8:隕石キャッチと蒸気爆発
真田の身体が薄ぼんやりと光っている。
ノエラが、熱や飛礫から身を守る防御の魔法を掛けてくれたらしい。
こんなのが有るなら最初から使ってくれよ、と思わなくもない真田であったが、相手はノエラだ。なんかもう、馴れてきた。
「よし、行くぜ!」
気合いを入れた真田が、落下中の隕石に狙いを定める。
今回の作戦は「時を止めてる隙に隕石をダイレクトキャッチする」という物。言葉にするとシンプルだが、一番の問題点は「時を止めると死ぬ」という点だ。
死因は二つ。慣性に依る物と、温度に依る物。窒息問題は息を止めて耐えるので無視出来るとした。
「まずは西の方向から身を低くして接近。隕石が地面に激突するギリギリのタイミングを狙って……!」
息を止め、同時に時を止める。
すると星の自転による慣性が働いて身体が東の方へと滑り始めた。
グングンと迫る隕石。その放射熱が肌を焼く――冷却ジェルじみた空気による冷却地獄とは逆パターンだ。
(ぐあぁぁ熱うぅぅーーー……ッ!! けど、耐えられる……!)
ノエラの防御魔法が効果を発揮しているのか、それとも身を低くしたことによって熱伝導の流れに変化が見られたか。真田は熱湯を浴びるような熱さを感じつつも、五体満足のまま隕石の直近にまで迫る!
だがここからが隕石ダイレクトキャッチ最大の障壁――文字通りの障壁である、高圧で高温となった空気の壁が彼を阻む。
ぶつかれば激突死。触れただけでも焼死。
そんな死の壁に対し、真田は両手で作った円――アイテムボックスの入口を大きく振りかぶる。そして――。
「ンぐおぉぉぉーーーッ!!」
虫取りアミを振るうかの如く隕石を「周囲の空気ごと」アイテムボックスの中へと収納したのだ!
その直後、時間停止を解除。隕石と空気を失った空間が瞬間的に閉じる衝撃波に吹っ飛ばされて全身の穴という穴から血を噴き出しはしたが――。
「や、やった……出来た。出来たぞっ! 隕石ダイレクトキャッチ、成功だーーーっ!!」
倒れ込みつつ、右手を高々と掲げて声を張り上げる。
「ススム、やったね! 何とかなったねぇ!!」
「ああ、お前のお陰だノエラ! 遂に時空間スキルを飼い慣らしてやったぞ!!」
駆け寄るノエラにサムズアップで応える。
「早速、町に戻って売り飛ばそうぜ! 幾らくらいになるか楽しみだな」
「あんな大きな隕石なんて今まで取った人いないから、きっとみんな驚くよ!」
ウキウキで語り合う二人。夢のスローライフは目の前だ!
「あ……でもススム、アイテムボックスから取り出すときに気をつけた方が良いんじゃない? 隕石、アチアチ状態で入ってるんでしょ?」
「なるほど、ナイスだノエラ。浮かれて忘れるトコだった……アイテムボックスの中って時間が止まってるから、いくら待っても冷めないもんな」
危ない所だ、超高温の隕石を町中で取り出したら皆が火傷をしてしまう。
「水にでも浸けて、冷やしてから持ち帰るとしよう」
「少し手前に池があったよ。あそこで冷やしちゃおうよ」
そそくさと池の縁へ。
それほど大きくもない淡水湖だ。
「転がって中の方へ行っちゃうと拾うの大変だから気をつけてね」
「ははっ、心配すんなって。熱いと思うから念の為にノエラは離れとけ。んじゃ、出すぞ」
真田が腕で円を作り、隕石の取り出しを念じる。
すると異空間と現空間の境目が揺らぎ、熱々の隕石が顔を出して――。
「へァ……!?」
一瞬にして消し飛ぶ真田。腕が、身体が瞬間的に炭化してチリも残さずスッ飛ぶ……それが瞬きほどの刹那に起こった。異世界転生後、通算八回目の死亡だ。
続け様、隕石が水面に激突。池の水を水蒸気に変えながら爆発的に膨らんで、ありとあらゆる物を吹き飛ばす大爆発が発生する。
