表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/106

九十八話 晒し者

 なんで魔法を途切れされたんだ。

 そこで回り込むのが正しいだろ。

 安全な後方にしかいない癖に。

 

 お前のせいで、台無しだ。


 何度も耳に飛び込んで来る、たった一人に向けた全否定。

 なぜ、こんな風に言われるのか。

 それは、決闘に出る前から知っていることである。 


「ほらね? やっぱりあんたがいるからよ! このひっつき虫! あんたみたいな下手っぴが、ロミーに誘ってもらえるなんて幸せ者よね! 本来は千年……ううん、一万年は早いのに!」

「……」


 ピンクの髪に、ピンクの目。

 可愛らしい声は、ヒステリックに叫び、心を抉る棘となる。

 愛され者のの少女は、今この瞬間だけ嫌悪をむき出しにしていた。


「せっかく決闘に出させてあげたのに、後ろでちまちま魔法使ってるだけ。あーあ、こんなことなら、前の時みたいにすればよかった!」

「……っ!」


 動揺を隠すように、俯き加減を急にする。以前は、思い出したくもない。


「ねえ、ロミー! もういいじゃん! あんな子と一緒に決闘しなくてもいいし、さっさと退場させちゃおうよ!」


 ついに近くにいた中心人物に、直談判する。

 彼女の訴えに、──はゆるりと振り返った。

 結った髪を跳ねさせながら、何事もないように笑みを浮かべる。

 

「……ん? 退場? それはダメだよ。みんなで優勝するって決めたでしょ?」

「そ、そうだけどさあ……」

「良いじゃん。せっかくの『星誕祭』なんだから、楽しまないと。ね?」

「そこまでいうなら、良いけど……」


 こちらを振り返ってひと睨み。

 直談判が失敗に終わり、気に入らない態度を全面的に出している。


「次の決闘まで時間あるし、ちょっと出掛けてこよーっと! あっ、あんたはここで待機だから。行こう、ロミー」


 そのまま四人は『星誕祭』を楽しみに行った。

 残されたことに、ほっと息を吐く。

 ここに待機と告げられたが、どうせ外では罵倒されるのがオチ。


「『エドゥフェ』……『エドゥフェ』……『エドゥフェ』……」


 次は失敗したくない。


 魔法使いはその一心で、何度も何度も同じ単語を唱えていた。

 ──たちが戻ってくるまで、ひと時の休みも入れないと覚悟しながら。


 ◇◆◇


 魔法決闘の会場へ着いたレイたちは、休止となるまでの異様さに目を疑った。

 会場の外には、先ほどの決闘を見届けた人が集まる。その誰もが懐疑を忘れ、瞬く間に噂を広めていった。


「さっきの試合見た? 途中でぼんやりした子が失敗して、優勝候補のチームが負けたの。なんで他の人にしなかったんだろう」

「あっ、それ、さっき聞いたんだけど、そのチームのリーダーが幼馴染なんだって。運がいいよね。それだけで優勝候補に入れるんだから」

「へえ……でも、図々しくない? 普通は辞退するでしょ」

「確かに。空気読めないのかなあ」


 こんな話があちこちから聞こえてくる。不釣り合いで、見合っていなくて、全く価値がないものだと口を揃えている。

 それは、どんどん人格否定に到達した。根暗、影が薄い、貢献してない、つまらない、性格が悪そう……。

 だから、肝心なところで失敗するんだ。だから、あんな風にしか魔法が使えないんだ。


「性格なんて何も関係ないんだけど」

「辞退しないといけないっていうのも変だよね……」


 リーダーと幼馴染で一緒に出ているというのに、外野がとやかくいう話ではない。決闘そのものを壊すような行為がないなら、当人同士で決着をつければ良いだろう。

 むしろ、仲が良いのに何故一緒に出てはいけないのだろうか。

 

「原因は同じチームの子だけど、今さら反論したって誰も信じないだろうね。……さて、どうしたものか」


 決闘の会場には、『星誕祭』規模の人が詰めかけている。そんな中で、度重なる失敗をして優勝候補だというチームの汚点とされた。

 ならば、同じぐらいの規模で上書きするのが手っ取り早いだろう。それを成すには種も仕掛けも足りないのだが。

 

「よーし、封鎖されて入れないところだけど、正当な理由があるから通過を許してもらおっと」


 魔導師の紋章を用意して突入。こういうのは、わくわくする。精一杯のドヤ顔を披露できるから。


「ここは通行禁止で…………失礼いたしました」


 たぶん、警備の魔法使いは内心イライラしているだろう。

 ただでさえ押しかける人を止めないといけないのに、目の前で中に入る人が現れてしまったのだから。

 再び問い詰められており、うんざりした様子が伝わってきた。


「ごめんなさいって心の中で思っておこう」

「口にはしないんだな」


 口にしたら文句を溢してきそうなので、ここは触れないのが賢い選択である。

 決闘の会場は、とりわけ閑散としている。『中位魔法決闘』は休止しているため、皆『星誕祭』を見に町へ繰り出していったのだ。残っているのは話題の中心人物のみなのだろう。


