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九十四話 スイーツコンテスト

 迷路のような混み具合を抜けて、やっとの思いで会場に辿り着いた。

 開けたところに出た瞬間、揉まれ続けたカナタが真っ先に声をあげた。彼女はここに来るまで、何度も跳んでいたので、きっと視界不良だったのだろう。今まで人混みで見えていなかった分、開放感に浸っていた。


「まずはホイップのところを応援しにいって、あとは気になってるチョコレートの店があるから、そこにいって、あとは……」

「おい、十日はあるからな? 分かってんのか?」


 先ほどは食べ放題と言ったものの、実際には種類ごとに一人一日一つずつが原則だ。

 これを守ろうとすると、行く場所が自ずと増えていく。その偏らない試食によって、投票の公平性が成り立っているのだ。


「売り上げを競うやり方じゃないから、参加費さえ払えば食べ放題無料! 誰でも全制覇したくなるよ!」

「まさか、毎日制覇するつもりか……?」


 何十店舗と出ているので、さすがに無理があるのではないか。

 キーが呆れた表情をしていたので、レイはとっておきの秘策を見せびらかした。


「じゃじゃーん! これ、なんだと思います?」

「……薬」

「じゃなくて、効果の方! これはね、名付けて『はらぺこティー』! お腹がいっぱいにならない、優れもの! ただし、飲み続けると吐き気が止まらなくなります!」

「結局やべえやつかよ」


 決してやばくはない。薬というのは、用法さえ守れば良い面ばかり。

 それを破ったりするから、危険なイメージが生まれる。この薬も一週間に三回までなら、特に症状は出ない。


「みんなも飲む?」

「あたし、飲む! いっぱい食べたい!」


 欲しいと言ったのはカナタのみ。他二人は遠慮するようだ。別にたくさんあるので、全然飲んでもらって良いのだが。


「食べ過ぎるのは、ちょっと……」

「そこまで食べる用事はねえし」


 なぜか不信な目をされるので、レイはつまらなさそうに小瓶をしまった。

 チケット売りの人に参加費と交換してもらい、ホイップの店へと直行する。

 『ハロー・ホイップ』は人気店の一つではあるが、ここでは同等の実力を持つ店はそこらに見つかる。

 そんな中での『ハロー・ホイップ』の様子はというと、客足が途切れないぐらいの注目を浴びているようだった。


《ハロー! ハロー! ハローホイップのお菓子はいかが? クッキー、ケーキ、チョコレート! 何でもおいしくそろえてます!》


 お馴染みのフレーズが流れる中、メアとシアの双子がせっせと接客をしている。

 その奥ではホイップが調理中。時々、魔法をかけるところが見えると、客は歓声を上げて拍手を送っていた。


「わあ、忙しそう。なんとなく予感はしてたけど」

「あんまり長居はできなさそうだね」


 声がかけにくいとなると、メッセージをしたためるのが良いだろう。並びながらメモを手にしていたら、奥にいるホイップと目が合った。


「うん?」


 口パクで何かを伝えようとしている。ジェスチャーで手の平も向けていた。


「もしかして、『待ってて』かな?」


 言葉通り店のそばで待っていると、少ししてからホイップが出てきた。まだまだ並んでいる人はいるのだが、放置しても大丈夫なのだろうか。


「ちょっとなら大丈夫! 今日のために助っ人を呼んだんだ〜」

「助っ人?」


 キッチンの方を指差すので、そちらを見やる。立っているのは、黒い髪を一つにまとめた背の高い人。


「ボクのお店の隣でレストランをやってる、レアちゃんだよ! たまにお手伝いに来てくれるから、トッピングとかは任せられちゃうんだ〜」


 紹介してもらっていたら、こちらに気づいたレアが会釈をした。

 その時に向けた笑顔がかっこよかった。ホイップと並べば可愛いとかっこいいが一緒になる。横にいたカナタが真面目な様子で呟いた。


「っていうか〜、レイくん、今日は可愛いね! いいところのお嬢さんって感じ!」

「あぁ……これは、仕方なくというかなんというか……」


 また反復する服装の感想だが、嬉しいことにホイップはアリスと姉妹みたいだと言ってくれた。とても気に入ったので、そういう設定にしておくことにする。


「それで、ボクが渡したかったのは、コレ!」


 渡されたのは大きなケーキの箱。それと、お菓子全種の詰め合わせも渡されるが、ケーキの箱の方はふたが空いていた。


「これは?」

「えっと、最終日に出す予定のケーキだよ。この前試食してもらった時に、組み合わせは決まったんだけど〜……」


 言われてみれば、試食したケーキとデコレーションの仕方が同じだ。ただ、その色はというと、パステルカラーからモノクロに変えてあった。

 おそらく『星誕祭』のイメージカラーを元に変更したのだろう。はっきりした色合いが新鮮で良いと思ったのだが、ホイップは思わしくない表情をしていた。

 

