7:隕石の直撃と断熱圧縮
翌日。
「見えて来た。あそこが星屑の平原って呼ばれてる場所だよ」
「ほへぇー……」
ノエラが指差す方を見て、真田がポカンと口を開く。
小高い丘の上から見下ろした「星屑の平原」は、その名に違いのない場所であった。
大空から次々と降り注ぐ赤熱した隕石。それらはプラズマの尾を引きながら大気を灼いて地面に激突し、凄まじい衝撃と共に爆発四散している。
そんな光景が、彼方此方で絶え間なく見られた。
「こ、このズズーンって響いてる感じ……あの隕石が落下してる振動だよな?」
「そだね、まだこんなに離れてるのに凄いよね! あの落ちてきてる石に、もの凄い価値があるんだよ」
脳天気にノエラが言った。メテオストライクをくぐり抜けての隕石回収……確かにこれは、普通に人には無理な案件だ。
「よく分からないけど、ススムにはアイテムボックスって能力があるんでしょ? そこに詰め込めるだけ詰めて持ち帰ったら、一攫千金どころか一生遊んで暮らせるお金が手に入ると思うよ!」
「夢が広がるじゃないの! 目指せ豪遊、儲かった分は山分けな!」
「わーい、ススムってば太っ腹! 頑張ろうね!」
言って、落下エリアまでの距離を詰めて行く二人。まだ数キロは離れている筈なのだが、隕石が落ちる度に凄まじい衝撃波と爆音が真田を叩き、周囲の木々を揺り動かす。
「いっぱい隕石が落ちまくりの中央付近には近付かない方が良さそうだ。なるべく安全な外側で狙ってみようぜ」
隕石はかなり広範囲に降り注いでおり、外周部にも数分に一度くらいのタイミングで隕石が降ってくる。
彼らは比較的小さな隕石を見つけると、それが落下して爆発が収まるのを待ってクレーターのようになった場所へ駆け寄った。
「ダメだ、隕石っぽい物は何も残ってない。落下の衝撃で砕けたか、地面とぶつかって爆発四散しちまうんだろうな」
「ってことは、下に落ちるまで待ってちゃ遅いってコトだよね」
ノエラの言葉に真田が閃く。
「なるほど、そうか! 隕石を空中でキャッチしちまえば良いんだ! アイテムボックスの中じゃ時間が止まるから、とにかく入れちゃえばイケる筈!」
「そうなの!? ススムって頭イイねぇ!」
ノエラに褒められて鼻高々となった真田は、両手で円を作ってアイテムボックスの出入り口を生成する。
「お前は安全な場所まで離れてろ。そんな薄着でメテオの直撃食らったら確殺だからな」
「そうかなぁ? 一発くらいは耐えられると思う……でも、分かった! 何かあったら呼んでね!」
トットコ走って距離を取るノエラを見送って、真田は上空を見上げた。
折りも良く、こちらに向けて真っ赤に燃えながら落ちてくる隕石が目に入る。あまりよく分からないが、両手の中にスッポリと収まりそうなサイズで、速度もそんなに速くないように思えた。
「よぉし、行くぜ!」
隕石の落下予測地点へと回り込む。まだ隕石は遙か彼方にあって、長く尾を引いて飛来しているようだが、音も聞こえない。
「もしかしてコレ、一発でゲットじゃね? ガッポリ儲かったら何しよう……?」
欠片でさえ大金であるという話だ。隕石が丸ごと一個……その価値は計り知れない。本気でノエラと豪遊出来るかも……と、真田が考えていた時だ。
「ん? あれっ?」
隕石はまだ遠く、相変わらず音も聞こえない。しかし瞬きをした次の瞬間には、もう目の前に迫っていた!
「ひっ!」
息を呑み、レシーブでもするように腕で作った円を差し出す。ここを隕石が通ればミッション達成なのだが――。
「んぎゃあぁぁぁーーーッ!!」
凄まじい高温が真田を炙る!