「魔法、使ってるね」

「一人で練習してるのかな?」


 ひたすら使っている魔法は、攻撃用のものではなく、ただ空を彩るだけの魔法。

 その精度と芸術センスは目を見張るほどで、決闘の会場がステージとなっているようだった。


『エドゥフェ』、『エドゥフェ』、『エドゥフェ』……。


 近づくと、ひたすら囁くのが呪文だと分かった。

 ミスをしたら、やり直し。間髪を入れず、無心で魔法の練習をしている。

 それは、はたからすれば機械的。できなくても表情を変えない姿が、この状況に慣れてしまっているようだった。


「『エドゥフェ』、エドゥ…………? 誰?」


 リーフグリーンの瞳が、こちらを見やった。

 遠くを眺めるようにして、虚ろにミディアムヘアを一房こぼす。

 突然の侵入者に驚くこともなく、淡々と問いかけた。


「練習中にごめんね。少し時間あるかな?」

「時間……私は練習を──」

「ほんの少し、話を聞くだけだから」

「…………少しだけなら」


 立ち上がって、弧を描くのをやめる。輪郭は風に吹かれて揺らぎ、さらさらと魔法は消えていった。


「えっと、ぼくらがここに来たのは……」

「……」


 さっきの決闘についてなんだけど、と続ける前に、少女は瞳の奥を仄かに諦観で染めた。

 

 またか。また、言われようのない不名誉で埋め尽くされる。

 

 その全て知り尽くしていながら、何も察せられない鈍感さを表に出す。そうしていれば、適当なところで興味を失ってくれるから。


「……ぼくらは、きみの敵じゃない。きみが失敗した理由も、やろうとしたことも全て知ってるから」

「……?」


 まずは信頼を得ることが先決だ。目の敵にする人ばかりなら、なかなか打ち解けようとしないはず。

 相変わらずぼんやりと、少女はゆっくり首を傾げた。


「さっきの決闘、見させてもらったよ。あれは味方のカバーをするためだったんだよね?」

「……」


 瞬きを数回。驚きと疑問が合わさって、少しだけ目を見開いた。


「だから、きみを責めるために来たんじゃない。繰り返すのはダメだと思ったから、防ぎに来たんだ」

「……なんで」

「え?」


 短い疑問にレイは目を瞬く。

 何に対しての、なんで、だろうか。

 聞き返したレイに、少女は怒りのような悲しみのような声で答えた。

 

「なんで、防ぐの……? 私が何をしても変わらないのに」


 初めて焦点があったようだった。彼女はまっすぐな視線で見据える。

 それは、静かな怒りであり、失望させてくれと訴えているようだった。


「みんな、私のせいになることを望んでる。私があの子の幼馴染な限り……」


 澄んだ瞳に混じる影。聡明で悟ってしまった、諦めてしまった。

 そんな表情で、遠くだけをしっかり見ている。

 耳を塞ぎ、目を閉じて、残ったものだけを見据えていた。


「あと三回。あと三回で終わる。そうすれば、きっと元通りになるから……」

「元通りって……本当にそうかな?」

「……」


 これ以上酷くなりたくない。話が見えずとも、それだけは理解した。

 

 ただ、それはより状況を悪化されるだけである。

 

 あの状況があと三回続いたら、顔も名前もハッキリ覚えられてしまうだろう。

 さらに、誤解されたままの場合、『星誕祭』の後にもレッテルを貼られ続ける。それで酷くならないわけがない。


「突然やってきて防ぐって言われても、疑われるのはわかってるよ。ただ、今まではひどくならなかったかもしれないけど、今回のはそうじゃないって断言する。決闘場にいた人は、たった数人の話じゃないから」

「……また、大切がなくなる。そういう、こと……」

 

