第九章 新月の夜 2
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そして夜が明けた。
大聖堂を見てくる、と一人別行動を取った〈オクルス〉と、その彼女から目を離さないと宣言したアクルクスを除く剣士達は、スピカの警護についていた。と言っても、奥の聖堂にはスピカと神官長、数人の神官しか入れないため、彼らは閉ざされた扉の外で立ち番するのが精一杯だったのだが。
それで昼が近くなってきた頃だったか。朝から押し黙り、何かずっと考え込んでいたラウルスが不意にこう切り出した。
「どうしてスピカ様なのですか? アンゲルス神官」
アンゲルス神官が顔を上げる。同じ神官とはいえ位も低く、この神殿の者ではないという立場に加え、〈オクルス〉の剣を携行していたのでは入室できるわけもない彼もまた、こうしてラウルス達と一緒に、スピカのが終わるのを待っているのだ。アンゲルス神官は、ラウルスの問いにまず、重いため息で応えた。
「すみません、そこまでは判らないのです。ですが、昨晩神官長様にお借りした文献からその、こうなるのが女性だけである理由だけは判ったんですが…」
「女性である理由?」
眉根を寄せて訊き返すラウルスに一つ頷いて見せ、アンゲルス神官は文献から知り得た知識を語り始めた。
「この度の事に限らず、子供の夜話などでも魔物に襲われるのはいつも女性ですよね。これはどうも、『女性』であるがゆえの事らしいのです」
「…申し訳ない、おっしゃる意味が判りかねますが…」
ラウルスは、さらに怪訝そうに眉を寄せた。聞くともなしに聞いていたグレンやウィンも、困惑した顔を見交わしている。アンゲルス神官は、三人に軽く手を振ってから、話を続けた。
「女性の最も偉大な仕事とは何でしょうか? 子供を育む事です」
アンゲルス神官の口ぶりは、次第に説法じみたものに変わっていく。
「生命を胎内で生み出し育む力は、女性だけが持つ偉大な力です。それだけの力を、女性は身の内に秘めているのです。我々男性が生命力のすべてを放出する事に費やすのとは反対に、彼女らは内に内にと内包し、出産の時にだけ一気に凝縮し、放出します。それはつまり、出産する前、さらに受胎する前であれば、女性の持つ『生命を生み出す力』は全きまま、体内にあるという事なのです。そして、人の生命を糧とする魔物にしてみれば…お判りでしょう?」
急に場の温度が下がったような気がして、ラウルスは大きく身震いした。生贄という単語だけでは汲み切れなかった恐怖が、やっとつかみとれた気がした。魔物にとって、スピカは食物なのだ、と。
「それを…スピカ様は…?」
「さあ、そこまでは…」
彼らは、スピカが連夜のように追いかけられ蝕まれそうになる悪夢に襲われている事を知らない。それでも、懸命に生きようとしている主に、ラウルス達は感嘆の念を抱いた。
ふと、アンゲルス神官が呟いた。
「〈オクルス〉殿とアクルクス殿、ずいぶん遅いですね」
そういえば、と頷くには、まだ誰の心も晴れていなかった。
これより少しばかり前――。
人気のない大聖堂の片隅に、膝をつく〈オクルス〉の姿があった。朝夕の礼拝のために、まだ木のベンチはそのままであったが、祭壇に近い一角は広く空けられ、その周囲を細い鎖で囲まれている。鎖の内側には、塩と聖灰を混ぜたものらしい粉末で十字に丸の、あの魔よけの印が大きく描かれている。なるほどこれでは確かに昨夜、神官長が余人の立入を禁じたはずであった。わずかでも空気が揺らげば、やり直しになるだろうからだ。その証拠に、鎖はかなりの間を空けて張られている。だが〈オクルス〉は、今夜の舞台となるはずの一角には目もくれなかった。むしろその一角を中心とした床をつぶさに調べ始める。憮然としたアクルクスが堂々と見張る中、黙々と床石を指で所々なぞっていた〈オクルス〉の動きが、急に目的を持ったものに変わった。何か発見したのか、と思わず身を乗り出したアクルクスの意識が、不意に止まった。
