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九十一話 一大イベント

 薬作りを手伝いながら、調薬の結果を眺めて少し。

 メイガンの調薬技術がものを言って、一日で何通りも進んだ。特に大きな成果があったわけではないが、とある傾向に気づく。


「魔力を拒絶するから予想はしていたけど、精霊や神秘性に触れるのを嫌うようだねえ」


 メイガンが素材から分かった性質を口にした。

 精霊と神秘性を嫌う。つまり、星や月に関連する素材に弱いと見受けられる。そう言った素材に触れさせたところ、わずかに呪いが密集した。より一層濃く黒くなって、素材の魔力を阻んでいるようだった。


「それらを過剰に嫌うがゆえに、弱点をもひた隠しにしてる。そのまま薬にしたって効いてくれないってことだ」

「そうだねえ……」

 

 これがなかなか難しいところ。弱点を弱点とするためには、突破口が必要となってくるのだ。

 おそらく、これを探すのに時間が要る。逆に言えば、それさえ分かれば薬を作れるということだ。


「なら、希少な素材の使い所はそこだね。あとは効果時間を延ばすのも追加で。精霊や神秘性を高めるのも大事だけど、今は後回しにしよう」

「そうだねえ。神秘性については別で考えておくよ」


 解呪自体は時間が解決してくれそうなので、もう一つの問題である収納の仕方についてをレイは考えようと思う。

 もちろん瓶のまま持つことも考えているが、レイの場合は取り出せないことも想定しないといけない。魔力が使えないことを引き金にして、何か作ると良いかもしれない。

 