「きゃあぁぁっ!?」
爆風に煽られて転がるノエラ。ファンタジー補正がなければ彼女も女神部屋行きだったろう。
そして、その女神部屋では――。
「暑うぅぅっ!? どうしてこんな暑いの、この部屋!? サウナじゃん!?」
「どうしてだと思いますか?」
死に戻った真田に、エントロピアがじわりと詰め寄る。
流石の女神も暑かったらしく、腕まくりをして首には汗拭きタオル。滲んだ汗で薄い衣装が肌に張り付いている――ちょっと色っぽい。
「どこを見ているのですか」
「えっ? あ、いや……そうそう、何で俺ってさっき死んだの!? あと、どうしてここがこんなに暑い……あ、そっか」
「疑問のいくつかは答えに思い至ったようですね。その通り……真田さんが熱々隕石と周辺の超高熱空気をそのままアイテムボックスへ取り込んだので、こんなコトになっています」
アイテムボックスと女神部屋は繋がっている。
時間も止まっているらしいが、真田が使う時間停止とは別の仕組みらしく、普通に喋って息も出来るし、熱も伝播する。
「落下中の隕石は2000度から6000度。断熱圧縮加熱により周囲に発生するプラズマは7000度から15000度の高温で……ピンと来ていない顔ですね。太陽の表面くらい熱い、と言えば伝わりますか? それが突然、ティータイムを楽しんでいた私の頭上に落ちてきました」
「……ごめん」
太陽と同等の熱に、汗拭きタオルと腕まくりだけで耐えるのだから流石は女神だ。
「あとは真田さんの死因ですね? 以前に『アイテムボックスの内部は時が止まっている』と説明しましたが、これはつまり物体進入時のエネルギーをそのまま保存している、という意味です」
首を傾げる真田に、エントロピアは直感的な表現へと解説を噛み砕く。
「入ってきた勢いそのままで飛び出す、ということです。隕石と空気はアイテムボックスに飛び込んだ勢いをそのまま保持しており、取り出す際には同じ勢いで飛び出します。その衝撃と熱で真田さんは一瞬にして消滅し、水面では水蒸気爆発も発生して辺り一帯を吹き飛ばしました。町で取り出さなかったのはファインプレーでしたね」
「あ、危なかった……って、ノエラ! あそこに居た女の子はどうなった!?」
「泥だらけで土に埋もれてましたが、無事ですよ。ご自分の目で確かめると良いでしょう」
ホッと胸を撫で下ろす真田が、池の畔……というかクレーターの畔へと転送される。
キョロキョロ辺りを見回すと、八つ墓村よろしく上下逆さで地面に突き刺さった女子の下半身が目に留まった。
「大丈夫かノエラ! よっこいせ、と!」
「ぶはっ! ぺっ、ぺっ! 泥が口の中に……あ、ススムだ。無事で良かっ……ん、んと……また会えて嬉しいよ!」
大根のように土から掘り出されたノエラが、頑張って言葉を選んだ。
「うむ、俺もだ。けど隕石はダメになっちまったな……カクカクシカジカで、もっかいキャッチしても安全に取り出すのは難しそうだ」
「そっかぁ……ごめんねススム、痛い思いばっかりさせちゃって」
「ああ、気にすんな! それより俺は、今回の一件で新たな可能性を見出したぞ!」
言いながらノエラの頭に乗った土を払うと、彼女は不思議そうに首を傾げる。
「ノエラ、お前の魔法だよ! これを上手く使えば一攫千金も有り得るんじゃねぇの!?」
「そうなの? んじゃあ私、頑張るよ! ね、どうやったらいいの!?」
途端に元気を取り戻したノエラを「まぁ待て」と落ち着かせ、真田が高らかに宣言する。
「次の作戦は、フィジカル・エンチャント! こいつでドでかい夢をゲットしちまおうぜ!」