慎重に這わせていた指先に、意図的な傷を感じ取って、〈オクルス〉はその描く線をたどり始めた。
〝これは…?〟
それはベンチの下をくぐりながら、大きな弧を成しているようだった。その上、いくつかのベンチの間を這い回る線は何重かの同心円になっているようでもあった。しかも、別の、文字のようなものも――。
「!」
〈オクルス〉の全身が瞬時に総毛立った。それが何かと判ずる前に、鍛え抜かれた反射が体を反転させる。
〝殺気? いや違う、これは――!〟
振り向いた視線の先にいたのは、神官長だった。
「……やはり、貴様か」
「どうしたのです?」
神官長は、厳格な顔に薄笑いを貼り付けて〈オクルス〉を見返した。〈オクルス〉の、豪胆な者すら怯ませる鋭い眼光を受けても、老人の薄ら笑いは消えない。むしろ、信じられない事に、〈オクルス〉の頬に一筋の冷汗が流れたのだ。じっとりと、全身を塗り固めようというのか、瞬時に粘っこさを増した空気が〈オクルス〉の体にまとわりつく。それに息苦しさを覚えた〈オクルス〉は、戒められた両手をぎゅっと握り締めた。
「御気分がすぐれぬようですな」
「そうか」
神官長に応えた〈オクルス〉の声に苦いものが混じったと見るのは、僻耳だろうか。神官長は構わず続ける。
「ここは今夜、とても大切な場になるのです。下手な事をされては困るのですが」
「…そうか」
まるで手品のように、〈オクルス〉の手にブーツの隠しから小刀が現れた。後は目にも止まらぬ手錬の早業でそれを神官長に投げつける。いや、だがその、動作の完了を遂げる前に、〈オクルス〉の後頭部を強い衝撃が襲った。たまらず倒れかかりながらも、無理矢理振り返った先にいたのは。
〝…カ……カーフし……?〟
焦点を奪われた視界にちらと現れた姿が事実そうであったかを確かめる間もなく、さらに数度打ち据えられた頭は、〈オクルス〉の意思に反して暗転を選んだ。
「――…助かりました、カーフ神官」
倒れ伏した〈オクルス〉が完全に意識を失ってしまってから、神官長は呆然とした声音で礼を言った。カーフ神官は、まだ興奮が冷めぬのか、大きく肩を上下させながら重厚な盆を握り締めていた。辺りに、盆が凶器に変わった瞬間に放り出された香炉や房飾りつきの聖布、経典などが散乱している。
「……あ……!」
「ああ、もう『沈黙の行』はいいんですよ。私の命を救ってくれたのですから」
神官長は、途方に暮れた表情でわななきながら自分を見つめ返してきたカーフ神官に、寛容に手を振って応えた。カーフ神官の唇が、痙攣じみた動きを見せる。
「し…神官長様、わ、私は一体…何て事を…!」
カーフ神官は、震える声でそう呟くと、我に返ったか、喉を引きつらせて盆を投げ捨て、神官長の足元に跪いた。その体ががたがたと震えている。
「ああでもどうか、お赦し下さい。神官長様をお守りするにはこうするしかなかったのです! とっさの事で…ああでもしなければ神官長様がこの者の手にかかって…! おお、なんと恐ろしい事でしょう!」
「もちろん判っていますとも」
足元にうずくまるカーフ神官の頭頂部にそっと触れ、神官長は穏やかな言葉をかけた。
「あなたはこの恐ろしい魔物から私を救ってくれた勇気ある人です。私が間違っていたのですよ。皆の言葉を聞かず、この者を貯蔵室から出してしまったのですから。さ、後の事は私に任せて、あなたは早くお行きなさい」
「神官長様…」
思わず顔を上げたカーフ神官の目に映った神官長は、慈愛に満ちた表情を彼に向けていた。そこに、〈オクルス〉をすら戦慄させた何か《・・》は微塵も残ってはいなかった。
〈オクルス〉不明の知らせは、我に返ったアクルクスによってすぐさまラウルス達にもたらされた。ほんの一瞬、一瞬目を離した隙に、彼女はかき消えたという。
「すみません、自分が見張っていながら…」
ラウルスは、うなだれるアクルクスを思案深げに見つめた。欲目ではなく、アクルクスはこうと決めたら決して譲らぬ頑迷さがある。そのアクルクスが、ハッとした時には〈オクルス〉の姿はどこにもなかった、というのは――?
