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俺にだけ物理が厳密適用される楽しい異世界ライフ――今回の死因は「断熱圧縮」です――  作者: かっぷ


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4:気圧は意外と簡単に人を死なす

 真田が転送されたのは、街道沿いの山中。木々の伐採された痕跡が残る、少し開けた場所だった。

「えーとアイテムボックスの使い方は、まず自分の身体で閉じた面を作って……」

 呟きつつ指を「OK」の形にして、円を作る。すると指で作った円の表面が、波打つように揺らいで見えた。

 指以外でも、腕でも脚でも、とにかく自分の身体で囲った閉曲面が出入り口となる仕様だ。

「これなら安全に利用出来るってエントロピアは言ってたけども……どうせ、何かあるんだろ?」

 流石の真田も三回死んで学習したらしい。

 足下の小石を拾い、恐る恐るアイテムボックスの入口へと近づける。

「くっ……南無三ッ!!」

 そして意を決し、小石を指で作った円を潜らせると――。

 消えた。

「……!?」

 指の間を通った小石は、跡形もなく消え失せていた。

「おぉっ! 上手く行っ……いや、違う。喜ぶには早すぎる! コレどうせボックスから出すときに何かある……そういうパターンじゃないか? それかボックスの中で木っ端微塵に粉砕されてるとか、そういう……」

 度重なる死は、脳天気だった男をここまで疑い深く変えてしまうのか。まぁ普通なら死は度重ならないので仕方ない。

 緩みかけた表情を引き締めて、真田は再び指によるアイテムボックス出入り口を展開。そして先ほど入れた小石を取り出すイメージをすると――。

 ころん、と指の間から小石が転がり出す。

 見た感じ、粉砕も変質も加熱も冷却もされておらず、入れた時のまま出て来たように思えた。

 勿論、真田も死んでない。

「お、おぉ……! す、スゲェ……こんな安全設計でいいのかよ、アイテムボックス!」

 普通にスキルが使えた感動に浸る真田であったが、実はこの時、ここではない場所で妙な事態が発生していたのだが――それはさておき。

「これならイケる! 時間停止がクソだから安全安心アイテムボックスでスローライフを目指すんだ! まずは色々検証して使い心地を確かめるぞ!」

 勢い込んで、その辺に落ちてる石やら木の枝やらをポイポイとアイテムボックスへ投げ込んで行く。なんだかゴミ拾いでもしているかのようで少し楽しい。

 だが楽しさに油断しきっていた真田は、外敵の接近に全く気付いていなかった。

「おぅ、ニイちゃん。そんなトコで何やってんだ? 金目のモンがあるなら、置いて行けよ」

「ひぇっ!?」

 声を掛けてきたのは強面の男。汚いざんばら髪に、黄色い歯。ボロい革鎧に汚れた服……手には赤黒いシミの付いた山刀を持っている。見るからに山賊といった風体だった。

「か、金目の物なんて何も……」

「冗談は顔だけで十分だ。お前、転生者だろ? 服がそんな感じだもんな」

 背後から別の男が現われる。見れば十名ほどが真田を囲んでいた。

「誤魔化しても無駄ってコトよ。お前みたいなヤツが、よくここに出て来るから知ってんだ」

「あのクソ女神……! 転生者のリポップ場所みたいに認知されて狩り場になってるじゃねぇか!」

 真田はエントロピアを呪ったが、文句は後回しだ!

「と、とにかく逃げないと……」

「おっと、逃がさねぇぞ」

 山賊たちが真田の退路を塞ぐ。

「逃げられちゃ面倒だ。金目のモンは殺してから漁らせて貰うとするか」

 躊躇なしに突き出される山刀。分厚い刃が首を狙い真っ直ぐに迫る。

「ひっ……!」

 咄嗟に両手を突き出して身を守る真田。すると幸運の女神が僅かに彼へと微笑みを向けた。

「うぉっ!?」

 手のひらに刺さった山刀が、手のひらを貫通することなく何処へか消え去ったのだ。

「えっ? な、何が……」

「どうなってんだ? 武器が……消えた?」

 真田も山賊たちも、一様に首を傾げる。

「なるほど、今のがテメェのチート能力ってワケか。これだから転生者は油断ならねぇ……!」

「へ、へへっ! どうよ、俺の能力は……どうなのよ!?」

 使った本人が最も状況を理解出来ていない。

 答え合わせをするなら、無意識に用いたアイテムボックス能力によって手の刺し傷が入口となり、山刀を異空間へ収納したのだ。

 手に傷は負ったが死ぬよりはマシ。そんな文字通り怪我の功名によって、状況は膠着状態に陥る。

「どうしやす、ボス? 俺たちも消されちまうんじゃ……」

「武器だけ盗られて、おめおめと逃げ帰れるもんかよ! ナメられちゃお終いだぜ!」

「あのぅ……武器は返すので引き上げて貰えませんかね……?」

 下手に出る真田であったが、山賊たちは戦う方向で意思統一をし始める。

 このままではヤバい。彼の顔面に脂汗が浮かび始めた頃――。

「ちょっと待ったぁ!!」

 突如、辺りに響く軽やかな声。

 そちらに視線をやれば、奇妙な格好をした少女が一人。腕組みをして不敵な笑みでこちらを見ていた。

 歳の頃は十代半ばくらいか? 鍔の広い帽子に、短いマント。手には複雑な文様の描かれた長い杖……ここだけ見れば、如何にもといった知的テンプレ魔法使いだ。

 しかし彼女はビキニにパレオを巻いたような衣装を身に纏い、露出した肌は健康的な小麦色。髪もショートで活動的な雰囲気を醸しており、夏のビーチで浮き輪とか持ってる方が似合う――そんな感じの活発でノリの軽そうな娘だった。

「な……何だ、テメェは!」

「名乗るほどの者じゃないけど、弱いものイジメは許せない! そんな感じの者だよ! とぅっ!!」

 少女は高々とジャンプし、空中で身を捻る。そして真田の隣へ降り立った。

「大丈夫? 助けに来たよ!」

「おぉっ、ありがたい! 大感謝だ!」

 少女は真田に笑顔を向けた後、表情を引き締めて山賊たちへと向き直る。そして一歩前に出ると徐ろに杖を構え、集中を始めた。

「悪人はちょいちょいっと懲らしめてあげる! 行くよ……エア・ブリッツ!!」

 言うが早いか、構えた杖から不可視の力場が放たれる。大気を圧縮して放つ風の魔法だ!

「ぐあぁぁっ!?」

 風の砲弾を受け、数名の山賊が吹っ飛んだ。同時に――。

「ぐあぁぁっ!?」

 少女の背後で、真田も耳から血を噴いて倒れ込む。

「えっ!? な、なんでキミがダメージ受けてるの? 風アレルギー?」

「ンなモンあるかぁ! なんか知らないけど魔法が出た瞬間に、そっちへ身体が引っ張られて耳がキーンってなって……」

 だが真田が喋り終える前に、残る山賊たちが距離を詰める!

「話は後で聞かせて! 間合いを詰められる前に……!」

「ちょ、ちょっと待っ……」

「エア・ブリッツ!!」

「ギャアァァァッ!!」

 山賊の悲鳴に真田の悲鳴が重なる。

 真田の耳や鼻からは血が噴き出し、目は膨らんで充血し、左右の肺が破裂する。口と尻からいろんなモノが飛び出して……見るに堪えない惨状だ。

 かくして真田は、単に吹っ飛ばされた山賊たちよりも遙かに酷い有様となって、異世界転生より四度目となる死を迎えたのだった。

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