残酷な現実
その泉は山の山頂近くに存在した。
美しいエメナルドグリーンが辺り一面に広がっている。
「わぁあああ!」
「凄い!」
女性陣二人はキャッキャしながらテンションが上がっている。それを眺める男性陣。
「何がそんなに楽しいのか。サッパリ分からん」
確かに綺麗だと思うがそこまで騒ぐ程ではないと思う。
「まぁ内容が女性陣向けなんじゃ。何と言っても恋を成就させる力があると言われているからの」
「恋、ねぇ?」
向こう側で二人は楽しそうに瓶に詰めている。
一体何本持って帰るつもりなんだとカイルは頭が痛くなる。
「で、結局の所お前さん達は何処までいってるのかの?」
「何がだ?」
ノゼスタの問いにカイルは質問で返した。
「とぼけおって。ステラと付き合っておるのか?」
カイルは揶揄いを含んだその問いに前を向いたまま答える。
「付き合ってると思うか?」
カイルの様子から軽口では済まない雰囲気を感じられ真剣に問う。
「やはり。彼女は何か大きな問題を抱えているのか?」
その問いにカイルの眉が寄せられた。
それがノゼスタに対する答えだ。
「ずっと考えているんだ。どうする事がいいのか」
ノゼスタも眉を寄せる。
アスターシェの話でノゼスタもリュナも何かに勘付いている。ロゼの知り合いなのだからもしかしたら何か知っているかも知れない。
「この旅が終わったら一度解散しよう。あんた達に頼みたい事がある」
「構わないが。どうするつもりだ?」
カイルの勘だがバッツはやはり意図的にステラに再会しないよう避けている気がする。恐らくあのオルゴールを持っているからだ。そしてこれも憶測に過ぎないがステラはそのオルゴールを開ける事が出来るのだ。
「ステラに隠してる事がある」
カイルはギュッと目を閉じた。
「今、言わないといけない気がする。その後、彼女の側には誰かがいなければならない」
「お前さんでは駄目なのか?」
カイルは笑った。
何故今まで平気で彼女の側にいれたのだろうと。
「ノゼスタ。俺は何処で間違えたんだろうな」
その問いにノゼスタは彼の苦悩を読み取った。
「この仕事が終わって帰ったらすぐにロゼに連絡を取って欲しい。伝言を残してはあるが多分ラーズレイには来ないだろうから」
「カイルー!いっぱい採れたよー!」
ステラが笑顔で走ってくる。
カイルは苦笑いでそんな二人を出迎えた。
「じゃあ私とノゼスタは先に帰ってるからカイルはステラに付き合ってあげて。もう少し奥まで見てみたいんだって!」
リュナはホクホク顔でノゼスタの背中を押して行く。
「こりゃ!年寄りを急かすでない!」
そんな二人を見送りながらカイルとステラはやれやれと泉の方へ歩いて行く。
「しかし、この泉の水をどうするつもりなんだ?」
「聖水だから身体にかけて清めるんじゃないの?逢い引きの前とかに」
カイルにはその心理が全く理解出来ない。
「お前も使うのか?」
「相手もいないのに使えないよ〜知ってるでしょ?」
揶揄われたと思ってステラはムッとしている。
「バッツは違うのか?」
話を聞く限り恋仲になってもおかしくは無いと思う。
しかしステラの反応は微妙だった。
「そういえば考えた事もなかった。やっぱりずっと一緒だったから兄妹なんだよねぇ。バッツはいい子だと思うけど異性としては考えられなかったなぁ〜」
一度無礼な男を追い返す為バッツと許婚だと偽った事があったがあの時は少し焦った。
「まぁ・・・もしあのまま二人とも教会から出なかったら可能性はあったかも知れないけどね」
ステラはカイルの二歩後ほどを歩いている。
カイルが普通に話しかけてくれたので嬉しかった。
最近すごくよそよそしくてちょっと寂しかったから。
「知ってる?この泉の前で誓いのキスをすると二人は生涯離れる事なくずっと仲良くいられるらしいよ?凄いよね?」
そんな物はただの迷信だ。
きっと夢見がちな女が勝手に作り上げたものに違いない。
「私もいつか。誰かに恋できるのかなぁ」
ステラは泉を見つめながらアハハと笑った。
きっとそんな事は無いだろうとステラは思った。
自分は普通ではないのだから。
「いつかしたいな。好きな人と」
それは、今世では叶わないだろうけど。
ステラは空を見上げた。
白い鳥が列を作って飛んでいる。
ふと、ステラの近くで影が出来た。
ステラはそちらへ目線を向けた。
「カイ・・・・・・・」
気がつくと、至近距離にカイルの顔があった。
いや、正確にはステラの唇に何かが触れている。
ステラは目の前の瞼の閉じているカイルの顔を呆然と見つめた。
唇は一度離れ、角度を変えてもう一度当てられた。
(カイル?)