一瞬で服と共に皮膚が焼け焦げ、青い炎が生じた。
更に――。
「へブぅ!!」
隕石が間近に迫ると触れる前から真田の身体は何かにぶつかり、押し潰される。
更に更に――。
「えばババババ……!」
隕石と共に降り注ぐ無数の破片。これが真田をショットガンのように撃ち抜いてミンチ肉へと変えた。
そして、その直後に隕石が落ちてきて真田は岩塊と共に木っ端微塵。
転生してから、六度目の死亡だった。
「――ただいまぁ。あー、やっぱ無理かぁ」
女神部屋で復活した真田は、大きく伸びをして立ち上がる。
「おかえりなさい、真田さん。今回はいつもより落ち着いていますね」
「ま、最初から一発ゲット出来るとは思ってなかったから。何回か死ぬ覚悟は出来てるってワケ」
事も無げに言っている真田だが、彼にとっての死ぬ覚悟は比喩でも何でもなくマジで死ぬ覚悟なので恐ろしい。
「さっきの死因について、教えて貰える?」
「はい、まず基本的な話なのですが、隕石は秒速数キロから数十キロ……つまり、もの凄く速いです。音の三十倍以上だと言えば伝わりますか? 遅く見えるのは遠くにあるからなので、注意してください」
真田が頷くのを待って、エントロピアが続ける。
「そして死因の一つが熱傷。飛来する隕石の周囲にある空気は、圧縮等によってプラズマ化して数千度から数万度の高温になっています……核融合炉が剥き出しで落ちてきてる感じです」
へー、と真田が言ったのを確認し、エントロピアは更に続ける。
「そして真田さん、潰されてましたね。あれは隕石が押し退けた超高温・超高圧の空気。すなわち衝撃波です。そして倒れた所に襲ってきたショットガンみたいなのは、フラグメントと呼ばれる隕石の破片ですね」
「ん、そっか。あんがと、何となく分かった」
「……それは何よりです」
絶対に分かってないな、とエントロピアは思ったが、特に何も言わなかった。
「じゃ、もう一回やってくる」
「はい、お気を付けて」
そう言って送り出したエントロピアだが、何をどう気をつければ良いのかまでは特に考えていなかった。
「よっと……ノエラ、お待たせ」
「おかえりー。今回は復活まで少し時間あったね」
「ちょっと女神と話をしてた。なんか隕石をダイレクトキャッチは難しそうだぞ。そもそも近づく前に死ぬ」
エントロピアからの説明をノエラへかいつまんで伝える。しかし――。
「ふぅん? よく分からないや」
「だよな。俺もだ」
分かってないヤツが分かってないヤツへ説明するのだから、伝わる筈がない。
「まぁ、さっきは不意打ちだったからな。もう一回だけ試してみて、ダメなら次の手を考えよう」
死んだくらいじゃへこたれない男、真田進。根性だけなら人類最高レベルだ。
「よし、行ってくる!」
「頑張ってねススム、気をつけて!」
ノエラに見送られ、隕石落下エリアの外縁部へ。
さっきと同じ規模の隕石にターゲットを絞り、素早く落下地点へ回り込む。
「さっきは慌ててレシーブの姿勢で受けたのが良くなかった。両手を頭の上に構えるトスの姿勢なら、火傷する前に隕石をアイテムボックスの中へ入れられる!」
そう考え、両手を頭上に掲げて円を描こうとする。しかし――。
「あ、あれ? トスの格好だと両手で大きな円を作るの難し……あっ」
あーでもない、こーでもないと姿勢を模索する内、隕石は目の前に迫っていた。
「このままダイレクトキャッチは無理だ! 今回はやり過ごして、次の隕石を待つ!」
そう判断した真田が素早く身を翻した、その瞬間――。
「危ないススム! アイシクル・ブリッツ!!」
落下する隕石目掛けてノエラが氷の魔法を放つ!
無数の鋭い氷弾が赤熱した隕石に突き刺さり、一瞬にして炎を消し去り凍てつかせた!
「ナイスフォローだノエラ! 助かっ……」
称賛の声を上げて安堵する真田。しかし急激な冷却によって木っ端微塵に砕け散った隕石が雨のように降り注いで辺り一面に叩き付けられると、彼は最後まで言葉を紡ぐより早く肉片と化した。
異世界に転生してから七度目の死亡だった。
「――……ごめんね、ススム。相殺すれば何とかなると思ったんだけど……」
「気にすんな。致死性単体攻撃が致死性広範囲攻撃に変化しただけだ」
少しは気にした方が良いと思うが、被害者が気にしていないし、生き返っているので問題ない。
「取り敢えず冷やすのは止めよう、広範囲攻撃になると手が付けられん。単体の方がマシ。あと衝撃波ってか、隕石のすぐ近くに見えない空気の壁みたいなのがあって押し潰される。普通に死ぬ」
「そっかぁ……残念だけど、諦めた方が良さそうだね」
しょんぼりと俯くノエラ。自分が紹介した方法であるからして、彼女なりに責任を感じているらしい。
けれど真田は彼女の肩をポンと叩き、自信の笑顔を見せる。
「おいおい、諦めるには早すぎるだろ。俺を誰だと思ってんだ? 転生者、真田進だぜぇ?」
「何かアイディアあるの?」
問われた真田がフフンと鼻を鳴らす。
「ハハッ! 男子三日会わずば刮目して見よ! 俺が何も考えてないと思ったら大間違いだ!」
言って、グルグルと肩を回す。
「今度こそ上手く行く! リトライだ!」