「何か問題でもあるの?」

「ううん、そういうわけじゃないよ! ただ、急にデコレーションの色を変えたくなっちゃったから、これでよかったのかな〜って」


 確かに前日までは白黒なんて使ってないし、そもそもホイップは一貫して店のイメージカラーを使っている。

 だから、白黒を取り入れたことに対して、ホイップはあまり納得がいっていないようだった。


「パステルカラーは取り入れてるし、祭りっぽくて良いんじゃない? 店の雰囲気を壊してるわけじゃないし」

「そう? それならいいんだけど〜……」


 悩ましい表情をしたままのホイップ。デザイン自体は今までのものと遜色ないが、色を変えたことに難色を示している。……否、なぜ色を変えたのかに疑問を持っていた。

 少々の違和感を抱きつつ、お菓子はいただく。ホイップも気を取り直して中身の説明をしてもらっていたら、列の向こうが騒がしくなった。


「少しお邪魔するわ! 『ハロー・ホイップ』のライバル、『ビター・ココ』が抗議をしに来たの」

「あっ! ココちゃん!」


 ふわふわとした栗毛の少女が、ホイップを見つけてやってくる。ツンとしていて、近寄り難い雰囲気。チョコレート色の服を着ており、なんの店をやっているかは明白である。

 店長であろう少女は店員を引き連れると、ホイップの目の前で立ち止まった。


「ホイップ、どういうつもり? モノクロを使ったら、ココたちのデザインと被る。色も雰囲気も似るなんて、あり得ない。今すぐ変えてもらえないなら、後で正式に訴えさせてもらうわ」


 腕を組んで異議を唱える。まだ陳列していないケーキの色についてだが、なんらかの方法で情報を掴んでいたようだ。ホイップに指を突きつけて変更を求めていた。

 対するホイップはというと、目を丸くして驚きの声を上げた。

 

「えっ! ココちゃんたちも白と黒でデザインしたの?」

「そう。だから、いち早く変更を……」

「ココちゃんが変えるなんて!?」

「聞きなさいよ!」

 

 ココという少女の店、『ビター・ココ』はレイも知っている。チョコレートの専門店なのだが、最大の特徴はダークブラウンとレッドの組み合わせを外さないこと。

 そんな彼女が白と黒でデザインしたのだから、ホイップが驚愕するのも当然だ。


「こんな偶然は滅多にないし、おかしいよね」

「うん。ボクだけじゃないから、変なのかも」

 

 事件とまではいかないが、誰かの企みはある気がする。この分だと他にも白黒にさせられたアイデアはあるはずだ。


「これって逆に言えば、どのアイデアも白黒だったら問題ない?」

「……そうなるかも! 勝手にコンテストのテーマを決めちゃう感じになるけど」


 モノクロになっている店を確認していけば、画策した店があるかも調べられるだろう。ちょうどレイは全店を回るつもりなので、白黒調査を請け負うことにした。


「レイくん、ありがとう!」

「うん、ホイップはコンテスト頑張って!」


 応援をして各々やるべきことをしよう。別行動を、と怒りの声が耳に飛び込んだ。


「ちょっと、変更については? ココはずっと待たされてたの!」

「そうだった!」


 隣でじっと待っていたココ。先ほどからホイップを敵意剥き出しに睨んでいたが、そのままスルーされそうになって引き留めた。

 

「ごめん、ココちゃん! とりあえず、レイくんたちが原因を調べてくれるから、ちょっとだけ待ってて!」

「なっ……! ココの訴えを無視するなんて、ホイップはいい度胸してるわ! ライバルのくせして、どういうつもりなの!」

 

 ココの抗議する声をひらりとかわして、ホイップは店に戻っていった。残されて憤慨するココが後を追っていく。

 レイたちは少々呆気に取られたのだが、ライバル認定されていたことからして、いつものやり取りなのかもしれない。


「……あっ、さっそくお菓子たべないと」


 レイはテーブルのあるところに移動して、配布されたフォークを手にケーキを頬張った。


「うんうん、ケーキっていいよねえ! 食べるだけで幸せになれるんだから!」


 真っ白なクリームに真っ黒なベリー。スポンジはパステルピンクと定番の黄身色の二層で、間に挟んであるクリームは黒色だ。

 おそらく『ダークベリー』を使っているのだろう。シックな感じにしつつ、『ハロー・ホイップ』ならではの甘さと可愛さが演出されている。まさにモノクロな『星誕祭』をイメージした一品だ。


