27:瞬間移動とパウリの排他原理
「うぐあぁぁ……痛えぇぇーーー!」
暗湿洞の最深部。
またも真田は地面に転がっていた。
「な、なんでこの高さを飛び降りて平気なんだよ! 三階か四階くらいの高さあるぞ!?」
折れた両脚と痛めた腰をサリエルに回復されながら真田が喚く。勿論、豚の脂を食べながらの回復だ。
他の面々が「ぴょんっ! すちゃっ!」と軽々ジャンプ&着地するので真田もジャンプしたら「グシャ、ボキポキゴキッ!」という音がして骨が砕けた。
「ススムは思わぬ所でケガするねぇ」
「うむ。常識が通用しないことが、これほど厄介だとは」
「こっちの台詞だけどね!?」
サリエルに礼を言って立ち上がる。ケガはしたけれど落下死も、回復による衰弱死も回避成功したので概ね問題はない。
「んで、この黒い球が調査対象ってやつか」
腰ほどの高さに浮かぶ黒い球体を四人が囲む。フラノ湖に続き、二度目の接触だ。
「まずはサイズを測って、次に位置を……」
「ところで、この黒い球って何なの? 前の時は、なんか有耶無耶になっちゃったけども」
「私も正確な所は知らされていない。危険が感じられるので定期的な調査が必要、という話だけ聞いている」
ポンコツ女騎士が余計なことをしないよう情報が秘匿されたのかな? とオルフィア以外の全員が思ったけれど、それを口にする者は居なかった。
「ふむ……なあ、エントロピア様。あの黒いのって何?」
「えっ? あ、それはですね――」
真田はこっそりアイテムボックスを開き、女神に尋ねてみる。
いつものように意気揚々とした解説が返ってくるかと思いきや。
「んと、その……色々な順序をすっ飛ばして私が答えだけ教えちゃうのも、えっと……人類にとって、あまり良くないかな、と思うので……」
返ってきたのは歯切れの悪い言葉だった。
「そっか。じゃあ調査から戻ったら騎士団の偉い人に聞いてみるか」
「う……そ、そう……ですね。或いは、まだ尋ねなくても大丈夫かもしれませんよ?」
「そうなの? でもまぁ聞くだけ聞いてみるわ。何となく嫌な予感するし」
そんなことを話している間にオルフィアの調査は完了したようだ。
一行は安全に十分配慮し、暗湿洞の入口まで引き返した。
「さて、お次の調査箇所は……少し遠い。そういえば真田殿は時空操作とかいうスキルを操れるのだったな。何かこう、一瞬で遠隔地まで移動出来る能力はないのだろうか」
「まぁ、あるにはあるんだけど……」
誰もが忘れかけていた真田の時空操作スキルは、アイテムボックス専用ではない。勿論、瞬間移動能力も完備している。
「おぉ、流石は転移者御用達のチートスキル! なら早速、使って貰えないだろうか」
「それが、使うと街が一つ消し飛ぶんだ」
「ん? 街が、消し飛ぶ……とは?」
「言葉通りの意味」
オルフィアの表情からサッと血の気が引く。
「いやほら、スキルの検証って必要だろ? だから前に女神様立ち会いでやったことあるんだけど――」
それは真田が時間停止を諦め、アイテムボックスの有用性に気付き始めた時分の話。
「エントロピア様、ちょっと瞬間移動を試してみたいんだけど! ここでやっていい?」
「私の部屋でですか? まぁ別に構いませんよ。瞬間的に景色が切り替わるのでコツとか必要でしょうし」
「じゃ、早速――瞬間移動!」
フッ、と真田が消え失せ、エントロピアの眼前に出現した、次の瞬間。
「ん――」
青白い閃光が広がって世界が純白の光に包まれる。
それを追うように弾けた人型が球体の火球となって広がり、触れる物全てを粉砕、蒸発させて行く。
空間が捲れ上がり、あらゆる物が吹き飛ぶ大爆発だ。
そこで生まれた激しい熱は猛烈な上昇気流となって周囲の物を吸い上げ、巻き込みながら上空へ。やがて高空に達すると横へ広がって――無限に広がる女神空間さえも覆かのような、超巨大キノコ雲が完成した。
「――……けほっ」
床に巨大なクレーターが穿たれ、あらゆる物が消滅した女神空間にて。髪をチリチリにしたエントロピアは口から黒煙を吐き、そっと手をかざす。
するとキラリと生命の輝きが彼女の眼前に集まって、一人の男が――真田進が世界に蘇った。
「うわ、びっくりした。一瞬過ぎて意味わかんなかった」
「そうですね。私も『ん』って言った瞬間、目の前が真っ白になりました」
一体何が起こったのか?
真田の視線から、その疑問を察したエントロピアがゆっくりと口を開く。
「これは真田さんが瞬間移動によって移動先の物質と重なったことで起こった爆発です。原子同士が同じ空間を占有し合うという本来起こらない現象が発生したことにより、原子同士が猛反発して核融合に似た超エネルギーが解放されました」
「分かりやすくお願い」
「……瞬間移動すると、あらゆる物を消滅させる超大爆発が起こります」
「――!? え……じゃあ、どうやって使えばいいの?」
「そうですね。敵の所へ瞬間移動すれば全部まとめて何もかも消滅させられますよ。エンシェントドラゴンだろうと悪の大魔王だろうと、その居城諸共に原子レベルでバラバラです。空気より密度の高い岩とかの所へ瞬間移動すれば威力はもっと上がります」
「威力じゃなくて移動能力の話が聞きたかったなー……」
街を丸ごと――場合によっては国さえも消し飛ばすことも可能な攻撃的チートスキル瞬間移動は、この瞬間に封印が決定した。
「――……ってわけで死亡回数にはカウントされなかったけど、移動した先で凄い爆発が起こって死ぬ自爆技、それが瞬間移動だ。ちなみに移動元でも小さな規模だけど爆発が起こるみたい」
「くっ……移動スキルで都市消滅だと? ことある毎に爆発して衝撃波が発生して……どうなっているんだ真田殿のスキルは!」
全く以て同感だが、そうなるのだから仕方ない。
「ノンビリ歩いて行こうぜ。人間、地道が一番だ」
「もう少し行けば乗り合い馬車が出てるよ。私、割引のチケットとスタンプカード持ってる!」
「おぉ、流石はノエラ殿! 旅する魔法使いの名は伊達ではありませんな」
「では移動しましょう。北へ数キロ先に街道が見えます」
こうして一行は次なる、そして最後の目的地である、アンビル墓地へと向かったのだ。