 まとまりのない、迷子のつぶやきをこぼす。八方塞がりだということに、再びぼんやりとした瞳で遠くを見つめていた。


「私は……どうすればいい? 大切は守らないと……」

「大切? ……何かあったの?」


 表情を変えないまま、淡々と、怯えている。

 されるがままになっている理由が、そこにあるのだろうか。

 彼女は目を伏せると、『大切』を教えてくれた。


「さっきの……空を彩る魔法。あれが、私の大切。小さな絵でも、下手な絵でも、なんでもいい。楽しかったら、それでいい」


 そのまま口を閉ざした少女。その後に続く言葉は、なんとなく予想できた。


 なのに、そんな些細なことも許されない。放っておいてくれない。


 彼女の身の回りで起きたことが分からないが、置かれた立場は目に見えるようだ。

 一人ぼっちを望んでいる。けれど、それもできずにいる。宙ぶらりんの最中(さなか)。それが彼女の現状だ。


「そっか……なら、やっぱり誤解を解きたいっていうのが本音?」

「……わからない」


 そう言いながらも、ほんの少しだけ、うわごとのように逃げたいと口にしていた。

 けど、その中には離れられない理由も混ざっていて、相反するようにせめぎ合っていた。

 特に、ずっと繰り返している、誰かを指した『あの子』。


「あの子は、何がしたい……? あの子は……ロミーは、私の誰?」

「……?」


 幼馴染と口にしていたはずだが、それにしては不可解なことばかり呟いている。


「えっと、大丈夫?」

「……。誤解は、解く?」


 問いには答えず、こちらを見つめる。

 読めない表情だが、誤解について初めて触れた。


「何がなんでも解くつもりだよ」


 誤解を完全に解くことは難しいが、賛否両論になるまでなら晴らせるはず。とにかく膨れ上がった悪評を減らすことが目標だ。

 彼女は黙々と考えて、ひとまず誤解を解くことを前向きに捉えた。まだ答えは出せないようだが、じっと待つよりは良いと結論づいたようだ。


「何か行動する場合は、そのとき考えればいいよ」

「……」


 話がまとまったところで、詳しい話を聞く。

 すると、いろいろと予想外なことが飛び出てきた。


「えっ、じゃあ、誤解は本当に誤解ってこと? 誰かがはめたわけでもなく、誇張されて伝えられるからこうなったってこと?」

「……そう」


 『投影書』で流れた映像からして、近くにいたピンクの少女が画策したのかと考えていた。

 だが、どうやらピンクの少女はミスを言いふらしているだけで、そうなる状況を作り出したわけではないようだ。


「それって、ピンクの子は自分のミスに気づいてないってこと……まあ、いいや。けど、そうすると、あんなに上手く広まるものかな。決闘場にいた全員が口を揃えるのは、違和感がある」


 なんせ、先ほど『投影書』で確認した決闘は、出場した全てを含めて責められるべきミスは全くないのだ。

 それに、決闘をしっかり観ていれば、フォローに回ったことも簡単に気づく。全員が全員、彼女を責めているのはおかしかった。


「なら、あのピンクの子以外にも、意図的に悪評を広めている人がいる……? その場で観てる人の認識を操る……」


 それができるのなら、こちらがどんな方法を取っても悪評は広まり続けるだろう。

 やはり、劇的な上書き。それも、疑いようもないほどの真実が必要になってくる。


(本当は犯人を探した方がいいけど……これだけの人がいると、見つけてる間に訂正しきれなくなる。……から、ヴィヴリオさんに頼もうかな)


 ローブのポケットを漁って魔力を込める。こちらの状況を把握しているため、すぐに繋がった。


「エミリーに関する噂を広めてる人を調べて欲しいんだけど……」

《……》

「あれ? ヴィヴリオさん?」

《……ああ、やれたらやる》

「え? って、また勝手に切られた!」

 

 なんだかやってくれるか微妙な返答だった。『やれたらやる』と言うのは、実質やらないと言うことではないか。

 仕方ないので、カイヤに頼んでおこう。犯人を調べるよう連絡して、訂正の仕方を思案する。

 

「まず、期限は次の決闘……つまり、三日後までだね。それまでに、広がった噂と同じぐらいの規模で噂を否定する。……言ってはみたけど、わりと難題だね」


 魔法会に頼めば、情報を広く流すことぐらいはできる。ただ、そこで観てもらう内容が難しいのだ。

 

「同じくらいの規模……少なくとも、決闘場にいた人数分に信じてもらわないといけないってこと?」

「そうだね。些細なことだと気に留められないし、むしろ、自作自演と解釈する人の方が多くなる」


 思ったよりも現実的な話でないと気づいたミリアが、視線を落とす。決闘までに間に合うか、心配そうにしていた。


「パッと思いつくのは、真っ当な二つ星魔法使いを集めて決闘をするくらいかな。即席のチームでも、違う人と組ませるべき……」


 ただ、それでは噂を塗り替える材料として弱い気がする。考えを改める人もいるだろうが、攻撃が止むとは思えない。

 

 何か、もっと良い方法はないか。

 

 集中しようとフードに手をかけようとした。その前に、後ろから声がかかった。


「それなら、私に任せて欲しいな。良い方法があるの」


 いつの間にかの侵入者。誰だと振り返れば、ローズピンクとワインレッドの髪色を持つ女の人がいた。

 優しげな垂れ目の印象的な彼女は、視線を合わせてふわりと微笑んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