ステラはカイルの背に手を回した。
するとカイルは少し強めにステラの腰を抱き寄せた。
触れるカイルの手に熱がこもっている気がするのはきっと気のせいじゃない。
「したいならいくらでもすればいい」
カイルの言葉に、そういう事じゃないんだけど・・・・と突っ込みたくなったが笑ってすませる。
ステラはカイルの頬を両手で挟んで自分から口付けた。
その時。泉がキラキラと光り出した。二人はそれに気が付かず眼を閉じている。
「この仕事が終わったら大事な話がある」
カイルはステラを抱きしめたまま囁いた。
その声はやや震えているようにも思えた。
「カイル?」
「だが、覚えておいて欲しい。俺はお前が好きだ」
ステラは驚いて眼を見開いた。
そこには真剣な表情をしたカイルがいた。
「分かるか?異性としてだ。仲間でも家族愛でもない」
カイルはステラが誤解しないよう、しっかりと伝えた。
「もし今後、お前が俺の寝床に入って来ることがあれば俺はお前を抱く」
誤魔化しのない、真っ直ぐなカイルの言葉にステラはただならぬ何かを感じとった。
「だからステラ。それを踏まえた上で俺の話を聞いて欲しい。そして、ステラがしたいようにして欲しいんだ」
ステラはそれに黙って頷いた。
二人は光り輝く泉を見つめた。
無意識にステラはカイルの手を握った。
カイルは何も言わずその手を握り返す。
ステラは自分の中で今まで感じていた疑問が解けそうな気がした。
何故カイルと別れた時あんなに寂しかったのか。
何故カイルにはこんなに甘える事が出来るのか。
レイヴァン様ともバッツともロゼや冒険仲間たちとも違う特別な存在。
彼はあのオルゴールを求めてやってきた。
ステラが赤子の時から持っていたあのオルゴールを。
きっと彼はステラを探しに来たに違い無かった。
魔物たちはステラを鍵だと言っていた。
そしてステラは自分があのオルゴールを開けた時のことをちゃんと覚えている。
覚えていたのだ。
気が付かないふりをしていただけで。
あの日。ステラは多くのものを失った。
孤児院で暮らしていた兄妹達。
レイヴァンの安らぎ。
そして。バッツの心を。
「私も話したい事があるの」
ステラはカイルを見上げた。
カイルはじっと待っている。
「貴方が探しているオルゴールのことよ。あれはあの森の教会にあったものじゃないの」
ずっと。思い出したくなかった。レイヴァンも誰にも話してはいけないと何度もステラに釘を刺した。
しかし。ステラはもう向き合わなければならないだろう。
「あれは。私が親に捨てられた時に私が持っていた物なの。多分私の親の持ち物だと思う」
ステラがそう言い顔を上げるとそこには表情がなく真っ青な顔のカイルがいた。
ステラは知らなかった。
本来の持ち主がカイルの血の繋がった父であることを。




