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九十五話 展覧会

 スイーツコンテストを満喫した後日からは、様々な出展のある展覧会を巡る。魔法の品はもちろん、絵画などの美術品や大昔の文献なども展示されているところだ。

 

 会場に着いてまず目にしたのは、見上げるほど大きな天球儀。軌道に星を模した模型があって、さらに基礎の魔法系と反転の魔法系、合わせて六つの魔法がぐるりと環っていた。


「えっと、反転の魔法系は……光と闇だったっけ」

「そうだよ。必ず相反することから、この名前が付けられた。基礎の魔法系よりは扱いづらいけど、練習すれば少しは使えるようになるよ」

「そうなんですね」


 この反転の魔法系は基礎の魔法系と共に、占いなどで重要な魔法系である。なので、魔法として練習することは少なくても、知識として扱われることは多い。


「ミリちゃんはどこから見たい?」

「全部気になるけど……やっぱり、まずは魔導具にしようかな」


 中央の天球儀から北方面へ。並べられた数々の魔導具と、設計図が張られたエリアに来る。正面には大規模な魔導具が設置され、客を歓迎するように煌びやかな演出を施していた。

 展示品の魔導具は、今年開発されたものと、数年内に店へ並ぶとされるもの。触れても良いようになっていて、カナタがおっかなびっくり作動させていた。

 

 実際の魔導具にも興味を示すミリア。だが、本命は設計図の方らしい。白い紙に引かれた線図を眺めて、じっくり知識を照らし合わせている。


「魔法陣はまだ読むのが難しいけど……簡単な仕組みだけなら、なんとか理解できる」

「おお、さすがだね! ……それにしても、技術の応用が斬新で面白い。新しい技術も良いけど、人によって使い方が違うのも見どころ……」

 

 真っ暗なところで光を集めたり、研究設備の簡略化を目指したり、今後の常識に影響を与える革新的なアイデアが連なる。

 地図を自動で書き込んでくれる記録帳や、透明度を調整できるオペラグラスなど、採集で役立ちそうなものもあった。


「本当にもうすぐできるんですね。地図の記録帳なんて、素材のあった場所まで記してくれる……」

「これらが魔導具で出来たら、魔法を使える範囲も増えるよね。ただ、まだまだ実際に使うのは難しい。改善するなら、あと二十年。誰もが使えるようになるまでなら、早くて百年はかかるかなあ」

「そっか……」


 先日『星軌商店』で買った望遠鏡も、アイデア自体は何千年も前にあったが、実用できるまでには相当の時間を要している。

 現在でも手に入れられる魔法使いは限られているので、展示された設計図も易々と実現できないだろう。


「その頃には、ミリちゃんが魔導具研究に参加してる可能性もあるよね! ここにある設計図を実際に作ってるかもしれない」

「そ、それは気が早いというか、研究に携わるイメージはあまりなかったかも……」

 

 ミリアは消極的な言葉を選ぶ。研究という単語を遠く感じているようだ。

 ただ、魔導具の開発は研究所というより、個人で行うことが多い。通例のパターンは、『トレヴァー魔導学連盟』名義にして魔法会に提出する手続きを代行してもらう、という流れだ。


「あ、魔導具を調べるとよく出てくる名前ですよね?」

「そうそう」

 

 『トレヴァー魔導学連盟』というのは、研究所の形をもたない研究所。誰が管理しているのかは不明ではあるが、開発した魔導具を世に出してくれているところだ。名義は『トレヴァー魔導学連盟』ではあるものの、製作者の名前はしっかり公表して、技術を盗まれないよう対策を取っている。

 一見、意味不明な形式だが、きちんとした役割分担のもと成り立っている。名誉や功績に執着しない魔導具師たちが、面倒臭さを完全に排除したがった結果であった。


「ここで魔導具師どうしの連携も可能だから、個人でありながら共同研究にも入る、みたいなこともできるよ」

「思ったより、臨機応変なんですね」


 これを聞くと、他の分野にも応用すればいいという人も出てくるが、それはやめた方がいい。研究できる時間は増えるものの、発表の自由度が低くなるからだ。利点や魅力を伝えるには、多少の面倒があっても目を瞑らなければならない。