〝どっちだ?〟
未だ正体の判らぬ魔物が――邪鬼などとかわいらしいものではあるまい――〈オクルス〉に何らかの手を下したのか。
結局ラウルスが〈オクルス〉にだまされていたのか。
ここで考えたところで何も判るまいが、ラウルスは考えずにはいられなかった。しかしラウルスは、また空転し始めそうな思案を無理矢理断ち切った。仮に〈オクルス〉が敵で、自分達を油断させるために近づいてきたのなら、今夜その牙を剥こうと言うのなら、迎え討つまで。逆に彼女が敵の手に落ちたのだとしても、〈オクルス〉の事だ、おいそれとやられはしないだろう。自分でも首肯できないような理屈をこねあげて、ラウルスはこの話を打ち切った。
「とにかく、〈オクルス〉の不在をスピカ様のお耳には入れないように。それから、極力単独行動を避けろ。アンゲルス神官もよろしいな?」
「わ、私もですか?」
アンゲルス神官が頓狂な声を上げた。その無理からぬ反応にしかし重々しく頷いて見せ、ラウルスはその理由を彼の抱える〈オクルス〉の剣にあると告げる。
「この剣…ですか?」
「〈オクルス〉の正体、あるいは今回の件の真相がどうであれ、その剣は〈オクルス〉と我々を結ぶ接点に変わりありません。危険はできるだけ避けるべきです」
「――判りました」
アンゲルス神官は、肉付きの良い顔をやや引きつらせながらもしっかりと頷いた。
彼らの話に区切りがつくのを待ちかねたかのように、丁度その時聖堂の扉が静かに開いた。
「ご苦労様です。さあ、昼食にしましょう」
やや疲れた口ぶりでそうラウルス達を労いながら真っ先に出てきた神官長が、重たい扉を自らの体で押さえるようにして、後のスピカに道を譲った。続けて聖堂からネウラを伴って出てきたスピカの姿に、ラウルス達は思わず息を飲む。別にやつれていたわけでも、よろめき出てきたわけでもない。が、逆に、普段と変わらぬ風を装ってしゃんと胸を張っていたからこそ、その紙のように白い顔色が悪目立ちしていたのだ。それでも気丈にラウルス達に微笑みを見せたスピカは、そこに足りない面子に気づいて問う。
「ローラは?」
「今、席を外しております」
予想できた問いかけとはいえ、ラウルスはさりげない口調を整えるのに一拍の間を要した。
「そう…」
だがスピカにしてもそれ以上の気力はなかったと見え、神官長らとともに食堂へ向かう。思わず顔を見合わせた男達もまた、黙って彼らの後に従った。
〝とうとう…今日…!〟
歩きながら、下唇を噛み締めたスピカは、胴着の下の護符を握り締める。この日が来て欲しくないとも、さっさと過ぎてしまえばいいとも思っていた。だが、実際に当日を迎えてみると――確かに覚悟していた誕生日よりは半月近くも繰り上がっているが――、立っているのが精一杯だった。本当は崩折れて泣き喚いて、毛布にでも包まって一歩も外に出たくない。
怖い! ――怖い!!
