真実の行方②
「レイヴァン・スタシャーナか?」
カイルはあの日、森の教会で彼に会った。
「そうだが。やけに若い者が来たな?」
レイヴァンはカイルを見て不思議そうな顔をしていた。
恐らく教会の者がやって来たと思ったからだ。
「ここにオルゴールがある筈だ。それを受け取りに来た」
「オルゴール?」
訝しげな顔をしたレイヴァンはカイルの顔を改めて見つめると驚いた顔をした。
「俺の父の持ち物だ。俺はそれを取り返しに来た」
「カイル。まさか、カイルなのか?」
レイヴァンがカイルに駆け寄ってくるカイルは思わず一歩下がった。
その様子にレイヴァンは足を止める。
「イネスはどうした?ここが知れたのなら何故彼が来ない?」
「父は二年前に亡くなった。病気を患って。あんたは俺の祖父だと聞いた。父の遺言であの家は出た。今は冒険者だ」
レイヴァンはそれを聞いて顔を覆った。何かを呟いていたがカイルには聞こえなかった。
「カイル、今すぐここを離れなさい。もうすぐここに教会の者達がやってくる。オルゴールは今ここには無いんだ」
「信用出来ない。中を見させてもらう」
「カイル。本当に時間がないんだ。ここを出てステラという子を探しなさい。その子と行動すればいずれオルゴールに辿りつける」
レイヴァンはカイルの肩に手をかける。
カイルはそれを振り払った。
「信じられない!あんたは俺の母を殺したんだろう?」
「そうだ!私のせいでクリスティナは死んだ!だからお願いだ、どうかお前まで失わせないでくれ!!」
レイヴァンが叫んだ瞬間。カイルの腹部を何かが貫いた。
カイルは痛みで思わず膝をついた。
「カイル!!」
レイヴァンはすぐに回復魔法をカイルにかける。しかし中々傷が塞がらない。
「レイヴァン様そいつ敵じゃないの?」
ふと後ろから若い男の声がした。
カイルは痛みの中でなんとかそちらに目をやる。
「バッツ!何故戻ってきた!あれ程引き返しては行けないと言ったのに!」
レイヴァンはバッツに怒鳴った。
怒鳴られた青年はまん丸に瞳を開いてこちらを見ている。
「この子は敵じゃない。私の孫だ」
「・・・・孫?レイヴァン様の?」
彼は自分が傷つけたカイルをじっと見つめた。
カイルはその時彼の指が微かに震えているように見えた。
「もうすぐ教会の者達が来てしまう。時間がない。バッツ!この子を連れてステラの所へ・・・・・」
「レイヴァン様何処かに行くの?俺達を置いて」
ミシリと地面が音を立てた気がした。
何だろう。急に空気が重く感じるのは気のせいだろうか。
「本当の家族の所に帰るの?」
レイヴァンの顔が歪められている。
その瞳はバッツから離れなかった。
「バッツ・・・お前はずっと・・・」
レイヴァンが何かを言っている。
しかし意識が朦朧とし始めたカイルにはそれが聞き取れなかった。カイルの頬に何かあたり滑り落ちた。
たちまちカイルの身体が光を放ち始める。
レイヴァンはカイルのおでこにそっと触れカイルを見て微笑んだ。
「幸せになりなさい。両親の分まで」
気がつくとカイルは森の中にいた。
****
「ここかなぁ?」
ステラは一人ラーズレイの装飾屋に来ていた。
看板に"装飾屋カスタモニカ"と書いてある。間違いない。
「バッツ来てるかなぁ?」
実はレイヴァンがラーズレイに着いたらまず立ち寄るようにと言っていた場所がここである。
ステラでさえ、今まですっかりその事を忘れていた。
バッツはまず思い出さなそうだ。
「とりあえず会ってみよう」
何かバッツの手掛かりが得られるかもしれない。
建物の階段を上りドアを叩く。
すると中からくせっ毛で長い髪を綺麗に束ねている優しそうな男性がドアを開けた。
「おや?可愛らしいお嬢さん、うちにご用ですか?」
「は、はい。あの、こちらの店主の方ですか?」
そう尋ねると男性は笑って首を振る。
「リュカ様。可愛いお客様が見えてますよ?」
男性はステラを中に通してくれる。