「なら、魔導具にも埋もれてるものがあったりするんですか?」

「そこそこあるとは思うよ。けど、魔導具は使い道と設計図だけで理解できるから、有用なものはちゃんと出て来てるはず」

「なるほど」


 長々と話していたら、カナタが次のエリアを指差していた。まだ一つ目のエリアなので、早めに移動しないと時間がなくなってしまう。


「ミリちゃん、行ける?」

「うん、大丈夫」


 ミリアは設計図を目に焼き付けて、いくつかメモにまとめていた。あとで見返すつもりだろう。小さく折りたたみ、持ってきた魔法鞄にしまっていた。


「次はどっち? あっちの映像がいっぱいある方行きたい!」

「『投影書』の展示だね。七年分の映像が自由に観れるようになってるところだよ」

「それじゃ、昔のやつみよっと」

 

 魔導具の展示から東へ行くと、『投影書』がたくさん設置されたエリアへ。閲覧には特殊な魔導具が用いられていて、一つの『投影書』から複数の投影が可能だ。


「そういえば、最近のやつならミリちゃんいるんじゃない!? あたし、探してくる!」

「えっ、は、恥ずかしいからやめて……!」


 レイたちといる間は関係ないが、今でも《ソルウェナ》の二つ名は知られている。たびたび話題になっているので、いくつかは残っているだろう。


「ぼくらはどうしようね? 魔導師のとこから黒歴史でも発掘してくる?」

「それ、お前が自滅しねえか?」

「……ほ、本当だ!?」


 キーはバトルシーンがかっこいいので、きっと良いところしか映っていない。

 だが、レイの場合、映りが悪いのはもちろん、思考をトリップさせながらやっているのでミスが目立つ。


「仕方ない。昔を懐古するしかないかなあ」

「懐古ってほどの年月じゃねえがな」


 七年前から振り返って見よう。

 キーとアリスを巻き込んで、レイは覚えてる限りの名シーンを遡った。


 ◇◆◇


 発掘に発掘を重ね、七年分の有名シーンやハプニングを眺める。そうして見つけた、記憶に残るワンシーンはというと。

 

「ふ……ふふふ、あはははは! キーの言ってたやつ、映ってたね! 『ミラージュゲイル』の岩にめり込むやつ! あれ誰が撮ったんだろう? わざわざ救出されるまで映すなんて、いいセンスしてるよ!」

「まさか、あるなんて思ってなかったな。撮られた側は体良く晒されてご苦労様だが……くく、ありゃ、芸術点が高すぎる」


 何度も同じ映像を流しては、腹を抱えて笑う。

 レイたちが見ていた映像というのは、『ミラージュゲイル』の岩にめり込むという嘘のような状況だ。『フラハティ研究所』の素材集めの際にキーが言っていた、笑い話にしかならない有様。

 さすがに被害者である魔法使いの顔は隠してあるが、思いっきり顔からめり込んだところを投影書はバッチリ捉えていた。


「ふふ……いや、本当に怪我がないのは幸いだけど、一生自分だって明かしたくないだろうなあ」

「そりゃそうだ。墓場まで持ってくつもりだろ」


 こういう映像があるから、『投影書』は定期的に観たくなる。

 あとでミリアたちにも教えようと決めたら、ちょうど二人が戻ってきた。


「ねえねえ! ミリちゃんの映像あったよ! かっこいいのばっかで、まさに《孤高の狩人(ソルス・ウェナトル)》って感じだった!」

「カナタちゃん、もう忘れて良いよ」


 かっこいい、痺れる、とか口にし続けるカナタに、ミリアが遠い目をしながら止めている。

 『投影書』を観る間もずっと褒められていたのだろうか。半ば諦めており、二つ名の羞恥心も置いてけぼりになっていそうだ。


「ぼくもこっちで面白いの見つけたよ」

「え、なになに? どんなの?」


 『ミラージュゲイル』のめり込みに、カナタは大笑い。期待通りの反応をしていた。

 ミリアも珍しく吹き出していて、この見事な瞬間がどれだけ面白いかを代弁してくれていた。


「そ、その人には悪いけど……突っ込んだとかじゃなくて、めり込みって感じが、もう面白い……」

「めり込み……めり込み……ぶふっ…………めり、めり込み……!」


 めり込みの単語に共感したカナタが、壊れた機械のように思い出し笑いをしていた。足元のおぼつかない彼女を連れながら、次のエリアへ移動する。

 