「よくそれだけ感想が出てくるな……」

「このおいしさを伝えるためだからね!」


 ケーキを味わって食べたら、歩きながら焼き菓子に手を伸ばす。ミリアたちにも勧めながら、『ビター・ココ』の店前まで来た。


「さっきの子の店だね。ここならキーでも食べられるよ」

 

 なんたって、苦さをコンセプトにした店なのだ。チョコレートの甘さから入るのではなく、ビターな味に甘さを足していくスタイル。

 主に大人な味覚の人に人気で、ブランデー入りやカクテル風味のチョコレートは酒好きにもファンがいたりする。


「これ、実際の値段って……」

「三粒入りの一番安いやつで、五百ルラムだったはず」

「わりと高めなお値段……」


 ミリアが七つ入りの箱をもらい、合わせて千五百ルラムぐらいと呟いた。

 ちなみに本当の値段は三千ルラムあたり。表示された材料の名前が、普段より張り切った値段ばかりであった。


「そうとうコンテストに勝ちたいらしいね。……あ、言い忘れてたけど、お酒入ってるから気をつけてね」

「はーい! ……そ、そう言えば、あたし、お酒飲んだことない!?」

「そうなの? なら、念のため酔い消しの魔法薬……あれ、どこにあるっけ」


 夢の魔法で探ってみたが、すんなり見つかってくれない。いつもの行動範囲でないところにありそう。酔いを消すことなんてなかなかないので、どこかに放ってしまっているはずだ。


「酔い消しの魔法薬なら、別室に移す時に混ざっていたはずです」

「別室……ああ! あの時か! ありがとう、アリス」


 魔法薬が混じっていたなど、よく見ていたものである。まとめて放っておいたので、レイ自身も何があったか確認していなかったというのに。


「はい、これを飲めば大丈夫。心配だったら、ミリちゃんも飲んでいいよ」

「じゃあ……私もいただこうかな」


 すでに一粒しか残っていないキーは、心配しなくてもいいだろう。それより、わりとパクパク食べているのが珍しい。お菓子に興味はないはずだが、このチョコレートは口にあったようだ。いつの間にか呼んだペドロにもあげている。


「どう? 意外と悪くないよね?」

「まあな。こういうのがあるなら、食べれる」


 甘くない酒やコーヒーを使っているのも好評な理由らしい。甘いものが一番好きなレイとしては、苦味などが嗜好というのは奇妙な感想であった。

 

 それから何十店舗もあるコンテスト会場を歩き回り、レイは見事三日で全制覇を果たした。

 もう『星誕祭』に思い残すことはない。早とちりな気分になっていたものの、とある疑問が浮かれた思考を落ち着かせた。


「まさか、どこもかしこも白黒になってるとはね。一つだけ違うとか、そんなことはなかったわけだ」


 それは、この企みの犯人がコンテスト内にいないかもしれない、ということ。

 なぜ、コンテストに関係ない人がデザインを誘導したのだろうか。悪戯にしては手が混んでいるが、そうでないと動機が不明となってしまう。

 

 ひとまず主催者に伝えておこう。レイはコンテストの舞台横にあるテントまで来て、少々話をつけてくる。


「何? スイーツが白黒になったと?そんなはずは…………って、えええええ! 本当じゃないか! どうすれば……ふむふむ、モノクロをテーマにしてしまえばいい? ……そうだな、そうすることにしよう」


 少々抜けていそうな人だが、素早く行動に移してくれた。

 拡声器で『モノクロ』がテーマとなり、白黒のデザインについてはことなきを得た。

 

「魔法会にも報告しておこう。誰か派遣してもらえばいいし」


 とっぷりと日は暮れて、コンテスト会場を過ぎたレストラン街が賑やかになってくる。

 初日からステーキでも食べることにして、明かりの灯る方をレイは指差した。

ココ「ホイップ! 待ちなさいよ!」

ホイップ「ココちゃん、お店大丈夫? ボクはちょっとおしゃべりできないかも!」

ココ「なっ……ココを暇人よわばりするなんて! やっぱ許せな──つ、冷たい!」

メア&シア「……」

ココ「そ、そこの双子! ココに何したの! さ、寒気が……もういい! 帰るの!」

メア&シア「……撃退」『完了』

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