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真実の行方①

「おはようカイル。よく眠れた?」


目が覚めた時の、あの彼女の顔が忘れられない。

初めて会った時、警戒しながらもカイルを助けてくれた彼女の手のひらの温かさ。

嘘をつくのが下手ですぐに目が泳ぐ。

怖がりな癖に変に根性があってロゼの厳しい訓練に泣き言をもらしながらもついてきた。

いつも限界まで我慢してそれで我慢出来なくなって突然泣き出したりする。

カイルにだけは馴れ馴れしくて生意気でその癖甘えてくる。

カイルは目を覚ましたステラにおはようと微笑まれた時、初めて自分の気持ちに気が付いた。

これから先。目覚める自分をこうやって起こしてくれるのが彼女であればいいのに。

そう思ったのだ。

例え自分の母が亡くなった原因が彼女であったとしても構わない。

全てが終わった時、自分達の事を誰も知らない場所でひっそりと暮らせばいい。

ステラがカイルの事情を知りそれでも着いて来てくれると言ったら全てを捨ててステラを選ぶつもりでいた。

だから彼女に想いを伝えた。

カイルは思う。

なんて、自分は軽率だったのかと。

そして、考えが及ばなかった自分を呪った。

よく考えれば全く可能性が無いわけではなかったのに。




「ステラ。貴方は神の御子の中で最も重要な役割を持つ者。目覚めの扉を開く鍵です」


アスターシェは四人それぞれに目線を合わせていく。

ふと、カイルに目を止めしばし見てからステラに視線を移した。


「あなた方がその使命を果たす為には、まずその扉を開けねばなりません。それはステラにしか開けられません」


つまりステラが死んだら全てが終わってしまうのだ。

皆、息を飲んだ。

アスターシェと話をする前。ステラは悩みノゼスタとリュナにも事情を話す事にした。

彼等にも関係あることだ、いずれこの世界の変化にも気がつくはずである。彼等にも知る権利があるのではとステラは思った。


「貴方が持っていたオルゴールは本来ならステラの為の物でした」


全員が「え?」とアスターシェを見た。


「その扉は全知の扉。通る際大量に世界の記憶がステラに流れ込んできます。まともな人間ではその扉を通る事が出来ないのです」


カイルはただ、呆然とそれを聞いていた。

彼はオルゴールがどんなものか正確には知らなかった。


「あのオルゴールは人の心を消し去る為の物です。その音色を最後まで聞けば、その人間の心は空っぽになります」


「・・・・・・・な!」


ノゼスタとリュナはそれを聞いて真っ青になった。

そんな物ステラに使うというのか?


「聖女の苦痛を和らげる為、古代の先人達が創り出した禁忌のオルゴールです。しかしそれを使うかどうかは本人次第です。それは扉を開ける者の為の物だったのです」


「だけどそれを、バッツが聴いてしまったんですね」


ステラは真っ直ぐにアスターシェに問い返した。


「私が箱を開けたせいで」


アスターシェは悲しげに目を伏せた。


「全て、ではありません。ほんの一部です。しかし彼の心を壊すには充分でした。貴方は今の彼が本来の彼で無い事を知っていますね?」


知っている。

でも、ステラがずっと一緒にいたのは壊れた方のバッツだった。


「貴方は何も悪くありません。貴方は何も知らず、側にあった箱を開けただけ。誰も貴方に本来の意味を伝えることが出来なかったのだから」


カイルは震えた。

恐らくそれが自分の祖父や父、カイル自身の与えられた役割になるはずだったのだ。


「バッツは今、私達の大切な同胞と共に行動しています。彼女もまた、バッツに出会ったことで運命の輪の中に絡め取られ苦しむでしょう。しかしバッツにとって彼女はすでに必要不可欠な者へとなりつつあります」


