【終わりと始まりの創星神話 0巻 第三章4話】
『オルクスヴェーク・ビブリオライヒ・アルプトラウム』
この国、かつて魔法の長と謳われた魔法大国を廃し、新たに建国した初代帝王ーー『魔導王』だ。
生きる御伽噺とも言われ、建国は凡そ百年も昔の話にも関わらず現代まで生きる伝説。現人神だ。
「久しいな、ギルバート。壮健で何よりーーとは言い難いのであるな」
変わり果てたとは言え、一目で義父さんをかつての黄金の錬金術師と見抜く。
義父もまた、魔導帝国の建国に携わっていた錬金術師だ。義父はヨミの事を古い知人と言っていたが、知り合いどころの関係ではない。
「喧しいわ。それより、何じゃあお主は。こんな片田舎にまで足を運んで来おって」
明け透けに話す義父に敬意や畏れというものは全くない。寧ろ、邪険に扱うよな対応に僕は冷や汗を流す。
「この町に来たのはとある理由があってな。ーー最近、聖宗救国の手の者がこの辺りを探っていると聞いてな。その原因を探る為、出向いてきたのだ」
「だからと言ってお主が直接来るのはいかんじゃろう⁉︎ ーーはぁ、相変わらず大人しく出来ぬ男じゃて」
「まあ、そう言うな。私とて、偶には羽を伸ばしたいのだ」
「そっちが本音かのう。そのせいで、いらん戦乱を招きかねんのじゃぞ?」
「身を隠していたつもりだったのだがね。ーー済まないのだが、もう既に接触しているのだよ」
二人の会話に追い付けずにいると、幾つか不穏な言葉が聞こえてくる。
「はぁ? なんじゃと⁉︎」
「ここに来るまでに、聖宗救国のーーそれも救世教団の連中が何やら探りを入れていたのでな。眠らせておいたがーーこの場所が見付かるのは時間の問題であるな」
救世教団と言えば、かつて『救世主』と呼ばれた英雄を神格化し奉り上げた宗教ーー『救教』を至上とする人たちだ。
その思想は過激で、他の信仰を一切許さず、それ故に他教やそれらを信ずる他国との争いも頻発している。
「ちょ、ちょっと待ってよ! 何て連中を引き連れて来たのさ!」
救世教団には、四つの騎士団を持っており、その一つ一つが一国一軍に匹敵すると言われている。数々の武勇やそれに連なるあまりよろしくない噂もあり、諸外国からも恐れられている。
過去に僕もとある騎士団と遭遇した事があるのだがーーその時は命を狙われて逃げ惑ったという苦い記憶がある。
「うむ、それについては申し訳ないと思っている。ーーしかし、当初はゼロが聖宗救国の間者だと疑っていたのだぞ?」
「え? 何で僕が……?」
「ふむ、ゼロは自分が如何に異質な存在であるのか自覚がないのかね?」
「うっ、それは……まあ、そうだけどさ。それとどう関係があるって言うのさ?」
「そうであるな。ーーそれには、先ずその特異性について明らかにして貰いたいのだが、どうかね?」
「う……」
「改めて問おう、ゼロよ。我が眼にも映らぬ異質の者よ。君は一体、何者なのだね?」
ヨミ改めてオルクスヴェークに見据えられ、視線が惑う。
「ぼ、僕はーー」
果たして答えて良いものだろうか。
僕という存在は、この世界を揺るがしかねないからだ。
これは、決して誇張でも自惚れでも妄想でもない。
自ら望んで魔法が使えず、非力なこの身でも秘匿しなければならない事情がある。
それにはクロネも関わっているのだ。
ーーいや、最早一心同体と言ってもいい。僕の真実が明るみになれば、芋蔓でクロネの正体が明かされてしまう。
そうなれば、魔導帝国を治める魔導王が、オルクスヴェークがどのような手段を取るのか全く分からない。
どうすれば良いか、答えを倦いていると、義父さんが僕とオルクスヴェークの間に入る。
「それについては、良いではないのかのう。義理とはいえゼロとクロネは儂の子じゃ。お主の探究心を、儂の名に免じて一度抑えてはくれんか?」
「ふむ、それがこの世に『終末』を齎す因子やも知れなくてもーーか?」
「そんなものは、そん時になったら考えれば良かろう! それがお主の仕事じゃろうてからに」
「……良かろう。他でもないギルバートの言葉だ。それを無下にする訳にはいくまい」
「ふん、分かれば良いんじゃ」
「ーーだが、それはそれとして、ゼローーそして妹御のクロネ君の身は私が預かろう」
「な、何だって⁉︎ ちょ、ちょっと待ってよ、どうしてそうなるのさ⁉︎」
「成程のう。その方が良いかも知れんのう」
「義父さん⁉︎ さっきまで僕の味方だったのにどうしてさ⁉︎」
「まあ、落ち着け。どうせ、このような町に住んでいても、長くは居れんじゃろう? それならば、いっそ帝都で此奴の目の届く場所に居た方が安全じゃーー多分」
「最後の言葉で台無しだよ、義父さん……」
「もし、ゼロが私たちに害を成さないと証明し協力的になってくれるのであれば、君ら二人の安全は私が保証するとも。ーーさて、どうするかね?」
オルクスヴェークは手をこちらに差し出す。
しかし、僕はその手を取るべきなのか迷っていた。
彼らに僕という存在が捕捉された以上、これがお互いの妥協点なのは理解している。
だがそれが、決して最善の選択なのか分からない。
「ーーお兄ちゃん」
また考えていると、背後からクロネが現れ、僕の腰を掴む。
何事かと思っていると、僕の身体は勢い良くクロネに抱き抱えられた。
ーーその瞬間、家の壁が勢い良く砕かれ破壊される。
瓦礫と木屑が舞い、粉塵が僕らの視界を塞ぐ。
僕を抱えたクロネは後ろへと飛び退がり、数瞬前まで僕が立っていた位置は瓦礫に埋まっていた。
オルクスヴェークは自らの背後に義父さんを回し、自身の周囲を黒い靄で覆って無傷だ。




