作り出した黒い霧状の魔力を振り払う。

「私の【黒霧の夢ネーベルトラウム】をこうも簡単に破るか」

「ふむふむ、軽いのにーー硬いですね。面白い魔法です」

 一度、後方へと飛び退いたカトリアは調子を確かめるように手首を回す。

「それならば、これならどうかね? 【黒霧の夢ネーベルトラウム螺旋槍シュピラーレランツェ】」

 オルクスヴェークは全身から再び黒い霧を発生させると、カトリアの周囲を取り囲む。

 あの魔法ーー【黒霧の夢】とオルクスヴェークは言っていたが、あのような魔法は見た事がない。

 単なる防御魔法ではないのだろう。先程、カトリアの動きを阻害したように、今度は彼女の全身を黒い霧が包み込んで縛り付ける。

「これはこれは、中々に厄介ですね……」

 動きを封じられたカトリアは、しかし全身から魔力が迸ると、力技で黒い霧を払い除けた。

 そこへ、オルクスヴェークは黒い霧を螺旋状に渦巻かせると、投槍のようにして放つ。

 その魔力量は桁違いで、魔導王と呼ばれるだけの事はあった。

 それを見て、カトリアは顔色一つ変えない。彼女は無造作にも見える仕草で螺旋の槍を正面から素手で受け止めた。

 彼女の手の内で暴れる魔力の奔流が、途端に大人しくなり、握力だけで握り潰し、魔力の残滓が溢れて散っていく。

「おやおや、この程度ですか?」

 あんな魔法ものを素手で受け止めて、無傷なのが恐ろしい。

「流石と言うべきかな、カトリアよ。しかし、侮るなよ」

 オルクスヴェークは次の一手として、再び魔力を放ち、黒い霧を生み出した。先程と同じように螺旋の槍を作り出すが、その数は僕の視界を真っ黒に染めるほど、大量に作り出す。

 その一つ一つが大規模魔法と同等の魔力が込められており、一つでも掠めたら僕だったら木っ端微塵になるほどだ。

「『神器』にも匹敵する魔法を顔色一つ変えずに発動させるとは、『魔導王』名は伊達ではないという事ですね」

 オルクスヴェークが手を翳すと、螺旋の槍は次々と射出される。

 カトリアも受け止め続けるのは不可能と判断したのか、触れないように躱し、時には受け止めて払い除けるように受け流す。

 防戦一方かと思われたが、しかしカトリアは前に進み始めた。

 彼女は螺旋の槍を紙一重で躱し続けると、オルクスヴェークに肉薄する。

「ふむ、これでは埒が空かないな……。仕方あるまい、カトリアーー貴様は暫く私と付き合って貰うぞ」

 そう言うと、オルクスヴェークの足元に魔法陣が多重に展開された。

「ーー【星幽の夢アストラルトラウム】」

 その多数展開された魔法陣は、オルクスヴェークとカトリアを包むと、黒い球体状の中に取り込まれた。

「ど、どうなったんだ……?」

 どうやら【結界魔法】らしく、魔法陣に触れようとしても、目に見えない干渉を受けて手が前に進まない。

 中がどうなっているか、結界の外にいる僕らには窺い知れない。

「はン、彼奴があの娘を受け持つと言ったのじゃから恐らく大丈夫じゃろうて」

 やれやれといった様子で義父さんは肩を竦める。

 ーーしかし、これから僕らはどうすれば良いだろう?

 先ず、一つ目がこのままこの結界を見守る事だ。だが、もしオルクスヴェークが結界内部でカトリアに何かをされて敗北した場合、次の標的は僕らだ。

 二つ目がオルクスヴェークがカトリアを留めている間にこの場を離脱。引いてはこの町から出て身を隠す事だ。しかし、その場合カトリアの仲間ーー他の騎士団に見つかった場合はその場で戦闘が逃走をしなければならない。

「義父さんはこれからどうするの?」

「……そうじゃのう。遺憾じゃが、今の儂では戦闘になれば足手まといになるのは明白じゃ」

「だよねえ……いざとなったらその指輪を使ってなんとかならないの?」

 指輪というのは、義父さんの指に付けた【緋燈色金ヒヒイロカネ】の事だ。

「駄目に決まっとろうが! 儂を殺す気かのう⁉︎」

「もう一度死んでるじゃん。ーーうーん……じゃあ取り敢えず逃げるよ?」

「ふん、それがいいじゃろうな」

「でもなあ……義父さんの格好だと目立つし……」

 非常事態とは言え、町中を骸骨人が闊歩していれば、目立つ事この上ない。

「なあに、心配は要らん! 儂には此奴があるからのう!」

 そう言うと、義父さんは瓦礫に埋まった部屋の中から、大きめの木箱を取り出す。

 それは、先日話題に出していた全身鎧の入った木箱だった。

「あーそれね。まあ、確かにそれなら顔も隠せるかな……?」

 いそいそと鎧を着込む骸骨人という、なんとも言えぬ光景を眺めながら、僕はある事に気付く。

「ねえ義父さんーーその兜、壊れてない?」

 一番目立つだろう髑髏面を隠す兜が、半分ほど欠けていた。

 恐らく、先程の衝撃で壊れてしまったのだろう。

「むう、何という事じゃ」

 義父さんは欠けてしまった兜を試しに被ると、頭蓋骨の殆どが露出してしまい、どこからどう見ても目立つ事この上ない。義父さんは姿を隠すという意味のなくなった兜を脱いで放り投げた。

 こんな状況では、直している暇もない。どうしたものかと考えていると、僕の目にあるものが映る。

「あ。ーーねえねえ、義父さん。これなんかどうかな?」

 僕は、瓦礫から取手だけ見えてる『ソレ』を引っこ抜くと、砂埃を払いと義父さんの頭に被せる。

 それは、今朝直すように依頼されていた寸胴の鍋である。

「うん、これなら顔も隠せるしいいよね」

「はぁ……何が悲しくて鍋なんぞ被らにゃならんのじゃ」

 骸骨人改め、【鎧骸骨アーマードスケルトン大鍋装備型】へと進化した義父さんは、不貞腐れながらも、鍋の被り具合を確かめて、空いた穴から鬼火のような瞳を覗かせる。

「まあ、ぱっと見兜にも見えなくも……ないかな……ふふっ」

 しかし、その格好はあまりにも滑稽で思わず笑ってしまった。

 すると、穴から覗かせる鬼火が眇めたようにこちらを見ていた。

「喧しいわい! ーーほれ、準備は整ったんじゃ! とっとと行くぞ!」

 瓦礫を蹴飛ばしながら、家を出て行く義父さんの後を僕は追う。

 僕は一度だけ振り向いて、半ば崩れた家とその内にある結界を見た。

 そこまで長い間ではなかったが、暮らしていた我が家の変わり果てた姿に何も思わないほど、僕は薄情にもなれなかったからだ。

「……何を呆けておる。早う行くぞ」

「うんーー分かってるよ」

 僕はクロネの手を引いて歩き出す。

 クロネは何も言わずにいるが、少しだけ僕の手を握り返してくれた。

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