でも、それはできない。してはならない。自分のために決死の覚悟で警護にあたってくれているラウルス達に、そんな余計な心配をかけるわけにはいかない。
これまで、スピカは常に死と隣り合わせにあって、気構えはできていると思っていた。けれど…。
〝ローラ…! 貴女はどうして耐えられるの? こんな、こんな恐ろしい事に!〟
剣で身を立てる〈オクルス〉は、毎日が命懸けと言ってもいいはずだ。なのにどうして、いつも泰然としていられるの? 自信の差だという事は判っている。経験の違いである事も。それでも、〈オクルス〉は紛うかたなき女性だった。
〝貴女にできて、私にできないはずはないわよね、ローラ。同じ…女ですもの〟
スピカは、指の関節が白くなる程に、護符を固く握り締めた。
長い木製の食卓に皆が着席した時初めて、一同を見回した神官長が怪訝そうな表情を見せた。
「おや? 彼女はどうしました?」
一斉に皆の目が、たった一つ空いた席に集まった。アクルクスの顔に、さっと羞恥の朱が上る。目聡く(めざと)くそれに気づいたラウルスは、口を開こうとしたアクルクスの機先を制して、努めて穏やかに言い切った。
「そのうち戻るでしょう。待つ必要はないと存じます」
「ラウルス…」
わずかに非難がましい声を上げるスピカを静かに見返すラウルス。スピカは、ラウルスのその視線に反論を封じられて目を伏せた。その様子を見て、ラウルスも少女からこっそりと目を反らす。
そして、気まずい雰囲気に誰もが目前の皿をにらんでいたために、気づく者はいなかった。一瞬、神官長の口唇がきゅう、と曲がった事に。その笑みはまるで、ずるがしこい笑いを貼り付けた道化の仮面のようだった、と。
給仕役の神官見習い達が、ずらりと席についた神官達の皿に手際良く料理をよそっていく。その衣擦れと食器のこすれ合う音が止むと、次いで神官長の祈りに唱和する声が食堂内に響き渡った。
静かな昼食が終わってもなお、姿を現さぬ〈オクルス〉に、遂にスピカが捜しに行って、とラウルスに頼んだ。
「しかし…」
渋面を見せるラウルスに、スピカは男達を見回した。
「ラウルスが駄目ならアクルクスでもグレンでも、ウィンだっていいわ。ローラが私のそばを離れるはずがないもの。絶対何かローラの身にあったのよ!」
「お言葉ですが、サクスでの事もあります」
スピカは、慎重に口を挟んできたアクルクスをキッとにらんだ。
「あの時だって、きちんと伝言を残していったじゃない。その馬丁を連れてきたのはあなただったでしょう」
「それは…」
アクルクスが言葉に詰まる。
「ですが…」
「あなた達がどう思っていようと」
スピカは、口ごもるアクルクスを見据えて、きっぱりと言い切った。
「ローラはそんな無責任な事をする女性じゃないわ。絶対に。何かあったのよ。そうでなきゃ…!」
「スピカ様」
アクルクスがスピカの言葉を遮る。主の言葉を遮るなどという非礼ながら、その悄然たる呼びかけは兄にさえ制止の声を飲み込ませた。スピカが、心配そうにアクルクスを見上げる。
「アクルクス…?」
「我々は…自分達は、そんなに頼りになりませんか」
何度も唇を湿らせ、やっと吐き出したアクルクスの思いに、スピカは絶句する。
〝そんな…違う…!〟
姿が見えないから心配になった。〈オクルス〉が女だからこそ、女にもきっとこの忌まわしい運命に立ち向かえる力があると思いたかった。その可能性はあると信じたかっただけなのに。だから〈オクルス〉にそばにいて欲しいだけなのに。だけど、アクルクス達をないがしろになんてしていない!
アクルクスは、口元を両手で押さえて小さく頭を振り続けるスピカに、ぎゅ、と唇を引き結んで深々と頭を下げた。
「失礼を申しました。お許し下さい」
自分は大馬鹿者だ!