 そろそろ暗くなってきたので、メイガンとエリンに任せて帰ろう。

 商店街に遊びに行ったミリア達を探しに行ったら、何やらレストラン街の方が忙しい様子。どうしたんだろう、と近寄ってみると、聞きなれた少年の声がした。


「おーい、レイくん! せっかくだから、お店寄って来なよ〜!」

「あ、ホイップ!」


 手招きされたので、少しだけお邪魔することにした。ついでに今日は焼き菓子を買っていこうと思う。


「『……!」』


 店に入ると、手伝いをしていたメアとシアが手を振っていたので、手を振り返す。パステルカラーの制服がよく馴染んでおり、宣伝をしている様子も様になっていた。

 それを横目にカウンターまで来ると、奥にせっせと準備を進めるホイップの姿があった。忙しそうに動いており、先ほど目にした商店街の人たちのようだ。


「ちょ〜っと、待っててね! もう少しで終わるから!」

「ぜんぜん大丈夫だけど……なんか忙しそうだね? どうしたの?」

「え? レイくん、もしかして忘れてる?」

「え?」


 ホイップの不思議そうな問いに、首を傾げるレイ。この時期は何があっただろうか。


「やだな〜レイくん! 魔法使いにとって待ち遠しい、あの日を忘れるなんて!」

「魔法使いにとって待ち遠しい………………あっ!!」


 商店街と魔法使い、待ち遠しいの単語を並べたら、やっと思い出すことが出来た。

 これはホイップも呆れるうっかりだ。この日を忘れるなんて、どうかしていた。


「『星誕祭』! うわ、もうそんな時期だっけ!」

「思い出した?」


 ──『星誕祭』

 七年に一度、エルメラディ中をあげて行う、魔法使いにとっての一大イベントである。

 主にネイウッドとパルティータで開催され、期間は一ヶ月ほど。商店街の人が忙しくしていたのは、祭りのための宣伝や新商品の発案などをしていたからである。


「今年もスイーツコンテストがあるから、ボクもがんばってるよ!」

「あーそういうこと。確かに、ちょっと前に材料もってったしね」


 パルティータで、ハピエストと双子が再開した後のことだ。材料集めをレイが手伝って、お礼に試作品を美味しくいただいた。

 あの時にもホイップは『お祭り』と言っていたので、前から準備を進めていたようだ。


「完成品は当日のお楽しみだけど、どうしても迷ってる組み合わせがあって……レイくんに意見を聞きたかったんだ〜」

「意見を聞くって、試食していいの!?」

「もちろん!」

「やった!」


 嬉々としてホイップのお菓子を試食する。ホイップに意見を伝えながら、このままでも十分美味しいお菓子を平らげた。


「ありがとう、レイくん! やっとなんとかなりそうだよ〜」

「いやいや、むしろ、こっちがありがとうだよ」


 食べながら選んだ焼き菓子の詰め合わせを頼んで、ミリアたちを探しに行こうと席を立つ。

 ホイップから紙袋を受け取って、店の外へ。どこにいるだろうかと見渡すと、すぐそこに見慣れた三人プラス一人の姿があった。


「ミリちゃん達と、ついでにキーもいる!」


 ミリア達に手を振る。ちょうど進行方向だったので、すぐに気づいてくれた。


「レイくん! 魔法薬の方は終わったんだ?」

「うん、遅くなってごめんね」

「ううん! ぜんっぜん大丈夫! アリスちゃんと遊べたもん!」


 カナタの隣にいるのは、一緒に遊びに行かせたアリス。喜ぶカナタに微笑んで、普段よりも気を張っていない。

 提案した時は戸惑っていたものの、ミリアとカナタのおかげで楽しめたようだ。


「よかったね、アリス」

「……はい」


 渡したお小遣いは、三人でプレゼントを交換するのに使ったらしい。

 ミリアが選んだという、琥珀のストラップ。シンプルな飾りに一粒だけを通したものだが、その素朴な見た目がアリスに合っていた。

 きっと後でカンテラにつけるつもりだろう。アリスは嬉しそうにストラップを見つめていた。


「あっ、そうだ! ついでにご飯、食べに行く?」

「行く! 行きます! 『ククーロ』!」

「すっかり気に入ってるね」


 皆も異論がなさそうなので、『ククーロ』の居心地の良さは間違いないようだ。

 

 本日のおすすめを注文してから、重大イベントの話をすることに。

 すでに戻ってきていたカイヤとシリマも呼びつつ、これから一ヶ月の予定を急遽変更した。


「あのね、本当に忘れてて急な話なんだけどね」

「……?」

「これから三日後に『星誕祭』があるんだよ。だから、採集とかは一旦中止にして、そっちを見に行こうかなあっと思いまして……」

「あっ……『星誕祭』……!」

「あったな、そんなの」

「え、なになに? 『星誕祭』って何?!」


 前回の七年前を思い出すミリア達と、おそらく七年前は故郷にいて知らないカナタ。

 まずは『星誕祭』がどういうものなのかを説明しよう。


「『星誕祭』は、大昔の『偉大な魔法使い』が、初めて魔法を生み出した日を祝うお祭りなんだ。星への感謝と『偉大な魔法使い』の偉業を讃えて行われている」

「なんかすごそうなお祭り……」

「そんな意味があったんだ……」


 まあ、ここまで考えて祭りに参加している人は少ない。

 由来自体は覚えてなくても良いが、これが『杖』の話に繋がってくるとするので無視もできないのだ。


「この初めて魔法を生み出した魔法使いが、『杖』を作ったって記述がある。だから──」

「もしかしたら、『杖』の手がかりがある」

「うん、そういうこと」


 順序を追って話したら、ミリアが先に答えを出した。

 ただ、手がかりと言っても、あくまで『杖』についてのみの情報だ。『杖』を封印したのは最後の使い手であるオムニスなので、鍵の方はパルティータの捜索を続けるしかない。


「またヴィヴリオさんに情報をもらいながら、一ヶ月間は地道に探すかな……それはそうと、せっかくの七年に一度のお祭りだから、みんなでイベント全制覇しようね!」

「賛成! あたし、美味しいものいっぱい食べる!」

「絶対、本命そっちだろ……」

「でも、みんなで回るの楽しそう……」


 キーの呟き通り、こちらが本命というのはあながち間違いではない。『星誕祭』自体はアリス達と行ったことがあるものの、規模が大きく人も多いので、ネイウッド側だけしか回れなかった。