 今度は美術品の展示エリアだ。大昔に使われていた骨董品や、色彩豊かな風景画。芸術家が即興で作った巨大オブジェなどが一面に広がっている。

 そんな、優美で斬新な美術品の数々だったが、その世界に浸る前にある共通点が見つかってしまった。

 とても既視感のある、ちょうど数日前に見つけた共通点である。


「まただよ、また……」

「白黒……ですね」


 どこもかしこもモノクロな色使いばかり。かっこいい配色ではあるが、彩り豊かとはならない。どうやら異変はスイーツコンテストだけではないようだ。


「『星誕祭』自体に仕掛けた人物がいるってことか。となると、さすがに報告しないと」


 便箋を取り出し、グレータ宛に白黒な状況を伝える。

 これがおかしいと気づけたのは、昨日のスイーツコンテストのおかげだ。そうでなければ、単純に祭りのイメージカラーとして気に留めなかっただろう。


「グレータも忙しいだろうし、しばらくは待ちか」

 

 今のところ実害という実害はないので、しばらくは白黒を発見しつつ様子見だ。

 念のため美術品エリアの案内人に話を聞くと、モノクロをテーマにするとは決まっていないと答えた。スイーツコンテストと同じ状況である。


「魔法の使われた形跡はないから、単に白黒に影響を受けやすくなってるのかな?」

「それって、魔法時の異変みたいな感じ……?」

「うん。さすがに魔法時の影響ではないだろうけど、それに類似した何かな気はする」


 ということは、犯人がいるのかいないのかも判断できない。

 稀にある魔物や妖精の悪戯、または精霊や魔力に起きた不測の事態。

 あらゆる可能性が浮かび上がってくる。


「ちょうど『星誕祭』に起きてるのも予想しにくい。幽霊や幻獣でさえ遊びに来てるぐらいだし……」

「お、お化けいるの?!」

「悪霊とかじゃないよ。普通に楽しみたい善良な幽霊。たまに気づいて欲しくて悪戯することがある」

「お化けはお化けでもいいお化け……!」


 『星誕祭』の時期には星への道が続くと言われており、実際に幽霊や幻獣も現れたことがある。そのため、白黒になっただけだとイマイチ危険度が掴みにくい。


「指示されるまで待つしかねえな。こういう観測は魔導主の専門分野だろ?」

「……確かに、ぼくらが考えてても仕方ないよね」


 グレータは運命を見極められる。だから、心配することもない。

 レイは思考を切り替えて、純粋に美術の展示を楽しむことにした。


「アートセンスある人っていいよね! 魔法なら一つずつ積み上げればオリジナルになるけど、芸術の方ってオリジナルの確立が難しそう」

「景色を描いたものでも、人によって雰囲気が違ったりするもんね……」

「オリジナルな芸術? なら、やっぱシャロルちゃんだよ!」

「お前は一旦そこから離れろ」


 絵画から彫刻、錯覚、魔法のイリュージョンなど盛りだくさんに楽しんだ。

 後日、魔法陣や雑貨、星図、天文学などの展示エリアも回って、何事もなく平和な『星誕祭』が過ぎて行く。


「あんまり心配することもなかったかな?」


 そう安心しかけた頃だった。


「展覧会はあらかた見終わったし、広場の方にでも行って──」

「……? レイくん?」

「………………うそだ」

「え?」


 だんだんと青ざめていくレイ。

 ぴたりと停止して、ギギギ、と首を回した。

 視線の先は、ちょうど背後の方。


『弱き者には救済を』


 通り過ぎた先の人だかり。

 誰かを囲って、ありがたいと口にする人たち。

 確かに聞き取れた、何者かの言葉。

 

 パチリと目が合った。中心にいる人は、予想していたように微笑んだ。

 

 漆黒の髪とオッドアイ。銀で縁取る黒い制服に、黒い外套を羽織った姿。明るく賑やかな祭りに似合わない、厳粛さの漂う装い。

 だが、それを纏う本人は厳かなんてものではなく、喜色の笑みを浮かべて歩み寄る。


「久しぶりだね、レイ」

「……」

 

 その人物のことを知っているのは、レイとアリスのみ。

 警告する鐘の音が鳴り響き、緊急事態を嫌というほど知らされる。

 ここにいるはずがない。いてはいけない人物に、レイは静かに息を呑んだ。

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