彼が話しかけた先に目を向けると、そこには作り物では無いかと思う程の美しい男性が座っていた。
「おやおや、珍しいですね?こんな怪しい店に貴方のようなお客様が来るとは・・・お名前を伺っても?」
見とれていたステラは慌てて背筋を伸ばした。
「私はステラと申します。レイヴァン・スタシャーナ様にここに来るように言われたのですが・・・」
ステラが名乗ると店主は立ち上がりステラの前まで来た。
「なるほど。来るのが遅いと思っていましたが、お転婆娘に捕まっていましたか?」
店主の言葉に困惑していると、もう一人の男性が助け舟を出してくれる。
「リュカ様。彼女が困ってますよ?分かるように言ってあげて下さい。ステラ私はゼイル。この方はこの店の店主のリュカ様です。今お茶を淹れますからどうぞ座って下さい」
そう言われてソファーに座る。
リュカも笑いながら向かい側に腰掛けた。
「君のその耳飾り。ロゼでしょう?」
一言目にそう言われステラは口を開けた。
「え?お知り合いですか?」
「そうだね。同業者だからライバルかな?」
リュカはクスクスと笑っている。その姿も美しい。男性なのに・・・・・。
「ここに来る途中で助けて貰ったんです。とても良くしてもらいました」
なんだかロゼに会いたくなってきた。
ゼイルは淹れてくれたお茶をステラの前へ置きながらさり気なく尋ねてきた。
「ロゼの連れは元気そうでしたか?」
「エルディさんですか?はい!っていうか途轍もない体力でした」
彼は疲れる事があるのだろうか?想像出来ない。
「それはそれは。相変わらずそうで安心しました」
そんなゼイルをリュカが見ている。口元は笑っているが何か不満がありそうな目線である。
「話は逸れましたが、レイヴァンから預かっている物があります。貴方とバッツという青年が訪れたら渡して欲しいと。魔力を制御するアクセサリーとレイヴァン本人が貴方達に宛てた手紙です。丁度貴方達が旅立つ前日ぐらいに届きました」
リュカはゼイルに手で指示するとゼイルはさっと奥の部屋へ行きすぐに戻って来た。
「あの。リュカさんはレイヴァン様とはどういう?」
ステラが聞くとリュカはニッコリ笑ってお茶を飲んだ。
聞いたらまずかっただろうか?
「私はガルドエルムの出身なのですが、その時彼とは少しばかり縁がありましてね。こちらに店を構えた時声を掛けさせて頂いたのですが、その時にこの仕事を頼まれまして。料金は前払いで頂いておりますのでお気になさらずとも結構ですよ?」
これ以上は聞かない方がいい気がする。
ステラはそう思った。
なんか彼からロゼと似たオーラを感じる。
「そうなんですね。私は教会から出た事がなかったのでレイヴァン様の交友関係が全くわからなくて・・・すみません。変なこと聞いてしまって」
「いいえ。構いませんよ。ではこちらがお約束の物です」
そこには封筒と装飾品された投げナイフがあった。
封筒が手紙なのはわかるのだが・・・・。
「貴方がこの町にいるのは知っていました。貴方が使っている武器も。私はずっとあなたが来るのを待っていたのですよ?」
そう言われステラの顔は赤くなる。
すっかり忘れてた自分が恥ずかしい。
「すみません・・・・来るのが遅くなってしまって」
「いいえ。事情があったのでしょう?もう一人の青年はまだここに来ていません」
そう言われハッと顔を上げる。
そして封筒を見た。
「この手紙は一つですか?それともそれぞれにありましたか?」
「これ一つです。二人で読むようにという事かと」
ステラは封筒を手に取った。
「ここで読んでも?」
リュカは構わないと微笑んだ。
ステラは中から手紙を取り出して一枚一枚読んでいく。
最後の一枚を読み終えると元あった通り手紙を封筒に戻した。
リュカは黙ってそれを見ていた。
ステラは自分のバックを引き寄せると中から小さい袋を取り出しリュカの前に置いた。
「これは?」
「この前ラゴス山の麓の遺跡の奥で見つけてきた鉱石です。良かったら見てみませんか?」