 なので、今度は一ヶ月間まるまる使ってパルティータの方に行きたい。きっとネイウッドより大きなイベントをやっているだろうし、鍵探しのついでに満喫する計画だ。


「っていうか、『星誕祭』ってシャロルちゃんが出るって言ってたやつじゃん! チケットってどうやって売ってるんだろ?!」

「ステージの類となると、確か前日に売ってなかったかな? 長蛇の列ができるから、パルティータとネイウッドで分担して販売してた気がする」

「そうなの? じゃ、前日になったら明け方……ううん! 夜中から並んで見せる!」

「え、夜中に並ぶんだ? そういうものなの?」


 それは、かなり眠いのではないか。いくら好きだからと言っても、半端ない熱意である。

 それから、実は商店街中に貼ってあった『星誕祭』のポスターや、当日からのスケジュールをカイヤに持ってきてもらい、どこをどうやって見に行くかを決めていった。


「スイーツコンテストは絶対行くから! ホイップの応援に行くし、やっぱり食べたいし!」

「私は……展覧会かな。じっくり見てみたいです」

「オークション一択だ。あとは景品がレアな大会」


 いろいろと意見を募って、地図を見ながら優先順位を決める。

 特にキーが候補に入れてる大会系は、かなり種類が豊富。変なものから王道の決闘まであるので、時間の調整が大切になってくる。


「レアな素材っていうと、決闘かな。目玉の魔法決闘なら、高価な素材が優勝賞品になってるはず」

「決闘か。ペドロ連れてけば楽勝だな」

「会場破壊だけはやめてね」


 ペドロがいれば対人戦最強なキー。他の人からしたら理不尽ではあるが、一部は魔導師にも参加資格はあるので止めることはできない。

 せめて、出場するのは一回だけにしてもらい、出場可能な大会を総なめしないよう制限をかける。


「一回って、一個しか取れねえだろうが」

「あのね! お祭りにまで素材をとりに行く人は、キーぐらいだから! だいたいの人は優勝したいか、賞金が欲しいか、純粋に楽しみたいだけだから! 素材欲しさに祭りを破綻させないで!」


 本当、ペドロのためだと常識の欠片もなくなってしまう。念のためカイヤに監視をお願いするべきか。


「師匠が大会出るなら、あたしも出てみよっかな! おもしろそうだし! あっ、ミリちゃんも一緒に出る?」

「え……わ、私は良いかな」

「そうなの?」

「うん」


 魔法決闘の大会は一ヶ月の中で、何度か開催される。カナタは二つ星の魔法使いなので、きっと中盤あたりで参加できるだろう。

 予定を決めた後は、残りの二日間でやるべきことを済ませるため、採集の予定を詰めていった。


「最低でも五か所は回ろう! メイガンさん達に素材を届けないといけないし」

「ワタクシ達はどこに行けばいいでしょう?」

「カイヤ達は十か所行けたりする?」

「問題ありませんねェ。シリマも連れていくことですし」


 ついでに制御の練習でもさせましょう、とカイヤが宣言すると、シリマの顔が引き攣った。

 あわわ、と逃げ腰になっているので、相当やりたくない様子。カイヤはスパルタなので、今までの『練習』がトラウマになっているのかもしれない。


「れ、レイ様、やりたくない……兄さん、手加減なんて知らないから……!」

「うーん……でも、ぼくも制御はできるようになった方がいいと思うなあ」

「なっ……?! で、でも、兄さんだけは嫌だぁ……!」


 泣き出しそうになったシリマを、糸で黙らせるカイヤ。

 本当はレイが練習に付き合うのが良いのだろうが、気弱なシリマに教えるとなると、つい甘くなってしまう。それだと練習の意味がないので、カイヤくらい気にせず厳しくできた方がちょうどいいのだ。


「うぅ……ヒック……うぅ……」

「心は痛むけどね……」

「シ、シルくん……明日のおやつはパンケーキにしましょう……! だから、少しだけ頑張ってみませんか……?」


 アリスがなんとか励まして、最終的にはこくりと頷いていた。

 

「『星誕祭』までの二日間は、きっちり採集だけにしよう。主にレシピのために」

「一ヶ月も空くけど、魔法薬の方は大丈夫なの?」

「たぶん、エリンは『星誕祭』に参加しそうだし、ここ一ヶ月は煮込み作業が長いものにあてるってさっき聞いたよ。素材については、さっきカイヤが三つ見つけてきたし」

「三つも……?!」


 なので、最優先の素材はひとまず保留。それ以外に補充が必要な素材を、皆で採りに行けばいい。

 明日行く採集地も決まったので、そろそろ帰ろう。そう立ち上がりかけた時。


「ん? この時間にどうしたんだろ」


 ポケットから魔力を感じる。それは、最近やっと慣れてきた牙の魔法だ。


「ヴィヴリオさん?」


 慌てて取り出して尋ねる。だいたいは文句や関係のない話から始まるはずだが、今回は開口一番に質問をしてきた。


《オマエ、さっき『星誕祭』の話をしたな?》

「うん。『杖』の手がかりがあるはず──」


 その通りだと肯定するレイの声を遮って、ヴィヴリオは唐突に報せを告げた。

 

《ああ、あるよ。今現在の速報だ。『星誕祭』の『中位魔法決闘・星団戦』の優勝賞品が、用途不明な魔導具らしい》


 『杖』の鍵の急な進展に、レイは再び座り直すことになった。

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