伏せた顔をくしゃりと歪めて、アクルクスは自分を激しく罵った。一体何をやって、言ってしまったんだ!? 〈オクルス〉を見失った上に主にまで泣き言をぶつけてしまった。これでは本当にただの役立たずだ。いやそれどころか、足を引っ張るような真似ばかりしているじゃないか!
恥ずかしくて顔が上げられない。
認められたいのに。誰にも恥じない働きをして認められたいのに。結果は。
〝いつも、こうだ…!〟
いつもあと一歩のところでしくじってしまう。兄に恥をかかせてしまう。どうしても兄を…兄に負けてしまう。ラウルスだったなら、〈オクルス〉をおめおめ逃す事はなかったろう。主に暴言を吐いてしまう事だって、ない。なのに、自分は。どうしてこうも至らないのだろう。同じ血を引いているというのに、何故ここまで違っているのだろう。アクルクスは、この場から走り去ってしまいたい衝動を必死で抑え込み、頭を下げ続けた。いっそ、スピカでもラウルスでも誰でもいい。声高に罵ってくれたらどんなに楽になるだろう。しかし、罵声はおろか頭を上げろという言葉すら、誰もかけてくれなかった。
そして、アクルクスにとっては数刻にも感じられた長い、いたたまれない沈黙は、神官長の穏やかな一言で終わりを告げた。
「――そのくらいでいいでしょう」
「神官長様…」
アクルクスの頭上で、ラウルスのホッとしたような声がした。
「スピカ様、午後の禊までまだ間があります。お部屋でゆっくりなされてはいかがか。アクルクス殿も」
促されてようやくアクルクスが顔を上げた時、スピカはネウラに付き添われて食堂を出て行こうとしていた。ホッとすると同時に新たな自己嫌悪にうなだれるアクルクスの肩を、神官長が優しく叩く。それからラウルスの方に上体をひねった老人は、彼らに立ち去るように告げた。
「彼の事は任せてくれて結構。少し話をしてみます。きっとそれで落ち着くでしょう」
「……お願いします」
ラウルスの声は、アクルクスの胸中同様、苦渋に満ちたものだった。それでも彼は神官長に一礼すると、一人残っていてくれたウィンと共に食堂から出て行った。二人が扉を閉めるまで無言で待っていた神官長は、なおもうなだれているアクルクスに優しく話しかける。
「何か辛い事があったのですか?」
「自分…自分は…」
思いがけずこみ上げてきた嗚咽に、アクルクスは口元を押さえた。
「自分はスピカ様のお役に立てればと…なのに、ちくしょう……!」
神官長は、アクルクスの悪態を聞き流し、代わりに青年の肩を抱き締めた。
「それでいいのですよ、アクルクス殿」
「ですが…」
「残念な結果というのは、最善の結果を導くための良い手本となるのです。その教訓を次に生かしなさい。そのためにここにいるのです」
アクルクスが神官長から体を離した。その目に、驚きとかすかな希望の光が揺らぐ。
「自分に…それができるでしょうか? こんな、至らない自分に? でもどうやって?」
「もちろん」
神官長は、大きく頷いた。それから、再び青年の肩に手を置く。
「あなたならできます、アクルクス殿。兄上にもできないような事がね」
「まさか…」
「あなたのその真っ直ぐな気性にこそ、成し遂げられるものがあると思います。私はあなたを頼りにしているのですからね」
アクルクスの顔が喜色に輝いた。ああ、ここに自分を認めてくれる人がいたんだ! 〈オクルス〉やラウルスとの今までの衝突は、無駄では、間違ってはいなかったんだ!
「ありがとうございます、神官長様!」
「さ、行きなさい。皆が心配してます」
「はい!」
一礼して駆け出したアクルクスの背中を見送る神官長の視線は、確かに慈愛に満ちたものであった。
そして、陽が落ちた。