そう言われリュカはその中身を確認し目を見開いた。
「これは、珍しい・・・・ダイヤですね?」
それは冒険者でも滅多に取れない宝石の原石だった。
値は豪邸が立つくらいにはつく。
「もし、宜しければそれは差し上げます。そのかわりこの手紙をもう暫く預かって頂けないでしょうか?バッツや私の仲間が来たら見せてあげて欲しいんです」
「それは・・・構いませんが貴方ご自身では駄目なのですか?」
はい。とステラは微笑んだ。
「バッツは恐らく私を避けています。彼に本気で逃げられてしまえば私は追いつけません」
でも隠れんぼだけは得意だった。
いつも我慢出来ずにバッツから姿を現した。
「あと、私の手紙も預けていいですか?それも仲間に見せて下さい。頼めますか?」
「・・・構いませんよ。報酬は頂いてますから」
リュカはそう言って紙とペンをステラに渡した。
****
「どうだった?」
宿屋の部屋でステラはカイルに尋ねた。
カイルは首を振る。やはり遠くにいるのだろうか。
「・・・スノーウィンに戻ってみようと思っている」
バッツは限界だと言っていた。もしかしたらあの教会にいるかもしれない。
「そうだね。ロゼさん達と連絡取れたら戻ってみようか?」
流石に二人では危険すぎる。これにはカイルも同意した。
「じゃあ明日ノゼスタ達と落ち合おう。何か掴んでるかもしれないしな」
そう言ってカイルはベッドに横になった。
もう遅い時間だ。寝ないと明日起きれなくなる。
「お前もさっさと寝ろ。明日は早い」
今日の宿はカイルと同部屋である。
この前と違いちゃんとベッドは二つあるが。
ラーズレイは宿がなかなか取れない。各地から人が集まる冒険者の町だからだ。
「電気消すよ?」
ステラは部屋の電気を消す。
その時にふとカイルは思い出した。
「そういえばステラはどうだったんだ?会いに行っー」
寝ながら振り返ろうとしてカイルは失敗した。
ベッドの中にステラが潜り込んできたのだ。
途端カイルの心臓の音が早まった。
「レイヴァン様が魔力を制御するアクセサリーを頼んでたみたい。バッツはまだ来てないって言ってたよ」
ステラの腕がカイルのお腹に回される。
背中にステラの温もりを感じる。
「・・・・・・ステラ」
カイルは少し怒気を含んだ声を出した。
ステラは構わずカイルの背中に顔を埋めた。
「もう。今日は自分のベッドで寝ろ。明日は早いって言っただろ?」
「・・・・・・・・・・・うそつき」
ステラの腕に力が入る。カイルは自分の腕で顔を隠している。
「私を抱くって言ったのに。全部嘘なんでしょ?」
あの日からカイルは全くステラに触れていない。
手すら握らない。
「でもいいよ。それでもいい」
ステラは腕の力を抜いていく。まるで何かを諦めるように。
「貴方が私を好きじゃなくても、私は好きだからいいの」
ステラの身体がカイルから離れる。
身をひるがえしベッドを降りようとするステラの肩をカイルが掴んだ。
「馬鹿が!!」
そのまま上を向かせて噛み付くようにキスをする。
ステラは腕をカイルの首に回した。
「俺が、どれだけ・・・・」
「好きだよ。カイル・・・・」
カイルの手がステラの服の下に滑り込んでいく。
サラリと彼女の着ている服が少しずつ下に落ちていった。
(彼の香りがする)
彼女の白い肌をカイルの唇や手が撫でていく。ステラはカイルの苦しそうな顔から眼をそらさなかった。
「・・・・ぅん」
(私はきっと地獄に堕ちる)
それでも構わない。ステラは微笑んだ。
「・・・カイル、大好き・・だよ」
二人はその夜、深く深く触れ合った。
このまま朝が来なければいい。カイルはそう思っていた。
しかし朝はやってきた。
カイルは怠い身体を起こす。
そしてしばし思考し顔を上げ、気がついた。
隣に居るはずの彼女がいない。
「・・・・ステラ?」
カイルが目覚めた時。
ステラの姿はそこになかった。