そうか。

バッツは見つけたのだ。

ステラと同じように。


「しかし、今のバッツにはそれが理解出来ません。このままでは彼は保たないかもしれません」


そこまでバッツが追い詰められていたなど、ステラは全然知らなかった。しかしステラにどうしろと言うのだろう。


「分かりませんか?バッツはレイヴァン・スタシャーナを実の父親のように愛していました」


「愛していた・・・・」


それはそうだと思う。

あの墓はバッツが自分で作った物だ。


「彼はあの瞬間から一人になったのです。身体は17歳の青年ですが彼の壊れた心はいまだ幼子のまま」


「・・・・・・・・そして、私もいなくなった?」


そうか。そういうことか。


「後は貴方にお任せします。バッツは、あの子は私の子供でもあるのです」


皆、訳の分からない顔をする。

これにはアスターシェは微笑んだだけだった。



****




四人は帰路の船の中で無言だった。

ステラはボーと水面を眺め、バッツの事を考えていた。

彼が悲しんでいる所を見たことがない。

彼が泣く所も。

いつも彼は笑っていた。

でもよくよく考えると彼が困った顔をするのはステラが何かに落ち込んだり悲しんだ時。

どうしたらいいのか分からないという顔でステラを見た。

いや、多分不安だったのだ。分からなかったから。


「私って自分の事ばかりだったんだなー」


ステラは小さくつぶやいた。

そんなステラの頭をカイルが撫でる。


「俺はバッツに一度会っている」


その言葉に三人は驚いた顔をした。


「え?初耳なんだけど?一体いつ会ったの?」


リュナは意味が分からないという顔をした。

しかしステラはその言葉に二人の出会った時の状況を思い出した。


「まさか・・・あの怪我は」


でもそれなら何故あんな所に、ステラの近くにいたのだ。


「そうだ。バッツにやられたものだ。教会に着いた時、俺とレイヴァン司祭が言い争っている所に現れた。俺をレイヴァンの命を狙う者と勘違いしたんだ。実際確かにレイヴァン司祭は狙われていた。いや、違うな」


ステラが狙われていたのだ。


「多分俺の家が属していた教会の連中が居所を突き止めステラを引き渡すよう迫ったのだと思う。レイヴァンは元々そこの一族の人間だった」


思わぬ展開にノゼスタが頭を押さえる。


「何だそれは。お主最初から知っていたのか?」


「いや、俺はあの家を捨ててきた身だ、詳しい事は知らない。だがレイヴァンと会った時の話と今までの事を繋ぎ合わせて行くとそうなる。だだ、一つ分からない事があるんだ」


皆、首を傾げている。

カイルはステラを見る。


「俺があの教会に辿り着いた時そこはまだ襲われてはなかった。そしてそのすぐ後にバッツに攻撃され俺はレイヴァンに助けられたのだと思う。恐らく転移魔法か何かだ」


ステラの瞳は大きく開いた。


「俺たちが再びあそこに辿り着いた時。あの教会は跡形もなく無くなっていた。その後すぐ魔物に襲われたから俺たちはてっきり魔物たちの仕業だと思い込んでいたが・・」


バッツはレイヴァンが襲われる前に教会に辿り着いている。彼の強さであれば助けられた筈だ。


「一体誰がレイヴァン・スタシャーナを殺したんだ?」


アスターシェの言葉がステラの頭の中で響き渡っている。

ステラは三人の顔をゆっくりと見た。

皆。そんなまさかという顔をしている。


「まさか。魔力の暴走?」


理由は分からない。

だがあの破壊のされ方からその凄まじさは想像できた。


「じゃあ、バッツは、バッツは・・・・」


「ラーズレイに戻ったら一旦パーティを解散する」


カイルは三人に意思を確認する。


「もうなり振り構っていられない。万が一バッツが暴走すれば大変な事になる。ステラ!」


カイルの呼び声にステラは真っ直ぐ体を起こした。


「急いでバッツを見つけるぞ。会ってどうするかはその時考えろ。いいな!」


そうだ。細かいことはどうでもいい。

今重要なのは自分がバッツと会うことだ。

ステラはやっと笑顔を見せた。


「皆で手分けして探そう。ロゼ達にも応援を頼む必ず数日中にバッツを見つけるぞい!!」


カイルはこうしてひっそりとステラをバッツに渡す準備をし始めた。



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